なりたくないけどチートな勇者
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36*外野が邪魔
さぁ、始まるざます。
行くでがんす。
ふんがぁー。
「真面目に戦いやがれ!!」
「ムリでがんす!!」
人間とは頭、つまり脳が発達した生き物である。
そしてその代償に、猿の頃は持っていた……なんかこう、しなやかさとか力強さ的な?
まぁそんな運動能力みたいなのを犠牲にしてきたのである。
つまり何がいいたいかって言うとだ
「だったらおとなしく死にやがれ!!」
「むり!!」
どこぞの魔王様もびっくりなこの弾幕を防ぎまくるのもそろそろ限界なんですよ。
主に体力的に。
ではなぜ、攻撃せずに護りに徹しているのかと疑問に思うであろう。
答えは簡単、単純明解。
「うおぉぉぉぉぉ……こんな戦い、見た事も聞いた事もないぞ……」
「な、何がおこってるんですか!?」
「ひぇぇぇぇぇ」
何を隠そう、自分の後ろにうきうきしてるエリザとか、音を聞き付け部屋から出てきた(自称)自分の使用人とかがいるからです。
断言する。
自分が避けたら彼女達が死ぬ。
そしてエリザの反応が異常。
「ちょっ!君達!早く!逃げて!!」
そしてもうね、そろそろ全ての魔法を一護君でたたき落とすのは限界です。
うん、正直マックスピードなかったら死んでるよ。
いやね、自分も本当はなんか盾的なのを使いたいけど、ラシルドレベルなら弱すぎて破壊されたし、それ以上のやつは出す暇が与えられない。
従って、彼女達が逃げるまで根性で全部たたき落とすしか思い付かず、それを実行している次第なのですが……
「何を言う!こんな戦いを目の前にして逃げる事などできるか!それにナルミが護ってくれてるから安全だろ!」
「てめぇ!やっぱり!改心!のわっ!してねー!!」
これである。
ちなみに二人は
「む、無理です!こここ腰が!ぬけっ!」
「ひぁぁぁぁぁぁん!!」
マジ泣きしてたりする。
うん、これを続に八方塞がりといふ。
てゆーかセブルさん、マックスピードについてくる程の魔法って、どんだけっすか。
「お嬢様を弄んでおいて!所詮貴様はその程度か!!」
しかもセブルさんはなんか性格変わってるし。
だれか助けてください!
と、願いが通じたのかセブルさんの魔法弾幕が止み、かわりに彼は
「こんな男にお嬢様が……!お嬢様の純潔が!カケラも残さず消えさらせぇ!!」
もっそい速さで空(くう)を駆け、手にした剣で切り掛かってきた。
まさかいきなし物理攻撃がくるとは思っていなかったので、慌ててそれを受け止める、が
ゴォウ!!
「のわわわわわ!!」
「ひ!?はひゃぁぁ!!」
「ぴぇぇぇぇぇ!!」
風速100メートルはある(気がする)程の爆風が廊下の空気を一気に押し流した。
それに伴い、後ろの三人が吹き飛ぶのがなんとなくわかる。
とりあえず、邪魔はなくなったが……
「貴様さえいなければ!お嬢様は!お嬢様は!よくもお嬢様を汚したなぁぁ!!」
「違うっての!話をきけぇい!!」
トランスしているセブルさんが目の前にいるのは心臓に悪い。
てゆーか怖い。
「貴様と話す事などない!我が聖剣(エクゼカリバー)の錆にしてくれるわ!!」
「エクスカリバーじゃないの!?」
「黙れぇぇぇ!!」
怒声と共に彼は腕に力をこめ、それに伴いエクゼカリバーも一層光をましていく。
自分はそんな彼と鍔ぜり合いをして、全くと言っていい程動けずにいる。
多分動いたら死ぬ。
そんな確信にも似た予想が頭をよぎり、自分は全力でセブルさんを押し返す。
するとなぜか鍔ぜり合ってる所から『ギュギュギュ!』って変な音がして火花を散らしはじめ、それに伴い周りの壁がピシピシいいながらひび割れていった。
だがそんな事を気にする程の余裕なぞあるハズもなく、自分は生きるために必死で押し返した。
すると
ガキョン!!
