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ソードアートオンライン 弾かれ者たちの円舞曲

作者:斬鮫
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弐之半 《女王》

 
前書き
すみません、参話の前に弐之半作っちゃいました。
素直にこれを上げた理由言えば、戦闘描写の練習です。あ、やめてトマト投げないで。
時間軸としては第弐話と第参話(参話がいきなり攻略戦のお話なのでその間が一ヶ月……)の間になります。
そして、長らくお待たせしてしまい、申し訳御座いませんでした。 

 
《ソエリア》の宿屋にて。
「クイーン? 何だよソレは」
シキはシンとチルノと共にレベルアップに勤しんでいた。
その最中、シンがNPCから聞いた話だ。
「ああ。そこのNPCのオッサンから聞いた」
シンは言って、宿屋の一角を指す。
そこには以前、《アウリスの羽》のクエストを依頼してきた少女と話している、布でできた作業着を一枚着た恰幅のよい中年男がいた。
「普通のクエストではないらしい。何らかの条件を満たしたから聞けたんじゃないか?」
シンの台詞は曖昧だが、まぁ後で自分で聞いてみればいいか。
自分の思考に決着をつけ、シキはシンの言葉に耳を傾ける。
「前行った森があるだろ。その森のチルノと出会った更に先、そこの最奥に居るらしいんだが」
「……そういえば聞き忘れていたけれど、『何』のクイーンなの?」
チルノの質問に、シンは若干躊躇って、
「ネペントだ。《リトルネペント》の女王だから、《クイーン・ネペント》というらしい」
そう答えた。

      ○●◎

作業着の中年男にクエスト受注の旨を説明し、宿屋を出て一言、
「正直、気乗りしないんだけど」
俺も同じだよ。
チルノの発言にシキもそう反応したかったが、流石に自重した。
理由はこのパーティーのシンを除く二人が、ネペントの《実つき》の実を切っている経験があるためだ。
更に《クイーン・ネペント》討伐の報酬についてはシン曰く、
『知らん』
の一言だった。
「……気が重い」
「そう言うなよ、シキ。経験値多分多いぞ?」
そうは言っても、シキの表情は果てしなく微妙だった。
「別に俺は戦いたいわけじゃないんだが……。まぁ、いいか」
観念した風に肩を竦めて、シキは宿屋から出て村の門へと向く。
「行くんだったらさっさと行こうぜ。日が暮れちまう」
「「(割とノリノリだなぁ……)」」
と、いうわけで、特殊クエスト《女王》は開始されたのだった。

      ○●◎

「フオォン!」
灰毛の狼、《グリージョ・ルプス》の鋭利な爪がシキに繰り出される。
「うおっと」
狼の爪撃をひょいっと身を逸らして躱すと、更に別方向から爪撃が飛んできた。
これも余裕の態度で避け、二体の狼は大きく距離を取った。
「……ちと厳しいかな?」
苦笑いを滲ませたシキの台詞に、狼はグルル……と喉を鳴らしつつにじり寄ってくる。
狼の数は七体。だが、一体一体の強さはそこまででもない。通常なら弱点にソードスキルを当てるだけで倒せるような相手だ。
それでもシキが《グリージョ・ルプス》を『厳しい』と評した理由は、狼達が一体のリーダーを中心に統制の取れた動きと、そして一撃離脱を駆使した巧みな戦術を組み立てているからだ。
更に群れのリーダーは狼を最大七体まで呼ぶことが出来るし、なおかつリーダーの見分け方が難しい為、ほぼ確実に苦戦を強いられる
ある元テスターが言うには、『群れのリーダーを倒せば全部倒れるから、そこが弱点だな。逆説それ以外無いような気がする』だそうで、慣れれば看破するのは簡単だそうだ。
「(まぁ、俺達は誰一人元テスターじゃないんだが……)おっと……っ」
心中で苦笑し、再び迫ってきた横殴り軌道の爪を首を倒して避ける。
二体の狼の追い打ちじみた噛み付きに対し、彼は逆手に持ったダガーを横向きに一閃する。
線を切り抜かれて二体の狼が一瞬固まり、そして爆散した。
「ウオオォォッン!」
直後、群体のリーダーが大きく叫び、狼が一匹追加された。
「……成程、あいつか」
小さく呟いて、線を視る。
大型犬と同程度の狼の身体には二本、首に一つと顔から尻尾にかけて一つ。どちらも即死ポイントだ。
「シン、チルノ、ちょっと頼めるか?」
「――――……何分引き付ければいい」
シキの意図を即座に察したシンの言葉に、「頼もしいな」と笑みを浮かべて人差し指を立てる。
「了解した。チルノ」
「わかった」
軽く溜息を吐き出し、チルノが群れの最前線へと突っ込んでいく。
リーダーの危機と認識したのか、三体のグリージョ・ルプスが吼えながら飛び掛った。
「シキィッ!」
狼達の攻撃を受けながら、振り返らぬままチルノが叫ぶ。
シキは一瞬の逡巡の後、小さく頷く。そして狼の長を視界に収めながらチルノへと走り、その肩を蹴って大きく飛び上がった。
大きく飛び上がった彼はチルノとシンに殺到していた狼の群れを飛び越え、長の目の前に着地した。
「ウオォン……!」
僅かにたじろいだ後、狼の長は低く吠えて牙を剥いてシキに飛び掛った。
シキは静かに刃を振りかぶって、首の線を切り裂いた。
断末魔の叫びを上げる代わりに迸るライトエフェクトを、花火のように滴らせ無数の欠片となって消えた。長が消えたことによるものか、狼の群れは長と同じ様に欠片へと成り果て、虚空に失せた。
「……じゃあな」
ぽつりと呟いて、空を振り仰ぐ。
仰いだ空に無数のポリゴン片が溶けていき、それはそれは幻想的だった。
「シキ、どうかしたのか?」
「うん? いや、何も」
微かに微笑んで、彼は雨が降りそうな雲だなぁ、と心の中で一人ごちて、二人の仲間と共に森の奥へと歩を進める。

