薬剤師
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第四章
第四章
「やっと二人きりになれたね」
「ええ、全くヴォルピーノさんもセンブローニョさんも」
「困ったことだよ」
「もう帰ったかい?」
名前を呼ぶとだった。そのセンブリョーニョが店に出て来た。ひょっこりと顔を出して二人に対して声をかけてきたのであった。
「ヴォルピーノさんは」
「あっ、はい」
「もう帰られました」
二人はすぐに顔を離して彼に応える。
「お早いお帰りで」
「今しがた」
「そうか。毎日来て騒がしい人だからな」
実のところセンブローニョにとってもヴォルピーノは厄介な客であった。人間としてもかなりうっとうしい性格ではあるが客としてもそうなのだった。
「早く帰ってくれて何よりだよ」
「ですよね、本当に」
「お薬だけ買ってもらったらいいんですけれど」
「全くだよ。じゃあまた調合に戻るから」
「はい」
「それじゃあ」
これでまた引っ込むセンブローニョだった。彼が消えると二人はまた見詰め合う。そして今度は互いに抱き合いそのうえで話すのだった。
「早く一緒になりたいね」
「ええ」
抱き合ったうえで話すのだった。
「何とか一緒になって」
「そして幸せに」
「愛がまずないと」
「お互いのね」
それぞれ言葉を出していくのだった。
「この世の中は全く面白くないから」
「それがあってこそね、本当に」
こう言葉を交えさせているとだった。ここでまたセンブローニョがやって来たのである。
「ああ、新聞だけれど」
「あっ、新聞ですか」
「それはここに」
またセンブローニョが出て来て慌てて離れる二人だった。咄嗟にその新聞を手に取って差し出すのだった。
「どうぞ」
「よく読んで下さいね」
「気分転換も必要だからね」
センブローニョは二人には気付かずこう言うのであった。
「だから新聞をね」
「ええ、まともな新聞を読むとためになりますからね」
「是非共」
「それじゃあ」
センブローニョは新聞を受け取ると姿を消した。二人はまた向かい合う。今度はより熱心に見詰め合い愛の言葉を語り合うのであった。
「何時までも一緒に」
「ええ、何時までも二人で」
手を取り合っての言葉だった。
「このミラノで幸せに暮らそう」
「天国までも二人で」
「グリエッタ」
「メンゴーネ」
そしてまた抱き合うのだった。
「二人で何時までも」
「何処までも」
熱く抱き合う。この時またしてもセンブローニョが出て来た。しかし二人はこのことには気付かなかったのだった。
「眼鏡は何処だ・・・・・・待て!」
その二人を見て思わず声をあげたセンウブローニョだった。
「一体何をしとるんだ!」
「あっ、しまった!」
「見つかった!?」
「見たぞ、はっきりと見たぞ!」
センブローニョは二人に対して怒鳴りだした。
「許さん、減給だ!」
「減給って今でも安いのに!」
「何て無慈悲な!」
「そうでなければ鼻に唐辛子を入れてやる!」
何気に妙にお仕置きがせこいセンブローニョである。
「それか耳にマスタードを塗るかどれがいい!」
「じゃあ唇に蜂蜜を」
「それか・・・・・・いやそれがお仕置きになるか!」
「それなら給料のアップを!」
「駄目に決まっておるわ!悪ふざけもいい加減にするのじゃ!」
「だから落ち着いて」
騒ぐ二人の間に入って宥めるグリエッタだった。
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