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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第七話

 
前書き
 久々の連続投稿。 

 
 謎の集団と戦闘し、そして謎の男との邂逅を済ませた竜二は流石に疲労困憊なようで、バイクを降りてからの足取りは重かった。もはやその姿は、ハードワークから帰ってきたサラリーマンのごとく。

「ただいまー……」
「ああ、お帰りなさい竜二さん」

 そしてリビングのドアを開けた時に出迎えたのはシャマル。夜も遅いのに、いまだに起きている。確かにはやては今学校には通っていないが、そんなことなど関係なく早寝早起きを身上とする八神家でこれは一体どういうことなのだろうか。

「あれ?起きてたんか」
「ええ。今のうちにしておきたいお話があったから、みんなして二人を待ってたの」
「そうか、そりゃすまんかったな」

 竜二たちがリビングへと入ると、まだ明かりがついていた。すると奥から二人の騎士がやってくる。

「ただいま」
「ああ、おかえり。しかし待たせすぎだぞ」
「それはすまんかったな。せやけど用があるんなら連絡してけぇへんそっちも悪い」

 苦笑するザフィーラとシグナム。リビングにいたのは彼らだけで、ヴィータとはやては既に眠っているようだ。

「いやしたぞ。確か携帯にメールと留守電を入れておいたはずだ」
「え?マジで?……ホンマや、気づかんかった。スマン」
「まぁ、我々はプログラムだから問題はないがな」

 そして竜二はリビングのソファーにどさりと音を立てて荷物を放り出し、テーブルについて突っ伏す。本当に体力が限界に近いようで、ほうっておけば今にも眠りそうだ。

「とりあえず、お茶でも用意するか」
「あ、私が淹れてきますね」
「おう、頼む」

 アスカが帰ってきてすぐというのに台所に飛んでいった。まぁこの家の家事スキルの差、ということだろう。その場にいたアスカを除く全員が、普段食卓となるテーブルについた。そして真っ先にシグナムが口を開く。

「さて、兄殿もここにきてようやく我らとそこそこ戦えるようになってきたことだし、いよいよもって戦力も整ってきたと言っていいだろう。現状の確認と行こうか」
「せやな。ただ管理局はともかく、連中には俺らの動向、特に闇の書の頁に関してはバレてると判断したほうがええやろう」

 竜二はさらっと出したが、その一言にアスカを除く全員の顔が向いた。

「ちょっと待ってくれ兄上殿、連中とは一体何の話だ?」
「今日遅くなった理由になるんやけどな……」

 そして竜二は、つい先程起こった出来事を説明する。

「なるほど、管理局でもない第三の勢力、というわけか……」
「いやまぁ、全く管理局と関係ないと決め付けれるモンでもないけどな。もしかしたら上層部の中に、俺らのことで探り入れてる奴らがおるんかも知れんし」
「しかし、そんなことを言っていてはキリがないだろう。とりあえず今は無関係、少なくとも直接的な関わりはない、としておくべきだ」
「……まぁ、現状考えたらそれが妥当か。続けてくれ」

 竜二が引っ込んだところでシャマルが入ってくる。

「ねぇ、なのはちゃん達の力は、借りれないのかしら……?」
「管理局の連中にバラしたいのか?なのはちゃん達は頼めば手伝ってくれるやろうけど、間違いなくクロノ達がすっ飛んでくるぞ。もしあいつらの力を借りるのであれば、まずはやてに相談すべきやろ」

 しかし、その話は竜二が一言で即座に叩き斬り、補足説明を加える。管理局においてロストロギアと呼ばれるものの扱いがどうなのかは竜二達は詳しく知らないが、少し前に竜二が直人に聞いた話によると、以前この街でロストロギアに関する事件が起こったらしい。その時に彼ら時空管理局が出張ってきたということは、闇の書も星天の書もロストロギアと呼ばれる存在である以上、もし存在が発覚すれば彼らの追及は免れないということは容易に想像が可能である。そうなれば、時空管理局においてロストロギアは厳重管理が基本とされているため、ヴォルケンリッターは八神家から切り離されてしまうということにつながりかねない。

