とある六位の火竜<サラマンダー>
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勝負
前書き
戦闘描写難しい……
「終わった~!!!」
チャイムが鳴り、先生が教室から出ていって放課後となる。佐天が喜びの声をあげてから蓮の方を見ると、そこには
「すぅ……すぅ……」
「うわぁ……爆睡だね~……」
「神谷さん、授業終わりましたよ~。」
机に突っ伏した状態で幸せそうに眠る蓮。初春が声をかけるが全く起きる気配がない。
「まったく……神谷、起きて!!」
「う~ん……まだ眠いー……」
「いいから起きる!松野と遊びに行くんでしょ!」
「むぅ……まだ寝たいのに……」
佐天が蓮をたたき起こし、蓮は文句を言いながらも体を起こす。
「ふわぁあぁああ………。仕方ない。松野、行こうか。じゃあな佐天、初春。」
「うん、じゃあね2人とも。」
大きな欠伸をしながら松野と一緒に教室を出ていく蓮。
「よ~し……初春行くよ、尾行開始!!」
「はぁ……バレて怒られても知りませんからね。」
そんな2人の後を少女達がついていっているのに気づかずに。
柵川中学から少し歩いたところに今は使われていない工場がある。敷地は広く、施設もさることながら、工場の前にはかなりのスペースに更地が広がっている。
「で、着いたけど中?外?」
「外かな。神谷の能力で建物が崩壊とかしたら大変だし。」
勝負の場所に着いた蓮と松野はそう会話してから工場の前で距離を開けて向き合う。
「レベル5に挑んでくるんだ。覚悟はあるな?」
「勝算がない勝負をする気はないよ。」
「そーかよ。じゃあ……」
松野の言葉に蓮は少し笑みを浮かべ、手のひらの上に炎を生み出す。そして
「いこーか!!」
松野に向かって投げつける。その数8個。8個の炎球が松野を襲う。松野はその炎のうち4個を避け、避けきれなかった4個を
「はぁ!!!」
能力で生み出した水球で相殺。しかし視界が水蒸気で遮られる。そして身を低くし、足の裏からのブースターも利用したダッシュで近づいた蓮が拳を振りかぶる。
「つっ………!!」
それに即座に松野は反応。水球をぶつける。蓮は攻撃を中断。水球を避けるためいったん距離をとる。
「へぇ、水流操作《ハイドロハンド》か……。」
「今ので完全に様子見かよ……。やっぱきついな。」
蓮は松野の能力を把握。松野はそんな蓮を見ながら苦笑する。だが内心、蓮は少し驚いていた。確かに加減はしたが、まさか4個も炎球を相殺されるとは思っていなかった。
(レベル3……まだ本気じゃないとして4ってとこか。)
柵川中学には珍しいレベルの能力者。ちなみに常盤台にはレベル3以上でないとは入れないらしいが柵川中学はそこまでのエリート校ではない。松野は、勢いで喧嘩を売ってきたとはいえ、それなりの実力があったようだ。
「さて、どうするかな……」
レベル3から4の能力者相手ではあまり手を抜きすぎる訳にもいかない。蓮がどうするか考えている間に今度は松野が先に動く。
「オラッ!!」
「っと……!!」
松野が投げつける水球を避ける蓮だが松野は間をあけずに水球を投げ続ける。そして蓮をかすめた水球が後ろの工場の壁に当り大きな窪みをつくるのを見て、蓮の頬を冷や汗がつたう。
「おい!あれ当たったら打撲どころじゃないぞ!?骨折もんじゃねえか!!加減しろよ!!」
「レベル5相手に加減してる余裕なんかないよ!」
「うわっ!!あぶなっ……!!」
思わず文句を言う蓮は、言葉と共に放たれた水球を辛うじて避ける。そして、このまま避け続けていればいずれ直撃を喰らってしまうと判断した蓮はブースターを使い、一気に距離をつめる。
「くっ……!!」
まさか一直線に突っ込んでくるとは考えていなかった松野は反応が遅れるがなんとか水を放って蓮を止めようとするが、蓮はその水をジャンプで避ける。そして、そのまま松野の頭上を越える。
「なっ……!?」
「もらった!!」
そして松野の背後に着地。松野が振り向く前に蓮は炎を拳に纏わせて殴りつける。
「ガハッ……!!」
松野は工場の壁までぶっ飛び倒れ込む。しかし、少しふらつきながらもすぐ立ち上がる。
「うわ……あれくらって立つか……。昨日の強盗相手の時もだけど腕力ないなぁ、俺……。」
「ゴホッゴホッ……!!充分だって。壁に叩きつけられるときに水をクッションにしなきゃやられてたし。」
ため息をつく蓮に松野は顔をしかめながら言う。立ったとはいえ、ダメージは大きいようだ。
「諦める?」
「んな訳ないでしょっと!!」
「うわっ!!」
期待をこめた蓮の問いへの返事は放たれた水球。
「どんどんいくよ!!」
「だから加減しろっての!!」
今度は松野は水球を放つのではなく地面に手をつける。
(なにをしてくる…?)
