魔法少女リリカルなのはA's The Awakening
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第五話
前書き
温めてたものが切れちゃったので新しくネタを考えております。
竜二たちが魔力蒐集を開始してからしばらくしたある日のこと。竜二とアスカは直人に呼び出されてバイクにまたがり、とある広場にやってきていた。
「して、なんで俺はこんなところにいるんだろうか」
「……呼び出しに応じたからでしょう?」
「うむ。ならもう一つ。なら、なぜここでヤツらはこんなことをしているときに呼び出したのか」
「……さぁ……見せたかったのかもしれませんね」
彼が言ったのは、なのはやフェイトたちと戦闘訓練を行っている直人に対してだろう。
「うむ……して、俺はここに何をしに来たのだろうか」
「それは知りません」
「うむ、俺もわからん」
「何ですかそれは……」
直人が彼に伝えたのは、時間と場所、そして「話がある」とだけ。全く何も聞かされないままここに来ていたのだ。
「しかしまぁ、直人のヤツもなかなかやるなぁ。前から大口叩いてるだけはあるってか」
「確かに。相手が小学生とはいえ、スピードタイプと砲台相手にあんなにうまく逃げ回るなんてのはなかなかなものですよね」
「ああ。まぁそれを言ってしまうと、あれだけのスピードの中でお互いの動きをほぼ完璧に把握し合えてるあの二人もすごいんやけどな。しかし……」
竜二は直人の姿を見て、呆れ果てた様子でつぶやいた。
「二挺拳銃で日本刀ってだけで一部から危ない目を向けられるのに、全身黒ずくめでチェーンだらけとかなんなの?混ざりすぎてて笑えないんですけど」
「それ、あの姿をする主が言います?」
「俺はええねん。普通やこんなん」
「おぉう……あれを普通とか普通の意味を辞書で調べてもらえませんかね」
「どういう意味やそれコルァ」
あまりにも潔い発言に、アスカも少し呆れた様子。
ちなみに竜二は、直人が魔法を使えることは先程の彼の発言のとおり、その経緯は除いて本人から聞いていた。それについては、なのはとフェイトが魔法を使えること、そしてなのは達と知り合いであることからある程度は察したのだろう。
しばらくすると、なのはたちがギブアップしたのか、ゆっくりと降りてくる。
「お疲れ、三人とも。なかなかええもん見せてもらったで」
「あ、先輩。お待たせして申し訳ないです」
「かまへんかまへん。で、話ってのはこの娘らもおって大丈夫なんか?」
「ええ。むしろ話があるってのは口実でして……ね」
「……ほう、なんやヤる気かワレ?」
ニヤついか直人を見て竜二にスイッチが入る。あれだけ見せられて黙ってはいられない性分なのだろう。
「ええ。俺と先輩、サシで一回模擬戦お願いできますかね?」
「OK上等。後悔すんなや?」
「ちょっと待った」
「あん?」
あっさり受けた竜二だが、そこで横槍が入った。
「直人、民間人への魔法攻撃は禁止されている。それを理解しての発言か?」
「……おい誰やこのチビ」
どこから見ていたのか、黒ずくめの少年がストップをかける。年下に見えるのに直人に対してタメ口どころか、上から目線の偉ぶった態度であったがゆえに、竜二も少々不機嫌気味に誰何した。要するに「直人お前ガキに舐められてんのか?」といった感情だろうか。
「初めまして。僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンです。現在はこの世界に停泊中の時空艦船アースラに所属しています」
「……は?あ、ああ、どうもご丁寧に。八神竜二や」
しかしチビと言われたことを気にかけるどころか、丁寧に名乗ってくる少年に困惑する竜二。しかしそれでも礼儀として名乗るのを忘れてはいない。時空管理局といえば、竜二たちが敵視していた組織であり、そこに所属している人間と直接面通しとあっては、動揺するのも無理はない。さらにこの地域にすでに滞在しているという。それだけで、彼の困惑もおして知るべし。そんな二人を見て直人が間に入る。
「執務官殿、多分先輩わけがわかってへん。俺から説明しとくからなのはたちの戦闘評価よろしく」
「……ああ、わかった。だがくれぐれも勝手な真似はしないでくれよ?」
