トーゴの異世界無双
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第八十五話 絶対に優勝してやらぁっ!!
「お、お母様! そ、そそそんな婚約者だなんて、で、でもその……」
「あらあら、大変なことになったわね」
「こんやくしゃって、どんなあじなんだぁ?」
クィル、リア、ハロがそれぞれ感想を述べる。
クィルは誰が見ても分かるくらい取り乱している。
リアは少し楽しそうに微笑み片手を頬に当てている。
ハロに関しては、どうやら婚約者のことを食べ物だと勘違いしているみたいで、興味深そうに目をキラキラさせている。
「え? ハロも? トーゴってやっぱヤバイ?」
ステリアはいよいよもってトーゴロリコン説の確かさに身震いする。
ミラニは呆れたように溜め息を吐く。
ヒナは少しだけムッとしている。
ヒナ自身、何故自分の胸がスッキリしないのか、まだよく分かってはいないが、それがどういう感情のもとにやってきているのか理解はしていない。
ただ、闘悟に自分以外の婚約者がいると聞いた時、少し残念な気持ちが芽生えたのは確かだった。
「そこまでだ!」
そんな声が闘武場に響いた。
その声はギルバニアの声に間違い無かった。
彼もマイクを使用しているので、その声は誰の耳にも届いた。
クィル達も我に返ったようにギルバニアに注目する。
「そこまでだ愛しいマイハニーと愛しいマイフレンドよ!」
もちろんニアとフレンシアのことだ。
ギルバニアは真剣な表情で腕を組み、思わせぶりに言葉を止め、皆の視線を十分引き寄せる。
「トーゴの婚約話……確かに面白い!」
物凄い笑顔で親指を立てる。
それを見た闘悟は口をあんぐりと開けてしまう。
面白がんな!
アンタ国王なんだからな!
そう叫びたいが、まさかこの場でそんな行動を起こすことはできない。
仮にも相手は一国の王なのだ。
「それならこうしてはどうかな?」
するとギルバニアは人差し指意をを立てる。
何かこの場を収める打開策でも編み出したのかもしれないと、闘悟は少し期待する。
「トーゴよ!」
いきなり闘悟に指を差してきた。
何だかとてつもなく嫌な予感が漂ってきた。
何故なら、ギルバニアの顔がそれはそれは楽しそうにニッコリとしているからだ。
闘悟は仕方無くギルバニアを見る。
「今お前に来ている婚約話は我が娘達、フレンシアの娘、そしてミラニの五人だ!」
いやいや! だから婚約話なんて初めて聞いたけど!?
つうか何かさらっと増えてねえ!?
その頃ミラニはというと「私もかっ!?」と全身を硬直させていた。
まさか蚊帳(かや)の外で安心していた矢先の出来事だったので、その衝撃は果てしなかった。
「その五人を手に入れたければ優勝するんだ!」
はぁ? 優勝する?
「優勝しなければ……そうだな、トーゴの婚約者は……あの人だ!」
そう言ってギルバニアが示した先にいたのは一人の人物だ。
「あんら~もしかしてわたすぃ~うっふん!」
闘悟を含め、その人物を目にした全員が石になる。
クネクネと腰を揺らしながら熊のような巨体を動かしている。
明らかに身長が二メートルはある。
顔は何というか…………黒人のボクサーのようないかつい顔をしている。
「彼女はキャピー。自称二十歳。恵まれたその巨体を活かしてシスターをしている」
ちょっと待て!
何気に可愛い名前は置いておくとしてもだ、シスターなのにその巨体をどう活かすんだよ!
あと自称二十歳って、どう見てもそうは見えねえ!
「彼女はつい最近彼氏に振られたらしい。だからだ!」
いろいろすっ飛ばし過ぎだろ! 何がだからだ!
つうか、彼氏いたのかよ!
よくあんなのと付き合えたな!
「いいかトーゴよ! 負ければ……彼女と即結婚だ」
婚約じゃなかったっけぇぇぇっ!?
