| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四話

 
前書き
 再び連続投稿。 

 
「お、なのはちゃんか?」
「あ、竜二さんにアスカさん」

 戦闘訓練開始から1ヶ月のある日、竜二とアスカは普段利用している裏山にやってくると、なのはと顔を合わせた。お互いに示し合わせたわけではなく、まったくの偶然である。

「なのはちゃんも魔法使えるんですか?」
「はい。戦うことは好きじゃないんですけど、こっちの話を聞いてもらうには、やっぱりそれなりの力を持ってなきゃダメなんだって思いまして……」
「へぇ、知らんかったわ。まぁ何があったとか深くは聞かんし、自分で決めたことなら止めやせんよ」

 小学生であろうが一人の人間である以上、その意思を尊重するのが竜二。もちろん自分に比べて物事を知らない上揺らされやすい以上、アドバイスはするつもりだろうが。

「竜二さんも魔法を?」
「ああ。まぁ俺は相棒なしじゃ、ロクに使えやせんけど」
「なるほど……」
「ほなアスカ」
「はい」

 うなずいたなのはを意識の外に置き、二人はさっそくユニゾンした。スタイルは基準となる上一番魔力の消費が少ないソードマスター。

「ゆ、ユニゾンデバイス!?融合事故の可能もあるのに……」
「どうしたのユーノ君?」
「気をつけてなのは。もしかしたら……」

 ユーノと呼ばれたフェレットが何かを叫んでいるが、二人は難なくユニゾンして見せた。ただ、彼らはこれまで何回も繰り返してきた上、戦闘状態でもないのだから事故の起きようもないといえばないのだが。

「行けるか?」
『はい。問題ありません』
「そんな、扱いの難しいユニゾンデバイスをあんなにあっさり……」
「そんなに難しいの?」
「うん、それには設計上の問題があってね……」

 驚いたユーノが解説を始めた。

 ユニゾンデバイスというのはもともと古代ベルカと呼ばれる時代に発明されたもので、デバイスの使用者の意識が何らかの理由で失われた場合、緊急処置としてデバイスの人格が使用者の肉体を操作することができるように設計されている。しかし、そのデバイスの意識があまりにも強すぎる場合は、使用者の意識が戻らないままでいたり、通常状態でもデバイスの意識が使用者を乗っ取ってしまうということが過去の一時期に多発した。これを一般に融合事故と呼ぶ。
 そのためユニゾンデバイスを危険視した時空管理局は、その開発を現在までストップしており、何名かのデバイスマイスターと呼ばれる人間が整備に当たるのみである。ただ、ミッドチルダと呼ばれる魔法体系が元となっている時空管理局局員の中で、古代ベルカのデバイスを使用している者はそもそも珍しいため、あまりその知識が振るわれることはないそうだ。

 以上のことをユーノは語って見せた。

「そうなんだ……」
「俺も知らんかった」
「自分で使うデバイスのこともろくに知らないなんて……」
「しゃあないやん。教えてくれる奴なんぞ周りにおらんかったし、こいつも全く何も喋らんかったし」

 呆れるユーノに反論する竜二。

『そもそも我が主、私以外のデバイスを知りませんよね』
『それも確かやな』
『はっ!?ということは我が主にとっては私が初めての女っ……!?』
『その通りやけどお前黙れ』

 会話の途中に念話で横槍を入れてきたアスカに対してツッコミを入れていると、なのはが竜二に訊ねてきた。

「そういえば、竜二さんはなんで魔法を使うんですか?」
「ん?なんで、とは?」
「私は、最初はユーノくんのお手伝いがしたくて魔法を覚えました。でもそれからフェイトちゃんと出会って、お話を聞いてもらいたくて必死で強くなろうとしました。最終的には直人さんにも手伝ってもらってなんとかなったんですけど……」

 ほうほうと相槌を打ちながら、竜二がツッコミをいれる。

「そうか。深くは聞かんとさっき言ったんだが」
「にゃっ!?」
「まぁええか」

 驚いたなのはを見て、竜二もやわらかな微笑みを浮かべた。しかし、すぐになのはは真剣な顔つきになる。

「……竜二さんにもありますか?そういった、誰かを助けたいとか……」
「あるよちゃんと。守りたい人がおるんや。こんな俺にもな」
「そうですか……私は特別誰をってことはないんですけど、この力を持った以上、知らない世界を知った以上、助けられる人は助けたいんです」
「なるほど。なのはちゃんは助けるための力、か」
「はい」