「そうだ。できることなら管理局に発覚するのは、せめて今回の計画が完了してからにしたい」
「なんでまたそんなことを?お前捕まる気か?」

 しかし、続いたシグナムの一言を竜二は追及した。それをシグナムは、どこか遠い目をして返す。

「……だとしても、もうこれ以上、身勝手な主のもとで無益な殺生はしたくないのだ。主はやての元で、これからもこうして平和に暮らせるのなら、このままでいたいのが私の本音だがな」
「……なるほどな。クズな主ばっかにあたったというべきか」
「人は、自らに御せぬ力を手にしたとき、恐怖するか増長するかのどちらかだ。我等を手にしてきた者達は、後者のほうが多かった。我らが見目麗しいと言って、体を求めてきた主もいたほどだ」
「確かにいい女といい男だよなお前ら。そんなのが自分に傅こうもんなら抱きたくなるのもわからんでもない」
「まさか竜二殿……?」
「俺はちゃうで。アスカがおるし」
「それはそれで少しさみしいものがあるな……」

 そういってシグナムは全員に向きなおすと肩をすくめて苦笑した。無限再生機能と転生機能、このどちらか一つでも破壊することができればそれは叶う。そしてそのどちらかとも破壊しようというのが、竜二達の今回の計画なのだ。それに頷いたのは竜二だった。

「シグナムに言わせてしまったが、我等の思いは同じだ」
「ごめんなさい、余計なことだったわね……」

 シグナムとザフィーラが同調したことで、シャマルは自分の発言を撤回した。するとそこに、人数分のティーカップをトレーに乗せてアスカが持ってくる。

「さぁみなさん、お疲れでしょうから一息入れてくださいね?」
「お、ありがとさん」
「出かけていた者にやらせてしまうとは、かたじけない」
「お気になさらず」

 竜二とシグナムが続く。案外この二人は仲がいいのかもしれないとひそかに八神家では噂になっているが、当の本人達はその話が出ると知らん顔をしている。続きを切り出したのは竜二であった。

「とにかく、管理局にばれないようにやるってことは、少なくともこの街じゃでけへんってことや。ここはまずはやてに相談せなあかんわな」
「そうだな……だがそれは主はやてが目覚めてからでいいだろう」
「まだ叩き起こす時間でもないし、まぁそれは後回しでもええやろう。当面の問題は管理局とクソ共か……」
「クソって……」

 言葉を選ばない竜二に流石に呆れるシャマルだが、竜二の口は止まらない。

「闇の書の存在を知った上で、こっちのことをろくすっぽ知らん連中がしゃしゃり出て来るなんざ、その力を知ってて悪用しようとしてる連中に違いあらへん。これがクソでなくてなんやっちゅうねん。闇の書の最後の主をはやてにするために、闇の書の忌むべき歴史を終わらせるために俺らは今こうして頑張ってんやからな」

 いささか興奮しがちではあったが、この竜二の言葉に全員が同調した。長い間戦い続けた騎士たる彼らとて、願わくば平和に埋もれて死にたいものなのかも知れない。プログラムである守護騎士であっても、人の姿をとり、人の心がある。好きで戦いを続けているわけではないのは、竜二もアスカもはやてもここまで一緒に生活してきて十分理解している。

「さて、無限再生機能と転生機能に関してはアスカとはやてがどうにかする。その間俺らは、表に出てきている防衛プログラムの相手をする、と。筋書きはこれでええな?」
「構わないが竜二殿。アスカ殿がいなくても魔法戦闘は可能なのか?」

 ザフィーラが心配そうに言うが、竜二は心配ないと笑う。

「最近は少しずつそのための訓練もしてるんや。アスカがわざわざ魔力削ってアームドデバイス一つ作ってくれたし、今はそいつを使いこなそうと必死やでこっちも」
「新たなデバイスか……全く、少しくらい我々に情報をくれたっていいだろう?驚かせてばかりだと、いつか自分が心臓止められるほど驚かされるぞ」
「うっわー、やりそうな奴にメチャメチャ心当たりあるわー……あ、これがそのデバイスやでな」

 シグナムの呆れ声にそう返すと、竜二がズボンのベルトフックに提げられたキーホルダーのようなものを外し、テーブルの上に置いた。待機状態はぱっと見た感じ何かのお守りのようで、角を丸く削った正方形に歪んだラインがいくつも入っており、どこかの地方民族の雰囲気漂うものだった。

