ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第64話 そして、勇者の帰還へ・・・
俺とソフィアは、これからのことを考えていた。
大魔王ゾーマの事、そして勇者のことだった。
大魔王については、勇者にまかせた。
本来、大魔王を倒すのは勇者の仕事だ。
本心から言えば、俺の手でタンタルの仇を討ちたいところだが、正直戦力が不足している。
それに、光の玉を勇者に手渡した時点で、俺達がゾーマを倒すことは不可能に近い。
次善の策として、勇者のパーティを助けることを考えていた。
だが、3人では戦力不足なので、仲間を加える必要がある。
母ソフィアの参加を考えていたが、国王に断られた。
大魔王の再襲撃に備えて、魔法防御の結界を強化する必要があるからだ。
「これ以上被害が増えないように」
と言われたら、俺は文句を言うすべがない。
そのため俺も、ソフィアを手伝っていた。
その一方で、俺達は3姉妹への対抗策を考えていた。
3姉妹と戦う場面が有るとは思えないが、俺の行動に疑念を持てば俺を襲う可能性も否定できない。
俺とソフィアが、モシャスで3姉妹に変身すれば何とか3姉妹に対抗できる。
単純な個々の戦闘力では、俺達の力では相手にならない。
何しろレベル99だ。
だが、追いつくための方法はある。
変身呪文「モシャス」だ。
モシャスで、3姉妹に変身することで同等の能力まで引き上げる。
さらに、ソフィアには秘策がある。
「隼の剣」である。
隼の剣は、攻撃力こそ低いが、物理攻撃回数が倍増するという特殊効果を持っている。
ソフィアは冒険に参加できないため、3姉妹がアリアハンで俺たちに襲いかかるという前提が必要になる。
裏技に近いが、隼の剣を装備してモシャスを唱えると相手の攻撃力をそのまま受け継いで、物理攻撃回数が倍増する恩恵をあわせて受け取ることができる。
ひょっとして、竜に変身する呪文「ドラゴラム」でも可能かと思ったが、さすがに無理だった。
ここらへんは、SFC版を準拠しているようだ。
あとは、セレンの回復と勇者の裏切りがあれば3姉妹を倒すことが出来るはずだ。
俺は、密かに特訓を続けた。
たぶん俺は、何かに集中することで忘れることができると思っていたのだろう。
特訓の途中で、ふとエレンズ先輩のことを思い出した。
エレンズ先輩は、かつて、エレンズバークの創設者であったが、革命騒ぎで牢屋に入れられている。
しばらくすると、ほとぼりがさめたのか再び勇者と一緒に冒険の旅に出ることができるようになったはずだ。
俺は、エレンズ先輩に会い、彼女と話をした。
エレンズ先輩は、もう一度世界を回り、自分がすべきことを見つける旅をしたいと答えた。
俺は、エレンズ先輩を牢屋から出すように町の代表者に掛け合った。
町の代表者は俺に対して、最初いやな顔を見せたが、町の開発をエレンズ先輩に依頼した老人と俺のお話によって、解放してもらえることになった。
エレンズ先輩は、俺に対してお礼を言うと、しばらく住んでいたことのあるポルトガでしばらく生活することを伝え、俺はエレンズ先輩をロマリアまで送ることにした。
俺の父親が死んだことを知ったエレンズ先輩は、俺のことをやさしくなぐさめてくれた。
俺は、セレンとテルルに何を話せばいいのかわからなかった。
ただ、2人は、俺が何のために冒険したのかは理解したようだった。
そして、その冒険が失敗に終わったことも。
セレンとテルルは、俺が特訓めいたことをしていることを聞き、俺に手伝いたいと言ってきた。
「俺は、3姉妹を倒したい」
俺は答える。
魔王を倒し、そして大魔王を倒すであろう勇者一行を倒す。
そんなことをすればどうなるか、あきらかだ。
だから、俺たちからは攻撃することはできない。
俺は、そのような危険に2人を巻き込みたくなかった。
それに、3姉妹を倒しても何の解決にもならない。
だが、2人がいなければ俺は何も出来ないのも事実だ。
「襲われたら、助けるわよ」
「今度こそ、回復役をまかせてください」
テルルとセレンは、答えてくれた。
とはいえ、3姉妹がいつアリアハンに出現するのか、わからない。
セレンは教会の手伝いを、テルルはキセノン商会の手伝いをしていた。
結局、特訓は無駄に終わった。
父親が殺されてから一月後に、勇者が、アリアハンに戻ったからだ。
1人で。
勇者が発見されたのは、アリアハンの入り口だった。
倒れていたところを衛兵が発見し、確保した。
勇者のこれまでの旅を聞き取るため、母ソフィアと何故か俺も呼ばれていた。
「母さんは宮廷魔術師なのでわかるけど」
「アーベル、あなたは海軍司令官なのよ」
「でも、それはロマリアの」
「この前、王様にその話をしたらアリアハンでも任命する話になったわ」
ソフィアは俺に辞令書を手渡す。
何を勝手に決めたのだと思ったが、追及するのはやめた。
現在俺が使用している船は、ロマリア王国所有の船だ。
俺が船を勝手に使用しても問題ないように、ジンクが用意してくれた役職がロマリア海軍司令官だった。
肩書きとしては、おおげさではあるが、ロマリア保有の船が1隻なので問題ない。
それに、元国王であったこと、ポルトガ海軍との協力で船を取り戻した事から、ロマリア国民からも文句はでなかった。
もともと、ポルトガから船を入手したのも俺だった。
一方アリアハン海軍も、ロマリアと事情は一緒である。
国が所有する船が1隻しかなく、その船も勇者を誘拐した3姉妹が強奪した。
この時点で、俺が海軍司令官に任命された理由はただ一つ。
奪われた船の奪還である。
実は、奪われた船の場所だが、既に見当はついている。
3姉妹が船を強奪した目的は、船よりも遙かに便利な不死鳥ラーミアを入手することだった。
ラーミアを手に入れた3姉妹は、船をどうしたか?