「おあっ!?」
「くっはぁ!!ちぃぃぃ!!」
まさか押し切れるとは思っていなかった。
だがこの隙を逃す程自分も阿保ではない。
「切り捨て御免!!」
ガシュ!!
「ぐっがぁぁぁ!!」
即座に彼を袈裟斬った。
峰打ちだが。
いや、さすがに殺す程の度胸は、ねぇ。
だが相当力を入れたので、廊下の端まで彼は二回バウンドしながら吹っ飛び、顔から壁に激突した。
……二回バウンドって……しかも顔。
死んどらんよね?
てゆーか自分、ノリであんなセリフ言うだけの余裕がまだあったんだな。
自分で自分にびっくりだよ。
だがまぁ、ここまでやった後の自分の行動はただ一つ。
「………逃げよ」
この現場から、少しでも遠くへと逃げる事である。
ほら、だって廊下の奥から兵士さんたちが鎧をガッキンゴッキン鳴らしながら臨戦体制で駆けてくるんだもん。
自分、捕まりたくないからね。
え?
セブルさん?
……自分が逃げるまでの生贄になってもらいますがなにか?
はい最低、その通り。
*************°☆
自分は逃走後、いろいろな所を歩き回って今現在は中庭近くの二階の廊下にいる。
そして逃げる道中でも聞いた噂話しをここでまた聞かされる事になる。
「あのハセガワ候爵様が奥様を……」
「ええ、奥様を怒鳴り付けて離婚を宣言したらしいわ」
「まさか……あの愛妻家で有名なハセガワ候爵様がそんな……」
「……あ!!ハセガワ候爵が来たわ!聞こえるから話しやめ……あははは、ど、どうも候爵様。ご機嫌麗しゅう」
おせーよ。
聞こえてるよ。
そして君達白々しいよ
「……ごきげんよう娘さんがた。時に自分の国にはこんな諺がある」
さっきから行く先々で兵士やらメイドやらがそんな噂をするのを聞いて疲れとストレスを溜め込んだ自分は、彼女達を使って少しそれらを解消する事にした。
「壁に耳あり障子に目あり。どこでどんなふうに話を聞かれるかわかったもんじゃないって感じな意味なんだけど……あんまり陰口叩くのは賢明じゃあないと思うけどなぁ……特にそーゆーお話しは、ねぇ」
自分がそう言ってニンマリ笑うと、彼女達は顔を一気に青くしてガタガタ振るえはじめた。
四人いっぺんに歯を鳴らすという奇想天外なオーケストラが4メートルは離れてる自分の所まで聞こえるくらいにガクガクブルブル振るえている。
多分自分の笑顔が怖いとかじゃなくて、お偉いさんの陰口を本人に聞かれた事で首と胴体がお別れを告げる事になる可能性を危惧してのふるえだろうけど。
とりあえずこれ以上はかわいそうなので、自分は彼女達をゆるす事にした。
「……もうやめてよね」
「は、はい!」
「了解です!」
「わかりました!」
「ひいっ!な、なんですかあれ!?」
うん、四人とも別々の発言をありがとう。
でもふつーは四人でハモって返事するのがセオリーじゃ……
ん?
最後の娘は一体何を見た?
……
「盾(シールド)!!」
「全てを灰に!煉獄の剣よ!!」」
バキッ!!
なんとか凌いだ。
けど……いくら本のオマケのクロウカードでつくった物とは言え、クロウカードの盾にひびって入るんだぁー。
セブルさん、こえー。
もうもうと煙や湯気があがり、視界が遮断されているなかそんな暢気な事を考えていると、向こう側から声がしてきた。
「こんな状況でも女と戯れてるとは……ナルミ、おまえは一体どんな神経をしているんだ?正直俺は裏切られた気持ちだよ」
……あれ?