「もちろんアスカがおるときみたいにはまだ動かれへん。それでもないよりはマシや」
「ええ。でも大分滑らかに動けるようになりましたよね?まだ空戦は無理でも、最近になってマルチタスクをものにしましたし、すぐに戦えるようになりますよ」
「まぁ、もともと対戦ゲームとかやってりゃ複数の事項を同時処理せなあかんのは常識やからな。やりやすくはあったで」
「だからといってすんなりできるのが主の素晴らしいところですよねぇ」
「……こいつらは、全く……」

 すぐに二人の会話に浸る彼らに、再び呆れるシグナムであった。ちなみにマルチタスクとは、魔法術式の並列処理技能のことである。この能力が高い魔導士は複数の魔法術式を展開できるという性質上、戦闘を主とする魔導士には必須のスキルと言えるだろう。

「こいつの名前はゼクス。ただ、こいつはちょっとアレで……ナックル型のデバイスやからブン殴るのがメインになるんやわ」
「自分の体の一部だから扱いは簡単かも知れないが、普段のお前の戦闘スタイルを考えるとリーチが短いのは辛くないか?」

 ザフィーラが食いついた。

「最初はそう思ったよ。でも貫通とか結界破壊とか、付けようと思えばいくらでも付加効果が付けれるのがメリットかねぇ」
「汚いな、シンプルなだけに。まさに単純な質量兵器じゃないか」
「せやろ?それに間合いはスピード次第でどうにでもなるし、もともとド突きあいは苦手やないし、ザフィーラのおかげで加速度的に強なってるしな」

 などと竜二がドヤ顔を晒していると、周囲が本人に聞こえるように色々喋っていた。

「確かに、魔法強化なしならザフィーラにも勝っちゃうもんねぇ……」
「今ではもう、それなしで竜二殿から技術で一本とるのは厳しいものがあるな」
「本当にこの人は人間かしら?」
「身体能力に関しては確かに普通の人間のはずなんですがねぇ、我が主は」
「こういうのを世の中ではチートって言うのかしら」
「オイコラお前ら好き勝手ほざくんも大概にせいや」

 シグナムのみ黙っていたが、これには流石の竜二もツッコまざるを得なかったようだった。しかしそこにアスカの追撃が来る。

「話題を反らした本人がそれ言います?」
「ですよねぇ」
「ぐぬぬ……ああもう面倒くさい!」

 シャマルとアスカの追撃に対する竜二の反応に小さく笑いが起こった。そして場が冷めたのを見計らって竜二がまとめに入る。 

「とりあえず、ここからは一旦はやてと話をしてから動く、ってことでええな?」
「ああ。流石に主も直接関わるが故にな」
「ほな全員、このまま自室に帰って寝るように。つか寝かせろ。ぶっ倒れそうなんや」
「ああ、お疲れ様。引き止めて申し訳ない」
「気にすんな。ほなアスカ、行くぞ」
「はい。ではみなさん、また明日」

 全員が散っていった中、リビングに残るのは静寂がたたずむだけであった。



 翌朝、竜二の部屋。

「ん……今何時……?」
「午前7時30分頃でございます、我が主」

 昨夜寝るのが遅かった割にはきっちり目が覚めている竜二。そして彼がもはやツッコミを諦めたシチュエーション。

「おはようさん。もうそんな時間か」
「ええ。もう起きられますか?」
「ああ。起きる。せやからそこ退け。動けん」

 それは、竜二の上にアスカがのしかかるかのように抱きついている、というもの。お互い下着で、またアスカはブラをしていないため、柔らかく豊満な胸が彼の鍛えられた胸板に押し付けられて潰れている。が、彼は気にした風でもなくシンプルに返すと、彼女は文句をこぼす。

「やー、です」
「……起きるかどうか聞いといて何じゃいそれ?」
「だって最近あまり構ってくれないじゃないですか」

 どうやら、彼女の甘え癖が出てきたようである。しかし竜二も黙って聞いてはいられない。

「俺にだって予定ってもんがあるんですがねぇ」
「私だって主に甘えたいんです」
「ユニゾン時は頼りっぱなしなのに?」
「こうしてる時にだって甘えたっていいじゃないですか」
「俺の都合は無視ですか?」
「今だけは聞きませーん」
「こんにゃろ……」