「わかっとるわ。ガキやあるまいし」
「頼むぞ。以前から思っていたが、君は少々独断行動が過ぎる」
「わかってるっての、今更ガタガタ言うない」
ポカン顔の竜二をそのままに、なのはたちへと向かうクロノ。
「え?ちょ、これどういうこと?」
「先輩、とりあえず落ち着いてください。どういうことか説明するんで」
「お、おぉう」
直人によると、この地域において少し前に、大規模な魔法関連の事件があったらしい。その事件の被疑者となっていたのはフェイトの母親なのだが、実は真犯人が別にいたことが、事態が収束する前に判明し、彼女は無罪放免となった。ただその事件の最中、彼女が肉体的に少々ダメージを負ってしまい、回復に時間がかかるために、念のため魔法を扱える医療スタッフが彼女に必要であるとか。またなのはとフェイトがその事件からアースラに所属していることもあって、彼女の訓練もかねてしばらくこの地域に滞在している、ということらしい。
また直人となのはが魔法を使えるようになったのもこの事件からである。なのは達が関わるとなったために兄貴分である彼は、なのはを放っておけずに飛び込んだからだ。そんな彼のデバイスは管理局のアースラスタッフから渡されたものである。しかし彼が渡されたのは事件終了後で、事件の間はフェイトのところにいて彼女の面倒を見ていたとか。
「……一つええか?」
「はい?」
「お前訳わからんわ。なのはちゃんを放っておけずに事件に首突っ込んだくせにその後フェイトちゃんのところで厄介になるってなんじゃいそら。どう考えても頭おかしいやろお前」
「いやまぁ……その辺何があったのかとかいう詳しい話はまた後日で。少なくともあの人らは先輩らのことを嗅ぎ付けてきたわけやありませんのでそこはご安心を」
「ああ……まぁ、とりあえずそれがわかりゃええわ」
とりあえずは大丈夫そう、ということで安堵の吐息を漏らす竜二。そしてクロノたちと距離を置くと、直人はささやくようにたずねた。
「それで、魔力蒐集始めたんですよね?どうです、はやてちゃんの様子は?」
「全く変わらん。よくもなってないし悪くもなってない。だがまぁ、現状維持ができているという点でいえば御の字ってところか」
「なるほど……他に手伝ってくれそうな人とかは……」
「探すんに一苦労や。大体こんな奇妙奇天烈な話誰が信じるねん。信じたところで避けられるわいや」
八神家と直人は、以前竜二が家に呼んだときに面識がある。そのときはヴィータと直人が対戦ゲームで盛り上がっていたことで、みんなの微笑を誘っていた。またそのときに、直人が竜二たちの許可なしには管理局側に話を漏らさないことを条件に、八神家が抱えている事情をすべて話した。
「それもそうか……なのはちゃんたちの魔力はものすごいし、手伝ってくれればもっと早くなりそうですけどね」
「クロノ君含む管理局の人間がどういうかやなぁ。でも最終段階で何が起こるかわからんし、最悪バレるわけやし……まぁ悩みどころではあるわ」
「ですねぇ……」
竜二自身、信用がならないからといってここまで近づいてきている彼らに全く悟られないまま行動を起こせるなどと楽観視はしていない。ただそれでも、あまり手を出してほしくはないのが本音だろう。
「あ、せやったら、今のうちに俺からあいつらに話入れときましょうか?こっちで片付けるからほっとけって」
「いや、今はまだええわ。どの道完成にはもうしばらくかかるし、焦ったってしゃぁない。急がなあかんのは当然やけど、慌てたところで状況変わらん。それとお前、その言い方で連中が黙って見逃してくれるとでも?」
「……無理でしょうねぇ……わかりました。とりあえずじゃあ今は俺はノータッチで?」
「ああ。そうしてくれると助かる」
「了解っす」
そして直人が顔を離すと、いつの間にかなのはたちが近くに来ていた。
「直人さん、何の話ですか?」
「ん?大人の話」
「うー、私が入るとすぐそうやって誤魔化す!」
「まぁまぁ……ホモォではないから安心してな?」
「お前俺をホモにするとか殺すぞ」
「ギョッ!?彼女さんがいるのに……まさかの両刀!?」
「お前の頭、吹き飛ばしたらさぞ気持ちええやろうなぁ……あぁん?」
