真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾
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黄巾の章
第7話 「はにゃ? 愛紗、だれなのだ?」
前書き
PCのグラボの新しいのが手に入りまして、それを取り付けていたんですが……
何故かマウスとキーボードの操作ができなくなってます。orz
さあて……困った。
―― 盾二 side 冀州 濮陽近郊 ――
ふと、馬超の天幕で笑い声が聞こえた。
さっき桃香が入っていったから、きっとそのおかげだろう。
桃香には周りを笑顔にする才能がある。
それこそが彼女の仁徳でもあるのだ。
(馬超の心の癒しは……桃香に任せておけば大丈夫だろう)
俺はそう思いつつ、報告を続ける朱里に意識を向ける。
「では馬超の言っていた張遼と華雄という二人は無事なんだな?」
「はい。細作さんの話ですと、張遼さんが部隊を纏めて黄巾を撃退。なんとか華雄さんを助け出したとのことです。馬超さんが撤退したのが洛陽方面だと思っていたらしく、反対側のこちら側だったとは思っていなかった様子です」
「そうか……俺たちが間に合わなかったら、彼女は死んでいた可能性があるな」
そうなったら歴史はどうなったのだろうか?
こんな黄巾の乱で、馬超が活躍したという記録を見たことはない。
そもそも黄巾自体、かなり早い時期だったはずだ。
彼女はどう見ても十代後半。
本来なら、黄巾の時代には十に満たないはずじゃないだろうか……?
まあ、それをいえば朱里や雛里はどうなる、とかツッコミ放題だが。
「そういや彼女、初陣とか言ってたな……?」
「はい。最初に起きられたときに漢での初陣、とおっしゃてました。もしかしたら地元ではすでに何度か経験されているかもしれませんが」
「そっか……まあ、慣れない土地で初めて知らない武将との共同戦線で……バカやった武将の尻拭いじゃ崩れもするか」
「はあ……」
華雄、華雄ねぇ……
うん、まったく覚えていないや。
張遼は……どっかで聞いたな。
たしか、曹操の家臣だったような……ああ、その前が董卓だったな。
「まあいいや。それで官軍とは連絡ついたんだろ? いつ頃合流できるって?」
「はい。馬超さんが動かせないことを別の細作さんに伝えるように送り出したのが昨日ですので……おそらく今日の遅くか、明日には連絡が来るかと」
「そっか。じゃあ明日、官軍が合流するまではここで情報収集に努めてくれ。糧食はまだ余裕あるか?」
「はい、それぐらいは問題ありません。官軍が合流したらどうされますか?」
「うーん……向こうの出方次第ではあるが、できれば一緒に行動したいな」
「……曹操さんの誘いは断ったのに、ですか?」
朱里が、納得がいかない様子で尋ねてくる。
まあ、そうだろうな。
「ああ。曹操は官軍なのに旗は官軍の旗を掲げていなかった。つまりは諸侯であって漢の軍ではない、そう言っているもんだ。だが、馬超の部隊には官軍の旗があった。ということは、しっかりとした漢の部隊ということになる」
「……なるほど。正式な大義名分がある官軍、そういうことですね」
「まあ、名分があるのは曹操もそうだが……どちらが上か、と言われれば馬超たちのほうが上だろうさ。洛陽という都で、天子から詔を受けて出撃しているんだ。なら、恩は売っておいても損はないさ」
「……たしかに」
「まあ、最低でも共同戦線。うまくいけば糧食の心配はしなくて済むようになる。おまけに官軍と共同戦線を張れば、名声だけでなく実績がそのまま朝廷に伝えられる……桃香の名を売るいい機会だ」
「はい。ですが……」
「うん?」
朱里が浮かない顔をしている。
どうしたんだ?