 不毛である。果てしなく不毛である。竜二としては男の生理現象からナニに発展しては困るので早く退いてほしいのだが、動く気配が全くない。流石に未成年の妹がいる家で、ナニをしていて起きるのが遅くなりました、は少々情操教育上よろしくない。
 しかし、そういう状況であっても、というかわかっていても彼女のキスを甘んじて受けている竜二であった。結局は男であった、ということだろう。
 彼らがリビングに下りてきたのは、30分ほどしてはやてが呼びにきてからであった。何をしてるかは丸わかりのため、それについていじりにきたはやてが、むしろ堂々とのろけるアスカを前に顔を真っ赤にしてたじたじになるという、貴重なワンシーンがあったことをここに記しておく。



 八神家の家族会議の翌朝。

「……というわけなのです、主」
「って言われてもなぁ……」

 家族が全員集まる数少ない時間である朝食時、いきなりシグナムが切り出した。その返事が冒頭である。

「なのはちゃんらにはただでさえ心配かけてるから、これ以上迷惑かけたないし……」
「せやけどお前、そろそろ闇の書の魔力はほぼ満タンの一歩手前なんや。俺らがやることなんて、魔力辿ったら管理局の連中にはどの道バレると思うけど?」
「うーん、せやったら手伝ってもらったほうがええんかなぁ……」

 考えながら箸を動かしていくはやて。どうやら今朝の献立は、ご飯と味噌汁と出し巻き卵に焼鮭のご様子。朝からこれだけ用意できるのは、全員が朝からバタバタする必要がない行動パターンをとっているからだろう。

「まぁ一般人に被害は出してないわけやし、こっちはそっちがどんな風に管理してるか知らんかった上、ヴォルケンリッターは部下でも奴隷でもなく、あくまで八神家の家族やってのが武器になると思う」
「確かに、人に手を出したらアカンって言うてきたし、みんなええ子やから守ってくれてるとは思うんやけどね。ただそれでもやっぱ、これまでやってきたことをそれで全部チャラにしてくれるかっていうと難しいところやと思うんやわ。この子らは何も悪くないのに、それが心配で……」

 家族や仲間、友人など、殺された者の身内の恨みというのは、そうそう消えるものではない。被害者遺族の前で下手に逆なでするようなことを言ってしまうと、彼らが感情的になり理性的な判断が下せなくなり、暴動が起きる可能性だってあるのだ。闇の書がこれまでの世界でもたらしてきた被害から考えればそれも至極当然の話。まだこの世界においてはそんな被害が出ていないから、管理局も見つけることができずにいるだけなのだ。

『はやてちゃんは巻き込まれたからともかく、彼女たちまで何も悪くないってことはないような気もしますけど』
『それはまあ書の特性上仕方ないってことにしとこう。絶対服従かなんかってことで』
『騎士である以上主に忠誠を誓うのはもちろんですけど、それはただ奴隷になるのとは違うと思うんですけどね……』
『そんなこと、いまさら穿り返さんでも本人らだってアホやないねんからわかっとるやろ。あんまそういうこと言うな』
『……はーい』

 恒例の二人の念話会議も、一旦中断。テレビのニュースを眺めながら、和気藹々と食事が進んでいく。

「あれ、この人いつ結婚したんやろ?」
「ん?ああ、結構前から噂はあったけど、とうとう籍入れたんや」
「なんで兄ちゃん詳しいねんな?」
「いや散々言われてたし」
「へぇ~……」

 とある芸能人のニュースを見ては、竜二とはやてが笑いあい。

「ほう、この犯人とうとう捕まったのか」
「ん?なんの事件……ああ、例の盗撮魔か」
「ああ。全く下らんことをするものだ」

 とある事件の犯人逮捕が逮捕されたことについて語り合うシグナムとザフィーラ。

「おや、そういえばこのイベントもそろそろですね」
「何かあるんですか?」
「主が楽しみにしているロックイベントなのですよ。今回は好きなバンドが出るからぜひとも行きたいって言って、チケットも予約したとか」
「そういや竜二、ここ最近バイトだっけ?めちゃ頑張ってたもんなぁ。これが狙いだったのか」
「まぁ主殿は遊び人ですから、お金はいくらあっても困らないんでしょうね。暇な時間は稼ぐか使うかどちらかしていたいって言ってましたよ」
「殊勝なこった。アタシは見た目がこれだから働けないんだよなぁ……」
「まぁまぁ……」