 竜二にも何か思うところがあるのか深くうなずいた。だがそれはそれとして、と話題を変える。

「さてなのはちゃん、ここで出会ったのも何かの縁や。戦えるんなら模擬戦せぇへんか?」
「にゃっ!?も、模擬戦ですか……?」

 いきなり振られたなのはは手を口元に持ってきて驚く。大人の相手を本気でするとなるとこうなるのは仕方のないことだろう。いきなりそんな話を振る竜二も竜二だが。

「おう。なのはちゃんももっと強くなりたい。俺ももっと強くなりたい。守るため、助けるためとはいえ、力がなければそれができないことがあるのを知ってるわけや。なら、やる理由はそれで充分やないか?」
「た、確かに。それに管理局の魔導士にもユニゾンデバイスの使い手はほとんどいないし、それを扱える魔導士と戦える機会なんてそうそうないからいい経験にはなると思う」

 そういわれるとなのはにも断る理由がなくなる。まぁもちろん大人相手になんて無理ですとか、そんなすごい魔力持ってる人になんて勝負になりませんとか言ってもいいのだが、そうは言わないのがなのはだった。売られたケンカは真っ直ぐ買う。大人しそうな顔をしていても、小学生でもあっても、プライドはしっかり持っているのだ。

「……わかりました。お相手、お願いします!」
「そうこな、な。アスカ、アサルトモード!」
『了解!軽機関銃、スタングレネード、日本刀型魔力ブレード、魔力ブースター。以上で問題ないでしょうか?』
『問題ない。展開!』
『アサルトモード起動!』

 その瞬間竜二は一瞬光に包まれると、次の瞬間には変貌を遂げていた。全身は漆黒の堅い金属のようなもので覆われ、右の腰に日本刀、左の腰に片手でも扱える軽機関銃と手榴弾のようなもの、背中にはブースターのようなものがある。また、両脚部にもブースターの噴射口らしきものが見受けられる。

「す、すごい……このプレッシャー、これがユニゾンデバイスの力……?」
「思ってたけど凄い。やっぱり油断できないね……じゃあこっちも行くよ。ユーノ君、結界お願い!」
「了解!」

 そう言うとユーノはなのはのもとを離れ、どこかへと退避していった。そしてなのはは高らかに叫ぶ。

「レイジングハート、セットアップ!」
「Stand by,ready.」

 なのはの声とともに彼女の胸元のペンダントが光ると彼女を桃色の光が包む。そして竜二と同じように一瞬で戦闘状態に変身した。どこか彼女の通う学校の制服を彷彿とさせるその衣装と、手には長い杖。おそらくレイジングハートの戦闘状態だろう。

「お互い、準備はよさそうやな?」
「はい。いつでもどうぞ!」
「よっしゃ、行くで!とりあえずド素人の一撃、受けきってくれよな!」

 その間合いは、いつの間にとっていたのか10メートル程度。竜二は脚部のブースターを吹かして抜刀し、右側斜め下に刃の切っ先を向けると、一気に接近する。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!」
「な、速い!?」

 そのまま振り上げで先手を取ろうとすると、なのははレイジングハートでその一撃を防いだ。そのスピードとパワーに一瞬ひるんだ彼女だが、休まる隙すらなく竜二の振りおろしが来る。さすがに対応しきれないか、なのはもバックステップでかわす。

「ハァ、ハァ……流石に、体格違うと、こうも違う……?ものすごく一撃が重いッ……」
「どうした?もう息が上がってんで!」

 しかし竜二は逃がさない。すぐさま機関銃に持ち替えて魔力弾による弾幕を張った。

「うそ!?武器の変更が速すぎるっ……!」
「Protection!」

 レイジングハートがすぐに対応してバリアフィールドを展開し、なのはに当たるものは全て防ぎきったものの、そこに再び竜二の刀が襲う。

「くっ……レイジングハートッ……」
「Burst!」
「うおぁっ!?」

 そこでレイジングハートは、バリアを内側から破裂させた。当然竜二も吹っ飛ばされるが、そこからのすぐに体勢を立て直したのは流石といえるだろう。

「くぅっ……やってくれるな!ただじゃ終わらんてか!?」

 すぐに姿勢を整えると、そこには先ほどの装備の彼ではなかった。ガトリングを構え、背中にロケット、左側の腰には手榴弾、腰には何らかの装置。この一瞬で切り替えるにしては早すぎるが、そもそもデバイスのセットアップそのものも一瞬ですむのでこんなものなのかも知れない。

