ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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ファントム・バレット編
Crimson Ammo.
死の弾丸
Sideアスナ
「皆さんは既に知っての通り、お兄様はSAO事件以前に茅場晶彦と知り合い、協力関係にありました。ナーヴギア初のVRMMORPG、《ソードアート・オンライン》の象徴たる、ソードスキルを完成させるために」
仮想スクリーンは既に他のプレイヤーを追い始め、ぼろマントの姿は既に無い。
「その過程でお兄様は茅場晶彦のやろうとしていること、1万人のプレイヤーを電子の牢獄に捕える企みを察知し、公的機関からの依頼で1人でも多くの命を助けるために彼の世界へ向かいました」
息を吐くのも忘れ、全員がセラの言葉に耳を傾ける。
「しかし、お兄様はかの世界で――全員が殺人者とはいえ――12人の命を奪った。これは他のレッドプレイヤーと比べても少なくない人数です。SAO事件の罪は全て茅場晶彦が負うことになっていますが、お兄様だけは事情が違いました。……これを非とした機関の上層部はお兄様の帰還後、司法取引――日本でこれは違法ですが――を持ちかけ、12個の殺人罪を取り消しました。全部で3つ。その1つがちょうど1年前、世間を騒がせていた、後に《ALO事件》と称された事件の解決。この結果は、ご存知ですね?」
アスナを気遣わしげに見やったセラはなおも話を続けた。
「長くなりましたが、ここからが本題です。もう1つ、SAOに心を歪められた人物の『始末』。もちろん、危険ならば『処理』もやむなし、という意味です」
「……………」
全員が何も言えなかった。彼の事を何も理解していなかったからだ。心の片隅で彼を恐れ、その事について考えるのを避けていた。同時に理解した。彼にとって自分達は『日常』の象徴であると。
自分達に時おり見せる、あの寂しげな表情は助けて欲しかったのだと言うことを……。
そこで、セラは声色をガラリと変えて言った。
「しかし、以上の事が無くても、お兄様はGGOに向かったでしょうね」
「どうして……?」
訊ねると、セラは少し不満げな、しかし笑顔で答えた。
「お兄様にとって、皆さんは私達家族と同じぐらい……いえ、それ以上に大切な人達ですから。キリトさんがGGOに行くなら、当然付いて行ったでしょう。……アスナさん」
セラは表情を真面目に戻してアスナに向き直った。
「アスナさんは2人の依頼主が誰だか知っていますね?事情を聞きたいので、何とか連絡を取ってくれませんか?」
どこまでも兄を思うセラに微笑み返して、アスナは大きく息を吸うと言った。
「まかせて。……本当は皆も知っている人だからここに呼び出して問い詰めるわ。絶対、何か知っているはず。ユイちゃん、私がログアウトしている間に、GGO関係の情報をサーチして、さっきのぼろマントのプレイヤーに関する事を調べてくれる?」
「了解です、ママ!」
肩から飛び立ったユイはテーブルに着地すると、そのまま目を閉じて、ネットの中から情報を拾い出す作業を開始する。
「……じゃあ、みんな、ちょっとだけ待ってて!」
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Sideレイ
「……………」
あの後、治療キットでHPを回復させながら最大限急いでキリトの元へ走った。
が、
「やべぇ、帰りたくなって来た……」
ここまでフリーダムな護衛対象は今まで居なかった。多分。
まあ、このバカでかいフィールドで合流するのは難しい。
何より『動いてる』という事はつまり、《死銃》を追っている(もしくは逃げている)事になる。
《索敵》スキルの派生《追跡》を発動し、視界に足跡を表示する。足跡は3人分。
「……っと、ナルホドね。こりゃあ、不味いな」
やれやれ、と首を振りながら全速力で駆け出す。
(間に合ってくれ……)
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Sideシノン
キリトがスタジアムの廃墟に向かって走っていく。その細い背中が遠ざかるのを見つめながら、シノンは奇妙な感覚が生まれるのを自覚していた。それは、1人になる心細さ。
朝田詩乃が、シノンが心の奥底で恐れて、屈してしまっている孤独感……寂しさ……。
――そういえば、あれは何時の事だったろうか。
特に狩に出かける訳でもなく、何となくGGOに入って、人の出入りが激しい大衆酒場で飲み物をちびちびとやっていた時の事だった。
『ここ、空いてる?』
紅いマントを着た黒髪のプレイヤーが困ったように苦笑いしながら向かいの席を指していた。
周りを見ると、いくつかのスコードロンが席を占領していて、個人で席に居座っているのはシノンだけのようだった。
一瞬、席を立とうかとも考えたが、どう見ても下心の無い人にそれは失礼だ。
故にシノンは小さく頷き、了承の意思を示した。
しばらくして、気がつけばシノンは頬に微笑すら浮かべながらその人物と話していた。
銃の事や様々なスキルの組合わせ、戦略など。考えてみれば手の内を明かす行為ではあった。しかし、それを感じさせない、その人物はそんな人だった。
『寂しさは紛れたかな?』
その言葉を浴びねば、後でこんな考察を垂れる事も無かっただろう。呆気に取られ、硬直するシノンに謎めいた表情で微笑むと、その人物はその場から消えた。
カチッ、と脳内で音がしてハズルのピースが嵌まる。アイツだ。キリトの連れの拳銃使い。
数日前、ベヒモスとの戦闘の後、邂逅した。あれは2度目の遭遇だった……。
だが、何故?キリトと目的が同じならば、《死銃》の噂が広まる以前に何故、この世界に――、
突如として飛来した一筋の弾丸が思考をせき止める。
途端に体が硬直し、動けない。
着弾点を見ると、銀色の針が刺さっていた。そこから発生した糸のようなスパークが、シノンの腕から全身へ流れ込んでいる。
電磁スタン弾。
ペイルライダーを撃った、あの弾だ。だが、どうやって……!?
