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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百三話 シャオニって強えな

 タイセー自身、確実にシャオニを斬りつけたと思っていた。
 事実剣は確かに彼女の体を通過していた。
 しかし、目の前のシャオニはまるで硬直したように表情が動かない。
 だがそれ以上に不可思議だったのは、斬りつけた手応えだった。


(手応えがほとんどあらへん!?)


 まるで水か何かを斬ったような感触だった。
 すると、目の前の彼女がいきなり黒くなり始めた。
 皆がそれを見てギョッとなる。


「これはどうしたことでしょうか!?」


 モアの叫びが闘武場に広がる。


「シャオニ選手の体が斬られたと思ったら黒くなり始めた!?」


 隣のフレンシアも興味深そうに見つめている。
 すると、何かに気づいたようにハッとなる。


「どうしましたか?」
「あそこを見て下さい!」


 フレンシアは指を差す。
 そこは舞台の角、そしてその場に立っているのは間違いなくシャオニだった。


「こ、これはシャオニ選手が二人!?」
「何やて!?」


 モアの勢いに追加するようにタイセーが叫ぶ。
 振り向いた先にはモアの言う通りシャオニがいた。
 だが自分の近くには黒くなったシャオニもいる。
 交互に見回し眉間にしわを寄せる。


「どういうことや!?」


 その疑問はタイセーだけでなく、その場にいる者全てが皆同様だった。
 黒くないシャオニが楽しそうに笑っている。


「フシシシ、驚いた驚いた!」


 まるで悪戯が成功したかのように無邪気に笑う。



「一体……」
「フシシシ、も一回そっちの私見て?」


 彼女の言うようにタイセーは黒いシャオニを見る。
 すると、氷が解けるように形が崩れていく。
 最終的には黒い水溜(みずたま)りのようになった。
 するとその水溜りが自ら動いてシャオニの方に向かって行く。


「動くんかコレ!?」


 彼女の隣に来ると、また形を成していく。
 そして再びシャオニそっくりになる。


「なっ!?」


 タイセーだけでなく、モアの声も響く。


「ど、どうなっているのでしょうかフレンシア様!」


 縋(すが)るような思いでフレンシアに聞く。


「あれは恐らく……闇魔法の一種でしょうね」
「や、闇ですか?」
「ええ、なかなか珍しい属性魔法の使い手です。バレンさんに聞いたことはありましたが、本当に彼女は闇魔法の使い手のようです」


 フレンシアとシャオニの父であるバレン・テイラーは同じ研究者で、仕事仲間ということだ。
 そんな彼に、シャオニのことも聞いていたのだろう。
 だが実際に彼女の闇魔法を見たのは初めてだった。


「な、何と、闇魔法とは……これはシャオニ選手素晴らしいです!」


 タイセーもその解説には耳を澄ましていた。


「闇魔法やって? 初めて見たで?」
「フシシシ、これはね、『闇人形(ダークドール)』って言うんだよん!」
「いつの間にそんなもん作ったん?」
「さっき髪の毛投げた時にちょちょいとね!」
「全く……抜け目あらへんな」
「ちょっとタイセー! アンタ気ぃつけや!」


 セイラの声が届くとタイセーは親指を立てて「大丈夫」とだけ言う。
 その隙を見て、シャオニはまた動こうとする。
 しかし今度はそれをタイセーの雷魔法が邪魔をする。
 上空に跳ぼうとしたところ、真上に電撃を流されてタイミングを崩された。


「あっちゃ~」
「もう跳ばさへんて」


 空に飛ばれて、また『髪雨(ヘアーズレイン)』をやられると堪(たま)ったもんではない。


「そっかぁ…………そんじゃあ……これはどうかな?」


 するともう一人のシャオニが弾けて周囲に散らばる。
 黒い水溜りがたくさんできる。


「な、何や?」


 タイセーは警戒しながら周囲を睨む。
 黒い水溜りがウニョウニョと動き出し、その場で形を成していく。
 そして、周囲に散らばった黒は、先程と同様にシャオニの姿になっていった。


「『闇人形(ダークドール)・十人操(マリオネット)』だよん!」


 舞台の上にシャオニが十一人存在している。
 その姿は本人と見分けがつかないくらい精巧にできている。


「覚悟はいいかなぁ? そんじゃ、いっくよん!」


 シャオニが動くと、作り出した偽物のシャオニも同時に動き出した。


「う、動くんかい!」


 てっきり先程と同じで動かない人形だと思っていたので完全に意表をつかれた。


「これは凄いです! いきなり十一人のシャオニ選手! しかも動きましたよ!?」


 モアの声を受けてフレンシアが静かに答える。


「あれはただの人形ではありません。魔力で動かしているようですね」


 シャオニはそれぞれの人形に、自身の魔力を常に流して操作しているというのだ。


「だから『十人操(マリオネット)』って言うんだよん!」


 その十人と、本人の十一人が一斉にタイセーに向かう。


「マ、マジで!?」


 タイセーは剣を構えて迎い撃つ用意をするが、本人だけに注意を払っているだけでいいのか分からなかった。
 偽物には力などなく、ただの目くらまし程度ならいいが、本人同様に攻撃ができるならそれ相応に対応しなければならない。