「これがさっきとは別の戦闘態勢、『フルファイアモード』や!動き回るタイプじゃないならこいつで押しきったる!」
「わざわざ情報どうも!」
「おンもしろくなってきたでこいつァ!」

 そして竜二は間髪いれずにガトリングをなのはに向けて連射する。その連射スピードは先ほどの比ではない。

「Protection!」

 しかしレイジングハートも再びバリアフィールドを展開する。どうやらオート発動のようだ。

「まずい、いくらなんでもこれは……!」

 だが、打ち込まれる魔力弾の数がさっきとは段違いである。すぐにバリアにヒビが入りだした。

「うそ!?あんな小さな魔力弾なのにッ……」
「吹っ飛べオラァ!」

 そしてすぐさまロケットに持ち替えて急接近し、バリアとほぼゼロ距離で発射した。流石にこれは抑えきれず霧散する。

「くぅっ!?」
「まだまだァッ!追撃追撃ィッ!」

 そして吹っ飛んでいくなのはに追い討ちをかけるがごとく、ガトリングに持ち替えて連射する。魔力弾が雨のようになのはに襲い掛かる。

「う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 しかし、なのはも飛ばされつつ空中で魔方陣を展開すると、飛行魔法を展開し、その雨の中から離脱した。なのはの足元に小さな翼のようなものが生えている。

「ここまでやるなんて……でも私だって、このまま終わるわけにはいかない!」

 なのはのその言葉とともに、空中で彼女の周りに魔力弾が展開された。その数5個。

「シュート!」

 それらが同時に竜二に襲い掛かった。不規則な軌道を描いて。

「甘い!かく乱するんならもっと動かせや!アスカ、バリア起動!」
『了解!全方向バリア展開!制限時間に気をつけてください!』
『OK!楽しもうやんけ!』

 それに対して腰にある装置を起動させた上で回避行動をとる竜二。すべて下に向けて発射されたものであるため、地面でどうしても魔力が霧散してしまうことを利用してか、それとももともと空戦ができるわけではないのか、地面を滑るように動く。またなのはは砲台タイプの魔導士であるからか、空中ですばやい動きを繰り返すことがまだできないため、空中にいるというアドバンテージを十分に生かしきれていない。

 しかし、竜二はともかくアスカがここで違和感を感じた。 

『ま、まずい!我が主、退避を!』
『言われんでもさっきから動き回って……』

 すると、魔力弾を避けた先でトラップとして仕込まれたバインドによりいきなり体を縛られた竜二。展開していたバリアもキャンセルされ、武装も解除された。身を守るのはバリアジャケットのみで、両手両足を広げられている。

「ぐぅっ、い、いつの間にこんなもんを……」
「文句は後で聞きます。レイジングハート!」
「Divine Buster.」

 そして空中で待機していたなのはは、すでにレイジングハートの先端に魔力を蒐集させていた。どうやらトラップにかかる時間まですでに計算済みだったらしい。

『やっば……アスカ、魔力バースト間に合うか!?』
『おそらくギリギリ……』
『そうか。なら装甲率は上げれるか?』
『後10%ほどでしたら』
『頼む。とりあえず耐え切れたらそれでいい!』
『わかりました。主は私がこの身に変えても!』

 竜二は今回、自分の負けを認めた。まっすぐな性格をしており、また子供であるなのはが罠など仕掛けてこないだろうと思っている部分があった、つまり油断していたのも確かだからだ。

「ディバィィィイイイン……」
「来い、なのはちゃん!遠慮はいらんで!」

 なのはのチャージが完了したのを雰囲気から察したか、竜二が叫んだ。

「バスタァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「かはァっ!」

 桃色の魔力光が、太い直線を描いて竜二へと向かっていった。
 そしてそのすぐ後、意識を失いアスカに担がれて家路に着く竜二と、それを心配しながら見送っていくなのはの姿があった。
 

