神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第二十七章 目指す場所へ《3》
前書き
神の協力を得た日来、辰ノ大花までもう少し。
いざ、スタート。
周りに威圧を感じならがも、近付けないのでは恐れても仕方無い。砲撃を放つものの、先程よりも多くの防御壁で全てを受け止める。
見えない壁に黄森はどうすることも出来ず、優勢だったのは今や過去のこととなった。
外装甲から身を乗り出し、後方の戦闘艦を遠目に見るセーランは視線をそのまま、
「なんか今の日来無敵っぽくね?」
セーランの背後からアストローゼが来て、同じく後方を見る。
「大規模守護系加護・天域のお陰でもあり、アマテラスのお陰でもあるな。このまま辰ノ大花へ行けそうか?」
『予想以上に防御壁で流魔を消費してしまいましたので、幾らアマテラス系加護が強化されたとは言え、朱鳥天の戦闘後に宇天の長救出はキツくなるかと判断出来ます』
「霊憑山すっ飛ばして辰ノ大花に行けたらいいんだけどな」
「そんなこと出来るか馬鹿が」
半目でセーランはアストローゼの方を向くが、一方の彼はそれを無視した。
後ろから皆がくすくすと笑うのが聞こえる。
霊憑山はすぐそこだ。船首は既に上に傾き掛けており、横断する準備へと移っている。
霊憑山の斜面から風が流れるように風が吹き、それと同時に伝文|《メール》がセーランの元へと来た。
「送信者不明、またアマテラスからか。にしてもよく送ってくるな」
伝文のアイコンが表示された映画面を押し、伝文の内容を確認する。
『再びこんにちは。もしよろしかったら日来の移動に力を貸しますよ?』
今度は短く、セーランはアルトローゼに伝文を見せた。
それを読んだアストローゼは頷き、今度はその伝文を皆に見せた。
「アマテラスからの伝文のようだ。日来の移動に力を貸すと言っているがどうする、私はこれには賛成だ」
「わたくしも賛成ですわ。力を借りられるなら今はそれに甘えるべきかと」
「それには異論はないが、アマテラスがここまでする理由とは何だ」
疑うつもりではないが、理由も無く神が人に協力することに飛豊は違和感を覚えた。
飛豊の問いに答えるように再び伝文が送られてきた。こちら側に映画面が向いてあるため、セーランは操作してもいいと視線で示す。
どうも、と頷くことで応答とする。
『私がここまで致す理由は、ここが最後の信仰地であり拠り所であるからです。日来の消滅は私の消滅と等しく、日来が存続することは私が存続するのと等しいのです。
ですので、私は私を生かすために手を差しのべているのです』
書かれていた文を読み、これを見て納得する。
確かにそのような理由であるならば、アマテラスが私達に協力するのは当たり前だ。
神も消えることは怖いのだろうか、と余計なことを考えながらも飛豊はセーランに言う。
「お前の考え、アマテラスにお願いしてみればいいんじゃないか。ショートカット出来るならそっちの方がいいしな。皆もそれでいいだろ」
皆は頷く。
そうか、とセーランは言い、アマテラスにお願いすることにした。
「それじゃあ、アマテラス、様? 違和感あるな、アマテラスでいっか。目の前の霊憑山すっ飛ばして辰ノ大花にショートカット出来るか」
伝文がまた来た。
『空間移動ですね。可能ですが、これを行うと力をかなり使うのでしばらく協力出来ません。それでもいいと言うならば』
それでも答えは決まっている。
「頼むわ、この日来を辰ノ大花に送ってくれ。日来を救うために、そのついでに世界を救うためにさ」
伝文の受信音が鳴り、
『分かりました。ここから先は一切の連絡は取れませんので、力が回復したならば再び連絡致します。では、行ってらっしゃいませ“日が来訪する場所に存在する者達”よ』
読み終わり、前を向けば上へ傾いた船首が向く先。空間に亀裂が入り、それが大きな円となり暗黒が中から見える。
亀裂の大きさは日来がすっぽりと入る程大きく、まるで巨人の口のようだ。
混乱を避けるため“日来”は即座に連絡を飛ばす。
『これより日来は万象宗譜|《トータルスコア》に加護を提供している唯一の神、アマテラス様のご協力により辰ノ大花へと移動致します。目の前に見えます空間の切れ目はその為の道ですので、皆様混乱為さらぬよう』
連絡が届き終わる頃には船首の先が切れ目の中へと入り、それを防がんばかりの砲撃を黄森の戦闘艦は放つ。