セブルさん……だよね?
喋り方ちがくない?
自分が半分混乱しながらそんな事考えるていると、だんだんと煙がはれて相手の顔を見る事が出来た。
そこにいたのは
「そしてなぁナルミ……妹を家畜のように扱われて!揚句棄てられるのに対して黙っていられる程俺は穏和じゃないんだよ!!」
背景が歪む程の熱を持った巨大な剣を片手に持ちながら、般若と憑衣合体しているゼノアおにぃさんがそこにいた。
うわぁ、初対面の時より般若だわ。
てゆーか阿修羅だね、これは。
うん、人間恐怖が行き過ぎると逆に冷静になれるっぽいね。
て、んなこと考えてる場合じゃない。
「落ち着け!話せばわかる!」
「落ち着いてられるかぁぁぁぁ!!」
まさに猪突猛進。
一気に間合いを詰めてきたゼノアの一撃を、またもや一護君で受け止める。
……あれこれなんてデジャヴ?
「お前は!あいつの姿を見たのか!?全てに絶望したようなあいつの眼を!悲しみでおおわれたあいつの表情を!!いくらお前でも許す訳にはいかないんだよ!!」
「あちゃちゃ!だぁぁぁぁもう!!人の話をききんしゃい!そぉい!!」
もう自分はさっきのセブル戦で鍔ぜり合いの要領を何となく得た上、ゼノアはセブルさんよりか力は弱かったのでさっきよか危なげなくゼノアの剣を弾き返した。
まぁ、至近距離に陽炎が出来る程熱い剣を突き出されたから手に当たらないよう加減はしたけど。
そして、その加減が自分の運命を左右する事になる。
自分の手が焼肉にならないよう、中途半端に力を加えて弾き返した所、これまた中途半端な体制で一瞬固まってしまったのだ。
そして自分は、弾かれて体制を崩したゼノアを見ながら
ドスッ!!
「グフッ!!」
変な音と自分の奇声を聞いた。
あれ?
なんか脇腹が異常に熱いぞ?
あれ?
なんで視界が残像残しながら右に動いて……
ドガッシャァァ!!
「ぐばっはぁぁ!?」
瞬間、自分は中庭まで壁を突き抜け吹き飛ばされた。
脇腹から盛大な紅い華を撒き散らしながら。
「つっ~!!ガハッ!!」
30メートルは飛ばされた所で、やっと自分は止まる事が出来たが、その場に倒れたまま地面に赤血球で彩られた体液を吐き出す事になった。
訓練していた周りの兵士達の視線が痛いが、それよりバックリいった脇腹が限りなく痛い。
視線など、構ってられるか。
「はー、はー……いいザマだな、ハセガワ候爵殿。だがお嬢様を泣かせた償いは、これだけでは終わらんぞ」
そう言うのは、肩で息をしながらも、自分の血を多量にこびりつかせた剣を携えている真正セブルさんでありまする。
その遥か後ろには、これまた怖い第二形態ゼノアさん。
セブルさんの剣に付いた血の跡から察するに、少なくとも10センチくらいは切られているようだ。
もうこれ死ぬって。
しかもなにこれ死刑執行?
ジョーダンじゃない、まだ自分は人生に未練タラタラだ。
「……ヒューヒュー…ケ、ケアルガ」
変な呼吸をしながら呪文を唱えると、体中を緑の光が覆いはじめ、ゆったり39度のぬるま湯に時間を気にせず浸かっている時と同じような気持ち良さが全身に行き渡る。
あー、きもちえー。
脇腹むずかゆいけど、それがなんとも言えない気持ちよさだ。
はじめてやったけど、これで商売したら絶対売れる。
うん、病み付きになりそう。
じゃなくって。
「ふぅー……で、何がいいザマだコノヤロー。自分はまだピンピンしてんぞ」
呼吸を整えながら、ゆっくり立ち上がって目の前にいる頑固親父をキッと睨みつける。
多分垂れてて睨んでるよーには見えないだろーけど。
するとどうだろう。
そこには驚愕に顔を歪めた頑固親父が……なぜ?