「ああもう! どうでもええわ! 本人を叩くんや!」


 タイセーは考えるのが面倒になり、とりあえず本人であろうシャオニに向かって走る。
 それを見たシャオニはニヤッと笑う。


「フシシシ、それは悪手(あくしゅ)だよん!」


 突然他のシャオニに身体を掴まれる。


「うわっ!」
「タイセーッ!」


 セイラも思わず叫ぶ。
 両腕両足を掴まれ、完全に身動きを封じられた。


「タイセーッ! 電撃で追っ払い!」
「そ、そっか!」


 セイラの掛け声のお蔭でハッとなりすぐに行動を起こす。


「くらえや!」


 体から電撃を流して拘束しているシャオニを追っ払おうとする。
 ビリビリとタイセーの体から雷魔法が生成される。
 そして生み出された雷は、タイセーの体を通ってシャオニ達に流れる。
 だがそんな行動を見て、シャオニは笑いながら言葉を出す。


「フシシシ、無理だよん!」


 彼女の言う通り、彼を捕らえているシャオニ達はピンピンしている。


「ウソやんっ!」


 タイセーは驚愕に顔を歪める。
 普通の生物なら体が痺れて動けなくなるほどの電撃を放ったはずだった。
 だが彼女達はビクともしていない。


「その程度の雷じゃあ、私の闇は飛ばせないねぇ」
「くっ……」
「そんじゃ、行っくよん!」


 タイセーの体を拘束しているシャオニ以外のシャオニが髪の毛を飛ばす。


「があっ!!!」


 為す術(すべ)なくサボテンのように髪が突き刺さる。
 痛みで苦悶(くもん)の表情を作る。
 だが体を動かそうとしてみても、ガッチリ固められていて動かせない。


「どう? 降参かな?」


 質問にタイセーはニヤッと笑って答える。


「ね、寝言は言わへんねんけどなぁ……」
「…………そっか、じゃあトドメ行くよ?」


 シャオニは急に真剣な表情を向ける。
 あまり痛めつけるのを得意としない彼女は、降参してほしかったが、試合である以上手を抜くことができない。
 ましてや、これはタッグマッチで、自分一人の責任ではないのだ。
 となると、することは一つしかなかった。
 誰から見ても戦闘不能だと判断できるようにすることだった。


「タイセーッ!!!」


 セイラが舞台に手を掛けながら叫ぶ。


(アカン! これじゃタッチもでけへん!)


 このままでは、無防備に攻撃を受け、深刻なダメージを負う可能性が高い。


「もうええから降参しぃ!」


 その声を聞き、タイセーは少し厳しい表情を向ける。


「…………それは……アカンやろセイラ……」


 いつものセイちゃんとは呼ばない。
 彼女は自分の身を案じて声を掛けてくれているのは分かるが、それは戦士に送るような言葉ではない。
 もちろんセイラ自身も分かっている。
 自分が逆の立場だとしたら、タイセーと同じことをするからだ。
 だがそれでも、やはり目の前で苦しい思いをしている彼を思うと、つい制止の声を掛けてしまう。


「せやけどさ!」


 焦りながら叫ぶ彼女を見て安心させるように微笑む。


「まだ……やれるわ!」


 それを黙って見ていたミラニも目を見張る。


「マズイ! シャオニ殿!」


 シャオニはハッとなってタイセーを見る。
 彼の体から白い雷が迸(ほとばし)り始める。


「『白雷(ホワイトサンダー)』っ!?」


 シャオニは思わず叫ぶ。
 『白雷(ホワイトサンダー)』は細い電撃となって、自分の体を拘束しているシャオニ達の体を貫く。
 すると貫いた部分から氷が解けるように彼女達の体が崩れていく。
 それを見たシャオニは焦りを感じる。
 このままでは拘束が解けてしまい、タイセーが自由になってしまう。


「これはヤバイね!」


 自体の急転にシャオニは急いで決着をつけるべく、他のシャオニ達と一緒に髪を投げる。
 これを受けてしまうと、さすがに体が保(も)たない。
 防ぐ手段はただ一つ。
 だがそれは温存していた魔力を使い切る方法だった。


(このまま黙ってやられへん!)


 彼は目の前を見据えて覚悟を決めた。


「……おおらぁぁぁっ!!」


 全力で魔力を解放する。
 
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