「ちょ、すんませんすんません冗談ですあぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
直人がなのはをなだめること数分後。
「ところで、竜二さんとは戦うんですか?」
「ん?そこの執務官殿の許可が下りれば、な」
「出すわけないだろう。相手は民間人だぞ?」
しかしここでなのはが口を挟んだ。
「でもクロノ君。竜二さんは私相手に勝ったよ?」
「な、何!?」
「すごかったなぁ……いろんな武器をすぐに切り替えて使うし、動きもフェイトちゃんくらい速いし」
「いや、スピードはさすがに本気出したフェイトには届かんかったけど……」
「それに、直人が認めた人だもん。大丈夫だよ」
あれから何度か、なのはと竜二は模擬戦を繰り返している。そしてなのはは最初の一回以外、本当の本気で仕掛ける竜二に一切勝てていない。
また、なのはとフェイト二人がかりで竜二に挑んだこともあるが、結果は竜二の勝利。圧勝とは行かないが、かく乱担当のフェイトの動きに竜二がわずか遅れてでもついていけているために、なのはの射撃が当たらないためジリ貧になり、手数と攻撃手段が多い竜二が押し切ってしまう。その後なのはをレーザーブレード一本、そしてブースターの動きだけで翻弄し、プロテクションを突き破って撃破するというチート染みたことをやってのける。
「……ちょっと待ってくれ二人とも。ちょっと状況を整理したい」
クロノが真剣な顔つきをして竜二に向き合った。
「八神竜二さんとおっしゃいましたか?」
「ああ」
「なぜ、民間人であるはずのあなたが『魔法』をご存知なのですか?」
「こいつのせい」
そういって竜二が指を刺したのは、隣でのほほんとしていたアスカだった。
「……そちらの方の紹介は受けていませんでしたね。失礼しました」
「いえいえ。お気になさらず、クロノさん。私は我が主、八神竜二に仕えるユニゾンデバイスのアスカです」
「なるほど。して、どういった経緯で八神さんとはお知り合いに?」
「彼が生まれたときから傍にいましたよ?」
色々端折って隠してはいるが、嘘は言っていない。
「どういうことなんです?」
「赤の他人で、かつ初対面である貴方にそこまで話さなければならない義務はこちらにはありませんよね?そもそもあなた方も時空管理局員でありながらなぜこの地域にいるのか、その説明を全く受けておりませんし」
「……確かに。ここで引いたほうがお互いのためなのでしょう」
「ええ。深い話は、もっとお互いのことを知ってからでもよろしいかと」
相手を怒らせない程度に正論を正面からぶつけていくところはさすがアスカ、といったところか。そのまま半ば無理やりにクロノが話をまとめる。
「とにかく、八神さんが非公認ではあるものの魔導士であることは確認しました。しかしそれとこれとは別問題であり……」
「じー……」
しかしそこでわざわざ効果音を口に出してまでクロノをにらみつけるフェイト。これにはさすがのなのはもたじろいでいる様子。
「ど、どうしたのフェイトちゃん?」
「直人に勝ちたい。竜二さんとの戦いを見たら何かヒントがつかめるかもしれないのに」
「し、しかし、僕にも管理責任というものがあってだな……」
「でもクロノ、直人に勝ったことないよね?」
それが本当なら情けない話である。執務官試験といえば管理局の中でもエリート中のエリートでなければ通れない試験であるからだ。また執務官として与えられる任務も、ほかの管理局員とは一線を画して厳しいものであるが故に、素人に負けるなどありえない。普通は。
「それとこれとは話が違うじゃないか!」
「じー……」
「だから……」
「じー……」
「あのね……」
「じー……」
「……仕方ないか……」
しかし男たるもの、美少女には弱い。どうやらこれはどこの世界でも共通らしい。いや、これはある意味クロノが根負けしたとも言えるだろうか。
「八神さん、少しお話があるのですが」
「なんぞい?」
「お時間の取れる日がございましたらこちらまでご連絡いただけないでしょうか?直人との模擬戦の件で、戦える場を整えさせていただきますので」
そういってクロノはにメモの切れ端のようなものを渡した。それを受け取りつつも、竜二が聞きなおす。
「大丈夫なんか?」