闘悟は全身が悪寒のようなもので震えるのを感じた。
さすがのクィル達も、言葉を失ったかのように唖然としている。
「あらん? ものすんごい好みな子。あふん! 嫌だわぁ、わたすぃ、体が火照(ほて)ってきちゃったわん!」
筋肉をピクピクさせながらウインクを投げてくる。
何とか飛んでくるウインクハートを全力で避ける。
あ、危ねえ……シャレになんねえ……。
「んもう! は・ず・か・し・が・り・や・な・の・ね! うっわやっべ、マジになりそ! うっふん!」
彼女は舌なめずりまでしている。
闘悟はそれを見て、ダイヤモンドよりも硬く心に決めた。
絶対優勝しよう……死んでも優勝しようと。
それから予選最終日の三日目の内容を知らせるために、出場者の四十人が闘武場に集結させられた。
「では今から予選三日目、つまりは二次予選の内容をお知らせ致します! 予選内容は…………」
皆の視線を受けながらモアは大きく息を吸う。
「タッグマッチですっ!」
内容を聞いて皆が首を傾げる。
もちろんタッグマッチという意味は理解できる。
だが、どのようにしてパートナーを選ぶのか分からない。
「運も実力の内と言います! そこで皆様には、この箱に入っている札を一人一枚引いて頂きます! 札には①~⑳の数字が書かれています! 同じ番号が書かれてある相手がタッグマッチのパートナーということになります!」
闘悟達参加者達は、言われた通りに札を手に取った。
闘悟のは…………⑳と書いてあった。
ほんの少し……泣けてきた。
どうしてこう最後の番号になるのだろう。
ところで、誰がパートナーになるのかとキョロキョロと周囲を見回す。
見れば他の者も相方を探しているみたいだ。
仕方無い、聞いてみるか。
「⑳を持ってるの誰だ?」
少し声を張って探してみる。
すると、ザッと足音を立てて闘悟の目の前に誰かが現れた。
闘悟はその人物を確認する。
そこにはフルフェイスの兜と鎧を着用した人物がいた。
あ、コイツってば……。
闘悟は今日の第十七回戦で闘っていた人物のことを思い出していた。
見た目にそぐわぬ俊敏な動きと、洗練された魔法で勝利を手にした。
名前は確かスレンだ。
どうやら女性のようだ。
「えっと……アンタが……パートナー?」
するとスレンは無言で頷く。
「あ、そうなんだ……」
「…………」
くっ! 間がもたん!
何でコイツ喋らねえの!
だがスレンがパートナーなのは事実だ。
闘悟は小さく溜め息を吐いて手を出す。
「と、とにかくよろしくな」
スレンは闘悟の手をしばらく見つめた後、そっと手を繋ぎ握手をする。
そこは無視されないで本当に良かったと心から思った。
「お、トーゴも相方見つかったみてえだな」
機嫌良さそうに笑いながらこちらに声を掛けてきたのはカイバだった。
「お前は誰とだ?」
「ふふん、お前には自慢にはならねえけど、俺には自慢になる相手だ!」
「いいからさっさと言えよ」
「『土波(つちなみ)』のヤーヴァスさんだ!」
「へぇ、クジ運いいじゃねえか」
ヤーヴァスは間違いなく今大会注目株の一人だ。
優勝候補と言っても間違いではない。
「だろだろ? いや~俺さぁ、まさかここまで来れるとは思ってなかったんだよなぁ。だけどさ、この面子(めんつ)見ろよ! この中に俺みたいなDランクがいるんだぜ! 信じられねえけど、嬉しいんだよな!」
本当に嬉しそうに笑う。
確かにこの大会に勝ち抜いてきている者は、ギルドランク上位者がほとんどだ。
Dランクでこの場にいるのはカイバだけだ。
幸運と言えば幸運だが、運も実力の内なのだ。
カイバは強運に恵まれた体質を持っているのかもしれない。
「ヨッチも喜んでくれっかなぁ!」
「ヨッチ? 誰だ?」
「ん? あ、そういや言ってなかったっけ? 俺の妹だよ」
「へぇ、お前に妹がいたとはな」
つうことは完全ネコミミ女子ということか……?
闘悟は少し興味が惹かれた。
「ほれ! あそこ見てみ?」
カイバが観客席に向かって指差す。
そこにはネコミミを持った人物が二人いた。
一人はカイバの母親で、もう一人が妹のヨッチだということだ。
二人は笑顔で手を振っている。
ヨッチは十三歳だが、学園には通ってはいないそうだ。
「な? 可愛いだろ?」
確かに初めて見るネコミミ女子にしては、十分な萌えを感じる。
大きな瞳とヒマワリのような笑顔が印象的だ。
少し覗(のぞ)く八重歯が可愛らしい。
「確かに可愛いな」
「だがやらんぞ!」
どうやらただ自慢がしたかったシスコンのようだ。
「ま、お互い頑張ろうぜ! 特にお前は大変そうだけどな!」
意地が悪そうにニヤッと笑うカイバを見てイラッとした。
どうやらギルバニアの宣言を聞いていたみたいだ。
「それでは今日はお疲れ様でした! 対戦相手は明日発表致しますのでお楽しみ下さい! では皆様、また明日会いましょう!」
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