魔法少女リリカルなのはA's The Awakening
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第六話
前書き
「ハーメルン」でゆきだるま氏が連載中の作品「魔法少女リリカルなのは エアスト」より、とある方に出張していただいております。氏に、感謝。
嵐のような激しい雨が降る夜のこと。とある都市の廃ビルの一室にて、二人の男が対峙している。時折雷が響いており、目を覆いたくなるほど強烈な光と共に耳をつんざく轟音を撒き散らす。
「ば、化物ッ……!?」
「おいおいおいおい、第一声がそれとはご挨拶だな。まぁ否定はしねぇけど」
机も椅子も一つもないその周囲には、黒服を着た無数の男達が倒れていた。立っている一人はなかなかの高身長かつ筋骨隆々としており、風景画が書かれた白いTシャツに青のダメージジーンズ姿で赤褐色の短髪を持つワイルドな青年。もう一人は病的なほどの青白い肌を黒いスーツに包んだ、黒い長髪の不気味な男。
「さぁて、お前らがなんでここでこんなことをしてるか、と聞くのが定番なんだろうが……あいにくと俺は暇じゃないし、そんなことに興味はない」
「じゃ、じゃあ何が望みだよ……?」
いきなり定番のセリフをぶった切る青年。震える男に左手を伸ばすと、ドスを効かせた声で尋問するかのように尋ねた。
「お前が持ってるはずの例のブツだ。さっさとよこせばすぐ楽にしてやる」
「は……?なんのことだよ……?」
「とぼけても無駄だ。答えないなら殺して探すだけだからな。ここにあるのは調べが付いてるんだぜ?取引のブツと金置いて消えな」
そう言って青年は血が滴る右拳を握り込む。どうやらここに倒れている男たちは例外なく死んでいるようだ。それもこの青年一人の手によって。
「いや、だから、本当に何のことかわからねぇんだけど……」
「……お前、本当にここの組織にいる人間なのか?」
「最近入ったばっかで、何も知らねぇんだ……」
「ふぅん……まぁいいや」
その言葉に安心した男だが、青年が言ったのは違う意味だった。青年は右拳を上げて続きを言い放つ。応答など必要としないただの独り言のように。いや、実際独り言なのかも知れない。
「お前から答えが得られないなら、この場で殺して探すだけだからな」
「ま、待ってくれ、話を……」
「何も知らないんだろ?なら話は終わりだ。お前もこいつらと仲良く召されちまいな」
「た、頼む、やめてくれ……金ならここにあるからァッ!」
「あばよ。先に地獄で待ってろ」
青年の拳が男の腹を貫くと、男の声なき叫びが響く。しかし青年は気にすることなく拳を振り回して男を吹き飛ばした。その後転がっていた死体を探ってハンカチで手を拭うとその場で捨てる。ブランドもののようにも見えたが、彼は興味がないらしい。
「さてグロウル、言いたいことはわかるな?」
「ああ。最後の反応はこの建物の最上階だ」
「バカとなんとかは高いところが好きってのはよく聞くが、本当の話なのかねぇ。手早く殺して連絡するか。どうせ隠して素直に渡しはしねぇだろうしな」
軽口を叩きながらビルの中を進んで行く青年。彼一人しかいないのにもう一人の声が響くのは、グロウルと呼ばれた青年の腕に付けられている銀の腕輪からだろうか。
「……この部屋か?」
「ああ。旦那、気をつけろ。何人か中にまだいやがるぞ」
「わかるわそれくらい。いかにも殺り甲斐のある奴らが揃っていそうな空気がプンプンしてやがる」
獰猛な笑顔を浮かべる青年。まるでこれから始まるショーが楽しみで仕方ない少年のようだ。そしてその瞳に宿った殺意は周囲の温度を凍りつかせるほど。
「全く……まぁ今回はこんなことに手を突っ込んだ向こうが悪いってことで」
「そもそも俺の休暇を邪魔しやがった時点で奴らは地獄への片道切符を握っちまったんだよ。まぁその点は運が悪いっちゃ運が悪いか」
青年が目的の部屋に到着すると、扉の向こう側から殺気を感じて獰猛な笑みを浮かべている。まるで獲物を見つけた肉食獣のような、とでも言うべきか。青年がグロウルに命じて内部の簡易調査をさせる。
「中には三人。どれも推定ランクAA相当の指名手配犯だ。楽しめるかもな、旦那」