「被害がいくら出てもかまわない場所を、私の権限において用意させていただきます。その代わり、当人同士に何があろうが僕は一切関与しませんので、くれぐれも自己責任でお願いします」
「わかった。恩に着る」
そういって竜二はクロノに頭を下げた。
「いえいえ、こちらが勝手を申しているだけですので礼は結構です」
「……わかった。ほな後日、直人を通じて連絡する。俺たちはこれで」
「お気をつけて」
その他数名の声を受けて、竜二とアスカはバイクにまたがり、帰路についた。それを見送りながら、直人がクロノに話しかける。
「しかしまぁ、珍しいな。執務官殿が主張を曲げるなんて」
「あのままじゃ、いつまでたっても諦めないだろう?」
「まぁ確かに。そんじゃ俺も疲れたし、帰るわ」
「わかった。君も気をつけてな」
「ああ」
そして直人は自転車にまたがって帰っていった。
そんな中、竜二たちが帰るときのひと時。
「ところでさアスカ」
「なんでしょう?」
「俺ら、結局何しにあそこまで行ったんやろうか」
「さぁ……結局何もしませんでしたね」
「わけわからんわー……翠屋でも行くか。腹減ったけど晩飯には早いし」
「お土産もちゃんと買って行かないと、ヴィータちゃんがむくれますよ?」
「わかっとるわ」
結局、全員分のシュークリームを買って帰った竜二たちであった。
それから数日。彼とアスカと直人は、クロノの紹介でとある壊滅した砂漠だらけの世界にやってきていた。ここは以前竜二たちが魔力蒐集のために訪れた世界とはまた違い、生命の息吹一つ感じられない。また今回はなのはとフェイトが立会人というか見学としてついてきていた。
「ここはかつて、とあるロストロギアによって滅ぼされた文明があった世界だ。でも今となっては文化的価値があるものなんてほぼないし、ここが管理世界であるのも管理局員が大規模な魔法訓練を行う為でしかない」
「つまり、思う存分やっちゃっていいよってことでいいんで?執務官殿」
「ああ。そうとってもらってかまわない。しかし以前告げたように、今だけはここで何があっても僕は何も関与しない。送り迎えをするためだけにここにいると思ってもらって構わない」
「わかった。わざわざすまないな、クロノ君」
「お気になさらず」
そういってクロノは距離をとる。竜二もユニゾンを済ませ、バリアジャケットを纏った。
「ほな、俺の出番ですわな。行くで相棒!」
「All right buddy.」
そして直人は、腕のシルバーチェーンを高らかに掲げ、叫んだ。
「ジューダス、セットアップ!」
ダークレッドの魔力光に包まれたかと思うと、直人もバリアジャケットをまとっていた。黒いロングコートに黒のインナー、黒のスラックスに黒のロングブーツ、まさに黒ずくめ。モノトーンとかいう問題ではなく、まさに漆黒。また両腕と両脚部にはシルバーチェーンが巻かれており、ズボンの脚部外側から反対側の外側にかけて黒い布で繋がれている。そして、腰の両サイドにはそれぞれ拳銃の入ったホルスターがセットされており、背中には大剣が背負われている。
「直人、一つ聞いていいか?こないだ聞こうと思ってたんやけど」
「なんです?」
「……それ、どこの悪魔狩りやお前」
「細かいことは言いっこなしっすよ先輩。それ言うなら先輩だってそうでしょ?どこの右目さんですかそのスタイルは」
「……度肝抜かしたるこいつ。アサルトモード!」
そして竜二も戦闘状態に入る。軽機関銃に魔力ブレード、小型グレネードランチャーに魔力ブースターと普段どおりの装備。
「先輩、俺からもう一ついいですか?」
「なんや?」
「どこのゲーセンからそのヒント得ました?」
「お互い様やろが」
「ですな。そんじゃ行きますか!」
そういって直人は二挺拳銃を構えた。それに対して竜二は軽機関銃。
「せっかくお互いこんな姿なんですし、スタイリッシュに行きません?」
「派手に動き回るってか?まぁ漢の夢やな」
「でしょう?んじゃとりあえずこれ、かわしてくださいよね!」
まずは直人が先制攻撃をかける。二挺拳銃による正面への連射に対して竜二は前方へのブーストジャンプでかわした。
「温い!お返しじゃ!」
「おぉっと!?」
「逃がすかボケ!」
「そうそう食らってられませんってな!」
