恋姫~如水伝~
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十九話
反董卓連合は汜水関を瞬く間に落とし、敵将華雄を討ち取った。
そして、董卓の精鋭五万と猛将華雄を討ち取り、黒田孝高はその名を知らしめ、汜水関攻略の戦功を独占した。
それとは逆に公孫賛、劉備の二人は眼前に居ながら黒田軍を助けなかったと悪評がたてられた。
汜水関 公孫賛、劉備軍共同陣地
「くそ、いったいどういう事だ。なぜ我らがこうも貶められねばならん」
劉備軍の将、関羽は自身らの悪評と今回の不手際に憤慨した
「しかたがありません、私達はこの戦いで先鋒でありながら、何一つ役立っていないんです」
「だけど、この扱いはあんまりなのだー!」
諸葛亮は関羽を押さえたが張飛も不満を口にしていた
総大将の袁紹が汜水関で休息を取る様に指示したが、この戦いで何一つ働かなかった劉備軍は場所を割り当てて貰えず、更に、連合諸将の休息間に敵への警戒の任をあてられた。
かろうじて陣地だけは公孫賛の割り当てられた場所を彼女の好意で借りれたが、公孫賛の陣もさほど大きくなく、劉備軍の殆どの兵は露営せざるをえなかった。
「すまないな、桃香。でも私の所も手一杯なんだ」
「ううん、気にしないで、白蓮ちゃん。ありがとうね」
劉備はなんとか気丈に振舞ったが、他の諸侯からの悪評、そして、自分のせいで兵に野宿させえてしまった事で心身が疲れてしまった。
「落ち込んでばかりいられない、味方が休める様にしっかりと警戒しなくちゃ」
自身にそう言い聞かせ配下の将に警戒の為の当直を決めさせた。
汜水関 曹操軍陣地
戦いを終え、休息を与えられた後、如水は更に多忙だった。
まず、自身の部隊を解散させ、兵の休息と負傷者の治療を急ぐ一方で、後に来る華琳らを迎えるための本陣を造ったが、華雄との戦いで凪、真桜、沙和の三人が負傷してしまい、それらすべての指示を如水一人で行った。
全て終える頃に華琳らが到着した。
「ごくろうさま、如水。見事な戦いだったそうね」
「うむ、さすが、華琳様の見込んだ通りだな」
「いえ、演習で何度もあの布陣を行ったので出来たのです」
「とにかく、ごくろうだった、後の事は私達が指示しよう、お前も休んでくれ」
「そうです、この戦いの一番の功績者なのですから、少しは休んで下さい」
「しかし、戦闘の報告がまだだ、せめてそれを終えてから」
それを聞き華琳は厳しく言った。
「これは私からの命令よ、貴方は少し体を休めないさい。報告は一刻後に聞くから、貴方は宿舎で横になってさい」
その言葉を聞き、ようやく如水自身も休息を取った。
「まったく、仕事の事となると自分の身を考えないのだから」
華琳がそう言ってため息を尽くと秋蘭が釘を刺した
「それは、華琳様にも言える事です」
「そうかしら、あそこまで酷くないわよ」
「とりあえず、華琳様。如水殿が戻られるまで、私達のする事をしてしまいましょう」
「そうだな、このままでは如水ばかり働かせてしまう、秋蘭、行くぞ」
「わかった、では、華琳様。兵に休息を取らせますので、我らはその指示をします」
「なら、私は、負傷者の治療の指示を取ります」
「いいわ、行きなさい」
その言葉で春蘭らは各自に指示を与えに行った。
一人残った華琳は不機嫌な顔で
「…私は、別に、あそこまで自分の事を顧みていないわよ…」
と言い、秋蘭らの言った言葉を気にしていた。
一刻程経ち、如水は宛がわれた宿舎を出て、曹操軍の本陣に向かった。
「よく来たわね、改めて言うわ。見事な勝利だったわ」
「ありがとう、だが、私より、華雄を討ち取った三人の働きのおかげだ」
「まあ、いいでしょ。それより、今後の事だけど、袁紹は宴を設けて戦勝を祝う気らしいわ。相変わらず無駄が好きね」
「いいのでは無いか、好きにさせて置けば、こちらは治療に五日は掛かる。それを理由に辞退すればいい」
「如水殿の言う通りです。それにまだ、董卓軍の内情は見えていません。迂闊に動くより、ここでしばらく、情報を集めた方がいいです」
如水、桂花の意見に春蘭は反論した
「しかし、そんな悠長にしていていいのか。相手が立て直す前に動いたほうが良いと思うぞ」
その意見には秋蘭も一応賛成した。
「私も姉者に意見に賛成だ、しかし、二人がそこまで言うなら、何か理由があるのか」
秋蘭の質問に如水と桂花が答えた