「ランクだけじゃ話にならんがな……んじゃま、そろそろお邪魔しますか、ねっと!」
そしてドアを蹴破り、すぐに身を翻す。同時に扉に向けて無数の銃弾が外に降り注ぐ豪雨のごとく放たれた。コンマ一秒、まさに刹那の見切り。一瞬、それこそワンテンポでも遅れれば蜂の巣は逃れられなかったことだろう。
「ヒュゥ、お約束だよなぁこれは!」
「その通り。んで銃弾がやんだところで飛び込んでやれば……うぐっ!?」
青年が部屋に踏み込んだその瞬間、蜂の巣となって倒れた。男たちは軽機関銃やハンドガンなどで武装しており、まるでその姿はシューティングゲームの特殊部隊かのごとく。
「やったか!?」
「いくらあの男でも人間だぜ?殺人兵器で殺せねぇわけがねぇんだよ!」
などと口々に喚くが、気を締め直して恐る恐る近づいていく。しかしその瞬間、その青年は大きく足を揚げて前転し、そのまま立ち上がると、一瞬の内に一人の首を掴んで持ち上ると、そのまま軋ませる。
「な……こいつ、何者だよ!?」
「撃て、撃て、撃てェェェェェェエエエエエエエエエエ!」
後ろから撃たれて血が飛び散っているにも関わらず、青年は全く動じた様子もなく首を握力だけで折って投げ飛ばす。彼が嗜虐的な笑みを浮かべて男たちの方を向くと、彼らは恐怖のあまりトリガーを引きっぱなしにしており、いつの間にかマガジンが空になっていることにも気づけない。そして青年の周囲には、彼らが叩き込んだはずの弾丸が無数に転がっていた。
「う、う、うわぁ……ば、バケモンかよこいつ……」
「そりゃ今年でいくつになるかわからん公称24歳ですけど?」
「うるせぇ!さっさとマガジン変えやがれお前ら!」
拳と首をボキボキと鳴らし、少し体に力を入れてまだ体内に残っていた弾丸をはじき出す。男たちに当たることはなかったものの、血まみれでありながら傷はないというそれはまさに、ホラー映画か何かのようだった。
「お前ら、そこまで歓迎してくれたんならこっちからもお礼をせねばなるまいなぁ?」
その後、青年は台風の目となる。男たちの野太い断末魔の悲鳴が響き渡るが、それがやむまでの時間はそれほどかからなかった。
青年は男の腹部を貫いた拳を払って落とすと、退屈そうに、吐き捨てるようにつぶやいた。
「チッ、シケてやがる」
「そりゃ旦那がチートすぎるからでしょ」
「砕くぞお前」
「ちょ、やめてやめてマジ洒落にならないからやめて!」
嵐が去った後は、凄惨な痕跡しか残っていなかった。血を流して転がる生首、内臓が露出していて下半身をちぎられた胴体。繋がっていても腹部や胸部を大きく抉られ、心臓が放り出され握りつぶされた残骸が散乱しており、まさに血腥い風景といっても過言ではない。しかし青年は全く気にした様子もなく、彼らの服や所持物を乱暴に調べていく。そんな中、小さなアタッシュケースを見つけると、すぐさまグロウルに探査をかけさせる。
「これで間違いないか?」
「ちょっと待ってくれ旦那……OK、これだ。後はこいつを持って帰るだけだな」
「やれやれ、こんなもののために俺を駆り出すとはな」
まるでスポーツでもした後かのごとく、運動後のストレッチで体をほぐす青年。返り血で全身が赤く染まっており、その姿はまさにヒットマン。
「だな……ん?旦那、緊急回線が来てるぜ」
「あぁ?まぁいいや。誰から?」
「お偉いさんからだ。つなぐぜ」
「ああ」
すると青年が腕輪を出して右手で握ると、眼前に立体映像が映し出された。立派なヒゲを蓄えた、白髪混じりの黒髪をオールバックにした壮年の男性だ。
「ご苦労だった」
「余計な挨拶はいい」
「まぁそう言うな。すぐにそっちに本局からの捜査チームが来る。彼らが来るまでは厳戒態勢を解かないように頼む」
「じゃあそいつらが来たらこいつを渡して帰っていいんだな?」
この青年、年上でおそらく上司であろう人間に対しても物怖じしておらず、横柄な態度を崩さない。
「ああ。本局への転送ポートも用意させよう。で、今回は何人殺した?」
「皆殺しだ。後腐れ残すのも面倒くせぇし、休暇潰してくれた腹いせも含めてな」
クックックと、喉を鳴らすように低く笑う青年を見て、男は呆れたようにため息をついた。
「やれやれ、文句は言う割りに仕事はマジメにするからタチが悪い」
「金のためならなんでもやるぜ俺は」