その答えは視覚によってもたらされた。20mほど離れた何もない空間、そこから人影が現れた。
ばさり。
風に翻るダークグレーの布地の毛羽だった長いマント。頭部を覆う同色のフード。
――《死銃》――アキュラシー・インターナショナル・L115A3を操る沈黙の暗殺者
幽霊が滑るように近づいてきて、シノンから2m程の距離で止まり、しゅうしゅうと軋むような囁きが流れ出した。
「……キリト、レイ。お前達が、本物か、偽物か、これではっきりする。……あの時、猛り狂ったお前達の姿を、覚えているぞ。この女を……、仲間を殺されて、同じように狂えば、本物だ。さあ……、見せてみろ。お前達の怒りを、殺意を、狂気の剣を、もう一度、見せてみろ」
そう言って懐から取り出したのは、ペイルライダーを殺したあの黒い銃だ。
月明かりがそれを差し、正体が露となる。ゾクッ――……。
体が動かない、いや、頭が働かない。
円の中に、黒い星。
黒星54式。
シノンのトラウマである、根本的な問題。
……この銃を持った敵を倒す。それが、この世界で戦い続ける訳。しかし―――、
思考が停滞したシノンはその銃を見上げる事しか出来ない。
巨大な諦念が頭を支配する。何もかもが無駄だった。過去を断ち切ろうと足掻いてきた事に意味は無かった。
(……せっかく)
ようやく解りそうだったんだ。《強さ》の意味、戦う事の意味。
あいつの隣に居れば――……
幾重もの銃声が轟き、仮想の空気を掻き乱す。
「間一髪、かな?」
「オイコラ、エイコッグ。当てんなら脳天に当てろや」
「ムリ。僕そこまで精密射撃できませーん」
「なら何故やったし……」
「……お2人さん、漫才なら他所でやってくれ」
死銃の黒星は白煙を上げているが、シノンは死んでもいなければ、ダメージもない。
対して死銃は右肩と左肩からオレンジのダメージエフェクトが瞬いている。
現れたのはアサルトライフルを構えた『エイコッグ』、さらに前大会10位で機関銃使いの『ルージュ』。そして――、
「貴様……『紅き死神』!!」
「やあやあ、久しぶりじゃないか……で、誰だお前」
言うなり左手が閃き、瞬間、死銃の左頬から激しいダメージエフェクトが迸る。
「ふうん。この距離からコレ避けんのか。やるな《死銃》」
「わお、《不可視の銃撃》。ギャレっちの御家芸じゃなかったけ?」
「さっき見て盗んだ」
「やるなぁ、にいちゃん」
緊張感の無い会話をしながらも鋭い眼光を叩きつける3人に死銃はバックステップで後退する。
「相変わらず、愉快な仲間を、集めるのが、上手いようだな」
「お褒めに預かり至極光栄。では、最後の役者で中休みと致しましょう。―――やれ、キリト」
その言葉と同時に両者の間に円筒の物体が投げ込まれ、直後に煙が巻き起こる。
「…………!」
ぐいっ、と持ち上げられ、煙が晴れない中、その場を離脱する。
「2人とも、すまない。後は任せた」
「おーけー!」
「心得た」
数秒後銃声が鳴り響き、ぴゅんぴゅんと流れ弾が飛んでくる。
シノンを抱えた人物、レイはまるでそれらが見えているかのように左右へかわしている。
スタジアムを抜け、メインストリートをしばらく走ると、道路の真ん中に巨大なバイクが鎮座していた。
「遅いぞ!」
「お前が俺から離れまくるのが悪い」
「うぐっ……」
バイクにはサイドカーが付いている。レイはそこにキリトを蹴り込むと、リアシートにシノンを座らせ、自分が操縦桿を握った。
その時、
「………ッ、キリト!振り抜け!!」
――バシュッ!!
