東方守勢録
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第四話
「でも……どうするんですか?」
「弾幕で部屋を埋めます。相手はよけながら近づいてくるはずですから……それを悠斗さんが倒してください」
「……わかりました」
「では……始めます」
雛は大きく深呼吸すると、全神経を集中し始める。
その数秒後、雛と悠斗の周りには、無数の弾が姿を現していた。
「……」
雛は何も言うことなく弾幕を作り続ける。
弾幕はどんどん大きくなり、部屋全体を埋め尽くして行く。半透明の物体は遠いからか見えてはいないが、この量と密度では避けざるをえないだろう。
悠斗は必死に目を凝らしてあたりを見渡していた。
(……いた!)
数十メートル先に微かであったがゆれる何かが見えていた。悠斗はすぐにハンドガンを構え、狙いを定める。
だが、相手も機械とはいえ忍者。スピードのせいでほとんど狙いが定まらない。相手の動きを予測し、偏差うちをするしかなかった。
(……いけ!!)
祈るような思いで悠斗は引き金を2・3回引く。
乾いた発砲音が鳴り響いた後、一度だけ金属音が聞こえていた。同時に破損したアンドロイドが音を立てながら倒れていった。
(次!)
一体倒したところで気をぬくわけにはいかない。まだ部屋の中には複数の物体が潜んでいる。
悠斗はもう一度気を引き締めると、再びハンドガンを構えた。
本拠地内 2階
「下の方から音が聞こえますね……戦闘でしょうか」
「悠斗さん……雛さん……」
「急ぎましょう。私達がやるべきことを終えれば、この戦いは終わるわ」
俊司達は慎重に進みながら最上階を目指していた。
「しかし……妙だな」
「誰もいませんね」
残りの警備兵に警戒しながら進んでいた3人だったが、人っ子一人見当たらないまま進んでいた。
囮班が正面で激戦を繰り広げているとはいえ、中に一人も残っていないのは逆に不自然だった。革命軍の本拠地だということもあり、兵士の人数はバカにならないはずだと予測していたからだ。
3階に上がっても状況はまったく同じ。不信感だけがつのっていった。
「……もしかして……はめられてるのか?」
「わからないわ……だとしたら……なにか策があるはず」
そう言って紫は後ろを振り向く。
(なにもな……!?)
一瞬何もないと判断したが、その数秒後には危機を感じ取っていた。
かすかであるが、空間がゆがんでいるように見えていた。それも全体ではなく一部だけ。しかも、わるいことにこっちに近づいてきているようだった。
誰かいる。そう判断した紫は、半分無意識に弾幕を作っていた。弾幕は爆音とともに着弾していき、かるい煙があたりを埋めていった。
「うわっ!? 紫?」
「誰! 姿を見せなさ……!?」
煙が晴れた後、現れたのは二足で立つ機械だった。
だが、ところどころが破損しており、数秒たつとその場に倒れてしまった。
「……アンドロイド?」
「こんなものがあったなんて……!?」
状況が整理しきれない一同に、突如無数の機械音がそこらじゅうからなり始めた。
「どうやら……」
「まだいる……みたいですね」
「……」
三人は何も言うことなく戦闘態勢を取っていた。
「くそっ!! 一体何体出てくんだよ!!」
アンドロイドたちの攻撃に、俊司達は厳しい防衛戦をしいられていた。
4階に上がる階段まで到達していたが、後方からの猛攻によってなかなか進むことができずにいた。挙句の果てには、時折4からアンドロイドが下りてくる始末。
このままでは集中力も体力も何もかもなくなってしまう。そうなってしまえば、ゲームオーバーだった。
「これじゃあキリがないですよ!!」
「ちくしょ……だああ!!」
アンドロイドは俊司達にしゃべる暇も与えずに攻撃し続ける。俊司達は微かにへりつつある集中力えお駆使しながら、一体一体確実に倒して行った。
そんな中、紫がいきなりしゃべり始めた。
「俊司君! 妖夢!」
「何!」
「先に行きなさい! ここは私がなんとかするわ!」
そう言った瞬間、紫は目の前に大量スキマを展開させる。そこから出てくる大量の弾幕が、アンドロイドたちを攻撃していった。
「さ、行きなさい」
「でも……紫……」
「きちんとケリをつけるんでしょう?」
紫はそう言って笑った。
俊司は一瞬目を丸くしていたが、紫の意図を感じたのか少し笑っていた。
「わかった……ありがとう」
「上にもいることは確かよ。気をつけてね」
「ああ。妖夢、行こう!」
「はい!」