「……まぁ今回の任務は扱うモノがモノであったから殺すのは勝手だが、またお前の始末書が増えるぞ」
「面倒な仕事から逃げる口実ができるんだ。むしろありがたいわ」
「お前のそういうところは昔から変わらんな」
「何年の付き合いだと思ってんだよオッサン。それにジジイにもならねぇうちからもうろくされちゃ困るぜ」
クククとのどを鳴らして笑う青年。どうやら、青年とこの男性の付き合いは長いらしい。とすると青年のこの態度もある意味納得といえば納得ではある。
「全く、そんなんだからお前は『殺人警察』というレッテルが剥がれないんだろうが」
「結構なことじゃねぇか。知ってる奴は大人しくなって仕事が楽になるし、知らない奴が粋がってるなら合法的に殴れるし殺せる」
「……誰がこんなイカれた男に教育したんだろうな」
「それこそ今更だろうがよ、オッサン」
「まぁいい。後のことは調査チームに任せて、お前はそこで厳戒態勢だ」
「はいはい了解了解」
そして青年は通信を切り、グロウルを再びはめなおす。
「こいつらも連中の一部なんだよな。えらく大したことなかったが」
「もしかしたらただの雇われなのかも知れんぜ」
「だとしたらますます情けねぇな。こんな若造一人止められねぇなんて知れたら、奴らのメンツ丸つぶれだしよ」
「旦那を若造って言ったら今生きてる奴ら全員赤ん坊になるぜ」
「おっと、そいつはいけねぇ。いい女といい酒を作る奴を赤ん坊呼ばわりはな」
「旦那、いっつもそれじゃね?」
「俺の楽しみはいつだって酒金女だ……ん?何か来たぞ」
「本局の調査部隊……じゃねぇな。何だ『コレ』は?」
「さぁな。なんにせよ、面白いことになりそうだ」
そして彼らの足元に現れたのは、術式不明の魔法陣。
「ちょ、旦那、これ転移式だぜ!?逃げないと……」
「手遅れだ。既に俺の周囲に包囲陣まで敷かれてる。まぁ転移先があの世じゃなけりゃ帰って来れるだろうな」
「落ち着いてる場合かよ!?」
「ジタバタしたってしょうがねぇだろ……行くぞ。意識を飛ばすなよ」
そしてその魔法陣が放った光が収まった時、そこには何一つ存在してはいなかった……
ところ変わって海鳴市。夏の音楽フェスを控えたある日の深夜のこと。この日の竜二とアスカは地元でできた友人達と共に、昼から時間を忘れてセッションしていた。遅くなることははやて達に既に伝えてはいたとか。そんな彼らは今、ギターを担いでバイクにまたがっている。
「いやー楽しかった。やっぱ俺またバンドやりたいわ」
「でしょうねぇ……すんごく嬉しそうに演奏してらっしゃいましたし」
「あかんわぁ、何回かマジでブッ飛びそうになった。出たらあかんもんまで出てまいそうやったもん」
「もんって……」
「そんだけ楽しかったってこっちゃ」
「まぁ気持ちは分かりますけどね。はしゃぐ主も可愛かった……」
「なんでそこで顔赤くすんのお前?」
そこにいた友人の一人が、しっかりとした防音設備を施した自前のスタジオを持っていたのだから、延々弾き続けていてもまぁ無理はない、という奴だろう。そのまま余韻に浸りながら帰れると思った矢先、アスカが何かに気づいたのか、表情を引き締める。それに気づいたのか、竜二も気を張り詰めた。
「我が主、ご注意ください」
「何や?」
「正体不明の魔力反応が3つほど、まっすぐこちらに向かっております。全員魔力ランクはAA+~AAA-程度、おそらくすでにこちらのことを知っているかと思われます。また少し離れた位置に魔力ランクSオーバーが一人」
「おいおい、なんや一体?新手の武装勢力でも出てきよったんか?」
「……よくわかりませんし、とりあえずそういうことにしておきましょう。どうします?」
「逃げ切れる確立は?」
「おそらく0に近いと思われますが……そもそも主、この状況で逃げるつもりなどあるのです?」
「ハナッからないわそんなもん。アスカ!」
「了解!」
バイクを適当なところに止めてユニゾンすると、すぐさまアサルトモードを展開して迎撃の準備をする。
「八神竜二だな?」
そこに現れたのは、若い男が二人に女が一人。全員すでに杖のようなデバイスを構えており、臨戦態勢という雰囲気である。
「だとしたら?」
「各自、状況開始!確実に仕留めろ!」
「了解!」
