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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第8話 「……ナンデモナイヨー」

 
前書き
結局、復旧したのが金曜日でした。
ようやく執筆を再開しています。

おかげでストックが……頑張って書こうっと。 

 




  ―― 盾二 side 冀州濮陽(ぼくよう)近郊 ――




 ……ん?
 ここは……どこだ?
 目の前に見えるのは天幕の天井。
 いつの間に俺は寝たんだろう?
 確か昨日は……張遼――霞の音頭で宴会になって、そのまま夜通し飲んで騒いで……
 はて? 
 いつ天幕の中に?

「むう……」

 起き上がろうとするが、妙な気だるさが身体に力を入れるのを拒む。
 俺、酒あんまり強くないんだよな……
 重くもたげる頭をむりやり起こす。
 水……水が飲みたい。
 この気だるさに抗って布団からでようとして――

 むにゅ

「あん……」








 ……
 …………
 ………………ぁん?
 なにか右手の下にある、やわらか~いものに本能的な危険を感じる。
 まさか……
 そんなまさか、お約束なんて……

 むにゅ

「ふぁんっ」
「ひぃっ!?」

 思わず手を引っ込めて……自分の身体にかかっている掛け布を見る。
 ……もっこりとした塊が。
 しかも、俺を挟んで両脇に!

「ま、まさか……」

 俺は両脇の塊に触れないよう、這いずるようにして掛け布から出る。
 あ……よ、よかった。
 上半身は裸だけど、ズボンは履いている。
 な、ならたぶん、セーフ?

「ズボンは……脱がされた形跡なし。パンツは濡れてない……ということはだいじょう、ぶ?」

 俺は貞操が守られたことに少しほっとして……
 何故だろう。
 だれかに『甲斐性なし』といわれた気がした。

(……いやな予感しかしないが、一応確認をするべき、か?)

 ゆっくり、少しだけ掛け布を捲る。
 そこには……

 ばっ!

 すぐに掛け布を戻した。

(……うん。忘れよう)

 俺は思考するのをやめて、本能だけで動き出す。
 体操選手よろしく、その場で倒立して腕の力だけで布団を飛び越し、脱出。
 近くに散乱した衣類からAMスーツの上着とシャツ、そして靴を回収。
 女性物の服やら下――なんでもない。
 それらは見なかったことにして。
 天幕の外や周辺には人の気配はなし。
 今のうちに……

 俺は辛くも女郎蜘蛛の巣から脱出した。








 ……だれだ?
 今、俺を『どこかの間男』みたいだとか言った奴!

 そんな空耳を感じつつ……俺はすぐに炊事場へ行き、たっぷり入った水瓶を持って頭から水をかぶった。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 空になった水瓶を放り出すと、その場でため息をつく。
 あ、危なかった。
 誰かに見られていたら俺は一体なんと呼ばれていただろう。
 最低? まだいい。
 変態? それもまあいいだろう。
 この――ン! ……そ、そうなんだろうか。
 い、いや、お、俺の年齢からすれば……問題ない、はず。

「俺は何も知らない……覚えてない……そもそも自分から手を出したことなど一度も……」

 傭兵部隊でのことは詳しく覚えてない。
 アーカムの女性研究者との情事は、一度きり。
 しかも、全部相手任せでほとんど何したかなんて覚えちゃいない。
 俺は……俺は……

「生まれてこの方、自分から女に手を出したことなんて一度もないんだぞ……?」
「ほんまに!?」
「うはひゃああアオヘハヒャホハワアアアアアアアアアアアアアッ!」

 背後からの声に、自分でもよくわからない奇声をあげて飛び上がった。

「ちょ……張、じゃない、霞!?」
「おはよーさん。なんやおもろいことになっとんなー」

 にっしっし、とにやけた笑いで満面の笑みを浮かべながら、霞があいさつをする。
 まさか……聞かれた!?

「ばっちし聞こえたで。その歳で自分から女に手を出したことないなんて……イ○ポ?」
「ちっがぁぁぁぁぁう!」

 何てこと言うんだ、このさらし女!