 とあるロックフェスの宣伝に反応したアスカと、対応するヴィータとシャマル。平和とはまさに、尊いものである。

「兄ちゃん、今日は何か予定あるの?」
「うんにゃ。バイト休みやしすることあらへんな。ゲーセン行くか翠屋行くか雀荘行くかギター練習するかで悩んでる。訓練はもちろんするけどな、夜に」
「せやったら、たまには家事手伝ってほしいなぁなんて……」
「ああ……そういやあんまし家におらんし、ええよ。晩飯作れでも家の中整理整頓しろでも何でも来いやわ」

 そんな八神家に電話が入る。

「誰やろう、はーい」

 電話の向こうは返事などしないのだが、はやてが声を上げて電話を取りにいった。そんな中竜二が大げさに手を広げて呆れるような仕草をすると、こう呟いた。

「飯時を邪魔するとは無礼なやっちゃで」
「いや、向こうはそんなの知らないだろ」
「食い物の恨みってぇのはな、恐ろしいんやで?」
「今それ関係なくないか?それになぜそこでワンクッション置いた?」
「関係ないと思われる事項が、実は思わぬところでつながっていた、なんてのはよくある話やからなぁ……」
「何の話をしてるんだお前は。そして後半のツッコミはスルーか?」
「ハッハッハッハフゥーン!」

 調子に乗りすぎたのか、挙句の果てには奇声を発する竜二。もはや彼のキャラとはなんなのか。

「ダメだこいつ、早く何とかしないと……」
「諦めろシグナム、こうなったこいつは止まらん」

 ツッコミを入れておきながら呆れるシグナムに、悟り気味に告げたザフィーラ。ある意味レアかも知れないシーンである。そしてはやては、というと。

「もしもし、八神ですけど……」
『ああ、八神はやてさんのお宅で間違いございませんか?』

 受話器から聞こえてきたのは、老いていながらも優しさと力強さを感じさせる男性の声だった。

「はい。私が八神はやてですけどどちら様でしょう……?」
『あなたの父親の親戚であるギル・グレアムと申します』
「あ!この度はどうも、お世話になってます」
『いやいや、元気そうで何より』

 ギル・グレアムとは、はやての父親の親戚というつながりで、八神家の資産管理と資金援助をしているイギリス在住の男性。相手がはやてと知ると、名乗ってすぐに敬語をはずしたのは、やはり自分の子供とも言える年齢の子供に堅苦しく扱われたくないからか。ただし彼ははやてとの直接の面識はなく、あくまで手紙によるやりとりのみ。その上グレアムは海外に在住しているのでもっぱらやり取りはエアメールである。そのためお互いの言葉が届くまでずいぶん時間がかかってしまう。
 もちろん竜二も、海鳴に越してきた時点ではやてから話は聞いていたため彼の存在を知ってはいる。またグレアムに手紙を出したときに、彼も直筆でメッセージを入れたこともある。だが、面識はおろか写真を見たことがないだけでなく声すら知らないため、当初はあまり信用していなかった。今ははやてからのまた聞きのみだが、それなりの信を置いてはいるとか。

「ところで、今日はどういった……?」
『八神竜二君はそこにいるかな?』
「兄ですか?少々お待ちください」

 はやては保留のボタンを押して受話器を内線の子機に切り替え、それを竜二の下へと持っていった。そしてシグナムたちに冷ややかな目を向けられて彼が「ひぎぃ」や「ふぇぇ」などとうめいている中へと突撃していった。もはや彼のキャラとはどこへやら。既に食事はすませたらしく、シャマルとアスカが食器を片付けている。

「兄ちゃん、グレアムさんからお電話やで」
「グレアムさんから?わかった」

 竜二ははやてから電話を受け取ると、ふざけた態度をやめて通話ボタンを押す。

「もしもし」
『八神竜二君、で間違いないかな?私がギル・グレアムだ』
「ええ。私が竜二です。こうしてお話させていただくのは始めてですね」
『そうだな。本当は直接会って話がしたいのだが……』
「仕方ありませんてそれは。して、こっちが朝だからそちらは夜のはず。手短にすませましょう」
『そうだな。話というのは他でもない。闇の書に関することだ』
「……少し待ってください」