すると、一人の男がいきなり魔力弾を放った。
「ちょ、いきなりかいな!?」
さすがにこれには竜二も驚くが、それでも冷静にブーストジャンプでかわす。三対一、普通に考えれば竜二が不利。その三人が同時に、三方向から飛び掛る。
「問答無用ってか、ええ度胸しとるやないけ!暴れるでコラァッ!」
しかし竜二はこの状況を楽しんででもいるのか、獰猛な笑みを浮かべて機関銃を抜き、正面180℃の範囲に魔力弾による弾幕を張ると、バックステップで下がる。そしてすぐさま大剣に持ち替えると、今の弾幕でひるんだ三人のうち、9時方向の男を迎撃に向かう。
「ィイヤッハァァアア!」
背面部のブースターを起動させることなく一瞬で距離をつめると、その推進力に任せて剣を振るう。相手もあわてて杖で防ぎ、下がって距離をとろうとした。
しかし、その瞬間を見逃す竜二ではない。すぐさま左手を離して機関銃を構え、下がったところに魔力弾の連射。男は不意を打たれて焦ったようだが、そこはさすがに訓練されていたらしく、飛行魔法で高く飛び上がり、大きく離れてかわす。
だがそこには、いつの間に誰がしかけたのか、空中機雷が浮いていた。離れる暇も取らせずに爆発し、その男が倒れる。
「何だとッ!?」
「大当たりってなこのことか?ほな次!」
まぁ誰が仕掛けたと言ったところで、そんなことをするのはこの場では竜二しかいないだろう。ブースターを断続的に噴射していくことで、空中からしかける男の魔法攻撃を紙一重でかわしながら接近していく竜二。
「クソッ、サルみてぇにすばしっこい奴が!」
「当ててみろこの芋野郎!」
これくらいのドッグファイトに対応するだけなら、さまざまなゲームでイメージトレーニングだけは欠かさなかった彼には造作もない。今の彼は全身がデバイスのような状態のせいか、思考がダイレクトに動きに出る上、背中と脚部に装備されている魔力ブースターのおかげで、多少無理やりな機動でもできてしまう。
しかし、このままではジリ貧でもある。叩き落した一人だっていつ戻るかわからない上、女が別方向から援護射撃を断続的に行ってきている。
「流石にかなり鬱陶しくなってきたな……もう一人がダメージ治して上がってきたらさらに面倒になる。アスカ、フルファイアモード行けるか?」
『いけます。装甲率40%アップ。機動力がその分落ちますが……』
「上等。突っ込んできたところを貫いたらァ!」
『了解!モード変更!』
そして竜二の全身が一瞬で変化し、先程より重厚感のあるスタイルになった。
「な、なんだ今のは……」
「驚いてる暇なんかあるんか?行くで!」
左腕に装備された突起のようなものに魔力をチャージしていくと同時に、重機関銃で前方に弾幕を張る。だが弾数が多いだけで直線状に飛んでいくだけの魔力弾をかわすだけなら誰でもできる。問題なのはかわす方向に何があるのか、だろう。
「馬鹿!こっちにくるな!」
「え!?」
竜二は二人まとめて吹っ飛ばすためか、まだ残っていた女の方に誘導していた。そして念には念をということなのか、彼らに向けてスタングレネードを投げる。
「クソッ、流石にやるな……要注意人物と本部から告げられただけはある!」
「お前ら何モンや一体?名前くらいは聞かせろやオイ。そっちが一方的に知ってるってのはいささか卑怯やあらへんか?」
「悪いが、ここで死んでもらう人間に名乗る名前はない」
「殺し確定やと?ますます怪しいなぁ……まぁええわ、ふん縛って吐かせたる!」
しゃべっている間にプラズマカノンに持ち替えて発射した。本来なら実弾兵器に比べて着弾までに時間がかかるが、この状態ではどんな武器でも魔力弾を発射しているようなものなのであまり問題はなかったりする。
「クソッ、叩き落す!」
「そんな暇やるかっつぅねんダボハゼが!」
男達の周りに魔力弾が展開されるが、それらを接近しながら重機関銃で迎撃していく竜二。それがなくなれば本人達に向けて乱射する。
「まずい!散開!」
「遅い!ガトリング!」
そして重機関銃が光に包まれると、十二砲塔のガトリングが出現。空中であっても反動など物ともしないかと言わんばかりに撃ちまくる。先程より明らかに多い弾幕に、かわしきれず数発当たっている。
「クッ、5発ほど被弾したか……」