「……全力で背骨を叩き折るつもりの一撃を……何をした」
彼は油断なく身構えながら、自分へと質問を投げかけてきた。
その時後ろから駆けてきたゼノアは、セブルさんに制止させられつつもいつでも自分に飛び掛かれるようスタンバっている。
てか、背骨っておい。
下手すりゃ……下手せんでも死ぬぞ。
「……再生しました、はい完治です。人間なめんなバカヤロー」
普通の人間なら死ぬけどね。
いや、この場合人間だったから死ななかったのか?
判断が難しい所である。
「……少々、侮っていたようですな。ゼノア様、続けて加勢お願いできますかね?」
「無論だ。奴はシルバを泣かせた、全力で潰すぞ」
彼らはそう言うと、持ってる武器を構えて臨戦体制をとりはじめた。
やっぱりゼノアはセブルさんの差し金だったか。
しかし、二対一とかひどくない?
それにゼノアさん性格変わってない?
「……話しきーてくんないかねぇ」
そう言いながらも自分は居合の体制をとり、来たる攻撃に備える……フリをしながら逃げる算段を頭で考える。
そしてなんかないかと考える間に、ゼノアがもっそい速さで切り掛かってきた。
「うるぁぁぁぁ!!」
「のわわわっ!?」
余裕かましてやった事もない居合のポーズとってたもんだから、居合う事も出来ずにただ避けるだけになってしまったという間抜けさ加減に泣けてくる。
と、自分はゼノアの猛攻を避けまくってると、その後ろでセブルさんがなんかブツブツ言ってんのを発見した。
両手と翼を目一杯広げながら呪文を唱える彼を中心に巨大な魔法陣とさらにその周りに小さな魔法陣が着々と描かれていって……
アラートアラートアラートだ!!
危険なニオイがプンプンするんだよ!!
自分は野性の勘はないけど理性の勘があるんだよ!!
「ちょっ!邪魔ぁ!!」
目の前のゼノアを押しのけて、セブルさんを止めるべく自分は走ろうとした、が
「貴様の相手は、俺だぁぁぁ!!」
「どうわぁぁぁ!!」
弾き飛ばしたゼノアが即座に復活して切り掛かってきたのだ。
その時見た彼の眼は、もとから紅かったがそれよりさらに紅く、血走った眼をしていた。
理性のかけらもなく、怒りとか憎しみとかそこらへんに埋め尽くされた眼をしている。
こいつは異常だ、とさらにアラートを鳴らす自分の理性。
そして同時に、色々と疑問が浮かんできた、が
そんな事よりセブルさんである。
あれは絶対止めねばならない。
「退けゼノア邪魔!罠(トラップ)カード『マジックジャ…がっぶっ!?」
ゼノアを蹴飛ばし、困った時の遊戯王と言わんばかりに魔法をジャマーしようとした所、誰かが手を口に突っ込んできて、驚いてる隙に投げられた。
それによりカードが手から離れ、発動は不発に終わってしまった。
そして犯人はもちろんゼノアさん。
なんとも凄い執念である。
そして彼は剣を握りしめ、自分の首にむかい……
「だらぁぁ!!」
あっぶな!!
こいつ躊躇いのそぶりも見せずに人の首はねようとしたよ!!
なんとか受け止めたけど、体制からして無理がある。
しかたない……ここは漢(おとこ)としてはつかいたくなかったが……背に腹はかえられん。
自分は右足に力をためながら、ゼノアに言う。
「ゼノアよ……許せ!!」
そして一撃を放つ!
ドスッ!!