警戒しつつもチャンスと見て突っ込む蓮。その足元がいきなり揺れだす。「これは……つっ!?」
咄嗟に横に飛ぶ蓮。その足元から水がかなりの勢いで噴き出した。
「危ねぇ……ってうわっ!?」
「さっきのお返しだ!!」
蓮の避ける方向を予測していたのだろう。避けたところで待ち構えていた松野が至近距離から水球を放ってきた。
「っと……!!危ねえな!!当たったら大怪我じゃねえか!!」
「これを避けるのかよ……」
ギリギリで炎のブースターを使い無理矢理身体をひねって避けた後に距離をとる蓮を松野は感心したように見る。
「さすがレベル5って感じか……」
「だから諦めろって。」
「嫌だって。いくぞ!」
「はぁ……」
蓮の2度目の問いも一蹴した松野はもう1度蓮に向かって水球を全力で放った。
「うわ…」
「凄い……」
物陰で蓮と松野の勝負を見ていた佐天と初春は感嘆の息をついていた。あとをつけて行ってみれば蓮と松野がいきなり闘いだし、最初は驚いて止めようとしたが止めれるような状況ではなかった。
「でもなんであの2人が闘ってるんですかね……」
初春の言葉で佐天の脳裏に浮かぶ昨日の告白。
『好きです!付き合ってください!!』
昨日システムスキャンが終わった後、空き教室に呼び出されて行ってみると告白された。突然のことに驚いたが
『ごめん……。気持ちは嬉しいんだけど……』
と断っていた。松野のことは嫌いではなかったが恋愛対象ではなかった。断ったのは間違いではないと佐天は思っている。真剣な想いを適当に受けることはできないから。だけど
(だけどもし、あたしのせいでこんなことになってるなら……)
自分のせいでこうなっているかもしれない。しかし、無能力者の自分は能力者の闘いを止める力はない。
「佐天さん……?」
佐天は目の前の闘いで自分の無力さを再確認させられている気分だった。
「はぁはぁ……だあっ!!」
松野は正直驚いていた。レベル5相手に自分がまだ闘い続けられていることに。
「ちっ……ホントにめんどくさいな!!」
舌打ちをする蓮。その間にも松野は水球を放ち続ける。戦況はだんだんと松野の有利に傾いていっていた。松野が受けたダメージは最初の1発のみ。対する蓮は松野の水球に接近を阻まれ、避けきれなかった水球によって体のいたるところに痣をつくっていた。
(これなら勝てる!!けど、これじゃ決定打にはならないから……)
松野は頭で考えをまとめると、水球を止めて地面に手をつく。
「同じ手をくらうか!」
噴き出した水は蓮に避けられてしまう。しかし、蓮が避けた先の地面からも水が噴き出す。
「おっと……!!」
それも避ける蓮だが、その先の地面からも水。たまに水球による牽制を挟みながら、それを繰り返す。それは蓮をどこかに誘導するように放たれ続ける。
「いい加減に……ってなっ!?」
「もらった!!」
そしてついに蓮が追い込まれる。蓮に水が迫る方向は全方向。地面が揺れているところから見るとご丁寧に地面からも迫っているようだ。
「あっ、詰んだ……」
「いっけええええ!!」
小さな蓮の呟きと松野の叫びで水が全方向から蓮に叩きつけられる。
「はぁ……はぁ……か、勝った……」
そこに残ったのは倒れる蓮。松野は呟く。
「ワガママに付き合ってくれてありがとな、神谷。」