「あんだけばら撒いたのに5発ですんでよかったやないけ」
「なっ!?いつの間に!?」
「お前が遅いねん!覚悟さらせ芋野郎!」
いつの間についたのか、男の後ろに竜二がいた。彼はそのまま左腕を引き、パイクに魔力をチャージ。しかし男は表情を緩ませると得意げに語りだした。
「貴様、私がこの状態で何も策を練っていないなどと思っているのか?」
「知らんわそんなん。あるならはよせいや。それごとブチ抜いたるから」
「なら、覚悟!」
男が杖を振るうと、竜二の周囲にバインドと呼ばれる拘束魔法が展開された。また竜二の背中部分には、人一人分くらいの大きさの十字架が出現。
「締め上げろ!」
「グッ……!?」
そのまま竜二は締め上げられ、十字架に叩きつけられると、腹部と両腕両足を磔にされてしまった。またそのせいか、せっかく展開していた魔力も分散させられてしまう。そのさまはまるで、キリストの磔に見える。かろうじて未だバリアジャケットは解除されていないが、それも時間の問題だろう。
「さぁ覚悟しろ。その状態では逃げられまい。」
「クッ……クックククク……」
男は杖の先に魔力をチャージし始め、足元に魔方陣を展開させる。また別方向から、女も竜二に杖を向けている。その上二人とも詠唱までスタートし、まさに絶体絶命のピンチ。
しかしそんな状況でも、竜二は笑っている。
「この程度で『策』……ねぇ。笑わずにはおれんわ。お粗末すぎるでしかし。なのはちゃんやフェイトちゃんでももうちょい考えとったで」
似たような状況には訓練時に至ったことがある。しかしそれは、長年戦場に身を置いてきたベルカの騎士であるシグナムとザフィーラが相手であったり、最近自らの長所をしっかりと確立させることでさらに力を伸ばしてきているなのはとフェイトを同時に相手したときであり、彼女たちに比べればお粗末といわれても仕方ない。
「こんなもんな、バインドかけた瞬間にブン殴って意識飛ばしてから詠唱するもんや。こちとら現地人で、確かに正式な戦闘訓練なんか受けてへんけど、馬鹿にすんのも大概にせいやっちゅうねん!」
しかし二人は詠唱に集中しているから全く聞いていない。そこに集められた魔力はなるほど、食らえば一撃で竜二の意識を刈り取るくらいはできる程度はある。だが、それだけだった。
「アスカ、耐えられるか?」
『お忘れですか?私の最大魔力はSSSオーバー。あなたのリンカーコアの魔力をバーストさせたところで、十分戦闘継続が可能です』
「了解。派手に行くで!」
『それでこそ主です!セルフリミッター解除!』
だが、竜二に言わせれば何もかもが遅い。かなり遅い。とてつもなく遅い。本来こういう砲台は、接近戦を仕掛けられる突撃屋がいてこそ役に立つものだ。もしかすると最初に撃墜された男がその役目だったのかもしれないが、戦場では何が起こるかわからない以上、最低限継戦可能な能力は持っておくべきと言えるだろう。
「行くでェェェェ……フル、バーストォォォォォォォォォ!」
「な、何!?うわっ!」
「クッ、一旦退避!」
「了解!」
高らかに上げた雄たけびと同時に彼の魔力が暴走でも起こしたか、竜二から周囲に向けて爆発が発生した。その余波で、先程のスタングレネードなど比較にならない光が発生。二人はひるんで、距離を置こうとする……が、その瞬間。
「待てやコラァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!」
「何!?ぐわっ!」
「アレス!?がはっ!」
ソードマスターモードに変更した竜二がブースター全開で急接近する。彼が二人の間を駆け抜け、一瞬のうちに抜刀して振りぬいた。そして刀を鞘に納めた瞬間、二人とも墜落する。
「八神流抜刀術、『刹那』。烈火の騎士にすら一撃を負わせたこの技が、貴様らに効かぬ道理はない……」
などと竜二がかっこつけていると、またもやアスカからのツッコミが入る。
『以前と似たようなツッコミになりますけど、八神流なんてありませんが』
『お前なぁ……技決めて気分ええねんぞ今。空気読めやマジファッキン』
『果たして今、余韻に浸るほどの暇があるんでしょうかねぇ……』
『こいつかわいくねぇな全く……』
『そんな、昨夜ベッドの上ではあんなに……』
