東方守勢録
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第五話
革命軍本拠地 4階
「はあ……はあ……静かに……なったな……」
「そう……ですね……」
壊れた機械に囲まれながら、二人はそう呟いた。
紫の言うとおりにしてから、だいたい10分が経過しようとしていた。予測通り4階もアンドロイドの軍勢が待ちかまえており、俊司と妖夢は苦戦をしいられていた。
幸い3階にいた人数よりは多くなく、二人でもぎりぎり対処できるほどだった。それでも、まだ上があると言うのに、体力をひどく消耗してしまっていた。
「あと……1階だってのに……」
「それに……まだ指揮をとってる方も見えないですし……」
ボロボロになりながらも進む二人。
そんな中、徐々に最上階に向かう階段が見え始めていた。
「やっと見つけた!」
「1階1階広かったですからね……やっと最上階ですか……」
軽く溜息をつきながら、階段に足をかける二人。
その時だった。
「えっ……きゃあ!?」
何の疑いもせずに階段を上ろうとした妖夢だったが、唐突に鳴り響いた電子的な音とまぶしい光が現れた瞬間、後方に大きく吹き飛ばされていた。
「妖夢!!」
「うう……だ……大丈夫です」
そう言いながらも、妖夢は頭を打っていたのか、軽く頭を押さえながら立ち上がった。
「頭打ったのか!?」
「これくらいは平気ですよ……でも……なんで……」
「俺にはなにもなかったのに……」
妖夢のすぐそばにいた俊司は、何事もなく階段を上ろうとしていた。吹き飛ばされていたのは妖夢だけで、俊司はその衝撃さえ反応しなかったのだ。
不思議そうに階段を見つめる俊司。その後、ゆっくりと階段の方に近づいていった。
「俊司さん! 危ないですよ!!」
「……」
妖夢の忠告を無視しながら階段に足をかける俊司。
だが、妖夢を吹き飛ばした衝撃波は、現れることはなかった。
「……どういうことだ?」
「それは君しか通れないってことだよ」
「!?」
突如スピーカーから聞き覚えのある声が響き渡る。それを聞いた俊司は、一気に顔をこわばらせていた。
「来ると思っていたよ?里中俊司君?」
「クルト……」
「おいおい、出会う前から声が殺気だっているよ? もっとリラックスして?」
「うるさい!!」
面白そうに声をかけるクルトに、俊司は大声で怒鳴りつけた。
「おお、怖い怖い」
「てめぇ……」
「まあまあ、どうせ復讐でもしに来たんだろ? だから、1対1っていう最高の場を設けようとしてるのにさ?」
「……」
「このうえは大きな広場になってる。そこで決着でも付けようじゃないか?」
「決着……」
「僕はこの先で待ってるよ。じゃ、期待してるからね?」
その後、何かが途切れるような音がして、クルトの声は聞こえなくなってしまった。
「……」
「俊司さん……」
気がつくと、俊司の背後に心配していると言わんばかりに不安そうな顔をしながら、妖夢が立っていた。
「妖夢……」
「私は……この先にいけないんですね」
「……ああ」
返事を返すと、妖夢の顔はさらに暗くなっていった。
「また……私は何も……」
「何もできないわけじゃないよ……ここまで一緒に来てくれただろ?」
「でも……肝心な時に限って私は……」
「……」
紅魔館での出来事以来、妖夢はここぞという時に俊司を助けることができないことを悔んでいた。いくら仕方のないことだとはいえ、自分の力不足が招いたことでもある。妖夢はそんな自分を責めていた。
今回も、また俊司を助けることができない自分がいる。妖夢は悔しさと悲しさで心が埋め尽くされそうになっていた。
そんな彼女を見て、俊司は軽く溜息をつくと優しい目をしながら彼女を見つめた。
「……心配すんな」
「え……あ……」
俊司は何もいわずに妖夢の頭をポンポンと叩いた。
「何も責めることはないよ……ここにいてくれるだけでいい」
「俊司さん……」
「ここから先は……俺の私情でもあるんだ。どのみち……一人で行かせてほしいと言うつもりだった」
「……」
「ここで……待っててくれるか? 妖夢……」
そう言って、俊司はもう一度妖夢の頭をポンポンと叩いた。
それに反応してか、妖夢は顔を赤くしながらうっすらと涙を浮かべていた。ここにいるだけでいい。そんな些細な言葉が、何もできないと思っていた彼女に優しく響き渡っていた。
「……待ってます……ここで……」
「……ありがとう」
「……必ず……帰ってきてください」
「……善処するよ」
「そこは……嘘でも戻ってくると言って下さいよ」
そう言って、妖夢は少し笑った。
「じゃあ……行ってくる」
「はい……」
俊司は、見送ってくれる少女に軽く笑みを返すと、そのままゆっくりと階段を上って行った。
最上階
「遅かったね?」
「……」
広場の中央で、男は上がってきた少年にそう言った。
「殺気立ってるねぇ? まあ、そうあせらずあせらず」
「うるさい……」
少年は男を睨みつけながら、二丁のハンドガンを手に取った。
「やる気満々ってか? なら……はじめるか?」
男がそう言った瞬間、男の背後に無数の魔方陣がうかびあがる。それぞれ違う形をした魔方陣は、不気味な雰囲気を出しながら、少年を見つめているようだった。
だが、少年はそんなことでしり込みをすることはなかった。
(由莉香……仇はとる!)
少年は幼馴染が使っていたハンドガンを強く握りしめ、全神経を集中させていった。
そこから数秒ほどだろうか、静寂があたりを埋め尽くして行った。
「……さあ……パーティーの始まりだ……」
「……ぜったい……仇をとって……帰ってやる!」
魔方陣だ軽く光りだした瞬間、二人はほとんど同時に走り始めていた。
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