      ○●◎

「ねぇ、シキ」
「ん、何だチルノ」
「……何ていうか、辛くないの? その眼」
チルノの質問に、シキは「さぁな」と首を捻る。
「さ、さぁな、って……」
「まぁ辛くない、って言えば嘘になるけどな」
シキはこの眼――《直死の魔眼》の影響で、常に線が見えている。瞼を閉じた所で見えないだけで、常にそこには線が在る。
「(世界、ってのは……ここまで脆いんだよなぁ)」
手を伸ばしてダガーで線を切り裂く。たったこれだけの動作で、全てを殺してしまえる。それがたとえフィールドに存在するボス級のモンスターであろうとも、試したことは無いが、プレイヤーでもNPCであろうとも、不死属性を持つ建築物であろうともだ。
「シキ?」
いつの間にか足が止まってしまっていたようで、隣には先程まで少し後ろを歩いていたはずのシンがいた。
「あ、いや、何でもない」
ゆるゆると首を振って思考を入れ替える。今優先すべきことを頭の中に再入力する。息を吸って、吐く。
軽く何度か頬をぺしぺしと叩いて、薄い微笑を浮かせる。
「……よし、行くか」
一行は再び暗い森の中を慎重に歩みを進める。

      ○●◎

所変わって、ある真っ白い部屋の中。
二人の男女が向い合って椅子に座っていた。
二つの椅子の間には小さな机。机上にはチェス盤。
一人はソファーにちょこんと腰掛けた青髪に血のように赤いワンピースを着た少女。そしてもう一人の男は無骨な木の椅子に座った白衣に黒髪、何を考えているか解らない無表情をしていた。
「……いいの?」
青髪の少女が向かい合う白衣の男に問う。
「何がかな?」
静かな声で白衣の男は返答する。
「……言わなくてもわかるでしょう」
呆れた風な少女の声音が、彼の笑いを誘った。
「私にも解らないことぐらい有るさ。ただまぁ、今回に限って言うなら……順調にいっているのではないかな」
「……貴方の目からはそう映るの。私はどうもスローペースにしか思えないのだけれど。――――王手(チェック)
少女が盤上の騎士(ナイト)を操作し、王様(キング)へと向かわせる。
男はふむ、と少し考える素振りを見せ、騎士(ナイト)城塞(ルック)の手で打ち倒す。
「決してスローペースではないさ。むしろいいペースだと思うよ」
そうかな、と少女は首を捻る。
「異分子は排除すべきではないかしら?」
「違うよ。異分子は利用するべきだ。そして、彼らは異分子ではないよ」
違うの? と少女は首を傾げる。
違うんだよ、と男は頷く。
「彼らは意図的に創りだされた者ではないが、それでも《弾かれ者》であることに絶望などしていない。そして――――王手(チェック)(メイト)みだ」
げ、と少女は盤面を確認する。
少女の白い王様(キング)の周囲には、男の指揮する黒い女王(クイーン)騎士(ナイト)が二体、更に僧侶(ビショップ)が奥に待機していた。
むむむ、としばし唸った後、打開策が発見できずうなだれた。
「………降参よ……」
その時、男が頬に微かな笑みを滲ませた。
「……? どうかしたの?」
「いや、その《弾かれ者》の一人が覚醒の兆しがあるようだからつい、ね」
男が軽く手を振ると、彼らの周囲に数々の映像が展開した。
「……貴方が見積もった時間より、随分早いわね」
その中の一つ、少女はそれに目を付ける。
その映像には、三人のパーティーが異形の化物と戦っていた。