「またそれかああああああああああああああああああああ!」
甚だしくはた迷惑な絶叫を上げる竜二であった。
何はともあれ、とりあえず局員三人を撃退した竜二。そのまま着陸して一件落着……かと思いきやそうは問屋がおろさない。物陰から男が一人出てきたからだ。
「お見事。古代ベルカの遺産を、あいつら以外にここまで使いこなせる者が管理局員の中で未だにいるとは正直思ってなかった」
「……何しにきたんや、お前」
そこに現れたのは、赤褐色の髪を持つ青年だった。黒のレザージャケットに青のダメージジーンズ、黒のブーツという出で立ち。竜二達にとっては突然現れたに等しいため警戒を解かない。誰何するより先に目的を聞くあたりからもそれが出ているといえるだろう。それに対して青年は微笑みを浮かべたまま答える。
「何しに来たかと問われれば俺もお前さんにそのまま返したいが、正直なところ俺もわからない」
「ハァ?」
「突発的な空間転移魔法に巻き込まれたクチでね。まぁトラップか何かだと思うが。今は本来の座標軸を検索しているところだ」
「……お、おぅ……そうかい……」
しかし突然そんな話をされれば竜二でなくともなんと返せばいいかとあっけにとられるのも無理はない。
「そんな哀れんだ目で見るな。よくあることだ」
「どんな人生送ってきたんやお前さん……まぁ、只者じゃないんは、全身から立ち上る血腥さでわかるけどな」
「ほう、そんなに臭うか?俺はもうそういうのを感じなくなってね」
「その若さでそれって人間としてどうなん?」
「さぁな。だが少なくともお前さんよりは長生きしてるぜ」
そう言って笑い合う二人だが、腹の探り合いのような部分がどこかにある分、控えめな話題を続けている。
「さて、そろそろ適当に宿を探さんとな。どこかにいい宿泊施設があれば教えてくれないか?」
「この時間でも受け付けてくれるところやと、市街に出な流石にないな。そこまで連れて行こか?」
「いや、それはいい。簡単に説明してくれ」
「そうか?まぁ市街方面なら、ここから……」
そして道案内をしている竜二と、メモを取りながら聞く青年。それをすませると竜二への礼もそこそこに、足早に歩いて行った。
「何モンやアイツ……」
『不明です。ですが、おそらく私たちには想像もできないような死線をくぐってきたことは確かです。でなければあれほど血腥い殺気が放たれっぱなしでは……流石に主を狙ってきたものではないので、特に何も言いませんでしたが』
「すごかったもんなぁ迫力……そういや俺を管理局員と勘違いしてやがったな。ってことはあいつも局員か……」
『主……?』
「まぁええか。今日はとりあえず帰って寝よ」
『おや、今夜はシてくれないんですか?』
「するかボケ。流石にしんどいんじゃ」
『ブーブー!こんな可愛いお嫁さんが傍にいるのに!』
「黙れ今日はとっとと寝るんや俺は」
そして竜二はユニゾンを解除してバイクにまたがると、アスカを後ろに乗せて爆音を轟かせながら夜の帳へと消えていった。
「見つかったか?」
「いや、まだだ。次元はおろか時間軸すら違うところだから少しかかる」
「そうかい。しかしまさか、あのタイプのロストロギアとは思ってなかったな」
「いきなり飛ばされたもんな……結局アタッシュケースもどっか行っちまって、また探さんといけねぇし」
「たぶんこの世界のどこかだと思うぜ。そっちの探索も頼むぞ」
「あいよ旦那」
そう言うと青年は繁華街を歩いて行く。
「しかしさっきの兄ちゃんが連れてた女、なかなか抱き心地がよさそうだったな」
「もといた時間軸でベルカの女にあんなのいたかい?」
「さぁな。いたかも知れんしいなかったかも知れん。まぁそんなことはどうでもいいがな。いつか抱く」
「相変わらずだな旦那」
「さっきも言ったが、酒、金、女が俺の楽しみなんでな。じゃぁまぁとりあえずこっちで過ごす金を稼がせてもらうか……」
そして青年はとある雀荘へと入っていった。そこでは朝になるまでに、客と店舗の資金が尽きて閉店状態に追い込まれたというが、真相は定かではない。
後書き
一応、氏が書かれてる正史の彼とは設定が若干違います。
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