「何か問題があるのか?」
「実は、盾二様には申し訳ないのですが……盾二様の噂が少し問題になるかと」
「俺の噂……? 天の御遣いってやつのことか?」
「はい。漢の皇帝は天子……天の子、ということになっています」
「ん……あーあー、なるほど。天の子と天の御遣い。『二天』ということか。ふむ……確かにまずいか」
確か中国の漢の皇帝は天子……天の子孫となっているんだっけ。
でも……ああ、そうか。劉邦の時代からまた神聖化されるようになっていたな。
儒教か……面倒なことだ。
まあ、君主を神聖化するのがもっとも簡単な統治者を崇めさせる方法だしな。
そっかそっか……やばいな。
「んー……じゃあ、俺はあんまり表に出ないほうがいいかも知れんなあ」
「ですが……この義勇軍は天の御遣いが力を貸している、そういう風に触れ回っています。官軍と共に行動するのは……」
「う、うーん。しかし、桃香にはまたとない機会……いっそ俺が抜けるか」
「そんな!」
朱里が声を上げる。
「盾二様が抜けるならば、私や雛里ちゃんも抜けます!」
「あ、いや……そうだな。そうなるとこの義勇軍自体、立ち行かなくなりそうだな。それに桃香が、それなら官軍に頼らないと言いだしかねないし……うーむ」
俺が抜けるのは、今後のことを考えるとマイナスにしかならんかもしれん。
いっそ官軍に合流させた後、三人で人知れず消えるか?
しかし……それでは桃香に起てた誓いを破ることにもなりかねん……
「まいったな……となると、あとは官軍の張遼と華雄に俺のことを内緒にしてもらうしかないか。はてさて、どうするか」
「そうですね……馬超さんにお願いしてみてはどうでしょうか?」
「馬超に?」
「はい。彼女は盾二様に救われた恩があります。その恩の代わりに……と、お願いしてはいかがでしょうか」
「う……むう。あんまり恩に着せたくはないんだが……そうも言えんか。まいったな……」
本当は……本当に代償なんか求めるつもりはないんだがな。
しかし、朱里の言うこともわかる。
「……ふう。わかった。あとで馬超に話してみよう。彼女が了承すればよし。だめなら……そのときは桃香たちと相談しよう」
「はい。あ……盾二様」
「うん?」
俺が視線を上げると朱里が跪く。
「私と雛里ちゃんは、なにがあっても盾二様に付き従います。どうかご自身の赴くままにお進みください」
「…………」
幼女にここまで言わせる俺って……
感無量? それとも鬼畜?
「……君の、君たちの信頼に必ず応えよう。ありがとう、朱里。俺は果報者だな」
「ありがとうございます!」
頬を高潮させて、歓喜の表情で顔をあげる朱里。
ほんとに……可愛いな。
……その信頼は護らねば!
―― 馬超 side ――
「あんた……桃香に『ゴシュジンサマ』って呼ばせているんだって?」
「イヤー! イヤー! それやめてー! ってか、なんでそんなこと……桃香!」
「えへへ~……翠ちゃんに全部話しちゃった」
「……ぉぃ」
北郷が、あたしの夕食を持って天幕に入ってきた開口一番、そう言ったらまあ慌てる慌てる。
見ていて面白いほど。
なるほど、確かに桃香の言うとおり照れ屋なんだな。
「というか……二人とも、もう真名を交換したのか?」
「ああ。桃香が真名を預けてくれてね。あたしもあんまり堅苦しく呼ぶのは苦手だし……」
「うん。でね、でね! 翠ちゃんってすごくいい子だから絶対仲良くなれると思ったんだ!」
「よ、よせよ、桃香……あたしはそんないい子だなんて」
「えー! 翠ちゃん絶対いい子だよぉ!」
「……さすが桃香、というべきか? 雛里?」
「……あ、はは」
北郷と鳳統が苦笑いを浮かべている。
あたしも結構びっくりしてるよ。
知り合って間もないのに、桃香には何故か気を許しちゃうんだよな。
「それで北郷。あんた最近このあたりで噂になってる天の御遣いなんだって? 桃香がすごく自慢げに言うからさ……」
「と~か~!?」
「え? 言ったらまずかった?」
うーん……あたしが言うのもなんだけど、そういうのはあんまり官軍のあたしに言うべきじゃないと思うんだよな。
「はあ……まあ、そういうことだよ。できればそのことは朝廷には内緒にしてくれないかな。その代わり、俺たちは君の指揮下に入ってもいいと思っている」
「え!?」
「ご主人様!?」
え? だって、この義勇軍、北郷が仕切ってるんだろ?