 
 なのはと竜二のバトルから一週間後、竜二とシグナムの二人は砂漠地帯の真ん中にいた。彼がそこそこ戦えるようになったとみなし、本格的に魔力蒐集に乗り出したのだ。

「大丈夫なんだろうな?」
「そっちこそ。あんまし時間もないんやろ?さっさと始めようや」
「……ああ、そうだな」

 すでにユニゾンをすませ、バリアジャケットをまとっている竜二と、同じくバリアジャケットをまとって愛剣レヴァンティンと闇の書を持ち、戦闘状態にあるシグナム。

『アスカ、索敵結果は?』
『魔力反応、二時方向2キロ先に二つ。おそらく人間かと思われますが、その魔力自体は結構大きいですよ』
『OK。状況は?』
『こちらには気づいていないようです。どうしますか?』
『ならほっとく。今回の目的はあくまで、俺の力を闇の書に蒐集させること。ついでに魔法生物とかおったら、そいつらもいただこう。アスカ、スナイパーモード!』
『了解、MLR-ヴェスパイン、グロックM17、空中機雷、光学迷彩システム、シールドシステム、以上でよろしいですか?』
『無論』
『了解、スナイパーモード、起動!』

 そして竜二は、また別のモードを展開させたのを見て、シグナムは闇の書を起動させる。

「砲撃魔法なんて使えたのか?」
「あるものからヒントを得てね」

 彼の言うあるものとは、なのはのディバインバスターだ。収束砲撃はもともとやってみたかったものではあったらしいが、術式の組み方がわからなかったらしい。たった一週間で術式をくみ上げてきたところは竜二の才能かアスカの能力か。

「なるほど。しかしそううまくはいかないぞ?」
「そのために、これまで何度も練習したんやで。ぶっつけでやるわけあらへん」
「……なら、今回は一発で成功させろよ。これで失敗しようが成功しようが、お前の魔力は闇の書には使えなくなる。つまり成功させねば、書の完成が伸びていくことになるんだ」
「わかっとる」

 竜二は、立ち姿勢でライフルを構えた。鈍く黒光りする長く伸びた銃口が、闇の書の開かれたページに向けられる。

「ヴェスパイン、カートリッジロード!」
「Yes sir.」

 機械音声が反応し、とりつけられたスコープよりわずかに手前側の可動部分が動くと、そこから空薬莢が吐き出される。それと同時に、銃口に暗く蒼い魔力光が収束しつつあった。そして足元のブースターからは、リコイルに耐えるためのわずかな噴射が行われている。

『しかし、魔力光がダークブルーとはまた珍しい……』
『ミッドナイトブルーか、あるいは悪魔の色と呼んでくれ。ダークブルーなどありふれていてつまらんやろ』
『そこまでこだわるんですか……あ、改造車に乗るのは許しませんので』
『なんでよ!?』
『当たり前じゃないですか!地上で車に乗ってて300キロの世界とかいくら私でも護れません!』
『男のロマンを……よよよ』
『そもそもそこまでのお金なんて用意できるんです?』
『……無理ですね、サーセン』

 グダグダしゃべりながらも、発射の準備は整えているのだから流石というべきか。

「ライトレイ……」

 発射準備を完了したのか、照準を書に向ける竜二。

「エクストリーム……」

 離れているシグナムも、緊張か、それとも収束された魔力に対するプレッシャーか、冷や汗が首筋を伝う。

「……バスタァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
『行っけェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!』

 中でアスカも同時に叫んだ。強烈に太い砲撃の光が闇の書を持つシグナムへと一直線に向かう。

「蒐集開始!」
「Sammlung.」

 闇の書に直接叩きつけるかのごとく向かってきたライトレイ・エクストリーム・バスターを、シグナムは真正面から受け止める。頁がすさまじい速度でめくられ、あっという間に埋まっていく。