「きょかぱっ!?」
自分の放った必殺の一撃を受け、奇声を発しながら悶え苦しみ、崩れ落ちるゼノア。
何をしたかというと……自分は渾身の力を込めた蹴りを……その、あれだ……。
足と足の間に……な。
うん、漢にしかわからん痛みだろう。
そして見てるだけで冷や汗モノのこの光景。
ほら、周りの兵士なんてみんなそこを押さえてふるえている。
みんなやっぱり不能にはなりたくないよな。
「つっ~~~~!!」
そしてここで男性特有の弱点を押さえて芋虫みたくうねっているゼノアは、みんなが想像している痛みを想像ではなく、体感しているのだ。
やった本人が言うのもあれだが、もはやかわいそうとしか言えない。
「……えい」
「みっ!?」
なので彼には痛みを忘れて夢の世界へと旅だってもらう事にした。
というか電流流して意識を強制シャットダウンさせてもらった。
……重ね重ねホントーにゴメン。
だがここで自分は油断していた、というか忘れていたのだ。
なぜに自分がゼノアの急所を強打せねばならなかったのかを。
「フ、フハハハハハ!さぁ、術式は完成した!我が最大の召喚まほぅ……を……何があった。なぜ皆して股間を押さえている」
あ、言っちゃった。
てゆーかこれは空気読んだんだか読んでないんだか。
「……あー、気にしないで。それより召喚魔法ね、召喚。うん、やめてくれ、頼むから」
ど真ん中ど直球ドストライクドストレートに自分はお願いした、がしかし
「……それでやめると思うか?」
ですよねー。
でも、相手が召喚すんならこっちも手はある。
そう思いながら自分は前屈みになりながらこっそりカードを取り出す。
すると彼はそれを臨戦体制だと認識したのか、声高らかに
「では行くぞ!いでよ我が下僕にして我が分身!影人形《クレイ》!!」
彼がそう言うと、小さな魔法陣から黒い影みたいなのがゆっくりと人の形になって現れた。
そして自分はそこで
「罠(トラップ)カード『昇天の黒角笛(ブラックホーン)』!!」
特殊召喚を無効にして、人形を破壊した。
その爽快感から自分はカードを掲げたまま、軽く悦にはいっていた。
と、ここまではいい。
ここまではいいのだが……
「で、だからどうした?」
再び魔法陣から黒い影が発生した。
あれ、もしやこれスライム増殖炉的ななにか?
しかも一体だけではなく、ポコポコポコポコ二体三体……計五体の影人形が。
……戦略的撤退!!
自分は身を翻し、全速力でその場から逃げ出した。
「ふん、無駄だ。追え!!」
するとセブルさんはそう人形達に声をかけると、奴らは一斉にこっちにやってきて、なんかパンチっぽい攻撃をしてきた。
なんとか神速で避けたのだが、なにせ五体分の攻撃である。
マジでギリだった。
しかもそのパンチときたら、ヤケド効果はないが一撃で2メートル近いクレーターを作る威力なのだ。
さらに言うとこいつらは本当に影らしく、蹴っ飛ばそうとしたが全く言って手応えがない。
いやいやいや、マジでないってこれは。
「えぇい!南無三!!」
そう言いながら一護を振るうと、それは流石に効くようなので、人形達をぶった切りまくった。
だがやはり、切った端から新しいのが出て来る出て来る。
マジでこれは八方塞がりか!?
「まだこれだけだと思うな!言っただろう?かけらも残さず貴様を消すと!!」
しかもセブルさん、追い撃ちと言わんばかりに翼を広げ、物理的にありえないとされる黒い光を放つかのように真っ黒い球を胸の前で形勢しだした。
彼がブツブツなにか呟く毎に邪悪なオーラを放つそれはだんだんと大きくなっていく。
……これ積んだ?
いやいやいや!!
まだ何か手はあるはず!!
とにかくあの魔法陣と魔法をどうにかしなければ!
ついでにこの変な人形もってぁぶなっ!!
……そうだ!!
起死回生を賭けて自分はおもいっきり大地を蹴り、空へと跳び上がった。
確か……ここらに…いた!!
「空へと逃げようとも無駄だ!影はどこまでも貴様を追いかける!そしてこれは貴様がお嬢様を泣かした事への我が怒りだぁぁぁ!!」
そうセブルさんは叫びながら、直径が自身の身長の半分くらいに膨れ上がった黒い球を自分に向けて全力投球のフォームを取り始めた。
だが、今ならまだ間に合う!