官軍とはいえ、あたしの指揮下に入る?
「……説明してくれるか? 状況が飲み込めないんだが」
「ああ……そうだな。まずこの軍は劉備の率いる義勇軍だ。俺は『天の御遣い』という御輿に過ぎない」
「御輿……」
なるほど。
名分だということにするのか。
「名声も功も全部、劉備のものだ。これから討伐する黄巾の分も含めて全て。そう朝廷には報告して欲しい」
「ご主人様! そんなのおかしいよ、だってご主人様のおかげで……」
「桃香様……ここは黙って聞いていてください」
鳳統が桃香を押さえる。
なるほど、鳳統は北郷の臣と言っていたっけ。
それなのに異論を唱えない……ということは。
「……本当にそれでいいのか? 別にアンタのほかに誰か……別の奴を仕立て上げて断罪することだってできるだろうに」
「俺の……いや、劉備の義勇軍にそんな人身御供にできる奴なんか一人もいないさ。するつもりもない。俺は俺のしたことは自分で始末をつける。だめならせめて共同戦線を頼む。そして桃香を貴方に頼んで、俺は朱里や雛里と三人で義勇軍を出てもいい」
「そんな……」
「ダメっ!」
あたしが呟くと同時に、桃香が大声を出す。
桃香の眼には涙が浮いている。
「ダメ! ダメだよ! 絶対にダメ! ご主人様が出て行くぐらいなら、私たちは官軍と手を組まない! 私たちだけで黄巾の人たちを懲らしめる! だからダメ! 絶対に出て行くなんてダメッ!」
桃香の瞳に溜まっていた涙が、ぽろぽろとこぼれだす。
ああ、本当に桃香は盾二のことを……
「…………」
北郷はそんな桃香を見もせず、あたしの眼をじっと見ている。
あたしの返答次第では……きっと桃香を振りはらってでも出て行くかもしれない。
北郷、盾二、か……
あたしはふう、とため息をついた。
「わかったよ。天の御遣いなんてただの噂。そんなことはなく、この義勇軍はただの義勇軍。大将は劉備。その義勇軍にあたしは助けられた……だからあたしに力を貸してくれるかな?」
あたしがそう言うと――
「……ありがとう。馬超」
北郷は、その凛々しい顔が一変して。
あの、その、あう……
「あ、う……そ、そんな顔でお礼なんか言うな! というか……こっち見つめんな!」
思わず顔をそむけてしまう。
うう……なんというか、かっこいいのに可愛いというか、可愛いのに凛々しいと言うか……あうあうあー
「桃香。大丈夫……誓っただろう? 君の恩義に報いる、と。俺はまだ、それを果たしたとは思っていないよ」
「ぐすっ……やだよ? やだからね? 出て行っちゃ……やだよ?」
桃香がまるで幼子のように……まるで父親と離れ離れになるのを拒むように、北郷の服を掴んでいる。
その桃香を慰めるように北郷が頭に手を置き、撫でる。
その姿がまるで親子のようであり……恋人であるように見えた。
「……なあ、北郷。あんたにもあたしの真名を預かってもらえないかな?」
思わず出た自分の言葉に、内心驚くあたし。
なんであたしは、真名を預ける気になったんだろう……
「……いいのか? 俺なんかに預けて」
「うーん……そうだな。信頼の証、と取ってもらっていいよ。あたしの真名にかけてさっきの言葉に偽りがないことを誓う。あたしの真名は『翠』だ」
「……わかった。君の真名、確かに預かった。俺に真名はないから『盾二』と呼んでくれ。それが俺の真名みたいなもんだ」
「わかったよ、盾二」
そういった北郷……盾二は、微笑みながら桃香の頭を撫でている。
あ。
そのときに解った。
似ているんだ。
あたしの前で馬岱――蒲公英の頭を撫でていた、今は亡き父様の姿に。
あの大きな背中に。
「そっか……うん。そうなんだ」
「?」
盾二があたしの言葉に首をかしげる。
ふふ……そっかそっか。
そっかあ……ふふふ。
「よろしくな、盾二!」
「ああ。よろしくな、翠」
―― 関羽 side ――
ご主人様から官軍と合流することを告げられた翌日。
私たちは、合流して来た官軍の部隊と面会していた。
「うちは董卓軍配下の張遼ってもんや。この部隊の指揮官はおるか?」
「あ、はい……ご案内します」
妙な訛りのある言葉だが、悪い方言ではないな。
それより……さらしに臍出しとは、少し目のやり場に困る服装だが。
私は張遼とおっしゃった官軍の武将を天幕へと案内することにした。
「ところで……アンタ、もしかして関雲長といわへん?」
「は? あ、はい……そうですが」
「やっぱり~!? も~うち、めっちゃアンタに会いたかってん!」
いきなり猫なで声を出して抱きついてくる張遼どの。
な、なななななな!?
