恋姫~如水伝~
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十八話
汜水関に反董卓連合の先鋒約六万が進軍しているとの報は董卓側も受けていた。
汜水関を守るのは、董卓側でも武勇の名高い華雄であり、兵の数は五万を超え、帝都防衛の前線の要所だけに、兵も董卓側の精鋭が配備され、士気も高い。騎馬兵の策敵行為を眼前に見すえ、華雄は兵を鼓舞した。
「敵は連合と大層に名乗るが、所詮は烏合の衆だ、我ら董卓軍の敵では無い。皆、出陣するぞ敵を蹴散らせ」
「「「「おおっー!」」」
連合側の公孫賛は策敵兵を纏め、後続の劉備、黒田に合流した。
公孫賛の要請で三人は急ぎ軍議を始めた。
「敵の数は五万四千程、華雄の統率が行き届いているらしく、士気も高い、それと出陣してこちらに向かっているそうだ」
「どうして、砦に篭らないのかな?」
「この戦いが、緒戦だからでしょう。いきなり守勢に回れば兵の士気に関わります、そしてこの戦いに圧倒的に勝利すれば、連合が浮き足立つと思っているのでしょう」
「そうなのか。私もよくは分からないが、だとしたらこちらはどうすればいい」
「そうですね、劉備殿。何か意見はありますか」
「ええっと、そうだ、私の軍師が意見があるそうです。聞いて見ませんか」
「そうだな、呼んでくれ、黒田もいいだろ?」
「はい、構いません」
そうして劉備の軍師の諸葛亮が入って来た。
「諸葛亮です、劉備軍の軍師を務めています。よろしくお願いします」
「さっそくだが、意見を聞かせてくれ」
「はい、公孫賛殿の報告を聞くと、敵は先鋒の我々を崩し、連合の動きを抑えようとしているのかも知れません。ですが、それを逆にこちらが制せば、これから連合の有利になると思います」
「そうですか、では、どの様な布陣で対峙すればいいと思いますか」
「それは、私達、劉備軍は八千、公孫賛殿の軍は一万五千、黒田さんの軍は四万二千です、おそらく華雄軍は数の多い黒田さんか、逆に少ない方のこちらに攻めて来ると思います」
「そうでしょうね、しかし、それを知るには華雄の性格を考えなければ分かると思いますが、諸葛亮殿、何か知っていますか」
「はい、華雄は血気に逸る人物と聞きます。となれば、数の多い黒田さんの陣に向かって来ると思います」
「わかりました、ありがとうございます」
諸葛亮の話が終わり、その意見の参考に布陣を決めた
まず、正面に如水の軍が配置され、劉備軍は敵陣の脇を突く形で攻撃を仕掛け、そして機動力のある、公孫賛の軍は後方の予備兵として一時待機し、頃合を見て敵陣の薄弱な場所に奇襲すると決まった。
その布陣が決まった後、劉備は如水に提案した。
「あの、黒田さん。私の仲間を一人、そちらの加勢に行かせます」
「何故、でしょうか?」
「だって、私達より数が多いからって危険です。それに、この間のお礼もしてません。私の方は比較的安全ですから、ぜひお願いします」
「劉備殿、御好意、誠にありがとうございます。ですが結構です」
劉備の提案を如水は丁重に断った。
「え、何でですか」
劉備は驚き、自分の好意を無下にされた事に不快感を持った。
それを無視し、如水は布陣の用意を急がせた。劉備は慌て意見を聞きたがった
「あの、教えて下さい。私、何か変な事言いましたか」
如水はそんな劉備を見て穏やかに言った
「この陣の配置で、安全な場所などありません。皆、命を懸けて戦うのです、劉備軍の側面からの強襲が弱ければ正面のこちらも危機に晒されます。それとも貴女は我が軍を侮辱するお積もりか」
「そんな事は…」
「でしたら、余計な増援を送られてはこちらも迷惑です。それに私は貴女の部下がどの様な者か知りません。そんな者と一緒に命を掛けられません」
そこまで言った、如水に劉備は剝きになった
「私の仲間を貶める事を言うのはやめて下さい、それに知らないなら今からでも…」
「そんな時間はありません。後、一刻もすれば戦端は切られます。準備が遅くなれば、それこそ負けてしまいます。では失礼します」
如水の言葉を聞き、劉備の配下の者らは憤り、劉備自身も納得していない様子で自分の担当する部署に向かって行った。
その様子を見ていた如水の部下の三人は話しかけてきた。
「先生、ええんか。あれじゃ、劉備の軍、動かないかも知れんで」
「そうなの!そうなったら、大変なの!」
「しかし、隊長の意見も分かる。いきなり他の軍の将と一緒に戦えと言われれば困りますし」
三人が口々に意見を言うと如水は笑いかけ、自身の意見を語った
「真桜の意見がもっともだな。まあ、出来ればそれが目的でもある」
その言葉を聞き、三人は緊張して如水に向き合った。
「隊長!もしかして私達だけで戦うつもりなの?」
「ああ、相手は名高い董卓軍だが、私が教えた君達になら出来ると信じている」
「先生、そこまで見込んでくれるのは嬉しいけど、大丈夫かいな」
「二人共、隊長を信じよう、それに私も自分がどれほど強いのか試したみたい」
三人が不安を感じながら、如水を信頼に応えてみたいとも思っている様だった
「確かに、董卓軍は強い。しかも、相手は精鋭揃いと言ってもいいだろう。だが、私の指示に従ってくれれば必ず勝つ算段はある。問題は華雄を一対一で討ち取るだけの力が私には無い事だ。そこを君達が引き受けて貰いたい」