 その話になるのなら、他の八神家に聞かせるべきではないと思ったのか、食卓から離れてトイレに入る竜二。

「……なぜあなたがそれを?それに、あなたがなぜ魔法についてご存知なのです?」
『それに関してすべて話そう。あれは今から……』

 彼は自分の身の上話から始めた。そんなことに興味はないとつっぱねようとした竜二だが、彼から闇の書に関わる話だ、といわれたので相槌を打ちながら聞いていく。
 そもそもグレアムは元々正真正銘のイギリス人で、つまりはこちらの世界の住人であった。にも拘らず魔法資質が高く、何かしらの任務で地球に訪れた行き倒れの局員を助けたのがきっかけで、監理局に勤めるようになったという。
 そんな彼が闇の書に関わったのは11年前。当時の闇の書の事件の指揮を執っており、部下だったクロノの父親を死なせてしまったという過去がある。そのことからも闇の書に対する並々ならぬ執着心を持っていたらしい。闇の書の動向については、その事件後の独自の調査に幸運も相まってか、かなり早期に把握していたそうだ。そこで両親を失い、闇の書の主となったはやての父方の親戚、つまり「おじさん」として、財産管理や資金援助を行っていたとのこと。闇の書の動向を監視するために、わざわざ地球に帰ってきてまで。

「……つまりあなたは、闇の書がどういうものか知っていてはやてに近づき、それを破壊するつもりだった、ということですか?」
『破壊できる代物ではない。永久封印という方法しか、もう私には残されていないのだ』
「永久封印?それはつまり、はやてを生かしたままどこかに封印する、ということですか?」
『そうだ。非人道的ではあると理解しているが、そうでもしなければあれは止まらない』
「ふざけた話なら切りますよ。他に対策はないんですか?」
『……かつて闇の書に対峙すべく作られた、『星天の魔道書』があれば、また変わってくるのだが……』
「星天の魔道書……それがあればどうなるんです?」
『もしもの話をしても仕方あるまい?』
「私が持っているとしたら、どうします?」
『……何、だと?』

 今度はグレアムが驚いた。 

『そんなバカな、だとすればなんという偶然なんだ……?』
「星天の魔道書の管制人格と協力し、闇の書を無力化する方法を発見しました。かなり強引な方法ですが、成功すれば永久封印などしなくとも、闇の書を終わらせ、元の姿に戻せます」
『……本当、なんだな?』
「ええ、確実に。もし失敗したら、俺達も一緒にアレを時空の彼方にでも飛ばしてくたばるまでです」
『そうか……』

 グレアムはしばし間を置き、竜二に頼む、と告げた。

「任せてください。闇の時代は、俺達で必ず終わらせて見せます」
『君達のような若者に、我々の尻拭いを任せなければならないのが心苦しいが……その代わり、私にできることがあれば言ってくれ』
「なら一つ、確認したいことがあります。この話、はやてにしても問題ありませんか?」
『大丈夫だ、問題ない』
「わかりました。では、これで」
『……ああ、またな。吉報を待っている』

 そして竜二はトイレから出た。

「兄ちゃん、グレアムさんはなんて?」
「……長い話になるで」
「え?……うん」

 そして竜二は、グレアムの正体と目的を話した。

「……そうやったんや」
「でもな、グレアムさんは最終判断はこちらに任せてくれた。確かに一部嘘はついてたが、それもある意味仕方なかったんやろう」
「兄ちゃん、勘違いせんといて。私はグレアムさんが何か悪いことをしたなんて思ってないし怒ってもない。それに、グレアムさんがそこまで止めたいんやから、私らで意地でも止めなあかん。私かてもうこれ以上、あの子らに無駄に戦わせたくなんかないんや」
「……せやな」

 その気持ちを知らなかった竜二ではない。改めて確認した、ということだろうか。

「兄ちゃん、なのはちゃんたちに協力頼める?」
「受けてくれるかはわからんが、頼む以上は全部話すで?」
「うん。早く終わらせよう」
「わかった。ちょっくら行ってくるわ」

 そして、竜二は着替えると、バイクを走らせた。 
 

 
後書き
 あんまり話の進行ペースが変わってないなぁ……まぁ、ここからまだ期間は空くし、色々イベントとか強化フラグとかぶち込んでいこう。 
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