「あ、あの、え? ど、どこかでお会いしたことが……?」
「あ、あ~ごめんなぁ。会ったことはないねんけど、アンタの噂はようしっておるで。幽州の青龍刀で美髪公……あんまりに戦う姿が美しすぎて、賊が見惚れている間に鬼神の如く首を刎ねる。も~な、も~むっちゃすっきやねん!」
「いや、あの、ええ!? わ、私は美髪公なんて言われているんですか?」
「なんやアンタ。自分の噂、知らんのかいな。そりゃも~大変な噂やで!」
「そ、そうですか……あ、はは。はぁ……」
うう……私は、そんな噂になるほどの人間ではないはずなのだが。
確かにご主人様や桃香様と出会う前に、いろんなところの賊を倒して武侠を誇っていたが……
今となっては……あれは匹夫の勇だった、と反省するぐらいなのに。
「ほれほれ、見てみぃ。この飛龍偃月刀! あんさんの噂を聞いて、似たようなの鍛冶に作らせたんやで! も~ほんま、お気に入りの一品やわ~♪」
「そ、それは……どうも」
う、ううむ……いかん。
これは……恥ずかしい!
「な、な! あんさんの持ってるそれが、噂の青龍偃月刀なんやろ! 頼む! 頼むで~見せたってぇな! この通り!」
「いや、は、はい……ど、どうぞ」
抱きつかれ、さらしに巻かれた豊満な胸を押し付けられ、あまりのはしゃぎっぷりに、つい……了承してしまった。
しかたないので愛刀の青龍偃月刀を、張遼どのに渡す。
「ほえ~……なるほど。重さはやっぱこっちの方が上やなぁ……切れ味もかなりよさそうやし……ううん。よし、決めた!」
張遼どのがしばらく逡巡した後、愛刀を返しながら叫んだ。
「ほんまあんがとな! やっぱもうちょい切れ味鋭くさせて、重さもあげよ! 帰ったら早速鍛冶に頼まんとあかんな! いや~楽しみになってきたわ!」
「い、いえ……」
張遼どのの陽気な様子に終始圧倒される。
悪い人ではない。悪い人ではないのだろうが……
「はにゃ? 愛紗、だれなのだ?」
ご主人様がいる天幕の前には鈴々が立っていた。
歩哨のつもりだろうか?
