ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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ファントム・バレット編
Crimson Ammo.
来訪者
Sideルージュ
「2人とも、すまない。後は任せた」
「おーけー!」
「心得た」
何とも不思議な事だ。ついさっきまで撃ち合っていた人物に手を貸し、あまつさえ本当に死ぬかもしれない相手に戦いを挑んでいる。
自分はいつからそんな自己犠牲ができる性格になったのかをよく考えてみたいものだ。
だが、そんな心理に変えたのは隣でアサルトライフルを構える友人、あるいは別の世界でゲームを楽しんでいるアイツの影響かもしれない。
――10分前……
ザッ……。
今にも崩れそうなビルの廃墟にひやひやしながら背を付け、息を殺す。
ターゲットは200mほど向こうから走ってくる鮮烈な赤色のマントを着た拳銃使いだ。
身を隠す気がない、つまりは撃たれてからでも反撃できるという自信があるのだろう。
スキャンの度に堂々と姿をさらし、近寄ってきた敵を根こそぎ倒していた。
(……チャンスだ)
それにも関わらず、今のヤツの表情には余裕が無かった。原因は分からないが、もしかしたら残りのHPが少ないのかもしれない。
残り、100mを切った。勢いよく地を蹴る音が近づいて――、
「やっほー、ルージュ♪」
「おわわわぁぁぁ!?」
ビクッ―――ズガガガガ!!
突如聞き覚えのある声で呼ばれ、力の入っていた指がトリガーを引いてしまう。走ってきたプレイヤーが驚いて立ち止まり、拳銃を向けてくる。
(……こんの、バカ野郎ッ!?)
あー、バカのせいでこんな死に方かよ。よし、今度腹いせにキルしてやる。
などと、危険な思考をしているが、いっこうに銃弾は飛んでこない。
不思議に思って拳銃使いの方を見ると、エイコッグとハイタッチしていた。
「イェーイ♪」
「いぇーい……」
テンションに明らかな差はあったが。
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「……とまあ、そんな訳で急いでんだ。またな」
拳銃使い――レイは《死銃》についての話を一通り終えると、立ち去ろうとする。
「いやいや、『またな』じゃないだろ!?」
「うん……?」
何の事だ?的な感じで首を傾げるレイをどうにか引き留め、エイコッグを見る。
GGO内で比較的仲が良く、性格も大方把握していると思っていた彼はしかし、見たことのないような真面目な表情をしていた。数秒の沈黙の後、エイコッグが不意に口を開いた。
「手伝う」
「「はっ?」」
突拍子のないその言葉にレイも俺も間抜けな返事しか出来ない。
「古今東西ゲームは楽しむためのもの。それ以外の要素は無いよ。だから、『殺人』なんて以ての他。これは『殺人』だよ。『PK』じゃない。……そんなの『人』としても『兵士』としても許せない」
「……だとしてもだ。お前の信念は自分の命を掛けるに値するのか?」
「するさ」
即答。この世界を人一倍楽しんでいるエイコッグは相棒のアサルトライフルを担ぎ直しながら言った。
「俺はこの世界ではそうゆいやつらを止められるだけの力がある。それを今使わないでいつ使うのさ」
その目に抱くのは信念の光。幾度となく俺が羨望したその光だった。それに俺は、
「俺も行こう。コイツだけじゃ危なっかしいしな」
気付けば口を開いていた。
「おい……。ルージュ」
「俺の主武装は分隊支援火器の機関銃だぜ?むしろ着いて来て下さいだろ」
「……やれやれ」
レイは苦笑いすると、「頼むわ」と言って走り出した。
エイコッグがニヤリといつもの調子で笑った。
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「邪魔を、するな。お前達に、用はない」
「そうかい。でも君の事情は知らないんだなぁ、《ステルベン》君?」
エイコッグが挑発的に言い放ちながらベレッタで近接戦を挑む。
エイコッグの本来の間合いは300m超からのミドルレンジの撃ち合い。ハンドガンの扱いはあまり上手くなかったはずだ。
しかし、それは《死銃》もまたしかり。レイの話では《彼の世界》において、トッププレイヤーも恐れる敵だったらしいが、まともな近接武器はこの世界に存在しない。
相手から見て右方向、同時に警戒するならば利き手を開かざるを得ないよに動きながら(近距離での撃ち合いは利き手を開かせると優位に立てる)M240を肩から落とし、2人の間合いが離れた途端トリガーを引き絞る。
死銃は低く舌打ちしながらバックステップし、懐から投擲弾を取り出し地面に叩き付けた。
「…………ッ!?」
眼球運動でバイザーを遮光モードに切り替え、視覚だけは守る。
――ギンッ……!!
