Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#4 大切な思い出
アルとサラは家を出て 鉱山の町中を抜ける様に越えた。
アクゼリュスは鉱山で働く男達と、その家族が暮らす町だ。規模も大きい為、町もそれなりに広く、少し歩いただけでも、ちょっとした探検の気分が味わえる。まさに、サラがそうなのだろう。慣れた町とは言え、そんなに毎日の様に出歩ける訳も無いから。
そして、暫くして 民家からも離れ、アクゼリュスの鉱山の入り口前まで来た。今は特に奥の方で皆仕事をしている為、入口付近には誰もいなかった。 どうやら、この先にサラが言う《秘密の場所》があるらしい。
「サラ…… その秘密の場所って大丈夫なの? えっと……危ない場所じゃないよね?」
アルは、少し心配そうにサラにそう聞いていた。ここまで来たら、サラの願い通りに一緒にサラの秘密の場所にまで行きたい。だけど、サラの事は母親であるレイに任されている。だから、あまり無茶な事はできないのだ。この先は子供にはどうしても辛い道のりであり、危険な場所も多いから。
そんな感じで色々と考えていたアルだったが、サラは表情から察したのだろう。ニコリと笑顔を向けて答える。
「あはっ。だいじょうぶだよ。おにいちゃん! すぐそこに ちいさなみちがあるでしょ? ん〜、おにいちゃんは ちょっととおりにくいけど。ここなんだ! こっちのほうは、パパにはいっちゃ、だめ! っていわれてるからねー」
そう言いながら、サラは坑道のにはいる手前の所に指をさした。日頃から、ちゃんとガーランドやレイの言いつけは守っているから、大丈夫なのだ。男の子には特にある、決まりを破る?冒険心は、そこまで無い。……と思う。
ここも、結構グレーゾーンだと思えるから。
「こっちだよっ! おにいちゃんは、とおりにくいからからきをつけてね」
「ん。OKOK。……ほんとに狭いね……」
「あはは、もうちょっとだよー。がんばっ!」
サラは姿勢を低くさせながら、アルは殆ど四つん這いになりながら、サラを追いかけて、この穴の中へ入っていく。
狭いだけじゃなく、結構長い道だった。20〜30mはあるだろうか。鉱山内だから、凹凸もあり、進みにくい。
でも、それを超えると、一際広い場所に着いた。立ち上がる事も十分できる10?程のフロア。高さも3〜4mはあるだろうか。……秘密の場所、と言えば確かにそうだ。たどり着くまでに時間が掛かった事だし。
アルは、ゆっくりと立ち上がると、辺りを見渡す。
「ふう、今度は広い場所に着いたね。 ここがサラが言っていた秘密の場所かな?」
「んーん。ちがうよ。 ほらこんどはあっち、 あの、ひかりがみえるとこだよ!」
サラが今度指をさした所は、ここから更に奥。その先は、少し傾斜になってる道で、奥を見ると、サラが言うように光が見えた。
それは、燭台等の灯りではなく、陽の光だ。どうやら、外に繋がっている様だ。
「よし!サラ!ちょっと疲れただろ?おんぶしてあげようっ」
アルは、行き先を見て、サラにそう言った。緩やかな傾斜だ、とは言え子供の歩幅を考えたら、ちょっとした山登りだ。ここまで入ってくるのも結構時間が掛かった事だし、だからアルは、そう言ったのだ。
「えー、わたし、だいじょうぶだよ?」
「でもさ? いつもと違う視点、高さからこの場所を見たら……、何か発見があるかもしれないよ?」
「ん〜……」
サラは初めは渋っていたが、アルの言葉の真意も判っていた様だった。……そして、サラは、やっぱりしっかりしていても甘えたい盛りの歳頃だ。
「うんっ、ありがとう!!おにいちゃん!!」
だから、サラはお礼を言いながら、アルの背中にピョンッと飛び乗った。
「よーし! 行くよっ!?」
「うん!!」
「しゅっぱーつ!」
「おお〜〜っ」