「官軍の張遼どのだ。ご主人様と桃香様にご面会なさるそうだ」
「わかったのだ。お兄ちゃん~お姉ちゃん~お客さんなのだ~!」
鈴々……お客さんはやめろ。
私は天幕の中に入っていく鈴々にため息をつく。
「すみません、張遼どの……」
「あはは。気にせんでええよ。元気な子やねぇ。でも、なかなか強そうや」
張遼どの……意外と抜け目がない方のようだ。
そう思っていると鈴々が再び出てくる。
「どうぞなのだ。中には馬超のお姉ちゃんもいるのだ」
「おー、あんがとな。んじゃ、失礼すんで」
張遼どのが天幕へと入っていく。
私もそれに続いた。
中には、まだ布団から起き上がれない馬超どのが上体だけ起こして座っておられる。
その横に桃香様、ご主人様、朱里と雛里が控えていた。
「おー孟起。無事でよかったわぁ。さすがに反対方向に向かってたとは気付かんで、えらいすまんかったなぁ」
「いや……あたしこそ迷惑をかけた。文遠どのにはご足労かけて申し訳ない」
「いやいや……あの華雄のバカのせいやし、気にしぃな。ほんま、無事でよかったで」
「ああ……こちらの義勇軍に助けられたんだ」
そういって馬超どのが、桃香様とご主人様へと視線を向ける。
張遼どのはそれを見て、胸の前で掌と拳を合わせて礼をする。
「うちは、姓は張、名は遼、字は文遠や。董卓軍の武将で、今回の黄巾討伐部隊で指揮しとるもんや。馬超を救ってくれて、ほんまにありがとう。で、えーと……指揮官はどちらさん?」
「えっ……と」
「彼女です」
逡巡する桃香様に、ご主人様が一歩下がる。
ふむ……確かに盟主となるならば桃香様ではあるが。
だが、主導権をとるならご主人様が、挨拶なさったほうがいいのではないだろうか?
「あ……はい。私は、姓は劉、名は備、字が玄徳と申します。翠ちゃん……馬超さんの事なら、気にしないでください。助けられる方を助けるのは当然のことですから」
「ほえ? なんやあんた……馬超の真名預かったんか?」
張遼どのは驚いた様子で、馬超どのを見やる。
馬超どのは、苦笑しつつ頷いた。
「うん。翠ちゃんはお友達になったよ。だってとってもいい子だもん」
「あっははははは! 西涼の錦馬超をいい子扱いかいな! あんさん、めっちゃおもろいわ~!」
「えへへ」
桃香様が微笑んでおられる。
桃香様……褒められているかどうかは微妙なところですよ。
「で、傷の具合はどうなん? 報告では、まだ動けないらしいとしか聞いてないんやけど」
「えーと……」
「ああ、それは私から」
ご主人様が前にでる。
「あんさんは?」
「初めまして文遠どの。自分は北郷盾二と申します」
「……ほお。では、あんさんが噂の天の御遣いかいな?」
む……?
張遼どのの目に剣呑な光が宿る。
「いえいえ。それはただの噂ですよ。私はただの義勇軍の軍師です。周囲がそう言っているだけでそんな証拠もなにもありません」
!?
ご主人様……?
ん?
なんだ朱里。
「(ぼそぼそ)愛紗さん、ここは何も言わずに盾二様にお任せください。絶対に否定も肯定もしちゃだめです」
「(ぼそぼそ)どういうことだ?」
「(ぼそぼそ)訳は後で……お願いします」
朱里が真剣な眼でこちらを見てくる。
ふむ……なにか考えがあるということか?
「噂ねぇ……しかしこの義勇軍は天の御遣いの率いる義勇軍、そういうことらしいやないの」
「なに……私はそんなことを一言も言った覚えがありません。周囲がそう言い、噂が先行しているだけです。正直私も困っていましてね……」
「ふうん。あくまでも自分は天の御遣いなどというものではないと?」
「天は常に一つ。なれば天子様以外には天はありませんよ。そもそも官軍ともあろう方が、噂や占い師程度の醜聞をお信じになさるので?」
「ふむ……」
張遼どのは、胡乱気な眼でご主人様を見ている。
「馬超。その辺どうなんや?」
「あ? あたしか? うーん……盾二に助けてもらったけど、別段天の力なんて使ってないし。周りの兵が勝手に言っているだけみたいだったぞ」
……ほう。
確か、馬超どのはご主人様のあの力を見ておられたはず。
馬超どのは……もしかしてご主人様を庇っておられるのか?