強烈なフラッシュと高音が撒き散らされ、隙が生じる。
「無駄だ!!」
エイコッグが肩からライフルを素早く下ろすと、片手でそれを連射する。当然弾は狙った所に飛ばないが、何せ距離は10mもない。五ヶ所程に新たなダメージエフェクトの尾を引きながら死銃はさらに後退する。
徐々にコロシアムの壁際に追い詰め、死銃がヒタッ、と壁に背を付けた所で止まる。その時、戻ってきた聴覚に死銃の声が響いた。
「ここで、お前達を殺るのは、簡単だったが、どうやら、それは出来ない、ようだな。お前達の、大会は、ここで、終わりだ」
「は?何言ってんのさ。明らかにお前が詰んでるだろ」
「エイコッグ、油断するな。下手すると即死攻撃は1つじゃないかもしれん」
ソロソロと間合いを詰め、2人のメインアームが必中の距離に入った。
どさっ。
頬が硬い地面に着く。隣でエイコッグも倒れて動かない。
(……何が!?)
視界端のHPバーが黄色く点滅し、麻痺状態を知らせる。
「アハハハ。引っ掛かった~。『飛んで火に入る夏の虫』……あ、今冬か」
「五月蝿いぞ、《ボッシュ》。早く、殺れ」
「待って下さいや、《ザザ》さん。『罠師』にゃ、罠師の殺しの美学ってもんが有るんでさぁ~」
「『紅』と『黒』、後『ターゲット』に、逃げられる。『紅』に、時間を与えると、面倒だ」
「あ~……。確かに面倒っすね。仕方ないかぁ~」
コト、コト、と俺とエイコッグの目の前に黒い物体が置かれる。
「……はぁ。君ら、それ、動体センサーで起爆されるから。麻痺解けても動けないよ。出来るのはお喋りと瞬きぐらいだね。どっちが動いてもそこでEND。……んじゃ、後で殺しに来てあげるから。バイバイ」
死銃の仲間らしき、そいつの姿は見れなかったが、雰囲気で分かった。
―――コイツは、《死銃》より人格的にやばい……
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Sideレイ
洞窟に入るとまずウインドウを開き、装備フィギアをいじってマントを除装する。次にアイテム欄から《タクティカル・スーツ》なるものを選択し、装備する。
「おお……」
一瞬の発光の後、現れたのは拳銃のホルスター、カラビナフック、自動拳銃の弾倉を収めるための小さなポケットetc。
どうやら複数武器を装備しておける装備フィギア拡張アイテムらしい。重量は増えるが、動きに支障は無さそうだ。持ってきた武器を片っ端から装備し、あちこちに収める。
再びマントを装備し、最後にコルトM4カービンライフル(M203グレネードランチャー付属)を背負って少し動いてみるが、何とか行けそうだ。
「……大丈夫なのか、それ」
「問題ない」
「……………」
キリトは呆れたようにため息を吐き、シノンは呆然としている。
まあ、大体似たような反応だ。
それはともかくとして、
「《透明化するマント》。盲点だったな……」
「ああ。でも、ここなら大丈夫だろう。この荒い砂じゃ足音と足跡は消せないしな」
あいにく《聞き耳》スキルを修行した経験は皆無だが、システム外スキル《聴音》には大いに覚えがある。乾いた風の音に不協和音は確認出来ない。今のところ問題は無いだろう。
キリトとシノンに奥へ行くよう促し、俺は1人入り口の少し奥で耳を澄ます。
HPは先程から応急キットで治療中だが、焦れったいほどに回復速度は遅い。
砂漠の果てを横薙ぎにスキャンし、足跡が無いことを確かめると振り返って奥に入って行った。
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「どうだ?」
「異常なし。ま、アイツらも派手に吹っ飛ばしてやったし、しばらくは仕掛けて来ないサ」
空気が暗かったので、おどけた調子で答えたが、両者ともにノーリアクション。
眉間繰り抜いたろか。
無言のまま数分が過ぎ、キリトが沈黙を破った。
「……レイ、そろそろ行こう。シノンはここで、もう少し休んでいるといい。本当はログアウトして欲しいけど……大会中は出来ないもんな……」
「え……」