「なんて馬鹿げている魔力だ……これが本当に魔法を覚えて一ヶ月少々の人間が使えるレベルなのか……!?」

 しかし、竜二はまだ緩めない。

「ヴェスパイン、追加いけるか!?」
「No problem.」
「アスカ!」
『問題ありません!』
「よし。ヴェスパイン、カートリッジロード!追加でフルブーストかけてやれ!」
「Yes sir.」

 これで少しでも早まればとの思いから、カートリッジをさらに二発消費し、さらに魔力をブーストさせる。
  
「もっと、もっと、もっとぶち込めェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」

 周囲に対する衝撃などの影響一切無視の、まさに問答無用で一撃必殺ともいえる砲撃魔法。魔力制御はアスカに完全に任せており、魔力値だけは人並み以上に高い竜二ならではのゴリ押し砲撃である。

「じょ、冗談じゃない、まだ来るのか……だが!」

 流石のシグナムもこのレベルの砲撃魔法は初めて味わうのか、疲労と驚愕に顔を歪ませた。しかし全ては護るべきはやてのためと、彼女は無理やりにでも保たせようとする。

「もうちょっとだけこらえてくれシグナム……はやてのためにも!」

 竜二の活動限界まで、あとわずか……



 そして、光が少しずつ細くなり、やがて消えていくと、シグナムが竜二に支えられた状態で地上に降りてきた。竜二はほぼ着地と同時にユニゾンアウトし、彼が倒れこみそうなところでアスカが支えた。

「……すまん」
「お気になさらず。私はあなたの永遠のお嫁さんですから」
「こんなときでもそれ言うか……?」
「こんなときだからですよ」

 シグナムはすでに呼吸を整えているが、疲労の色は抜けていない。それでもほとんど動けない竜二よりはマシだろうか。そんな彼にシグナムが声をかけた。

「大丈夫か?」
「なんとかな……生きてるよ」

 アスカは白のワンピースに黒いニーソックスと黒いロングブーツを合わせている。竜二は黒のテーラードジャケットにダークレッドのVネックTシャツ、黒のタイトなカーゴパンツに茶色のブーツ。

「まったく……しかし、お前の魔力は一体どこから来てるんだ?一気に200ページ近く埋まったぞ。今日から蒐集開始だというのに」
「1/3近くですか?流石我が主」
「魔力だけは馬鹿げているな、本当に」
「運用するのはヘタクソですけどね……ん?シグナムさん、どうやらまだ終わっていないようです」
「何……なんだあれは!?」

 二人が周りを見渡すと、巨大な竜が一体彼女達に接近してきている。

「おそらく原生生物でしょうね。今の衝撃で目覚めたのでしょう」
「逃げられそうか?私が時間を稼ごう……くっ!?」
「どうしたんです!?」

 アスカの目の前で、突然シグナムがひざを突いた。

「くそっ……私も衰えたのか……?どうやら、体が悲鳴をあげているらしい……」
「そんな……まさか魔力が……?」
「だろうな。どうやら、今の私が戦うのは少々無理があるようだ……認めるのは癪だが。今すぐ逃げられそうか?」
「正直、厳しいでしょう……応援を呼べますか?」
「ここはほぼ隔絶された廃棄世界に等しい。通信設備もおそらくないし、ほかの誰かの居場所を探るまで少し時間がかかりそうだ」
「なら、ここは私が時間を稼ぎます。これでも、主のそばで戦ってきたのですから」

 シグナムからすればあまりにも意外だった。あくまで戦闘に関しては竜二任せで、彼女は魔力制御のみを行っていたものと思っていたからだろう。まぁそれも間違ってはいないのだが。

「……大丈夫なのか?本来あなたはサポート役のはずでは……」
「誰がそう決めたんです?私は万能型なんですよ」

 そう強気な言葉を返すと、アスカは白銀の光に一瞬包まれると、竜二と同じバリアジャケットをまとう。そして、日本刀型のデバイスを片手に飛び上がった。鞘にしまったままで腰の右側に持ち、竜と向き合う彼女。その間合い、およそ300メートルほど。そして、彼女は突然シグナムと念話をつないだ。

『あ、シグナムさん』 
『何だ?何か問題でもあったか?』
『いえ、問題というわけではありませんよ。先程時間を稼ぐとは言いましたが……別にアレを倒してしまっても構いませんよね?』
『大丈夫だ、問題ない……と思う』
『了解です。状況を開始します』

