環の理
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鋼の錬金術師
イシュヴァール殲滅戦
「本日、キング・ブラッドレイ閣下は『大総統令三〇六六号』に署名なされた。イシュヴァール殲滅戦の開始だ。じき内乱は終わる」
~アメストリス軍人~
~~~~~~
硝煙の臭いが立ち込める戦場の中、彼らは走っていた。
「急げ!走れ走れ!」
指揮官の号令で軍人達が隊を組む。遠くから鳴り響く爆音は、この場所を間違いなく生死分かれる戦場だと認識させてくれた。
「丘一つ向こうで国家錬金術師が出てるらしいぞ」
「すっげぇ火柱」
「本当に人間かよ」
「化け物だ」
それについては同感だと思う。ここからでも分かるぐらい目立ってるし。
「何言ってるのか分かるのか?」
「読唇術を齧ったからある程度は」
「妙な特技だな」
「褒め言葉だね」
「へっ……お前さんはどう思う?」
「…………」
「ちっ、だんまりか」
「お前さんの顔に睨まれたら男でもちびっちゃうよ」
「余計なお世話だ」
狙撃班にいるのが不思議なほど厳つい顔してるランディ・ケルベア大尉。なのに綺麗な奥さんを娶ったとんでもねえ恋泥棒だ。
「おっ、あっちで爆発音だ。それに錬金術の反応があるね」
「……お前はどう思う?」
「多分だけど『焔の錬金術師』だね。汎用性に威力、範囲に精密性共々トップクラスの錬金術だよ」
「そうか……お前のはどうなんだ?」
「あれに比べたらまだまだ汎用性がないよ。それに多人数に向けて使える戦場向けでもないしね」
私の錬金術はまだまだ発展途上。本来どの錬金術もそうあるもの……いや、そうでなくてはならない。錬金術師は真理を追い求める者で考える事を放棄すれば死ぬ。
「あの……」
「何だ新人?」
「何故、そんなに和気藹々なのですか?」
「あー……」
生真面目な新人君だなーおい。
「真面目にやってたら精神的に死んじまうよ」
「…………」
「国の為に士官したが現実は大総統曰く『ゴミ掃除』。何の為に軍人やってるんだか」
「同感だ。異民族とはいえイシュヴァール人は国民……国民同士で争わなければならないとはな」
「それは……」
大総統は何を考えてるのか分からないからな。今回だって何か裏を探らざるを得ない。
「まあ、何だい?士官学校生ならこれもいい経験だ。ここらにいる先輩方に色々聞いてみるといい」
「……分かりました」
「こいつを参考にするのはよしとけよ」
「うるせえよムサ男!」
「ああ?男女が調子にのるんじゃねぇ!」
この野郎……人の気にしてる事をよくも……!
「ん?……シルバーバーグ中尉」
「何だケルベア大尉?」
「グラン大佐が前線に来いだとさ」
「げっ……マジで?」
「曲がりなりにも国家錬金術師がこんな所で狙撃手だなんて無駄遣いだって事だろ?」
「あ~あ……明日から前線に合流だなんてまだ死にたくないよ」
(外見は)貧弱かつ女性なのにね。悩んでる途中にも発砲音が聞こえる。
「当たったか?」
「……頭部に命中しました」
私よりいい腕してんな……こりゃ外される訳だ。
「今日はもう上がっていいぞ」
「あいあいっと……そういやあんた名前は?」
「リザ・ホークアイ、です」
「おう。私はメイザース・シルバーバーグ、階級は中尉だ。よろしくな」
リザと固い握手を交わし、この日は別れた。
~~~~~~
翌日、空は変わらずの煙模様だ。
「何を物思いにふけておる?」
「何故私が貴方の隊に合流しなければならないかを延々と考えてました」
「今フェスラー准将の担当している地区は不味い戦いばかりしておる。故に儂と貴様が呼ばれたのだ」
「えー……面倒だなぁ」
遠くからパンパン撃ってた方が楽だよ。
「貴様は軟弱だな……ほら着いたぞ!」
「うげー……」
「グラン隊到着しました!」
拠点に着けば布にくるまれた死体ばかりだ。こりゃ大佐が呼ばれた理由も分かるな。
「ふむ!随分とまあ味方を殺しも殺したり。だからこそ儂が呼ばれたか……どれイシュヴァールの戦士はどこだ?」
「あの土嚢の先だ大佐」
「儂とこいつで戦線をこじ開ける。貴様らはゆるゆると来るがよい」
「お待ちください!大佐ほどのお方が先行する必要はありません!」
とか言っても、お前らが言ったら無駄な死体増やすだけでしょ。
「黙れ!我が名は鉄血の錬金術師バスク・グラン!鉄と血!!すなわち兵器と兵士!!この身こそ戦の先駆けにならんでなんとする!!!(ガン!)」
「はあぁ……そんじゃいっちょ行きますかね」
「ぬぅらァァアアアァ!!」
ド!ドンドンドドン!ドドドドドドドド!