「女性経験はあるわ! ただ、その……生まれてこの方、自分から女を求めたことがないだけで……」
「え、ほんまかいな! あんさん、歳なんぼや!」
「え、たぶん……十八?」
「思ったより若い……やのうて。十八で女に興味がない? まさか男しょ――」
「ない! 男より女がいい! じゃなくて! そういう欲求は鍛錬やら何やらで解消させてたから……」
「えー、つまらんもーん」
「つまんなくない! 俺は男色の気はねぇ!」
「……まあ信じるけど。あんまり大声で言うと、ほんまにそういう気があると思われるで?」

 はっとして周囲を見回す。
 声に驚いてこっちに向かっていた義勇兵が、こそこそと戻っていく様子が……
 ああああああああああああああああああ

「なーんや。だったら昨日は気ぃまわしすぎたかいなぁ」
「……は?」
「いや、起きたんならわかっとったやろ? 昨日はお楽しみ……」

 有無を言わせず、霞の両肩を引き寄せ、ぎりっと力を込める。

「なにをした!」
「へ、あの?」
「な・に・を・し・た!」
「え、え~とぉ……き、昨日、あんさんを酔い潰して布団に運んで上着を脱がした後、あとは二人に任せて……」
「………………」
「ごめん。ほんまは、二人も酔いつぶれていたから服脱がして、あんさんの隣に寝かせて放置しました」

 多分今の俺は、視線で人を殺せるんじゃないだろうか?

「ほかのことはなにもしてへん。真名に誓う!」

 オイ……安いな、霞の真名!

「………………」
「ゆ、許したってぇ~な……あの、ほんまに、肩、はずれ、そう……か、かんにん、してぇえええええええ!」

 その後、二~三分ほどで許してやりました。

「あ……肩、いかれたかもしれん……ほんま、ひっどいわぁ……ちょっとしたお茶目やのに」
「ああんっ!?」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!」

 平身低頭で平謝りしてくる霞。
 貴様! 男の純情、安くねぇんだぞ!

「で、で? どうだったん? しっぽりしたんか、自分? 痛かった? 気持ちよかった? なぁなぁ!」

 ……なんかもう。
 どこの大阪のオヤジだ、このさらし女は。

「なんもしてねぇよ!」
「なんやなんや! 情けないで自分! 据え膳喰わぬは男の恥やろが!」
「据え膳も上げ膳もねぇ! 大体なんでそんな言葉知ってんだよ!」
「うっさいわ! 裸の女が隣で寝てて、手を出さん男がえらそうに言うなや!」
「普通は引くの! 身に覚えがない場合は引くもんなの! 自分の意思でやるならともかく、仕込まれるのは逆に嵌められたみたいで躊躇するもんなの!」
「うっさいわ! この甲斐性なし!」
「ぅああああああああっ!? そういうこと言うか、このさらしアバズレ女が!」
「なんやとおぉ! うちのどこがアバズレやねん! もういっぺん、ゆぅてみぃ! この残念男!」
「やかましいわ! 相手の了承も得ずに、面白がって裸にして仕込んだ奴がどの口で言うか!」

 俺と霞が顔をつきあわせて、ガルルと睨みあう。

「あ、あの~……」
「「なんや(だ)!」」

 唐突に声をかけられる。
 思わず二人して鬼の顔のままそちらを振り向く。
 そこには……

「ふ、二人とも、裸みたいな格好でなにしてるの……?」

 桃香の困惑した顔がそこにあった。

「あほいうな! 裸なのは盾二だけや! うちは、最初からこの格好やろが!」
「あ、そっか……」
「ふん! いつも裸みたいな格好なのは変わんないだろうが」
「なんやとぉ! 誰が、年中色情狂やねん!」
「そこまでいってねぇ!」
「ど、どうしちゃったの……? 昨日はあんなに仲良くお酒飲んでいたのに……」

 む、そ、それは……話せるわけが。

「聞いてや、桃香っち! 実は昨日、盾二の……」
「お前はバカかぁああああっ!」
「がふっ!?」

 霞の頭をヘッドロックの如く固めて、桃香に背を向ける。

「(ぼそぼそ)なに話そうとしてんの!? バカなの!? 死ぬの!? 話したら桃香が修羅になるだろうが!」
「(ぼそぼそ)げふっ! ぐ、ぐるしぃ……」
「(ぼそぼそ)いいな! 昨日のことはなかったことにしてやる! だから絶対に話すな! 話したら海兵隊式拷問術『お仕置き編』フルコースで味わわせるぞ!」 
「(ぼそぼそ)い、意味はわからんけどなんかめっちゃ怖そう!? わ、わかった。わかったから顔くっつけんといて!」

 ヘッドロックが苦しいからだろうか?
 霞の顔がひどく真っ赤になって、こちらから目を反らしている。
 俺は拘束を解いて、顔も朗らかに桃香に向き直った。

「いやなに。ちょっとした意見の食い違いだよ。もう解決したから、全然大丈夫! な、霞」

 俺は『否定したら殺す』という目つきで霞を見る。

「へっ!? あ、ああ。そ、そうや! もう解決やで! 仲良しさんやもん、はっはっは!」
「そ、そう? ならいいけど……」

 桃香が真っ赤な顔してこちらから目を反らしつつ、頷く。
 はて?