「うるせー!いい加減話し聞きやがれ!罠(トラップ)カード!『ゴッドバードアタック』!!」
自分はそう叫んだ途端、ドパンッ!という音とともに黒い球と魔法陣が崩壊して、さらに続けて影人形が全部崩壊した。
「……は?」
球を投げる途中のモーションで止まった大天使仕様セブルさんは、微妙な姿勢に間抜けな顔と、見事にイケメンを台なしにする格好になっている。
きっと何があったのかわかっていないのだろう。
平たくいうとだ、なんやかんやで放っておいた《地縛神 Aslla piscu》をリリースして魔法カードを二枚破壊した感じである。
《地縛神 Aslla piscu》の効果もあいまって、相手のフィールドはこれでボロボロにです。
難しいけど、決めれれば勝ちは目前の夢のコンボです。
と、いう訳で
「形勢逆転、ですね。大人しく降参してください」
「つっ~!!」
自分の発言に対して苦虫を青汁とともに一気飲みしたような顔をして悔しがるセブルさんを見て、軽く悦に入る自分が嫌だ。
だがまぁ、あんな大魔法を連発したんだ。
普通のRPGならそろそろMPが0になるハズである。
顔色も最初に比べてかなり悪く、息も荒いのがその証拠だ。
と、相場を知らない自分が勝手に判断して勝ちを確信していたのだが……
ここで一つ考えてみよう
確かに彼は魔力が尽きかけてるのようでふらふらしているが、まだ意識もあるしなにより立っている。
では、MPを使い尽くしたモンスターがする行動はなんだろうか
それはもちろん
「誰が降参などするかぁ!!」
物理攻撃である。
「おわっ!?」
本日三回目の鍔ぜり合い。
いい加減あきた。
「貴様はお嬢様を弄び泣かせた!そのような罪人は!いかに我が魔力が尽きようとも!いかなる手段を用いてでもその命をこの手で刈り取り償わせるのが我の役目!降伏など!誰がするかぁ!!」
「ちょっ!唾飛ばすな!!」
鍔ぜり合いとは言っても、セブルさんはさっきに比べて格段に弱くなっている。
傍目からは猛ってるように見えるけど、剣を押す腕に力がない。
かく言う自分も疲れてきてはいるが、そこまで盛大には疲れていないのでまぁ、余裕なのだ。
「本当に話し聞いて下さいよ」
出来れば平和的解決をしたい自分は、無駄だとはわかっていてもつい眼前10センチの所にいるセブルさんに聞いてしまった。
すると帰ってきた答えは
「煩い!お嬢様は我が手塩にかけて育ててきたのだ!そしてそのお嬢様が貴様に恋い焦がれつつも内気な性格から自ら前に進めずにいるのを後押しした結果がお嬢様を不幸たらしめる事になったのだ!これは貴様の断罪と共に我の贖罪だ!貴様の話など聞く気はない!」
「いやだからって……」
「だからもなにもない!貴様はお嬢様の敵だ!全てはお嬢様のために!お嬢様に仇なす者は全て我が排除する!お嬢様こそが正義!!」
……あ、こいつが教育係だったからシルバちゃんあんななっちゃったんだ。
気持ちはわかるけど。
しかし……
「どんな社会不適合者つくりたいんよ!?」
よくこんなのが教育係であんないい娘が育ったな。
……うちのなんか彼より甘やかしレベル低いくせなあんなんなっちゃったのに、むかつく。
「たしかに自分が育てた子はかわいいのはわかるが、そんな甘やかした考えでいいわけないだろ!その子が中心で世界が回ってる訳じゃないんだよ!甘やかすだけが愛情じゃない!!」
「知ったような口をきくな!!」
「知ってるから言ってんだ!!」
ああ、こいつはあの時の自分と同じだ。
いろいろと盲目になっている。
ここは怒りに任せて実体験を語ってやろう。
「うちには昔康(やすし)ってのがいてな。自分はそいつを今のおまえみたいに甘やかして育てたんだよ……そしたらどうなったと思う?」
