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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第八十六話 オレって場違いじゃね?

 夜に何故か王族の会食に招かれた。
 グレイハーツの王族とアーダストリンクの王族の会食だった。
 大会の間は、主にハロと一緒に食事をとっていたので、こうして会食に参加するのは初めてだ。
 ハロは闘悟のことを気に入っていて、宮殿ではほとんど一緒にいるのだ。


「えっと……ところで何でヒナ達がいるの?」


 そうなのだ。
 何故か王族の会食に、ヴァウス家がいた。


「お前は初めてかもしれんが、オルトロ達を招くのは初めてじゃねえぞ?」
「まあ、ヒーちゃんはあんまり来ないけどね」


 ニアが残念そうに声を放つ。
 本当はもっと気兼ねなく来てほしいのだが、ヒナ自身こういう場はあまり得意ではないようだ。
 今日は闘悟も一緒だということで来ることを決めたらしい。


「オレが一緒でいいんですか?」


 どう考えても一般人の闘悟には、この場には相応しくないように感じる。


「おいおい、ま~だそんなこと言ってんのか?」
「そ~よぉ! 言ったでしょ、トーちゃんは家族だって!」


 それは確かに嬉しいととることのできる言葉だ。
 だけど、闘悟はどうしてか素直には受け入れることができなかった。
 ギルバニアとニアは良い人だ。
 だけど間違いなく大人だ。
 それが闘悟に今一歩踏み出せない理由の一つだ。
 それは闘悟自身に問題があるのだが、それはまだ解決するには時間が掛かりそうだ。
 闘悟がいつまでも立ち尽くしているので、業(ごう)を煮(に)やしたのはステリアだった。


「もう! 早く座りなさいよトーゴ!」


 そんなステリアの声に驚いたのは闘悟だけではなく、ブラスやギレンも同様だった。


「ほぅ、ステリアはトーゴの前ではそんな態度なんだな」


 ギルバニアが面白そうに目を光らせた。


「あ、いえ、申し訳ありませんでした……」


 シュンとなって小さくなる。
 こんなステリアも新鮮だなと感じる。
 本人はしまったと後悔している。


「さあさあ、スーちゃんの言う通り座って座って!」


 ニアの言葉に頷いて大人しく席に着く。


「さて、トーゴにミラニ、一次予選突破ご苦労だった」


 ギルバニアは労(ねぎら)うように言葉を放ってその時気づいた。
 ミラニもどうやらこの会食に呼ばれていたみたいだ。
 ただやはり身分の違いを感じてか、緊張しているように見える。


「そう言えば、明日の予選はタッグマッチだったが、トーゴとミラニのパートナーは誰になったんだ?」
「はい。私はシャオニという人物です」
「え?」


 闘悟は素直に驚いた。
 まさかミラニのパートナーが、まさかあのうさんくさいウサミミ女子だったとは。
 というか、あのシャオニが、予選を勝ち抜けるほどの実力の持ち主だったのが意外だった。


「知っているのかトーゴ?」


 ギルバニアが聞く。
 闘悟はどう説明したものかと思案する。
 隣に座っているクィルが何故かムッとしている。


「あ、いや……」
「シャオニ嬢は、ここにいるトーゴとふしだらなことをした関係です」


 ミラニがとんでもないことを言い出した。


「ちょ、お前何言ってんだよ!?」
「どういうことかなトーちゃん?」
「そうねぇ、聞かせてもらいたいわトーゴくん?」


 ニアとフレンシアのダブルパンチ。
 背後にただならぬオーラを感じる。
 これは嘘や誤魔化しは通じないと判断する。
 闘悟は冷や汗を流しながら事細かに説明する。


「やるわね、そのウサミミ」


 フレンシアが忌々(いまいま)しそうに呟く。


「ん~これは警戒する必要があるわ~」


 ニアが軽く首を振りながら言葉を放つ。
 二人が何故そんなことを呟いているのか闘悟には何となく理由は分かっているが、突っ込めば藪蛇(やぶへび)になりそうなので放置することにした。


「トーゴくんも大変だね」


 唯一闘悟に憐(あわれ)みを込めた声を掛けてくれたのはヒナの父であるオルトロだった。


「いえ……もう慣れ……てはいませんが、諦めるよう努力しようと思います」
「フレンシアが本当にすまないね」


 この人は身分も高いのに、腰が低い。
 そのせいか分からないが少し好感が持てる。


「トーゴと、言ったね」
「はい?」


 いきなり声を掛けられたのでサッと顔を向けた。


「私はアーダストリンク国王ブラスだ。こっちは息子のギレン」


 ギレンは軽く頷きを返す。


「ステリアは……紹介はいらないね」


 ステリアを見ると少し不機嫌そうに口を尖らせている。
 闘悟を睨んでいるので、もしかしてさっきのシャオニのことが関係しているのだろうかと考える。
 ロリコン疑惑の上に獣人……つまりはアニマルコンプレックスまで疑われては堪(たま)らない。
 ロリコンにアニコン、ハッキリ言って人生が詰みそうだ。