「う……おっ!」
「すげっ!」
「グラン大佐に続け!援護しろ!」
「大佐を死なせるな!」
……私は?少なくてもお前達より階級高いよ?
「くそーーー!!」
「うおっ!あぶねぇ……よ!」
ザシュッ!手持ちの剣で一閃し、敵を退ける。あっぶねぇ~な、おい。
「ぐ……ぞ……」
「二人一組でかかれ!片方が片方の死角を守るんだ!」
「「「イエッサー!!」」」
~~~~~~
……それから何時間戦っただろうか?鳴り止まぬ銃撃音を背にしてイシュヴァール人と戦う。倒れていく仲間から目を背けて前進し、遭遇したならまた殺す。その繰り返しにピリオドを打ったのは一つの白旗だった。
「む……?」
「?」
「お……?」
皆の視線は白旗に集中する。その白旗を抱えた集団の中から一人の老人が出て来た。
「なんてぇこった……イシュヴァラ教最高責任者ローグ=ロウか」
「いかにも」
「イシュヴァールの奥地に逃げたんじゃないの?」
「皆が戦い散って行くのを見て黙っていられる神経は持ち合わせておらんよ」
「…………」
「キング・ブラッドレイと話がしたい」
「何!?」
「我が命と引き換えに今生き残っているイシュヴァール人の助命を乞う」
髭眼鏡のオッサン、もといヒューズ大尉が驚く。そりゃそうか……お偉いさんが態々頼む事じゃないもんな。
「イシュヴァールの要である大僧正ローグ=ロウの首だ。文句があるかね?もう……双方死ぬのは私で最後にしてほしい」
「分かりました。上に話を通しましょう」
ヒューズ大尉も思う事があったみたいでその要件をすんなりと受け入れた。
「撤収!怪我人引き連れて拠点に下がれー!」
「「「イエッサー!」」」
ある兵は怪我人を背負い、ある兵は衛生兵を連れてくる。私とヒューズ大尉と他数名はフェスラー准将の元へローグ=ロウを連れて行く。
「お?何だ?何故戦闘を止めた?あれは何者だ?」
「イシュヴァラ教最高責任者ローグ=ロウです。大総統閣下に話がしたいと言うので連れて来ました」
「馬鹿者!殲滅だ!誰であろうと一人残さず殺せと言う命令だ!」
まーた変な事言いだしてんなこのオッサンは。
「誰が戦闘を止めろと言った!持ち場に戻れ!ええい……良い所まで押していたというのに……イシュヴァールの豚共を殲滅しろ!突撃だ!さっさと全区を陥として来いグズ共!」
……ここら辺が潮時かな。イシュヴァール人も血管が浮き出てるし。
「どうした早くしろ!命令が……」
「准将知ってる?戦地での士官の死因の二割が部下による殺害なんだって(パァン!)」
「な、に?」
ドサッ……と倒れる人間だったもの。
「またつまらぬ事をしてしまった(ドヤァ)」
「何をドヤ顔で締めてんだ。流れ弾だ」
「……流れ弾ですな」
「フェスラー准将がこうなっては仕方がない。儂が指揮を執るしかあるまい」
「任せたよグラン大佐」
「貴様も手伝うのだぞ?」
「Oh……」
「仕方ありませんね」
「お願いしますグラン大佐、シルバーバーグ中尉」
ヒドす。皆揃ってヒドす。
「ヒューズ大尉はロウを連れて大総統の元へ行け!ベルモット少尉は怪我人を速やかに後方へ運べ!」
「礼を……言うべきでしょうか?」
「礼など受け取れぬわ。其方と大総統閣下との取引が上手くいく事をただ祈るのみよ」
あの堅物っぷりじゃ無理臭いけどね。
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