しかしその砲撃は日来に届かず、無数の防御壁により防がれるだけだった。
●
「何なんだ、あの切れ目は!」
黄森の戦闘艦のなかは極めて張り積めていた。
突如として日来に近付けなくなり、先程は幾らか通っていた砲撃が今は全て弾かれている。
まさかの事態に備えるため切り札の黒明二艦を呼んだのに、その二艦はステルスに障害が起きたとか。結果としてステルス航行を行えないばかりか、戦闘艦は皆、日来に近付くことさえ出来ない。
鉄鋼艦としては前方に砲門を多数搭載し、主砲も機体の中に搭載している珍しい仕様だ。短期戦闘を意識した特殊な戦闘艦であり、そのため長期戦闘には向かない。
他国との交戦が何時行われるか明確に分からない今、これ以上の戦闘は黄森や神州瑞穂にとって有益にはならない。
それを悟った一人の隊員は、
「もう彼方側に任せる他ありません。日来に近付けないだけならまだしも、砲撃を全て防がれてはこちらは打つ手がありません。燃料のことも考えると、これ以上の戦闘は――」
止めた方がいい、と言おうとした時だ。前方に見える日来を目に映す隊隊長は、怒りをぶつけるように壁に拳をぶつけた。
音に若い隊員は驚き、経験を多く積んでいる隊員は真剣な顔立ちとなる。
「まだ終わったわけではない! 辰ノ大花へと戦闘が持ち越されるだけだ。いいか、我ら黄森は神州瑞穂の頂点。頂点は絶対で無ければならない。俺達の後輩達は日来に負ける程柔ではない!」
諦めるわけにはいかない。
力無き神州瑞穂は黄森により強化され、他国と対等の地位を得た。
自分勝手に動く日来は今の地位を揺れ動かす危険な存在でしかない。そんな者達に自分達は負けてはならない。
悔しさを隠し、辰ノ大花にいる仲間へこちらによる日来の阻止不可の連絡を飛ばした。
●
黄森の戦闘艦による砲撃が止んだ。
先程まで鼓膜を打ち付けるような音が連発していたが、今は加速機の音と大気の流れによって生み出された風が通る音が聞こえるだけだ。
静かな今が嘘のように感じられた。
皆が落ち着く頃、“日来”が口を開く。
『目的地・辰ノ大花、移動時間不明。各船の機械人形は、担当の船の管理を怠らないようお願い致します』
一拍置いて、
『日来は速度に乗ったと判断出来ます。各船、加速機を噴かせ速度上昇に努めて下さい』
連結して日来をつくる八船は加速機の動きを上げ、海を渡るかのように流魔の波を起こした。
日来は前へ、波は後ろへ。斜め上に全体を傾けさせ、切れ目のなかへとその巨体を入れる。
加速する日来は切り目へと吸い込まれるように、黒の空間へと消えていく。
巨大な日来の全体が消えるのにそう時間が掛からなかった。切れ目から日来が消えるにつれ、切れ目はその口を閉じて現実空間から日来を切り離した。
かつて日来と呼ばれた地には巨体な穴が一つあるだけで、地上には何も残ってはいない。
その上空には幾つもの戦闘艦が寂しく、加速機の音を奏でているだけだった。
●
遠い未来。そこは何時からか“始まりと終わりの湖”と呼ばれ、神葬世界に奇跡と喪失をもたらした存在がいたとされる。
その名は日来。
その名は日が来訪する場所。
その名は片腕無しの宿り主。
彼の、彼らの行動が世界の歯車を動かし、後の世に彼らの行動は伝説として語られる。
その伝説は世界を変えるために生涯を捧げた一人の学勢による、奇跡と喪失の物語である。
●
暗黒の空間を見渡す片腕の無い少年、セーランは闇を照らす照明の明かりを受けながら仲間の元へと歩く。
コンクリートの地面を打ち付ける音が鳴り、その場にいた者達は音の鳴る方へと身体を向ける。
「逃げ切れたみたいだな」
「そうですわね。ですが今までのは序章に過ぎませんわ、本番はこれから」
「……本当に動き出すんだな」
改めて飛豊は思ったことを口に出す。
加速機の音は聞こえるが、風の動きが感じられない摩訶不思議な空間のなかでそう改めて思った。
日来を守るため独立させること、そしてその後に世界を相手に崩壊進行を食い止めることを。
不安が感じられるその言葉に、
「怖いか……?」
問うのはセーランだ。
その問いに顔を縦に振る。
「ああ、もし失敗したら日来どころか私達もどうなるか分からないからな」
「だよね。メリットよりデメリットの方が高過ぎる。こんなこと世界から省かれた者や国から逃げて来た者達が集まる日来しかやらないよ。もっとも、こんな世界に不安を持ってるのは日来住民だけじゃないけどさ」
