| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

珠瀬鎮守府

作者:高村
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

木曾ノ章
  その3

 
前書き
やっとこさの参話目。
私は下手云々は前回までの前書き等を見てくだされ。 

 
「……分かった。お前がそう言うならば」
 早速提督の元を訪ねた。不知火が言ったとおり、ただ言うだけで決まった。私が予想していた反対も何もなかったことに、少し疑問を覚えた。
「提督、如何なものかと私は思います」
 話を割って入ったのは、鳳翔さんだった。今まで分を弁えた行動しかしなかった彼女が、提督に異議を唱えるのは意外だった。
「どうして、そう思ったのですか鳳翔さん」
 それは不知火もだったのだろう。驚いた風に、鳳翔に尋ねた。
「殴りこみの水雷戦隊。提督、貴方はどうお考えなのですか。彼女がそう言ったから。ではなく、貴方がどう思ったのか私は聞きたのです」
 けれど、鳳翔さんは答えない。唯提督に声をかける。その声音は、どこか怒っているようにも感じられる。
「……彼女たちの“思い”と、“費用対効果”を考えた。それで、私は良いと判断した」
「ならば私も参加します。私の思いと費用対効果を考えてください。意義はないはずです」
「……」
 提督が、黙した。いつでも威厳としていて、合理的であった提督が、鳳翔の言葉で言い淀むとは驚いた。
「別に俺は構わないが、ただ水上機を外してくれよ、鳳翔さんよ」
「ええ、構わないわ」
 確か鳳翔は、足はそれ程早くはなかった。けれど数少ない隊員になりたいと言ってくれた人だ。断る理由も何もない。
「俺は、お前がそう、思うなら、そうで……」
 提督は、不知火の時とは比べるのが馬鹿げているとまで言うほど、歯切れが悪い。
 提督と、鳳翔には過去に何かがあったのだろう。そして、反応を見るに、不知火は詳しい事は知らない。
「いや、待て、鳳翔よ。分かった。俺の信頼の置ける艦を第二艦隊に所属する。それではダメか」
「私は信頼が置けないと?」
「そう取ってくれても構わん。お前の今の言葉でな」
「そうですか、私は逆ですよ。貴方の先ほどの言葉で、こう決心してしまったのです」
「兎角、お前は降りろ。代わりに俺がよく相談した上で、他のものをつける」
「待てよ、鳳翔がこっちに来るって言ってるんだろ? なんであんたが引き止めるんだ」
 言い合いになり始めた二人の間に割って入る。どうも二人共、平常心を保てていないようだ。二週間をこの港で過ごして、こんな提督も鳳翔さんも初めて見る。
「彼女を艦隊に入れても、ただ沈むだけだ」
「提督、あんたそれを本気で言ってるならぶん殴るぞ?」
「っ……済まない鳳翔、今のは、俺が悪い」
「いいんですよそんなこと。“事実”です。囮ぐらいはできます」
「おいおい、鳳翔さん、それはどういうこったい? 最初から囮ってのは、面白く無いね」
「不知火もそう思うよ。鳳翔さん、あなた何を考えているの」
 鳳翔は、返事を返さない。只拳を握りしめている。
「鳳翔、後で話がある。今は、第二艦隊配属依頼を取り消してくれないか。お前は、今正常でない」
「……分かりました。けれど、先ほどの信頼を置ける者をつけるという話、覚えていてください」
「ああ。 そういう事だ、不知火、木曾。鳳翔はお前の艦隊に加えられないが、他のものをつける。あとの仲間は、自分で頼むぞ」
 提督は、酷く疲れているようだった。
「行くぞ、不知火。それではな二人共、失礼した」
「失礼しました」
 不知火を連れて退出した。部屋を出る瞬間に聞こえたすすり泣きの意味を考えられるほど、私は鳳翔さんのことを知らなかった。


 その日の内に、一人、仲間が増えた。長月という駆逐だった。気が強い艦で、私の話を聞いてすぐ、申し出を受け入れてくれた。
 また幾日か経った日、第二艦隊に新しく入る艦と顔を会わせた。響と、彼女は名乗った。提督お墨付きの艦らしい。見た目が小さく、駆逐艦であることは容易に推察できた。物怖じしない性格で、私の艦隊に配備されるにあたって適任との判断を受けたらしい。
 後から聞いた話だが、不知火によると、彼女は古株の一人らしい。といっても、不知火は私の数日前にここに来たらしく、又聞きの話らしいけど。
 それから、残りの艦が集まるのは早かった。既に四艦が集まっているのだ。私一人の時より、格段に入りやすくなったからだろう。
「提督、言われていた五名を集めました。早速出撃させてください」
 行動は迅速に。そう思った私は、集まるとすぐ、提督の元へ赴いていた。
 提督に、一枚の紙を渡す。そこには私を含め、六人の名前が書かれていた。
「木曾、不知火、長月、響、雷、天龍か」
「驚いたか、ちゃんと揃えたぞ」
「ああ。だから、こいつらを率いて戦果を上げて、俺をもっと驚かせてみろ」
 減らず口を叩きやがる。小さくつぶやいて、肩を竦ませた。
「では早速、第二艦隊は出撃準備につけ。作戦内容伝達は一一〇〇に会議室で行う。皆に集まるように伝えろ。兵装はその後換装する。以上だ、各員に連絡をしておけ。下がっていいぞ」
「は!」
 心が踊った。やっと艦隊らしくなってきたんだ、胸が高鳴らないわけがない。
 早速退出して、皆の元へ向かわなければ。