二人は自分達のやるべきことのため、駆け足で階段を上がって行った。
「さて……」
紫は軽く溜息を吐く。
スキマを消した後、目の前にはアンドロイドの残骸と、半透明の物体がいくつも並んでいた。それらを歩く見渡したあと、かるく睨みつける。
「さ……ここを通りたいなら……私を倒してもらいましょうか?」
紫はそう言って再度スキマを展開させた。
同時刻 捕虜監視室
「……雛さん、一度弾幕を解いてもらってもいいですか」
「……はい」
雛は言われた通り弾幕を止める。弾幕の爆発音と着弾音が消え、辺りは静寂が広がる。
悠斗はその中で微かに聞こえるはずの機械音を探していた。だが、何秒待ってもそんな音は聞こえてこない。
1分待った後、悠斗は大きく息を吐いた。
「もう大丈夫ですね。誰もいません」
「そうですか……よかっ……た」
「雛さん!?」
雛は力を使いすぎたのか、崩れるようにして悠斗にもたれかかっていった。
「大丈夫ですか!?」
「はい……少し立ちくらみが……」
「少し待ってて下さい……」
悠斗はすぐつかくの壁に雛を連れていくと、そのまま壁にもたれかけさせた。
「すいません」
「いや、謝るのはこっちの方ですよ。ごめん」
「いえいえ……それより捕虜の方を」
「ああ」
悠斗は集中力をすべて能力に注ぎ込んでいく。そして、そのまま爆発させるように能力を解き放った。
牢屋の鍵は悠斗の能力を受け、一斉に音を立てて開いていく。その瞬間、部屋の中を歓喜が響き渡っていった。
「これで大丈夫」
「はい……」
やるべきことを終えた二人は、お互いの顔を見ながら笑いあっていた。
「お疲れ様だな……お二人さん」
安堵の表情を浮かべる二人に、一人の男が声をかけてきた。
「あなたは……」
「霧の湖以来だな。看守の兄ちゃん」
「お久しぶりです」
悠斗は男の顔に見覚えがあった。霧の湖で独自に情報収集をしていたころ、よく話していた人だ。どうやら俊司達が霧の湖を攻撃した時、捕虜の人たちはここに運ばれていたみたいだ。
悠斗は安心したのか、安堵の表情を漏らしていた。
「やっぱり、あんたは変わらないな。誰からも話を聞いてくれなかったころから、自分がやるべきことをきちんと考えて行動してる」
「そんなことないです。当たり前のことをしてるだけですよ」
「当り前だからだろうが。ありがとうな」
男はそう言って軽く笑う。その後ろでは、解放された捕虜達がぞくぞくと集まってきていた。
「まだ早いですよ。ここからでないと……雛さん立てますか?」
「はい。でも……少し危なくないですか?」
「そうだな……あいつらか」
先ほどの戦闘中、牧野は試作一号機を数十体設置したと言った。
この部屋で倒したのも十数体にすぎない。通路内にもいる可能性があるうえ、戦闘可能なのは悠斗と雛のみ。捕虜を守り切るには到底無理だった。
「となるとあとは……」
「俊司さん達次第ですね……」
今行動すれば危ない。そう判断した悠斗と雛は、上で行動している俊司達を待つことにした。
「さてぇ……それはどうでしょうかね?」
「!!」
一息付いていると、いきなりスピーカーから声が聞こえてくる。試作一号機を作成に関与した牧野の声だ。
「彼らにも『影丸』の相手をしていただいてますよぉ? データはどんどん集まってますから」
「……質問いいですか?」
「はいはいなにかなぁ?」
牧野は面白がっているようだった。
「あなたは……この軍の本当の目的をしってるんですか?」
「本当の……目的ぃ?」
「はい。俺達が聞いていた命令とは違う……本当の目的です」
悠斗がそう言うと、牧野はなぜか黙り込んでしまった。裏切り者である悠斗の言葉が信用できないのか、あるいはなにかを考えているのかわからないが、何かをしゃべろうとしているのは明らかだった。
「……もし、それが本当なら……我々は間違ったことをしていますね」
「……」
「今、明確な答えはしないでおきましょう。いずれ……その答えは出るかもしれませんしね」
「……はい」
「データはたくさんとれました。今回はそれで十分でしょう……では」
それ以降、牧野がしゃべることはなかった。
「あの人は……いったい?」
「牧野博士は言動はちょっとあれですけど……根はやさしいし、きちんと考えてるんです。今回も、日本のためと考えてこられてますから」
「そうなんですか……」
「はい。まあ、今はそれよりも……ここの心配をしましょうか」
悠斗はそう言って天井を見上げていた。
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