そして軽くふらつきながらもその場を後にしようと蓮に背を向けた。その時、松野にかけられる声。
「……やっぱ駄目だ。」
「つっ……!!」
驚いて振り向く松野の目に飛び込んできたのは
「悪いな松野。やっぱ……負けれないわ。」
そう言ってボロボロで立ち上がる蓮の姿だった。
「な、なんで……なんであれくらって立てるんだよ……」
驚愕に顔を染めながら声をもらす松野。それを聞いて蓮はボロボロだがしっかり自分の足で立ちながら答える。
「なんでか?俺だってよく分かんないよ。なんでこんなしんどい思いをしてまで立ってんのかなんて。」
そもそもこの勝負自体、蓮に大したメリットはない。ならば先の攻撃を受けた時点で負けを認めても良かったのだ。実際普段の蓮ならそうするだろう。
「でも負けたくないと思っちゃったんだよ。ただただ負けたくないって。」
今の蓮が立っている理由。それはこの気持ちだけ。
「俺は佐天と初春に似たような、でもどこか決定的に違う感情を抱いてる。同じなのはどちらも俺にとって大切な人だってこと。違う部分がある理由が佐天のことを好きだからなのか分かんないけど……」
ボロボロで自分の気持ちを口にし続ける蓮に松野は口をはさむこともできない。
「それに俺、今日の勝負は負けるつもりだったんだ。」
「なっ……!?」
驚く松野に蓮は自嘲の笑みを浮かべながら言う。
「俺みたいな自分の気持ちもはっきりしてないやつが松野みたいなやつの邪魔しちゃいけない。そう思ったんだよ。俺に邪魔する資格はないって。」
松野は1度失敗しても自分の気持ちを曲げずにはっきりとさせ諦めなかった。そんな松野が蓮は少し羨ましかったのだろう。
「だからさっきの攻撃を受けた時点で立つつもりはなかった。……でも無理だ。この気持ちが佐天のことを好きだからなのかはやっぱはっきりしないけど、負けたくないって気持ちははっきりしてるから。」
蓮はそこで大きく息を吐くとはっきり宣言する。
「だからもう手は抜かない。本気で、絶対に負けない。」
「………そっか。そうこなくっちゃな!!」
自分の気持ちをはっきりと宣言した蓮を真っ直ぐに見つめ、松野は楽しげに笑った。
足元の地面が揺れる。
「無駄だっつーの!!」
軽く避け、さらに目の前に迫っていた水球を炎球で相殺する。そして松野に向かって走り出すが、また地面が揺れ出して避けるために離れる。それを何度か繰り返すうちに
「ちっ……!またかよ……!!」
「よしっ!!」
気づけばまたもや全方向から迫る水。それが蓮に叩きつけられそうになり、松野は自分の勝利を確信した。その時、蓮に迫っていた水が全て蒸発する。
「なっ……!?」
中心に立つのは竜の炎を纏う蓮。一瞬で水を蒸発させた炎は辺り一帯に高温を撒き散らしながらゆらゆら揺れる。
「知ってるか?俺のシステムスキャンは頭から水をぶっかけながらやるんだよ。その量は25メートルプール10杯分。その水は大半が水蒸気になってしまう。この意味、分かるな?」
「………火竜《サラマンダー》…」
小さな感嘆の声で呟いた松野はがっくりと項垂れる。
「………降参だ……」
こうして蓮と松野の勝負は蓮の勝利で決着がついた。
後書き
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