「良かったのですか、本当に」
 木曾が去った後、柏木様に尋ねた。
「こんなこと、敵が本格的な活動をしていない今だからできる。あの無鉄砲ぶりは、いつか致命的な失敗を犯す」
 柏木様は、酷く辛そうだった。
「あいつから渡された名簿は、概ね俺の予想通りだった。木曾の元に集まった他の者も、あいつと同じ考えを持つ者ばかりだ。ここでやつらを仕舞い込んだところで、またいつか違う場所で無茶をしでかす。そうして、誰かを殺す」
「なればこそ、です。私と同じ目に合わせてしまう」
「では、永遠と仕舞い込めと? そうなれば私は鋳潰すぞ。あいつらの“思い”は、鋳潰されぬこと。現実は、常に費用に効果を求む。あいつらを仕舞いこんでも結果は生まれん。ならば道は一つ、奴らに解らせるしかない。無鉄砲がどんな結果を生むのか。例え分かる前に、幾人が沈もうとも」
「……」
「俺は、提督だ。責任は全て俺が持つ」
 彼には、何を言っても無駄だろう。そして今、私は理想を語っている。言う意味すら成さぬ言葉を、彼にかけて何の意味があるのか。提督だって辛いのだ、仲間を危険に晒すことが。その上、ただ一人でそれを受け入れようとしている。
 私には、何もできない。感謝の言葉すら、かけることは叶わない。そうすれば、木曾たちがもし死んだ際に、私はその判断に対して礼をかけることとなる。
 だから、ただ私は、彼に無言で頭を下げることしかできなかった。


 時刻一四〇〇。鎮守府正面海域。
「敵艦を発見! 繰り返す。敵艦を発見! 各艦は戦闘に備えろ!」
 天気晴朗、波は静か。港を出発してから、大きな天候の変化はない。絶好の海戦日和だ。
「敵艦反航、艦数四。敵先頭艦に照準を合わせろ」
 初陣を飾るのには丁度いい敵だ。弱すぎもせず、またこちらが危機に陥るほど強くはない。無論油断はしないが。
「タイミングを合わせる。私の掛け声で斉射だ! 行くぞ。3,2,1、斉射!」
 砲弾が幾つも放たれた。それは青空に光る点として、流れ星のように翔ける。けれど、流れ星のように消えることもなく走り、敵艦の元へ落ちてゆく。
 発射の爆音と一拍おいて怒轟。
「不知火、敵二番艦に着弾を確認」
「響、敵に致命弾を確認」
 戦いに狼煙は必要なくなってからもう随分と経つが、敵艦からは狼煙のような煙が上がっていた。
 瞬間、私のすぐ横を光の玉が翔けていった。続く死の羽音。砲弾が、空を切る音。
 後方で爆音。振り返ると、水柱が立っている。さらにまた死の羽音。
(敵が撃ち返してきている!)
「被害情報報告!」
「長月、小破! 至近弾の煽りを食らった! 戦闘能力はまだ失っていない、引き続き戦闘を継続する!」
 心のなかで小さく毒づく。今回は偶々先制できたが、この有様だ。向こうに艦載機でもあったら、全く違う結果になっていただろう。
 気を引き締めろ、ここは戦場だ。
「敵艦隊からの砲撃が沈静化、主砲装填だと思われる。敵軽巡洋艦及び駆逐艦の轟沈を確認、残りは二艦。依然敵艦隊に航空戦力は見当たらない。敵艦隊に近づく、ついて来い!」
「響、異議あり。敵旗艦及び二番艦は轟沈している。ここから砲撃を行うだけで十分に対処可能と判断する」
 響が異議を唱えた。流石、提督のお墨付きか。
「そうかもしれないが、残りの二艦は殆ど無傷。逃げられる可能性もある。今撃滅するべきだ」
「響、了解」
 響は、思ったよりあっさりと引き下がった。こちらの考えを知りたかっただけかもしれない。
「各艦最高速にて接近、至近距離から水平射を食らわしてやれ!」
 一気に速力を増し、彼我を詰めていく。敵主砲が照準修正、こちらを向き始める。が、それより早く。
「今だ、撃ち方始めぇ!」
 艦隊の主砲が、火を吹いた。 
 

 
後書き
亀>アキレス>私 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