「なっ!?我は甘やかしてなど……」
「彼女の求めるモノは即座に与えるとかしてないか?彼女の意見に反対した事はあるか!?」
「………」
一気に沈黙するセブルさん。
思い当たる節があるようだな。
……そーとー甘やかしてたんだなこれは。
「うちの康はな、甘やかした結果誰の言う事も聞かず、見境なく暴れまわて周りを傷つけるだけの我が儘で自己中心的な嫌われ者に育ってしまったんだ。同じように、今の彼女も我が儘で自己中心的な行動が目立つようになっている。ならそれを改善できるよう、多少荒療治でもやってやるのが愛情なんじゃねーのか!?甘やかすのが愛情じゃねーぞ!?」
……はい、勢いに任せて言ってしまいましたが、実際自分がシルバちゃんを怒った時はこんな言う程ってか全く何も考えてませんでした。
ぶっちゃけ感情に任せて怒鳴っただけでした。
……まぁ、ばれなきゃいいんだ。
こんな自分が一番我が儘で自己中心的な気がするのは気のせいではないだろう。
激しく自己嫌悪を抱いていると、俯いていたセブルさんがなにかボソッと言ってきた。
「……けるな」
「は?」
「ふざけるな!貴様にお嬢様の何がわかる!その性格から貴様への恋心を打ち明けられずにいたお嬢様の苦しみが!我はその想いの枷を外してさしあげたのだ!いわば今のお姿こそお嬢様の本質!それを我が儘で自己中心的などと……!貴様はお嬢様を根本から否定する気か!!」
……想いの枷を外してさしあげた?
いやまてまて、まだ判断を下すには早過ぎる。
一回セブルさんの頭をテレパシーで……
……
………オイマテコノヤロー。
「……なぁセブルさん…君はシルバちゃんに何をしたかわかってるの?」
「想いの枷を外しただけだ!もっとも今では後悔してるがな!!」
「ふーん、そっかぁ……ザケンナ」
流石にこれはキレたね、シルバちゃんの時以上にプッツンした。
自分は鍔ぜり合ってたセブルさんの剣を弾きとばし、彼の首筋に刀を当てる。
「おまえ、それ真面目に言ってる?」
「くっ……何がだ…」
悔しそうに顔を歪めるセブルさんは、本当に何もわかっていないご様子である。
この態度がさらに自分をむかつかせてくれた。
「わからない?心と記憶を司る種族が聞いて呆れる……苦しみながら眠れこのゲスが」
ゴキッ!
「ゴッ!ガバッ!!」
自分は渾身の力を込めてセブルさんを再び袈裟斬った。
もちろん殺しはしないつもりだが、さっきの一撃よりは遥かに強い。
たださっきとは違い、袈裟斬ったまま後ろでなくて地面におもいっくそたたき付けたので彼を中心に隕石が落ちたようなクレーターが出来上がった。
「……とりあえず、おまえの彼女に対する深い愛情は歪んでいる。同じ愛情でも、自分の方がまだ正常だと言えるよ」
気絶してて聞こえないだろうけど、自分は彼に向かい語りかけたが、当然返事はない。
自分も自分でなんだかんだでフラフラなので、彼をほっぽって城に戻ろうとして後ろを向いた、すると
「あ……せん、せ……」
目を赤く腫らした、渦中の吸血少女がそこにいた。
……自分の戦いは、まだ終わってないようである。
ちなみにそのさらに後ろで眼をキラキラさせながらこっちを見ているエリザとかバリスや、嫌らしいニヤニヤ笑いをしているリム副隊長にはあとで制裁(いやがらせ)をする事にしよう。
よくみたら他にも近衛隊やら一般兵士やらもいるが、まぁあいつらの笑顔がムカついたからだ。
……あ、今関係ないけどエリザからヘッドフォン返してもらってない。
制裁ついでに返してもらおう。
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