シノンが驚いたように顔を上げる。俺はその目に驚きと、恐怖、そして寂しさを感じた。
(……メンタル面のケアか……。俺の最も苦手な分野だな)
《Yui》の基幹プログラムを組んだ時に興味本位でちょこっとかじって投げた覚えがある。
「……まだ、戦うの?」
「ああ。あいつは強い。あの黒い拳銃の力なんかなくても、それ以外の装備やステータス、何よりプレイヤー自信の力が突き出ている。あの銃を向けられたら、正直、逃げない自信が無いな」
「自信が無いことをハッキリ言うなよ……。そういう訳だから君をこれ以上付き合わせられない。いくら俺達が強くとも、『守りながら』の戦いはジンクス的にも縁起が悪い」
キリトは一瞬目を閉じると、真剣な表情で同意を示した。
「……あなた達でも、あいつが恐いの?」
「ああ、恐いさ。《死銃》1人ならともかく、もう1人居たなんて不覚だ。もう1人も殺す力を持っているとしたら……」
「1人倒した隙にこっちが殺られる。……俺はまだ死ぬわけにはいかない。やらなきゃいけない事があるからな」
「俺も、守りたいものが、色々出来たからな。死ぬわけにはいかない」
レイもその言葉に微笑して頷き、しゃがむとシノンの顔を覗き込む。
「シノン」
その声は先程までとは違う、暖かな、優しい響きだった。
「君は心に闇を持っている。俺達にはそれが何なのかは分からない。訊こうとも思わない。君は、それに悩んで、苦しんで、辛かっただろう。……でも、俺が思うに君はソレと向き合えるんじゃないかな?」
「え……?」
「君はそれでも『今この瞬間』を生きている。それが答えなんじゃないかな?闇を消すのが『強さ』じゃない。抗い、立ち向かった瞬間、それが真の『強さ』だよ。さあ、君はどうして今、戦っているんだい?」
言葉の余韻が消え、辺りが静寂に戻った。
シノンが震える唇を開け、答えようとした、その刹那―――、
『緊急警告:宇宙生物接近中。ISLラグナレク上陸まで後30分。個体名:『レギオン』、兵士型950体、飛行型30体、要塞型15体、砲撃型4体、統率個体1体。計1000体。危険度Sランク』
「……やれやれ、ちんたらしてる場合じゃなさげだな」
「で、でも事前にそんな告知……」
「ドッキリイベントだったんだろうな。この状況じゃ楽しめたもんじゃないけど……」
突如としてやって来た宇宙からの珍客。それは、BoBを更なる混沌に陥れて行く……。
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Sideルージュ
「……だってよ。エイコッグ」
「……どうしようか」
「これって宇宙人が近寄ってきて、動体センサーで爆発してもろともお陀仏パターン……」
「嫌すぎる!?」
そろそろ寝転がっているのも暇なので、ゆっくり、ひじょーにゆっくりとセンサーから遠ざかりつつ(成果:10cm)、駄弁っている。幸い感度はそんな良くないようで、くしゃみ程度(さっきエイコッグがやりやがった)なら問題ないようだ。
だが、現実はそうは上手く出来ていない。
「ん?」
ふと、足元に目をやると、野良ネズミっぽい小動物がいた。
それがチョロチョロと爆弾に向かって歩いて行くではないか。
「おいっ!ちょ、ま……!?」
「どうした?」
「ネズミがセンサーの前にッ!!」
「えぇっ!?」
視界がスローになる。
ネズミは無垢な顔で鼻をヒクヒクさせながらだんだんと顔の横を横切ろうとしている。
(ああ、何か憎めないッ!!)
そんなもどかしさを抱えながら俺は目を閉じた……。
後書き
ネズミで思い出したけど、『紅き死神』にアルゴが一回も出てきてない……。
まあ、いいか(笑)
どうも、久々の更新の割りには話が中々進まないっす!
ついでに執筆も進んでない!
怠けている訳ではありませんよ?決して。
シノンさんの苦悩具合をどうやって解こうか苦心してるんです。
シノンは何となくシリカやリズみたいにテキトーに扱う(オイ……)気にならないので、丁寧にやって行きます。
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