突如レイが叫び、キリトが超反射で飛んできた弾丸を払う。
「しっかり掴まってろよ、シノン」
ドルンッ。
レイはいきなりフルスロットでバイクを発進させると、猛然と砂漠地帯に走り出した。
――逃げ……切れる……?
「……マジかよッ!」
そんな淡い希望はレイの毒づいた声に掻き消された。
遠ざかりつつある廃墟。
その合間から搭乗アイテムである、ロボホースを駆る幽鬼のようなあのぼろマント、《死銃》が見えた。
ただ、死銃は1人ではない。と言うより、手綱を操っているのは他のプレイヤーだった。
「アイツは……!!」
「どうした!?キリト」
「もう1人いる。多分、死銃の協力者……ラフコフの生き残りだ!!」
「なるほど……あの2人が易々と突破されるワケだ」
瞬間、レイは操縦桿を握ったまま腕力だけで逆立ちし、スルリと早業でキリトと操縦を代わる。
打ち合わせした様子もなく平然と『最速スピードで走りながらの運転手交替』という荒業をやってのけた2人は驚くシノンをそっちのけで、次の行動に移る。
キリトが前方に現れる障害物をかわすために右へ左へ車体を揺らすが、レイは驚異的なバランス感覚でサイドカーの上に直立した。
装備フィギアを素早く操作し、その右手に出現させたアサルトライフル―――コルトM4カービンを片手撃ちする。
ワンハンドショットと言われるこの高等技術は相当のSTRもしくは卓越した反動制御のプレイヤースキルが必要だ。見たところレイの筋力値は対物ライフルを扱うシノンより相当低いと思われた。とすれば、レイの場合は後者なのだろう。
しかし、2人の幽鬼を乗せたロボホースはその銃撃を巧みにかわしてなおも距離を詰めてくる。
「キリト、後何秒だ」
「10……いや、7秒後。いくぞ!!5……4……3……」
キリトがカウントを始め、レイがアサルトライフルの下に付けてある円筒の物体に手を伸ばす。
「2……1……今!!」
「発射ァ~!!」
レイが危険な笑みを浮かべながら底のスイッチを実に楽しそうに押すと―――、
――シュバッ………ドォォォォォン!!!!
バイクの後方で炸裂したグレネード弾がロボホースを巻き込み盛大な爆発を撒き散らした。
「……何撃ったんだよ、レイ」
「ん?グレラン」
しれっと返しながら弾を再装填しているレイが、爆風を見やって小さく舌打ちする。
「直撃はしなかったみたいだな。時間稼ぎが精々か……」
「距離を取れただけで十分だ」
しばらく走った砂漠の真ん中でバイクを停止させると、レイはポーチから双眼鏡を取り出して走ってきた方向を見る。
「今んとこ大丈夫みたいだな。どっか隠れるところは……」
シノンは辺りを見回して赤茶けた洞窟を見つけると、弱々しく掠れた声で言った。
「……あそこ、多分、洞窟がある」
「おっ、そうか。確か洞窟ってんのはスキャン避けられるんだっけか。よし、行こうぜレイ」「……ああ」
一行は再度バイクに乗り込むと、洞窟に向かって走り出した。
後書き
エイコッグとルージュの戦闘シーンは次回。
死銃の協力者とはいったい!?
というわけで、やっと書き直しが終わった……。
グレラン使っちゃった事に後悔はない!
以降、心の叫び↓↓↓↓
約1万人を電子の牢獄に閉じ込めた世界初にして最悪ののVRMMORPG、《ソードアート・オンライン》
そのデスゲーム開始から半年後。
今だ熱の引かぬVRゲームのニーズもあり、『絶対安全』の謳い文句で開発された第二世代フルダイブマシン《アミュスフィア》の発売に合わせ、各ゲーム会社は様々なVRゲームを売り出した。
人気を博したのはやはり、VRMMORPG。中でも《アルヴヘイム・オンライン》は《フライト・エンジン》を搭載することで、《飛行》を可能にし、日に日にプレイヤー数を増やし続けている人気ソフトである。
これはその黎明期。
9種族、その他の自由戦士達が群雄割拠し、領土戦、縄張り争い、下剋上、などの混迷期を権謀術数を駆使し平定するまでの物語である。
乱立する戦場を転戦し、全てを叩き伏せた2人の《戦神》
心に深く切り裂かれた、後に《姫鬼》と恐れられた少女
亡き弟を思う心優しき《弐刀使い》
彼らが1つの大きな力になるのは誰も知らぬ遠い未来。されど全てはここから始まった。
戦え、栄光のために……。
『《紅き死神》番外編・~ALfheim Online at dawn~傷だらけの戦士達』
――近日公開――
っていうのをすんごくやりたいです……。いつか。
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