ジークフリート
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第二幕その八
第二幕その八
「こんなことになって」
「気を落とした?」
「仕方ないのに」
「参ったな、どうすればいいんだ」
彼は俯きながら述べる。
「どうすれば聞かせてやれるんだ」
「僕達にその声を」
「そういうことね」
「どうすればいいんだろう」
そして考えるのであった。
「小鳥達に対して。けれど」
今度はだった。角笛だった。腰のそれを取って高らかに吹くのだった。
笛の音は遠くまで響く。それが返っても来る。それを聞いてジークフリートはまた呟いた。
「さて、何が出て来るかな。狼か熊、それとも」
「あっ、来たな」
「そうね」
するとであった。洞穴からそれが出て来たのである。
「出て来たな。楽しい仲間になってくれるか」
「貴様は一体」
巨大な竜だった。黒く禍々しい姿をしている。眼は赤く四肢は太い。そして鋭い牙や爪からどす黒い毒汁が滴り落ちている。その竜が出て来たのである。
「喋れるのか」
「だとしたらどうする」
「それなら答えろ」
その竜に対しての問いだった。
「御前がこの森の竜だな」
「そうだ。我が名はファフナー」
こう名乗ったのである。
「巨人達の主でもある」
「そうか。御前がその巨人達の主か」
「そうだ」
まさにそれだというのである。
「わかったな」
「そしてだ」
その彼にさらに問うジークフリートだった。
「教えてもらいたいことがもう一つある」
「今度は何だ?」
「ここに一人恐れを知らない男がいる」
「それは誰だ?」
「御前の目の前にいる」
つまり自分だというのである。
「御前はその男に恐れを教えられるか」
「無鉄砲なのか勇気なのか」
ファフナーはそれを聞いて言った。
「そんなことはどうでもいいが」
「何だ?」
「わしは水を飲みたいのだ」
己の事情の話であった。
「それを邪魔するのか」
「だとしたらどうするのだ?」
「食い物になるというのか」
こうジークフリートに対して言ってきたのだった。
「なら容赦はしないぞ」
「その口で僕を飲み込むのか」
「どかぬならそうする」
その長い舌を出しての言葉だった。それ自体がまた蛇の様に蠢く。
「どうするのだ?それで」
「恐れを教えてもらう」
あくまでこう言うのだった。
「御前にそれができるか?」
「できる」
竜もまた言う。
「それはな」
「できるんだな。じゃあ教えてくれ」
「一口で飲み込んでやる」
そうするというのだ。
「それで教えてやる」
「残念だがそれは遠慮する」
言いながら不敵な笑みを浮かべてみせたのだった。
「それはな」
「嫌だというのか」
「考えるまでもないことだ」
「では去るのだな」
「それも考えるまでもない」
あくまで不敵だった。
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