そこまで言って、三人の部下に信頼に満ちた顔を向けた。
それに応えようと三人は顔をそろえ如水に向き合った。
「隊長。やりましょう。私達の手で華雄の軍を打ち破りましょう」
「せやな。そこまで言ってくれるなら、うち等もがんばるわ」
「そうなの!やってやるの」
その言葉を聞き、如水は頷いた
「ああ、私達が力を合わせれば必ず勝つ」
そう言って、如水は急ぎ陣を整え、華雄軍に向かって行った。
如水は布陣を整え、華雄軍の正面に対峙した。
その前に得た情報では、真桜の言った様に劉備軍は戦意が無いとの事だった
「劉備さんの軍、もしかしたら本当に戦わない気かもしれないの」
「逆に言えば、私達の強さを見せ付ける機会。黄巾の時と似ているな」
「せやな、不安やけど、うち等は先生の指示に従ってやれる事をやるだけや」
「ああ、隊長の指示に通りに戦えば、私達は負けはしない」
「そうなの!隊長を信じて私達もがんばるの」
開戦に最後の会話をし、皆、持ち場に着いた。
華雄軍
「相手の旗は曹か、と言う事は曹操だな。黄巾の乱での一番の戦功を挙げたらしいがそれを討ち取ったとなれば私の名が一挙に挙がるな。皆、進軍せよ、曹操を討ち取れ」
「「「「「おおっー!!」」」」」
如水は華雄軍の進軍を見て、すぐさま対処した。
「調べた通り、華雄は自分の武勇に引きずられる性格らしいな。数が多いこちらの方に真っ直ぐ向かって来たな」
如水は想定していた通りに陣形を変更した。
まず、如水側は華雄軍の果敢な突撃に対処するように兵を前線に送ったが、その都度、敗走し、次第に本陣は手薄になった。
「よし、本陣が薄くなった、このまま一気にけりをつけるぞ」
そして、兵が寡少になり手薄となった本陣は後退した、華雄は進軍速度を上げる為、軍の陣形を伸ばした。
更に、華雄が部隊から突出し本陣に遂に肉薄した時、凪、真桜、沙和の三人が華雄の前に向き合った。
「華雄殿と見受ける。武勇の名が高いと聞くが、いかに貴女が強かろうと、我ら三人を相手に勝負になるかな」
「せやで、悪い事言わんわ。早く引き上げえ」
「そうねの~!私達にやられちゃう前に、ささっと引き上げた方がいいの!」
「ほざけ、貴様らごとき三人掛かりでも私の敵では無いわ」
「その大言、法螺だと証明させてやる」
凪のその言葉で、三人は一斉に華雄に挑みかかった
「ふっ!、いいだろう、まずは貴様らを討ち取って、後ろに逃げた曹操を討ち取ってやる」
華雄もそれに応じ、三対一での戦いが始まった。
華雄に挑んだ三人は一人では及ばないながらお互いに庇い、助けながら善戦していた
その報告を聞き、華雄が三人に気を取られている間、敗走していた曹操の軍が如水の指揮の下一糸乱れずに動き出し、敗走から急転し突然、四万の兵が八方から包囲しだし、攻守が逆転した。
指揮官は不在であり、すでに陣形を崩しかけており、その上、八方から曹操軍に包囲された、華雄軍は五万を超える部隊だが、成す術無く、討ち取られ、又は恐慌の末、同士討ちし遭い、遂に崩壊した。
それをまじかで見た劉備は目暗ましの幻術でも見せられた様に動けなかった。
「何?一体、どう言う事。何で、押されてた黒田さんの軍がいきなり華雄の軍を倒しちゃったの」
劉備の言葉を聞き、関羽と諸葛亮といった者が意見を述べた。
「わかりません、それに黒田の本陣は後退していたはずです。それがなぜ、あの場所に居るのか」
関羽は水色の服を着た男を確認し困惑し、諸葛亮は信じがたいモノを見たように説明した。
「おそらく、潰走していた味方の兵の中に紛れていたのでしょう。そうでなければ、敗走していた兵があれだけ上手く纏まるわけがありません」
如水の陣の後方にいた公孫賛は不覚にも、敵の壊滅に気が付かなかった。
「どう言う事だ、いつの間に敵軍が消えたんだ」
左右にその事を聞いたが誰も要領を得なかった。
三人と対峙していた、華雄は自分の軍が壊滅した事に気づき、動揺した。
「何故だ、いつの間に私の兵が消えたのだ、ええい、一体どうなっている」
それを好機と見た三人は最後の力を振り絞り、華雄にどどめを刺す為、攻撃した
「そんな事、これから死ぬ者が知ってどうする気だ」
「せや、どうしても知りたかったら。先に逝った連中に聞いてみい」
「じゃあ!ばいばいなの!!」
凪が渾身の気弾を放ち、すくみあがった華雄に抱きつく様に跳び付いた沙和が双剣を体に刺し、致命傷を負わせ、とどめに、真桜の螺旋槍で串刺しにし絶命させた。
華雄の死を確認し三人は声を張り上げた。
「敵将華雄、典軍校尉曹操が将の一人、黒田の部下が討ち取った」
「うちらの勝ちや、皆、勝ち鬨をあげるんや」
「そうなの~!隊長~!私達やったの!!」
「「「「おおっー!」」」」
こうして反董卓連合の緒戦は如水の奇計とその部下三人の奮戦によって快勝した。そして、黒田孝高の変幻自在の用兵術は参加した諸侯や敵の董卓側、そして、華琳の放った報告者によって瞬く間に大陸各地に広まった。
後書き
カンナエの戦いを参考に考えました。
藤崎竜さんの封神演義を知っている方はわかりやすいと思います。
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