空中から軽機関銃による魔力弾の雨を降らせる竜二。だが、そこまでは直人も読み通りといったところか、サイドロールでかわしている。
「フォウ!そうこなくっちゃ!んじゃ、こいつはどうかな!?」
「舐めんなヴォケェ!」
そして直人は竜二が着地するタイミングを見計らい、抜剣してとびかかる。それに対して竜二も剣で応戦。
「はあっ!せいっ!せやぁっ!」
「らぁっ!こん、のぉっ!」
空中でそのまま斬り合いを繰り広げる二人。互いの動きが早いせいか、周りからは火花以外見えなくなっている。
「すごい……どっちもすごい!」
「なるほどな……なのはたちが負けたというのも、まぁわからなくはないか」
少し離れたところで見学につとめる三人。
「直人さんは今、お兄ちゃんたちと一緒に訓練してるらしいんだけど、それでも互角なんて……」
なのはの兄は、とある古武術の師範代だそうで、かなりのスパルタ。基礎訓練でもかなり過酷なため、始めた当初より身体能力は跳ね上がっている。それでも互角に戦えている時点でヴォルケンリッターの訓練も伊達ではないのだろう。
「竜二さんがもともとすごかったのもあると思うけど、直人も本当に強いよ」
「全く、あの二人は本当に管理外世界の人間なのか疑いたくなるな。なのはもだが」
魔力による身体強化は、基礎能力が高ければ高いほど大きくなる。つまり現状二人が真っ向から戦えているというのはそういうことなのだろう。
「それと君達。見とれるのもいいが、二人の動きについて後でレポートを出してもらうから」
「「ええ!?」」
「当たり前だ。他人の戦闘技術を見るのも勉強の一つ。今より強くなりたいのならなおさらだ」
「それはそうだけど……」
「レポートって辛い……」
「それくらいしてもらわなければ、今日ここに連れてきた意味がない。まずは頭にしっかりまとめてもらうぞ。自分達の動きにトレースしていくのはそれからだからな」
二人にきっちり釘を刺すクロノ。このあたりは流石魔法の先輩かつエリートといったところだろうか。
そして二人は空中でぐるぐると回転しながら、銃撃と剣戟を繰り広げていた。離れれば即座に銃撃、接近すれば剣戟。まさに華やかな戦い方といえるのかも知れない。さらに驚くべきは、ここまで二人に疲労の痕跡が全く見られないこと。まぁ精神が極限状態であるがゆえに気がついていないだけなのかも知れないが。
「まだ行けるよなぁ、アスカ?」
『もちろんです、我が主』
「まだやれんよなぁジューダス!?」
『No problem.』
竜二とアスカも。直人とジューダスも。
「「よっしゃぁ、行くぞオラァ!」」
同時に叫んでさらに加速していく。まだまだ終わりを見せる雰囲気がない二人の戦いは、どこまでもヒートアップしていくように見えた。
だが、終わりとは常に唐突に訪れるものだ。終幕を告げるがごときシグナルの代わりか、クロノの回線に緊急通信が入った。
「艦長?どうされました?」
『クロノ?今すぐその地域から、その場の全員連れて離れて!』
その通信を飛ばしてきたのは、時空管理局本局に所属する時空艦『アースラ』の女性艦長、リンディ・ハラオウン。以前発生したという事件から単独行動権を持つことを許可され、現在独立部隊となっているため、実質の隊長も兼ねているクロノの母親だ。しかし、その見た目は10代の子供を持つ親にしてはとても若々しく、世の女性がうらやましがりそうではあるが。
『正体不明の武装勢力が、そちらの世界に向かったという情報が入ったの。彼らと遭遇してからでは遅いわ。一旦アースラまで撤退して頂戴』
「何ですって!?……了解しました。直ちに全員を連れてアースラまで帰還いたします」
『お願い』
そして通信を閉じ、直人に念話で呼びかける。
『直人!』
『うわびっくりした!?なんやねん突然!?』
驚いてはいてもそれを挙動に出さないところは流石か。しかし、事態は待ってはくれない。
『緊急事態だ!正体不明の武装勢力がこの世界に到着したらしい。直ちに模擬戦を中止し、僕の指示に従ってくれ!』
『それくらいやったら俺と先輩で片付けるけど?』
『バカなことを言うな!向こうの目的も、どれほどの戦力かもこちらは全く把握していないんだぞ!最悪の事態を想定して動くべきだ!』
『あーはいはい。そんじゃ一旦退きますわ』
そして直人は竜二と距離を置く。