「まず、朝廷の動きだけど、どうやら、今回の華雄の戦死と軍の壊滅で董卓側は勢いを無くし始めた様なの。多分、宦官連中が息を吹き返したからだと思うわ。それに董卓の軍は吸収した禁軍がほとんどで、董卓軍の主力は汜水関と虎牢関に配置されていた。その前線の汜水関が落ちた今、宦官に近かった禁軍が董卓を見限り出すと思うわ」
桂花の意見を聞き華琳は納得しありえるだろうと思った。
「それと、以前から噂があったのですが、董卓の本拠地の涼州や他の土地でも大規模な飢饉が起きているそうです。そして洛陽の都には百万以上の住民と、多くの難民が流れています。時が経つほど、彼らは食に困り董卓を見限るでしょう、そうなった時、董卓の勢いは萎んで行くでしょう。元々、無理に無理を重ねた急激な勢力拡大ですから罅が入れば崩れていきます」
二人の意見を聞き春蘭と秋蘭は納得した。そして華琳も決断を下した
「しばらくはここに留まり休養するわ。麗羽の方には私から上手く言っておくわ」
会議が終わった所に、袁紹からの使者が来た。
「曹操殿、我らが袁紹様そして従姉妹の袁術様より、先陣の大任を務めた黒田への祝いとしてこれらの品物を進呈されるとの事、どうか受け取って頂きたい」
「役目ご苦労、袁紹、そして袁術には後、この曹操が礼に参ると伝えて欲しい」
「了解いたした。では、その事伝えておきましょう」
使者が去った後、袁家の者から恩賞の品が黒田宛に大量に贈られてきた。
その量を見て、さすがに春蘭、秋蘭は驚いたが、華琳はため息を尽き、袁紹達のやり方に呆れた。
如水も感心し感想を述べた。
「すごいですね、さすがは袁家と言った所でしょうか。食用の獣の量で、牛十頭、羊二十頭、豚が三十頭。更に麦等の穀物は全てで六十石、そして酒が五石これだけの進呈を見るのは久しぶりですね」
「貴方、前にもこんなに貰った事あるの?」
祝いの品の量より如水の発言に華琳は驚いた
「いえ、逆です。私が送る側でした。といっても私は荷物の宰領をしただけで、別に私が贈ったわけでも貰ったわけでも無いのですが」
「そう、でどうするの、その品物」
華琳の問いに如水が答えた
「貴女に返しますよ、私はあくまで曹操軍の将として働き、貴女に兵を借りて戦ったのです。当然この品の持ち主は貴女ですから」
その如水の言葉を聞き、予想していただけあり驚かなかったが、あまりにも明快に答えられたので照れて顔を背けた。
気を取り直した春蘭は疑問を言った
「袁紹らの狙いは一体何なのでしょうか」
「今回の連合は袁家が主体となり、集まったけど、別に袁紹の為に働く必要なんか無いわ。袁紹がそれに気づかなくても、その辺を顔良あたりが考えたのでしょう。働けばこれだけの恩賞を与えるって教えたいのでしょ」
桂花の説明に納得し華琳も賛同した
「そうね、袁紹はあくまで盟主に過ぎない。あの馬鹿はそれに気づいていないのでしょうけど、とにかく、奴らは物で釣って味方を維持したいのよ。事実、この恩賞の事を知った他の陣では次の戦いでは自分達が先鋒を引き受けようとしているみたい」
「だとしたら、董卓軍はもうこれ以上の攻勢に出れませんし。桂花さんの話だと董卓は足元に火が付き出しています。おそらく、虎牢関に守備を割いている場合では無く、洛陽の都での決戦の兵力しか残って居ないでしょうから、私達だけが貰ってしまう事になりますね」
「いいのよ、それだけの事をしたのだから、貴方達は」
そして、それ以上の吉報が治療を施していた者から届いた。
「曹操様、如水殿。楽進、李典、于禁の御三方は無事に治療が終わり、四日後には動ける様になるとの事です」
その事を聞き、如水は、ようやく安心した様だった。
「そうか…、よかった」
それを聞いた華琳は如水をなだめた。
「よかったわね、でも、貴方の教えた部下なのよ、この程度でやられる様に指導していないでしょう。もう少し信じてあげなさい」
「そうだぞ、それに楽進達はお前が居ない時でも私達に教えを請うて来たのだ。そうだろ、秋蘭」
「ああ、お前が文官として働いている間、私や姉者、それに季衣とも何度も立ち会いをしていた。あいつらは強い、それも皆、お前の期待に答えたかったからだろう」
「春蘭、秋蘭、それに皆…ありがとう」
そして、反董卓連合は二週間後、汜水関を出立し虎牢関に進軍した。
後書き
余談ですが秀吉の贈り物って頭おかしいくらいだったそうです。
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