レヴァーシンクは飛豊の答えを肯定する。
進んでいるのかいないのか分からない空間のなか、彼らは会話を続ける。
「それよりもこれから辰ノ大花へ戦闘仕掛けるんだ、そろそろ準備していた方がいいんじゃない?」
言葉を続けたレヴァーシンクに入直は頷き、
「そうだよ、アタイの騎神見に行かないとね。あれ陸空装備だから定期的にメンテナンスしないとだからねえ」
「メンテナンスは任せてよ。それに騎神専用の武器もあるんだ、それの最終チェックもしないと」
「……行くなら早く行くぞ……」
「ジューセンが動きたくて仕方無いようだし、アタイらはここで失礼するよ」
じゃ、と左手を挙げた入直は継叉とジューセンを連れてその場を後にした。
「そう言ういやあ、変形した際に区域の配置も変わったんだったね」
「区域じゃなくて区画ね。先輩に連絡取れば分かるんじゃない?」
「別の船への移動は重力力場で作られた道を通るんだったっけな。宙に浮いた道を通るとなるとワクワクするねえ」
笑う入直を先頭に歩く三人の姿が遠くなり、ぼやけ、そして消えていった。
皆はその後ろ姿に手を振るのを止め、残りの者達で集まった。
「皆は準備とかってないんですか?」
美兎が皆に向けて言う。
機械部三人組を見て思った。自分は特に無い、と言うよりもまだ非戦闘員なのでする必要自体無い。
美琴や飛豊、来い和も非戦闘員。たぶん灯も。
学勢だからと言って、学勢全員が戦闘員とは限らないのだ。
質問に初めに答えたのはネフィアだ。
「わたくしはこれがあれば十分ですが、制服が汚れてはいけないので着替えて来ますわ」
と、右の手首に付けている銀の腕輪を見せる。
汚れ一つなく、銀が周りの光を反射させる。
「何にでも形を変えられる不思議な腕輪ですよね。日来に来た頃から付けてるのに今でも綺麗ですね」
背の低いロロアが銀の腕輪を見て言った。
「これは一応神具なので手入れはちゃんとしてますの。でも神具とは言え、正式な使用者として認められていないせいか、本当の能力が使えませんのよね」
「ですけど持ち前の身体能力でドカーンですよね」
「半獣人族と言えども獣人族の能力は受け継いでますので、並の者では敵ではありませんわ」
誇らしげにネフィアは胸の前で腕を組み、自信満々の仁王立ちを披露した。
おお、と関心するロロアの視線が輝く。
しばし話してから、ネフィアは着替えるために集団から離れた。
彼女にも手を振り、姿が見てなくなるまで振り続けた。
「基本このクラスって戦闘準備とは必要無いよな、魅鷺は忍兼侍だけど準備は?」
「忍具は隠し持っているで御座るよ」
セーランの問いに魅鷺は手を後ろ、腰辺りにやり、そして皆に見せるように手を表に出せばそこには忍刀が握られていた。
鉄の刀は手入れが行き届いており、彼女の生真面目さを表していた。
皆に披露したので用済みの忍刀を宙に放り投げ、落ちてくるところを両手で掴むと同時に忍刀が消えた。
「まだ侍ではないので忍刀や手裏剣などの忍具しか所持しておらぬが、隠し持てるところが利点で御座るな」
「侍になるために試験とかあったっけ?」
「実力試験みたいのはあるで御座るが、特に試験などは無いみたいで御座る。侍とはそう言われるだけで特別な権限も持つわけでは御座らぬから」
「じゃあさ、なんで魅鷺ちゃんは侍になりたいわけ? 登吊家って代々続く忍の家系なんだからさ、忍の方がいいんじゃないの」
疑問符を頭に浮かべるテイルが言った。
「その言葉は多く耳にするが、しかし侍がいいので御座るよ。忍は隠れて後ろからの卑怯な戦法を取るが、侍は正面を向けての真剣勝負。拙者、そんな戦いを望んでいるので御座る」
「妹よ、家系に囚われては視野が狭まるだけだ。時には親に反抗し、視野を広げることも大切なことだ。分かったかい? 分かったのならたまには兄に優しく接してくるといい」
「兄ちゃん気持ち悪いから嫌だ。部屋のなか、巨乳の女性ポスターとか巨乳系のエロ本隠してなくてそのまま置いてあったし。そんな兄ちゃんに優しく出来るわけないじゃん」
「いいかい妹よ。乳とは女性の象徴、つまり巨乳は最も女性として女性らしいということだ」
「言ってることが意味分からないんだけど」
真剣に巨乳について語る兄を見て、見下すような視線を送りながら呆れた。
何故こんな人が兄なのだろうと、自問自答を繰り返した。
そしてこの話しに男性共が乗っかってきた。