      ○●◎

「ウォオオオッ!」
シンが吼え、クイーンの触手に似た巨大なツルを横合いから殴りつけて避ける。
「………シュル、シュルルル……!!」
《クイーン・ネペント》は《リトルネペント》の身体を二倍――否、三倍程巨大化させ、胴体下部の根っこはその身体を支えると同時に移動用であり、そして攻撃にも使う。《リトルネペント》の鋭い葉っぱのついたツルは左右合わせて二本だが、クイーンは左右に三本ずつ。つまり計六本である。
クイーンはツルを不気味に空中で何度か振り回し、今度はシンに全六本の内二本のツルを叩きつける。
「たぁっ!」
チルノがシンとツルの間に割り込み、チルノの使う両手剣と二本のツルがぶつかり金属音に似た音と眩いライトエフェクトが炸裂した。
「今よっ! シキ!」
「ああ!」
身体を一度沈め、足をバネのように扱い一気にクイーンへ突進する。
クイーンは敵の接近を感知し、右側のツルをうねらせ、シキを迎撃する。
シキの斜め右から襲い来る一本目のツルをくるりとターンし、肉体の軸を変えて避ける。
更にシキの右と左上からのツルを肉薄し、意識を集中させ、それを行動に移す。
二本目とほぼ同時に迫り来る三本目のツルを、ツルとツルの隙間へと身体を捩じ込んでシキは跳ぶ。
それすら予測済みだとでも言わんばかりに、クイーンは即座に残る一本のツルを横殴りに叩きつけようとツルを引き絞った。
「―――【アイスブレス】!」
だが、かつてない程の速度でシンがウインドウを呼び、マガタマ《ワダツミ》を口に放り込んで叫ぶ。
一度胸を反らし、身体を仰け反らせ大きく息を吸い込んで、シンの口から蒼いエフェクトを伴った冷気の砲弾を吐き出される。
砲弾はシキへと向かうツルに直撃し、一瞬の内に凍らせてしまう。
(ナイス、シン!)
心中で最大限の感謝を表し、着地と同時に再び走りだす。
駆け出したシキは足を動かしたまま、獰猛に笑った。
「……オマエ、運がいいよ。俺みたいな、とびっきりの大凶を出会(ひい)っちまうなんて、さ」
クイーンは必死に自身の持つ残りの武器(ツル)を動かそうとし、そして既に死神は眼前に居た。
「じゃあ、さよならだ。来世からやり直せ、なんて言わないが……もう、二度と会わないことを祈ってるよ」
簡素な別れを告げ、シキは女王の線を一閃した。

      ○●◎

「中々、綺麗なトドメだったね。彼が……」
「そう。彼がシキ君だ」
少女は心底楽しそうにくすくすと笑う。
「嗚呼、最後まで美しかったけど――――彼は私の想像よりもカッコ良かったわ」
「ふむ……。主にどのあたりがかな?」
それはね、と少女は楽しそうに解説を始めようとする最中、男は静かに思案する。
「(……やはり、早く彼女を投下しなければならないか……? しかし、まだ覚醒に至ってはいない、か。……まぁ、幸い時間は有る。もう少し見守るとしようか)」 
 

 
後書き
斬鮫「どうも、皆様大変永らくお待たせしました。作者の斬鮫で御座います」
シキ「今回は番外だから、チルノの紹介はしない。期待してた方には申し訳ないんだがね」
斬鮫「今回は補足やら裏設定なんかを話していきましょうか。シキ、トップバッターお願い」
シキ「ん、了解。……そうだな、じゃあまず俺は刃物が大好きだ」
斬鮫「……いきなり物凄いカミングアウトしましたね」
シキ「しゃあないだろ。つーか、設定考えてるのはお前だろう」
斬鮫「メタ発言はやめて下さい。とにかく、続きを」
シキ「続き、って言ってもな……。まぁ刃物に限ったわけじゃなくて、武器そのものの収集癖、っていうのかな。まぁ、あれだ。レアな装備とか欲しくなるだろ? そういうことだ」
斬鮫「それとは違うような気も……。まぁいいか。シン、次どうぞ」
シン「んー……。裏設定って言っても……。そうだな、強いて言うなら神話とか伝承のマニアってとこか。発祥の地とか、エピソードとか、大体なら分かる」
斬鮫「あ、シンの所の説明で言い忘れてましたけど、《人修羅》の影響で普通のスキルすら習得できません(例えば索敵とか交渉とか。ぶっちゃけると戦闘以外では能なし)。後、《人修羅》のスキル能力のせいで常にほぼ半裸状態です」
シン「まぁ、マント系列の装備しか装備できないからな」
斬鮫「まぁ、チルノはまた今度ちゃんと紹介した後でやるからいいとして……。そうですね、じゃあそろそろお別れにしましょうか」
シキ「おい、何勝手に終わらせようとしてるんだ」
斬鮫「ですよねー。……で、今回も死人が出る、と?」
シキ「その通りだ。というわけで……」
斬鮫「――――北斗有情破顔拳!!」
シキ「なぁっ!」
シン「何で俺までっ!」
斬鮫「…………せめて痛みを知らず安らかに逝くがいい」
斬鮫「さて、全滅させたし、感謝コーナーをしましょうか。まずこの作品を読んでくださっている皆様に感謝致します。本当に不定期更新ですが、待ってくださっている方には本当に申し訳ないです。これが終わったら腹を切って自害したいです……。そして、感想を書いてくださっている皆様、本当に感謝の極みです。いつも励みになっています。そして、どうやらこの斬鮫の駄作《弾かれ者達の円舞曲》となべさんの《無邪気な暗殺者》がコラボ決定というわけです。そちらも確認して頂けると嬉しい次第です。では、皆様さようなら。さて……次の夜まで消えるとしよう」 
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