「そうなんか?」
「ああ。この義勇軍にいる兵はみんな黄巾の連中に家族を殺されたり、邑を滅ぼされたりした連中らしいし……たぶん朝廷を信じられなくなっているんじゃないのかな。だからきっと盾二を慕う連中がそうあってほしいって、言い出したんじゃないか?」
「……ふむ」
「あたしら官軍が黄巾に負け続けているし……そう思われてもしょうがないってのは、あたしにもわかるよ。情けないけどさ……」
「あ~……それ言われると、うちもつらいわぁ」
張遼どのは、苦虫を噛みつぶしたように顔をゆがめる。
「まあ、だからさ。ここは普通の義勇軍だよ。別に漢に反旗を翻している集団って訳じゃないさ」
!?
そ、そうか……
天の御遣い。天子様。
『二天、共に抱かず』……なんてことだ。
官軍と一緒になれば功績が認められると単純に思っていた。
だが実際は違う。
私たちは勘違いをしていたということか。
ご主人様を危険な目にあわせようとしていたとは……
「ふむ……」
張遼どのは思案気にご主人様を見ておられる。
報告するべきか迷っている、そんな感じだ。
「なあ、文遠どの。あたしはこの義勇軍に助けられた。そして……あたしを護って死んでいった仲間を、西涼のみんなを弔ってくれたんだ。あたしは、みんなの誇りを護ってくれたこの義勇軍に感謝してるんだ。頼むよ……」
馬超どのが、張遼どのに頭を下げている。
馬超どの……
「ふふ。あの馬孟起に頭を下げさせるとは……気に入ったで!」
張遼どのが快活に笑った。
「安心しぃ! あんたらは立派な義勇軍や! 天の御遣いなんて怪しいもんなんぞおらん! ここにいるのは、漢のために命すら投げ出す民の鏡しかおらへんのや! このことはうちの真名にかけて誓こうたる!」
「文遠どの……」
「霞や、孟起。あんさんにその真名、預けるで」
「あ、ああ! ありがとう! あたしは翠だ!」
ふたりはがっちり手を握り合った。
「そういうこっちゃ! 翠に感謝しいよ、あんたら」
「ええ。それは重々に。ありがとうございます。孟起どの」
ご主人様が深々と礼をする。
それに対して顔を真っ赤になりながら手をぶんぶんと振る馬超どの。
「よ、よせよ、盾二! あんたにも真名を預けたんだ。そんな堅苦しい言い方しないでくれよ!」
「なんや、あんさん。あんさんも翠の真名を預かっとんのかいな! それをはよ言いなや!」
「はは……恐れ多いことですが」
「そっかぁ……うん! ええで! 翠に認められたあんさんらや! うちの大好きな関羽もいる! みんなに真名を預けるで!」
張遼殿が笑顔で叫ぶ。
それに最初に乗っかったのは……やはり桃香様だった。
「ほんと!? あ、じゃあじゃあ! 私は桃香って言います! よろしくね、霞さん!」
「鈴々は鈴々というのだ! 馬超のお姉ちゃんも張遼のお姉ちゃんにも預けるのだ!」
「わ、私は……愛紗といいます。馬超どの、張遼どの。あなた方の恩義に感謝いたします」
「も~なんやなんや、愛紗ぁ! ちゃんと霞って呼んでぇな! 皆に預けたんやで!」
「ああ、私の真名の『翠』もここにいるみんなに預けるよ。孔明に鳳統もよろしくな」
「わ、わたしゅは朱里っていいましゅ! わたしゅもあじゅけましゅ!」
「わ、わたしも雛里っていいましゅ……あう」
「あーうん。俺は真名がないから……盾二って呼んでください。霞どの」
「なに言うてんねん、盾二! そんなですます調はいらん! 霞でええ! ほれ、言うてみぃ!」
「あ、ああ……し、霞。よろしくな」
こうして――
何故か真名交換会のような状況となり。
そのまま宴会へと話が進んでいったのでした……
後書き
今回は別のPCからアップしてますが、新しい話が書けなくて困ってます。
どうしよ……
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