ジークフリート
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第二幕その七
第二幕その七
「それでいいな」
「また何ということを言うのじゃ」
「それが嫌なら泉の側で休むな。遠くで休め」
そしてさらに告げた。
「それで二度と僕の前に出て来るな」
「戦いの後で御前を元気付けてやるのは嫌なのか」
「元気付ける!?」
「そうじゃ。何かあったらわしを呼んでくれ」
こう言うのである。
「わかったな」
「そんなことがあるものか」
「まあその時は呼んでくれ」
あくまでこう言うのだった。
「いいな」
ここまで話して姿を消す。その時にこっそりと呟いた。
「共倒れになってくれればいいのじゃがな」
こうしてジークフリートは一人になった。ここでまた言うのであった。
「あいつが僕の親父でないとは何といいことだ」
そして今度は周りを見回す。
そこは森の中でもとりわけ緑が多い。その緑の中で呟く。
「この爽やかな森も今はいい。やっと楽しい一日も微笑みかけてくれる。それにしても」
ここでふと思った。
「僕の父親はどんな人だったんだろう」
それを思うのだった。
「ミーメに息子があったらあいつそっくりになる」
まずはそれを考えた。
「灰色で醜くいやらしく小さく歪んでいて垂れ下がった耳を持っていて」
まさにミーメそのものである。
「眼はただれているんだろう。あんな醜いアルプはもういい」
言葉は続く。
「そして僕のお母さんはどんな人なのか。それは考えられない」
そう思いながら想像していく。
「牝鹿のそれよりも美しい瞳だったのだろうか。それに」
想像は続く。
「不安の中で僕を生んで死んだのか。人間の母親は子供を生むと死ぬのか」
こうも思うのだった。
「それは悲しいことだ。余計に僕のお母さんに会いたくなった」
ここで気付いたのは。森の小鳥だった。
「小鳥か。そういえば御前の声も聞いたな」
「さあ、どうなるかな」
「面白そうだね」
小鳥達はここで囁いているがジークフリートにはわからない。
「竜に勝てるかな」
「いけるんじゃないの?」
こう言っていく。
「甘いさえずりがわかったらお母さんのことがわかるかな」
「あれ、何か言ってるね」
「そうだね。お母さんって?」
小鳥達にはジークフリートの言葉がわかった。
「そういえばあの人が死んで随分経つけれど」
「あの子も大きくなったね」
こう言いながらであった。ジークフリートを見守る。ジークフリートはさらに言う。
「ミーメは小鳥のさえずりも聞こえるようになると言っていたが」
「まあそれはね」
「特別な方法が必要だけれど」
また言い合う小鳥達だった。
「できるかな」
「それがわかるかしら」
「真似をしてみようか」
こんなことも考えた。
「声の響きを。そうすればわかるかな」
そしてまた言った。
「言葉は駄目でも鳥の言葉を使ってみればお喋りもわかるかも知れない」
「おや、そう考えるんだ」
「面白いじゃない」
実際にやってみるジークフリートだった。葦笛を吹いてみる。しかしであった。
「駄目か」
上手くいかなかったのだった。
「これでは駄目だ」
「まあそれじゃあね」
「難しいね」
「小鳥達に恥ずかしいな」
こう言って顔を俯けさせた。
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