「と、とりあえず風邪ひいちゃうから……ご主人様も服を着てね?」
「あ」

 そういや上半身裸なの忘れてたわ。

「あーうん。ソーネ。ソーシマス」
「あー……肩も痛いわ、首も痛いわ……いろいろやりすぎやってん……」
「???」

 俺と霞の様子に、桃香が首をかしげた時だった。

「「はあわわわわわわわわーーーーーーーーーーっ!」」

 俺の天幕の方から、二人の大声が響く。

「え、なに?」
「……ナンデモナイヨー」
「あ、盾二。昨日、放り込み忘れた二人の帽子、ウチが預かっとるから伝えといてぇな」




  ―― 馬超 side ――




「そういや朝方、すんごい大声だったけどなにかあったのか?」
「はわっ!?」
「あわわ……」

 朱里と雛里が、あやうく手にもつ椀を取り落としそうになる。
 朝餉(あさげ)を取りつつ、今朝の騒動を聞いてみたが……
 あからさまに目の前の二人は慌てている。なにがあったんだろう?

「……ナイヨー、ナンデモナイヨー」
「にゃ? どうしてお兄ちゃんが答えるのだ?」
「きにするな……さてと」

 盾二が、パン、と自分の膝を打って立ち上がる。

「霞、義勇軍はこれから貴方の指揮下に入る。一応、こっちは翠の部隊、という形になる、でいいのかな?」
「うん、そうやね。その方が報告にも書きやすいし、翠にも桃香にもええやろ。一応、義勇軍の長は桃香ちゅうことにして、扱いは……翠の副官とでも書いておくわ」
「了解だ……翠、桃香、それでいいかな?」
「ああ、あたしに異存はないよ」
「うん。あ、でも作戦とかはどうするの? ご主人様が考えるの?」
「まあ、俺や朱里、雛里は元々帷幄(いあく)方……軍師みたいなもんだしな。献策はするが、現状の最終判断は霞にお願いするよ」

 朱里や雛里はともかく、盾二が軍師?
 ……どう考えても武将と言ったほうが似合うと思うんだが。

「そりゃ、一応ウチが総指揮みたいになるんやろうけど……朱里や雛里はともかく、あんさんが軍師って、見えんわぁ」
「そんなことないよ! ご主人様の策のおかげで、一万の黄巾を六千で、しかも被害零で倒したんだから!」

 !!
 あたしと霞が、驚愕の眼で盾二を見る。
 見られた盾二は、平然と茶を啜っている。
 周囲の愛紗や鈴々も平然としているし、盾二の横の朱里や雛里もコクコクと頷いている。
 本当、なのか……

「被害零、って……どうやったらそんなことができるねん?」
「んー……簡単に言えば、おちょくって怒らせて引きずり出して罠に嵌めただけ、だよ?」
「あ、あかん……賊が華雄に見えてきた」

 偶然だな、霞。
 今あたしも、華雄が賊の棟梁に脳内変換されていたよ。

「まあ、普通に戦っても賊相手なら十分勝てたけどさ。さすがに被害がでるから姦計をもちいらせてもらったよ」
「それでも零って……」
「まあ、俺は防戦に特化しているだけさ。攻勢とか城攻めの時は朱里や雛里に任せて、俺は武将として前線に出るし」
「やっぱ武将やん」

 ……つまり文武ともに高い能力があるってことか?
 とんでもないな……こんな人材が義勇軍に埋もれていたなんて。

「じゃあ、今後について、なにか具申はあるん?」
「そうだな……霞が率いていたのは董卓軍の私兵? それとも漢の近衛兵?」
「近衛? ああ……ちゃうちゃう。前に率いていた軍は確かに洛陽の常備軍やったけど、それらは華雄や馬岱と一緒に洛陽に戻したってん」
「あ、蒲公英は無事だったんだ」
「……翠。あんさん、結構ひどいな」
「う、うっせい! ちょっと忘れてただけだよ!」
「……まあええわ。今は董卓軍から、ウチの部隊を連れてきとる。数は……まあ五千もないけど」
「ふむ……なら命令系統も一本化できるし、多少の無茶はできるか。朱里、雛里、地図を」
「「はい!」」