「どうした?来ないのか?」
「執務官殿から緊急連絡ですわ。模擬戦は中止、至急アースラまで撤退せよ、だそうですぜ」
「なんでまた突然?まぁ突然だから緊急なんやけども」
「いや全く。なんでも、正体不明の武装勢力がこちらに向かってるんで、遭遇する前にトンズラこきたいらしいですわ」
「やれやれ……まぁ、判断としては間違っちゃないしやなぁ。しゃあない。ばれる前に撤退……」
しようとすると、アスカから念話が届く。
『我が主、どうやら手遅れのようです』
『もう来たのか?』
『ええ。こちらの位置を把握していると思われます。魔導士と思われる魔力反応が30程度、魔力ランクはAAA+~AA+といったところです。こちらにまっすぐ向かってきております』
『30人か……結構きついな』
そして直人に告げた。
「直人。お前はなのはたちと一緒に逃げろ」
「先輩は?」
「どうやらこの場所はすでに連中にばれているらしい。まっすぐこちらに向かってきてる反応があるんやて。とりあえず連中の足止めは俺が引き受けるから、先に行け」
「しかし先輩……」
「大丈夫や、問題ない。こんなときくらいかっこつけさせろ」
そして竜二はまっすぐ飛んでいった。それを見たなのははすぐに彼に念話を飛ばす。
『竜二さん!?』
『すぐ戻る!先に帰れ!』
『でもクロノ君の時空転移もなしにどうやって!?』
『こっちにも時空転移くらいあるわな!ユニゾンデバイス舐めたらあかんで!』
『それとこれとは話が違うと思います!とにかくすぐ戻ってください!』
『ええからはよ行け!ガキのお守りは大人の仕事や!』
『うううう……仕方ありません!』
するとなのはは竜二を追うと、思い切り彼にバインドをかけた。
「ちょ、なのはちゃん!?」
「竜二さん一人が残るより、全員一気に戻るほうが効率がいいんです!」
「いやいや、せやから戻る準備ができるまでの時間稼ぎをやな……」
「何をされるかわからないのにですか!?護りたい人を心配させたいんですか!?」
「ぐぬぬ……」
そこに直人がやってくる。
「なのは、よくやった。そのまま先輩を引っ張ってきてくれ」
「はい!」
「くっそぉ、情けねぇ……」
そしてそのまま竜二はなのはに連行され、転移魔法によって撤退していった。
その数時間後。そこにいた30人の武装勢力は、魔力探知を行っていた。
「あの事件の関係者は、確かにここにいたようだ」
リーダー格らしき若い男がつぶやいた。全員が全員、マシンガンか何かと思われる武器を持っている。
「確かに。緊急離脱でもしたのか、魔力の残滓があからさまに残っているな。お粗末なことだ」
別の男が言葉を返す。
「リンディ・ハラオウン……どうやらあの事件から、艦を部隊化して独立指揮権を得たというのは本当らしい。しかしなぜこんな辺境の世界にいたんだ?」
「そんなことは今はどうでもいい。なんにせよ、このまま黙ってみているわけにはいかないな」
さらに違う男のつぶやきに全員が静かにうなずいてみせた。
「我らが主である、グロリア・マーカスを陥れ、死に追いやった罪、万死に値する。アースラのメンバーだけではない。プレシア・テスタロッサ、そしてナオト・ヤマグチ。我らが復讐、甘んじて受けてもらおう」
リーダー格らしき男が告げた言葉に付け加え、別の男が話す。
「それだけではない。どうやら現在、連中には『闇の書』も絡んでいるそうだ」
「そうか……ならばますます放ってはおけんな。『闇の書』に家族を奪われた同志も多いことだ」
ここでリーダーは一拍おいて話し出す。
「だが『闇の書』に関してはデリケートな問題だ。もともと伝説級のロストロギアである以上、その出現に関しては眉唾物ともとれるものも多い。裏がとれるまではその言葉、外部に漏らすことなきよう」
「心得ている。あくまで可能性の話だ」
「ならば構わない。総員、引き続き調査を続けよう。散開!」
男の声にあわせ、メンバーが散らばっていった。
「プレシアに限らず闇の書まで絡んでくるのか……我らにとって不足なし!」
男はそう告げると、どこかへと走っていった。
後書き
とりあえずしんどい。頭回ってない。
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