アルの掛け声に、サラは右拳を突き出す。
本当に、いつもと違う高さから見たら、やっぱり違う。何か気持ちよさも感じた。……その本当の理由、それはサラには直ぐに判った。
(おにいちゃんのせなか…… あったかい……)
そう、アルの背。その温もりが、本当に心地よかったのだ。大好きな人の背中。……両親であるガーランドとレイの背中も勿論大好きだし、比べたりなんかはしない。
ただ、サラは幸せ間でいっぱいだった。
アルが一歩一歩と歩き、揺りかごの様に心地よいリズムを奏でながら身体が揺られる。その心地よさから、眠ってしまいそうになるのを必死に我慢しながら、サラは温もりを、まるで包み込んでくれているような幸せを味わっていた。
そして、サラにとっては少し名残惜しかったが、目的地へ到着した。
この場所がサラの秘密の場所。
「ここだよっ! おにいちゃん!」
サラから声がする前にアルも確信していた。
そこは、鉱山の町を少し高い位置から、全体を見渡せる絶景ポイントだった。空も一望出来る為、日が沈めば、星空を見あげる事ができるだろう。町明かりも綺麗だろうと想像出来る。
そして朝は、太陽が昇る瞬間も時間によったら見られるかもしれない。
「凄いね……。 この町にこんな場所があるなんて。秘密の場所って納得だ。中々見つけられるものじゃないよ」
アルは、素直にびっくりしていた。この絶景もそうだし、ここに至るまでの道のりもそうだ。……子供1人で、サラ1人で見つけたと言うのだから、ほんとに驚きだ。
「えへへ〜! すごいでしょ! ここ、おひさまが ちょうどあたるから、よこになると、ポカポカしてきもちいいんだよ!」
以前にサラが来た時に、少しずつ作ったのだろうか? 鉱山内の凸凹した岩肌ではなく、そこには蓙も敷かれている。とても大きく、繋ぎ合わせている様だ。……きっと、ガーランドとレイ、そしてアルの為に、なのだろう。
「そうだね…… うん! ほんとに気持ちいいよ」
アルも、サラと一緒に横になった。空を見上げると、雲が流れていくのがよく判る。青い空、白い雲。……眼を瞑れば本当に心地よい。
「えへへ……、ここのこと、おにいちゃんにおしえたのが、さいしょだからねー!」
笑顔でサラはそう言っていた。この蓙で横になるのも自分が初だと言う事だ。アルは、ゴロリ、と寝返りをうつとサラと対面する様に向かい。
「……オレが最初でよかったのかい?」
サラの頭を撫でながら聞いた。
「うんっ! だって、おにいちゃんとここにきてみたかったの…… いろいろとおしえてくれたし、そのおれいだよ」
そして、サラは少し顔を赤くさせた。
「それに……、はじめは、だいすきなひとといっしょにきたかったから……」
アル自身も、その言葉を訊いてとても照れてしまっていた。多分、顔も赤くなっているだろう。……そして、嬉しかった。
――……家族の温もりは知れたけど、自分には、家族の記憶がないけれど。
アルは笑顔を作った。今日はもう何度も笑ったけれど、多分きっと、一番の笑顔。
「ありがとうな…… サラ、この景色……今日の事、この新しい記憶……を、オレは絶対忘れないよ。 ずっとずっと大切にする。本当にありがとう」
サラの額に自身の額を当て……その顔を両手で抱きながらそう言った。
「うん! よかった……。おにいちゃんがよろこんでくれて。いつも おしえてくれるおれい、だったから」
サラもぎゅっとアルの頭に手を回し、抱いた。
「ほんとに、きもちいいっ…… もうちょっとここで おやすみしよう!おにいちゃん!」
「そう、だね。 いい時間だし……お昼寝タイム!」
「うんっ!!」
そのまま 2人で暫く景色を楽しみつつ、夢の中へ、……2人一緒に。
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