 念話を切ると、刀の持ち手を左手で強く握り締め、竜に向かって突撃していった。そこでシグナムは、信じられないものを見る。



「せええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええい!」



 彼女らしからぬ雄たけびを上げたかと思えば、次の瞬間には竜の後ろに回っていたのだ。さらに驚くべきは、その上で竜の胴体部分から体液のようなものが出ていた。
 つまり彼女は、あの一瞬で300メートルほどあった間合いを詰めたどころかすり抜け、一撃を与えたのだ。戦士でなくともそのすごさは一目瞭然であろう。

「な……なんて無茶苦茶な……一体今、何が起こった……?」

 戦いを見物する傍ら、ほかのヴォルケンズの探索をしていた彼女だが、この一瞬だけは途切れさせてしまった。ある意味、無理もないが。
 しかし竜も、ここで黙ってはいない。そんな傷などものともせぬとでも言うのか、高らかに雄たけびを上げると、口内で炎が作られる。

「流石竜種というわけですか。しかしここで出会ってしまったのが運のつき。闇の書の糧となってもらいましょう!」

 そしてアスカは刀を光に変えると、西洋の大剣、いわゆるバスターソードと呼ばれるものを背中に担ぐと、再び竜に襲い掛かる。




 そんなさなか、シグナムの扱う救援信号に一人が応答を返してきた。

『シグナム!?どうかしたの?』
『シャマルか。時間をとらせてすまない。少し手違いがおきて、竜二殿が疲労困憊状態だ。応援を頼む』

 この信号魔法は、通じた者と通信を繋ぎ、位置情報を相手に送ることができる。しかし悪用を防ぐため暗号化されており、解読に時間がかかるのが欠点か。

『竜二さんがそんなになるなんて……アスカさんは?』
『原生生物と戦闘中だ。本来なら私が戦うのだが、わが身の残存魔力とカートリッジに不安を感じてな』
『それほどの相手なの……?わかった。この通信を探知して、急いでそっちに向かうから、しばらくつなぎっぱなしにしておいてもらえる?』
『すまない、助かった』

 そして通信回線を開いたまま、アスカと竜の戦いを注視するシグナム。

「勝てなくてもいい。負けてくれるなよ、アスカ殿……」

 今戦えない我が身を恨みながら、ただ空を見上げていた彼女であった。



 そして、アスカと竜の戦いも終結を迎えようとしていた。ただ、実際は戦いというより、アスカ自身のテストマッチとでも言おうか。彼女自身が一人でも戦えるかどうかを確かめていたようにも見える。

「しかし、私ができるのはあくまで主の焼き直し。主より早く動けても、主より剣の振りが鋭くても、それは主に対して私が勝っていることにはなりません」

 しかし、それでも彼女は竜二にはかなわないという。

「あの独創性や多数の武器の切り替えなど、私にはとても真似できませんしね」

 確かに、さまざまな武器を一瞬で使い分け、装備すらも一瞬で判断する。竜二の強さはさまざまな武器を扱えることで広がった選択肢の数、ということなのだろうか。

「それでも、こういうときに主の盾や剣たりえるなら、それでも私は十分かと思ってしまいますが……」

 ある意味自嘲染みた呟きをもらしながら、アスカは竜と対峙する。

「さぁ、そろそろ次の一撃で終わりにしましょう」

 バスターソードを光に変換し、刀へと変えた。そして鞘にしまったまま、再び最初に一撃当てたときと同じ構え。そこで優雅な微笑みを浮かべると、次の瞬間には竜の後ろに抜けていた。

「ふむ、まぁまぁな動きでしょうかね。主に見られればなんと言われるかわかったものではありませんが」

 アスカが刀を鞘にしまうと、それと同時に竜の首が綺麗に斬られて落ちていった。それに合わせてシグナムは闇の書を展開し、魔力を蒐集することも忘れていない。

「すまない……だが、私達にはこうするよりないのだ」
「ごめんなさい……しかし言い訳などいたしません。安らかにお休み下さいませ」

 魔力と命を亡くした竜に、シグナムは敬礼し、アスカは合掌していた。 
 

 
後書き
 首痛い。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