「予選は見ていたよ。それにしても興味深いね、君のその強さは。ステリアが惹かれるのも分かる気がするよ」
「ちょ! 惹かれるってそういう意味じゃないからね!」


 ステリアが必死になって弁解する。
 あわあわと、頬を赤く染めている。


「分かっているよスティ、彼も馬鹿じゃない。その強さに興味があるってことだろう? それくらい理解しているよね……トーゴくん?」


 何だろう……笑顔を向けられているのに寒気がする。


「あ、はい……もちろんですギレンさん」
「それは良かった。勘違いしちゃったら大変だからね……そう思うだろう? ね?」
「……はい」


 この人には決して逆らわない方がいいと判断した闘悟だった。


「それにしても、君は一体何者なんだい?」


 ブラスの言葉に、その場にいる皆が注目した。
 静寂が周囲を包む。
 だがこんなふうに質問をされることは予測していたので、闘悟は決して慌てていなかった。
 闘悟のことを知っている者は、彼がどうするのかジッと見つめている。
 もちろんその均衡(きんこう)を破ったのは闘悟だ。


「異世界人です」


 平然と言い切った。
 瞬間ブラスとギレンは時が止まったように硬直する。
 ステリアは初めて会った時に暴露したので驚いてはいない。


「王に聞いてはいたが……」


 そんな声を出したのはオルトロだ。
 ふとその後ろに控えてあるメイドも珍しそうに闘悟を見つめている。
 あれ? あの人は確か……そうだ、ヴァウス家のメイドであるニコさんだ。
 彼女も逆らってはいけない人物にランキングされている人物のはずだ。


「黒髪……黒目……莫大(ばくだい)な魔力。確かに過去に現れた異世界人も、その特徴を持っていたと聞きます」


 そう答えたのはフレンシアだ。
 突然解説し出した彼女を皆が注目する。


「文献では約二百年前にも異世界人と名乗る人物が現れたと記録されています」


 確か『ミサキ』という名前だった。
 前に図書館に行って調べたことを思い出す。
 あれから何度か図書館へ行って、調べてみて闘悟自身かなりの情報を得ている。
 だが、それが本当に正しい情報なのかは定かではない。


「まあ、残念ながらその方が何かを成したという伝承は残ってはいませんが。ただ、世界各地を回って『アルメフ』というところで消息を絶ったらしいです」


 さすがは三賢人の一人だ。
 そんな情報も掴んでいるとはさすがだった。


「異世界人……彼がそうだという確かな証拠はありませんが、異世界人に類似している部分が多いです」


 皆の視線が闘悟に注がれる。
 そしてフレンシアは続ける。


「それにあの魔法……変化魔法も初めて見る魔法でした。魔道具無しで、あんな一瞬で変化させるのは素晴らしいです」


 今日の大会の時、服装を変えた魔法のことだ。
 本来なら魔道具を使って体や服装を変化させるらしい。
 だがそれも一部分がほとんどだ。
 闘悟のように一瞬で服装を全部変化させるのは極めてレアな能力らしい。


「それは改変魔法だなトーゴ」


 ギルバニアの質問に闘悟は頷く。


「改変魔法……ですか。実に興味深いですね」


 フレンシアの瞳に光が走る。
 実は彼女は研究者でもあるらしいのだ。
 見たことも無い魔法やそれに類似するものを見ると、調べて見たくて堪らない衝動が起こるという。
 闘悟も似たような衝動があるので、それを強く否定はできないが、それが自分を対象とされると、とても迷惑なことだと悟る。


「ただ、トーゴくん。あなた、まだ隠し持っているわね?」
「……」


 無言を肯定と捉えたのか、フレンシアが続ける。


「魔力の量も……あれはほんの一部なんじゃない?」


 この人は本当に大した人だと感じる。


「私は魔力視認ができるの。この目で見た感じ、まるで大きな卵に小さなヒビが入り、そこから漏れ出している感覚を感じたわ。トーゴくん、一体あなたの底はどうなってるのかしら?」


 フレンシアはその目で見れば、対象の魔力の量が分かる。
 だが、闘悟を見た時、全く量を把握できなかったのだ。
 これは恐るべき事実だ。
 三賢人の目でも確認できないほどの魔力量が、平民である闘悟に宿っているということだ。
 闘悟は真剣に見つめてくる目を、そのまま逸らさず見返す。


「そういやトーゴ、今日の魔力、いつもの一パーセントじゃなく五パーセントくらい出してたろ?」


 ギルバニアが疑問に感じたことを問う。
 しかし闘悟は首を横に振り否定する。


「……出してませんよ?」
「は?」
「ていうか、今日出した魔力は一パーセントも出てません」
 
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