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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百二話 どっちもすげえ攻防だな!

「タッチ! あとは私がやっちゃうよ!」
「すまない、だが気をつけることだ」
「ほえ?」
「タイセーはまだ本気を出していないからな」
「へぇ、そうなんだ」


 興味深そうにタイセーを見つめる。


「彼の二つ名は伊達(だて)ではない」
「二つ名……あるんだね」
「ああ、その名も『白い雷(いかずち)』だ」
「どういう意味なのかな?」
「タイセーは極めて珍しい雷属性の魔法を使うのだ」
「ふうん、それは面白そうだねぇ」


 そこで観客達から早く再開しろと声を浴びせられる。
 これ以上話しているともっと騒がしくなりそうだ。


「とにかく、タイセーが白色の雷を出したら気をつけろ!」


 ミラニは早口でそう伝える。
 シャオニは軽く頷き、舞台の中心へと向かう。


「次は私が相手をするよ!」
「へぇ、凄い巨乳やなぁ」


 タイセーはシャオニの体を見て、感心したように声を漏らす。
 セイラは嫉妬するのではなく、またかといった具合に呆れている。
 シャオニはその言葉を聞いて、ニッコリと笑う。
 そして両腕で持ち上げるようにして胸を支えて強調する。


「触ってみたい?」
「ええの!?」


 真剣な眼差しで問い返す。
 思わず観客席からも身を乗り出し、喉を鳴らす者もいる。
 するとシャオニは舌をペロッと出して言葉を放つ。


「でもごめんねぇ! もう予約入っちゃってるんだよねぇ~」
「マジで!?」


 タイセーは心底ガッカリしたように肩を落とす。
 シャオニはというと、妖艶(ようえん)に微笑みながら、闘悟の方に視線を向ける。
 その視線を受けた闘悟は、すかさず顔を背けるが、その場にいる女性達に冷たい視線を向けられたのは言うまでもない。


「そんじゃ、一応自己紹介しとこっか?」
「おお、それは助かるわ」
「フシシシ、私はシャオニ・テイラーだよ。『白い雷』のタイセーちゃん?」


 明らかに年上だがそんなの気にせずフレンドリーに話しかけている。
 だがタイセーも気にしていないように言葉を出す。


「ミラニちゃんに聞いたんやな?」
「そだよ!」
「シャオニちゃんは、二つ名ってあんの?」
「ん~知りたい?」
「教えてくれると嬉しいけど」
「そんじゃあねぇ……試合中に教えてあ・げ・るっ!」


 シャオニは言葉の終わりに突然何かを飛ばす。
 瞬間タイセーは身構えて、上手い具合に剣で斬り落とす。


「何やいきなりかい!」
「フシシシ、もう始まってるよん!」


 楽しそうに笑うが、そんな彼女を見てタイセーも何故か楽しくなってくる。


「そうやな、ほんじゃやろか!」


 タイセーは指先をシャオニに向ける。


「『放電(ディスチャージ)』!」


 指先から電撃が迸る。
 シャオニはサッと避けると、また何かを飛ばす。


「さっきから何を飛ばしてんねん!」


 タイセーはまた剣で斬り落とす。
 すると、斬ったものが空中で揺れる。
 それをタイセーは目を細めて観察する。


「……髪?」
「正解だよん!」


 シャオニは髪の毛を触ると、何本かスルリと抜く。
 そしてまた投げる。
 その様子を見ていたミラニは「あれはこの間の」と思い出していた。
 初めてシャオニと会った時も、彼女は髪の毛を魔力でコーティングして硬化させて投げつけていた。
 それなりの硬度なので、何もせず受けるとチクリでは済まないだろう。
 それを判断したのか、タイセーは丁寧に防御する。


(シャオニちゃんの武器は髪の毛ってことかい!)


 シャオニはこの場にいる者達と同じように剣を携えているわけではない。
 恐らく彼女は肉体そのものが武器なのか、生粋(きっすい)の魔法士なのかどちらかだろうと判断する。
 タイセーはそう判断して、さらに間合いを詰める。
 遠距離では分(ぶ)が悪い。
 近距離戦に持ち込み、有利に事を運ぶ。
 そう考えて剣を盾に前へ進む。
 シャオニはその彼の様子を見てニヤッと笑う。


「あんま近づいちゃ、ヤだよん!」


 今度は両手で髪を投げつける。


「そんなもん効かへんわぁ!」


 剣を大きく振って飛んできた髪を弾く。
 すると、その間にシャオニは大きくジャンプする。
 ちょうどタイセーの真上に位置する。


「何処や!? 上か!?」


 ドンピシャでシャオニを見つける。


「ありゃりゃ、見つかっちゃったよ!」


 言葉とは違い、全く焦りは見せてはいない。


「今度は多いよぉ~!」


 すると、シャオニは体を激しく回転させる。
 その彼女から物凄い量の髪の毛が射出される。


「『髪雨(ヘアーズレイン)』だよん!」


 あまりの量にギョッとなるタイセー。


「ハゲんでそれ!?」
「変な心配しとる場合ちゃうやろ!」


 セイラはタイセーに向かって怒声をぶつける。
 『髪雨(ヘアーズレイン)』は、そのまま真っ直ぐ落ちてくるのではなく、楕円(だえん)を描き逃げ場を作らないように向かってくる。