「俺は、俺を頼ってくる女性が好みだな。俺が守ってやらないといけない、という使命感にられるからな」
「――妹系ですわね」
「い、いやそう言うわけでは。あ、ネフィア嬢何ですがその蔑むような視線は。と言うか着替えに行ったのでは!?」
ネフィアは鼻で笑って、ルヴォルフに背を向けた。
誤解だとルヴォルフは説得を試みるが効果は無く、謝るしか道は残されていなかった。が、ネフィアはジャンプ一つ入れ消えていった。
地に膝を付くルヴォルフを他所に、トオキダニが話しに加わる。
「何故ネフィアが戻って来たのかは知らんが、やはり女性と言ったらキツめ系眼鏡女子だろう。ツンだけで構わない、デレは無理矢理発動させてやるからな」
「トオキンは本見て悲しい妄想だけしてればいいネ」
「彼氏もいない奴がよく言う」
「む、うちだってそのうち彼氏出来るもン。まだ学勢だから恋愛に励めないだけネ、それに恋愛は遊びでしたくないかラ」
「ほう、少しはマシなことも言えるのだな。オレも恋愛はするなら真剣にしたいからな、急ぐことも無い」
「リュウも恋したいぞー」
「あんたはまずその見た目どうにかしなさいよ」
「でっかく、格好よくなってやるー」
灯の言葉にやる気を燃やし、リュウは宙を高速で回転する。
風を切るように短く連続で音が鳴り、回転速度が上がっていく。しかしリュウは目を回し、宙に浮いていた身体が地に落ちた。
「無理しちゃ駄目ネ、まずリュウは成長することが先だナ」
「そうだなー」
空子に地からすくわれたリュウは目を回しながら肯定する。
間が空いたところへ、今度はセーランが入ってきた。
「俺は巨乳とか妹系とか眼鏡女子とかじゃなくて、身体のラインが綺麗な人がいいな」
「何よセーラン、あんた年下派なんじゃないの?」
「俺は昔っからライン派だぜ。特に年齢制限は掛けてないよ」
「何よ何よ、若い男達で青春の話して」
年老いた声が若い声のなかに加わった。
誰かと思い、声のする方へと皆は身体を向ければ、榊が上から地面に着地したところが目に入った。
“日来”と一緒にいた筈なのだが、今はここにいる。
セーランは“日来”が映る映画面を確認したが、どうやら“日来”本人にも何時抜け出したのか分からないようだった。
「学長がなんでここに来てるんだ」
「ここに来ちゃいけない理由でもあるのかい?」
「別に無いけどさ」
一本取ったと内心喜びながら、
「あそこ機械人形だけだったからさ、人がたった一人とか心悲しいから逃げて来たわけ」
「それにしても何時抜け出して来たんだよ。全然分からなかったぞ」
「現役時代は覇王会務めてたからねえ、今でも当時の逃げ足の速さは健在というわけさ」
「覇王会なのに逃げてたって、一体どんな事やらかしたんだよ」
「秘密秘密。若いうちに色々やっておいた方がいいってことさ」
はあ、と無関心の心を吐く。
息を切らし笑う榊は笑いを堪え、視線を真っ直ぐに向けた。
「高等部の学勢達には校庭に集まるように言ってある。多分社交院も別の所で集まっていると思うよ」
だから、
「日来学勢院覇王会会長として、宇天長を救いに行くって言い出した責任者として、皆の士気を上げとかなきゃだよね」
「そうだな。日来覇王会がやっと、きちんと機能するんだもんな」
榊は映画面を表示。それをセーランの元へと移動させる。
停止の文字が表示されており、通信するには映画面を一度押す必要がある。
セーランが左手を挙げると同時に、この場にいる皆は映画面に映らないよう範囲に移動した。
一息。肩の力を抜くように息を吐き、大きく肺を膨らませるように息を吸った。
後書き
辰ノ大花に向かって日来が動き出しましたね。
朱鳥天との戦闘は避けられましたが、果たしてどうなるのやら。
空間移動についてはまたの機会で話します。
しかし、物語は中盤越えてるんですが、そのような雰囲気伝わっていますか?
第一物語・前半は何故主人公達は動き出すのか、を伝えるものでした。
後半は宇天長の救出をメインに、神州瑞穂に属する者達の意志、闘争を書きたいと思っています。
何故に命を犠牲にするのか、また命を奪うのか。
どちら側にも日常と言うものがあり、必ずしも絶対の悪とは言えません。
国を守ること、地域を守ることは、そう単純な話ではないのかもしれませんね。
次回は空間移動中の日来から始まります。
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