 盾二の言葉に、朱里が地図を広げる。
 木の盾に脚立をつけた即席の机の上に、地図と駒が置かれていく。

「今いるのはこの辺。洛陽は南西のこのあたりだ。で、こないだ霞や翠が戦ったのが……この辺り。間違いないか?」
「ああ」
「戦った黄巾の主陣は、細作の話では……ここら辺の山間のどこかに砦を構えているらしい。この辺では珍しく、木が生い茂っている深緑山だ。周囲のような禿山ではないらしい。ゆえに……大軍を用いるのに非常に困難だ」
「攻め難く、守りやすい……難攻不落やねぇ」

 霞の言うこともわかる。
 山の上にある陣というのは、とかく攻めにくい。
 ましてや木々が生い茂る砦など、寄せ手が十倍いても勝てるかどうか……

「まあ、普通は高所の上に木々が防護壁となるから、こちらの矢は届かないわ、向こうの矢は遠くまで届くわで不利極まりない。だから、通常だと火計を用いて砦を焼くのが常套手段だが……この辺りは水気が多いらしいな」
「あ……あちゃー! そうやった……土壌がいいから木々が生い茂っとるんやね。でも、禿げてないっちゅうことは……」
「そうだ。木が乾燥していないから薪に使えない。だから木々が残っている」

 ……なんてこった。
 それじゃあ火を使っても、大した火事にならないということか。
 火で炙り出すことができないんじゃ……正攻法しかないということか?

「まずい、まずいっちゅうねん……どうしようもないんか?」

 霞の表情が絶望といった様子になる。
 周囲の桃香や愛紗も同様だ。
 鈴々は……あんまり悩んでいないな?
 ……でも、考えがあるようには見えない。

「ふむ。とりあえず……朱里、雛里。二人の所見を述べよ」
「「御意」」

 盾二は、朱里と雛里に視線を向けると、二人はしばし黙考して駒を動かした。

「無理に火で砦を焼く必要はないと思います。夜襲という手もありますし、山を包囲して糧食攻めにする手もあります」
「ただ、現在相手の総数が把握できていません。霞さんたちが戦った相手は、およそ一万五千と聞いていますが……全部隊とも思えません」
「その場合、義勇軍が一万、霞さんの部隊が五千ですと……圧倒的に兵力差で負けます。ですので、砦攻めは現状では難しいかもしれません」

 ……うん。
 朱里と雛里、確かに軍師だな。
 こんな状況を的確に把握できるなんて、あたしには無理だ。

「朱里ちゃん……私なら周辺の黄巾さんを集めて糧食攻めにしたいけど……」
「いい考えだけど、今だとどうかなあ。官軍に勝ったことで、勝気が増しているから打って出てきちゃうかも。そうしたら兵力差で被害は大きいよ?」
「偽兵の計とかどうかな?」
「うーん……こちらの糧食に問題はないけど、だからといって数ヶ月もかけると今後の行動にも問題にならない?」
「やっぱり削るしかない?」
「うーん……」

 朱里と雛里が悩みながら話し込んでいる。
 その間、盾二は微笑ましい眼でその様子を見ている。
 まるで教師のようだ。

「なあ、盾二?」
「ん? なんだい、翠」
「あんたは、策があるのか? なんか腹案があるって顔をしてるけど」

 あたしの言葉に、朱里と雛里が顔を上げる。

「あるにはあるけど……俺は攻勢じゃあんまり役に立たないしな。策の基本は軍師が考えるもんだ。なんでも主がやっちゃ、臣が育たないからね。まずは献策をさせることが肝要なんだよ」
「そ、そうか。二人は盾二の臣だったな……」

 なるほど。
 つまりは信頼しているってことか……
 あたしの言外の意味に、朱里と雛里がぱぁっと顔を綻ばせる。

「だが、まあ策が決まりきらないなら、俺からいくつか戦法を提案してみようか。それを取り入れるかどうかは、朱里と雛里に一任する」
「戦法、ですか?」
「ああ……まずは――」

 その後、盾二の言った数々の戦法の手段に、あたしたち全員が眼を剥くことになる。
 盾二……あんただけは敵に回しちゃいけないな。
 
 
 

 
後書き
原作には出ていないけど、歴史には名前がある方なら……オリキャラとはいわないかなあ? 
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