「しゃあないな!」


 タイセーは体から魔力を放出させる。
 それが電撃になり、また色が徐々に白くなっていく。
 それが彼の上空を守るように広がる。
 そこに『髪雨(ヘアーズレイン)』が沈もうとする。
 そして髪がソレに触れると、一瞬のうちに蒸発する。
 何本も何十本も何百本も次々と触れては一瞬でジュッと音と共に消えていく。


 シャオニはいきなり現れた白い雷に驚き顔を歪めるが、それ以上に苦悶の表情をしているのは、シャオニの攻撃を防いで、優勢になったはずのタイセーだった。


「ううっ! アカンしんどいっ!」


 タイセーの我慢し切れない声でソレは消える。
 だが、もうすでに『髪雨(ヘアーズレイン)』も全て消滅している。
 シャオニも驚愕した様子で地面に着地をする。


「ひゃ~一本も当たらなかったの?」


 信じられない表情で呟く。
 だが、これがミラニが気をつけろと言っていた白い雷なのだとしたら、確かにとんでもない魔力が込められた魔法だった。


「はあはあはあ、やるな俺!」


 息を乱しながら自画自賛(じがじさん)をするタイセーだが、その防御は確かに完璧だった。


「さすがだなタイセー」


 ミラニはタイセーにも聞こえるように称賛の声を上げる。
 すると、彼はVサインを作って見せつける。
 だが見せたのはセイラに対してだ。


「ちゃんと見とったセイちゃん! 惚れ直したやろ?」
「はいはい、どうでもええから試合に集中しぃや」


 呆れながら声を漏らす。


「団長ちゃん、アレってまさか?」


 シャオニが視線だけをミラニに向ける。


「そうだ、アレが『白雷(ホワイトサンダー)』だ。彼の魔法そのものが二つ名になっているのだ」
「へぇ……白い雷……面白いじゃん!」


 楽しそうに口角(こうかく)を上げる。


「面白いとは言うがな、『白雷(ホワイトサンダー)』は危険だぞ! あまりの高熱のために本来の色を失った灼熱(しゃくねつ)の雷なのだからな!」
「ふうん、そういうことかぁ」


 興味深そうにタイセーを見つめる。


「そ、そんな見つめてもアカンで! 俺にはセイちゃんという可愛い嫁がおるんやし!」


 だが満更(まんざら)でもないような顔つきで言う。
 するとセイラがハエを追っ払うように手を払いながら言う。


「良かったら持ってってええで?」
「ええっ!?」


 セイラの言葉に心にダメージを受けるタイセー。
 シャオニは冷静にタイセーを見て笑う。


「フシシシ、面白いねぇ。でも、今の『白雷(ホワイトサンダー)』ってやつ、相当魔力使うみたいだよねぇ」
「アカン! もうバレた!?」


 いやいや、そんだけ息乱して、しかもしんどいって言ってんだから誰でも分かるよと、観客達から声が聞こえる。


「だが昔はあんな量は出せなかったし、持続時間も短かかった。修練したなタイセー?」


 ミラニの問いかけに頷きを返す。


「しいひんかったら飯(めし)抜きやったしな」


 命懸けだったと呟くタイセーを見ると、少し青褪(あおざ)めていた。
 どうやら地獄のような修練をセイラにさせられていたのだろうと予想できて苦笑を漏らしてしまった。


「そんじゃ、今はチャンスってことだよね!」


 シャオニは隙をついたように髪を飛ばす。


「いいっ!? いきなり反則やって!」


 タイセーは急いで剣を前に構え防御する。


「あっちゃ~そう上手くはいかないねぇ」


 シャオニは「失敗失敗!」とお茶らけた感じで笑う。


「タイセー! 気ぃ抜いたらアカンやんか!」


 セイラの激(げき)が飛んでくる。


「はは……ホンマやな」


 シャオニはそんな彼を観察するように見るとまた微笑する。


「ん~あの魔法はちょっと危険だからね。その前に倒させてもらうよん!」


 観察した結果、『白雷(ホワイトサンダー)』を使えるほどまだ回復していないようだ。
 『白雷(ホワイトサンダー)』は触れたものを即座に蒸発させるほどの高熱を持っている。
 また使われたらかなり厄介になる。
 だから今度は使われる前に倒さなければならない。


(はぁ……ホンマ『白雷(ホワイトサンダー)』使うとしんどいわぁ。魔力残量的に、あと一回ってとこやな)


 シャオニの判断では、まだ使用できないということだったが、実は使用できるのだ。
 ただ、体力も魔力も膨大に使用するので、今は使えないといっても不正解ではない。


(せやけど、また髪の雨をされると……あれだけはさしたらアカンな)


 タイセーは先手を取り続けるためにシャオニに向かって動く。
 シャオニはそんなタイセーの考えを理解したように微笑む。


(どうやら『髪雨(ヘアーズレイン)』を嫌ってるみたいだねぇ)


 タイセーは剣を抜いてシャオニに向かって斬り下ろす。
 普通なら避けるか防ぐかするのだが、不思議なことにシャオニは一切動じない。
 タイセー自身もおかしく感じたが、そのまま斬りつけた。
 ブシュッと音がして、体が真っ二つになったと誰もが思った。

 
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