そのままにしたに違いない。
船が破壊された可能性も皆無とはいえないが、ロマリア沖に一度船を乗り捨てた実績もある。
あとは、目の前の勇者に最終確認するだけだ。
奪還した後の船をどうするか。
そのことが、俺を海軍司令官に任命した理由になっている。
俺が船を取り戻したときに、これまでのロマリア海軍司令官の役職だけだと、船をアリアハンに返還する前にロマリアの意向を反映する必要がある。
発見と、返還の礼として、なにか要求される可能性もある。
そこで、俺にアリアハン海軍司令官の役職を与えて、船の奪還作業はアリアハンが行ったことにするというのが、理由だ。
それでも、苦しい言い訳だが有って困るものでもない。
というのが、アリアハンの判断だ。
というわけで、ソフィアは俺が海軍司令官の役職を得るように働きかけて、認められた。
「というか、任命されたのはいつの話しだ?」
俺は、ソフィアに確認する。
「船が奪われた翌日よ」
「知らなかった」
「そんなことを気にする余裕は、なかったからね」
ソフィアの言葉に俺は頷く。
「そうだね・・・」
「・・・すいません。私が非力なばかりに、皆さんにご迷惑をおかけして」
「気にするな・・・」
「いいのよ、気にしなくても・・・」
「・・・。え?」
「え?」
俺とソフィアは、お互いに顔を見合わせている。
目の前にいる勇者がしゃべっている。
俺が知っている勇者はしゃべれなかった。
正確に言えば、俺が昔に開発した呪文「しゃべりだす」(仮称)を作成したときに、しゃべることができるようになった。
だが、しゃべることが出来る内容はあらかじめ、勇者が心に深く刻んだ言葉だけであり、しゃべる声も、俺の声しか、覚えさせていない。
そして、勇者がしゃべった言葉は、俺の声ではなかった。
というよりも、
「女だったのか?」
勇者は、少しすねた感じでうなずいた。
「・・・。母には、ゆうかんなおとこのこのように育てられましたから」
「アーベル、知らなかったの?」
ソフィアから追及の視線を受ける。
ソフィアも知らなかったようだ。
だからソフィアは、俺に誤った情報を与えたのではなくて、誤った情報を信じて俺に提供したようだ。
アリアハンの機密情報の管理は、非常に徹底している。
「勇者は実は女である」と言う情報を隠すことに、意味があるかどうかは不明だが。
「初めて知りました」
「あら、そうなの」
ソフィアはニヤニヤ笑っていた。
たぶん、ジンクの話をテルル達から聞いたことを思い出したのだろう。
だが、ジンクの話であればソフィアも俺と同罪だ。
同じ師匠から学んだもの同士、お互いのことを知っていたからだ。
重ねて言うが、俺が、勇者が女だと知らなかったのは本当の話だ。
さすがに、知っていて知らない振りをしたら、セレンとテルルに殺されるだろう。
理由はわからないが。
「セレンとテルルは知っているのか?」
俺は勇者に問いただす。
「ご存じでした」
勇者が答えてくれた。
「なぜ、2人は俺に教えなかったのだ?」
「すいません。秘密にしてもらうように2人にお願いしました」
「なら、仕方ないな」
俺はほっとしてため息がでた。
これで、2人から追及はないだろう。
「ちなみに、2人はいつ頃気がついたのだ?」
「3人で遊んだときです」
勇者は顔を赤くしてうつむいた。
なにか、恥ずかしい思い出でもあったのか。
詳細は話してくれなかった。
「・・・。ということは」
俺は顔を真っ赤にした。
俺とセレンとテルルがアリアハンを旅だった日のことを思い出した。
なんてことを勇者に言ってしまったのか。
俺と勇者がお互いにうつむいて黙っていると、ソフィアが俺達に話しかけた。
「今日は、お見合いで来たわけでは無いのよ」
「・・・。そうだった」
俺達は、勇者から冒険の話を聞くために来たのだ。
勇者にいろいろ確認したいことがあるが、最初の質問はこれだ。
「どうしてしゃべれるように、なったのだ?」
「すいません。大魔王を倒したので、ようやくしゃべれるようになりました」
大魔王のせい?
だが、原作にそんな設定があるとは聞いたことがないし、そもそも、俺に謝る必要などない。
と、俺の疑問を母親が代わりに質問してくれた。
「・・・。あなたは、あなたのお父さんが亡くなったと聞いた日から、しゃべれなくなったと聞いたけど」
「ごめんなさい。勇者の役割を果たし終わるまで、しゃべれなかったのです」
「どうして?」
俺は勇者に質問する。
勇者オルテガは、普通にしゃべっていたはずだ。
「実は私は、勇者ではありませんでした」
「・・・。え?」
「なんですって」
俺とソフィアは驚愕した。
俺はともかく、この国の宮廷魔術師であるソフィアも知らなかったとは。
「父が亡くなったと知らされた後、私は母親の言葉をうけ、勇者の素質があるか確認しました」
少女は少しだけ顔をうつむかせる。
「しかし、私に勇者の素質が無いことが判明したのです」
目の前の少女はたんたんと話す。
髪型のせいか、どちらかというと美少年に見える。
「そのことを知った王と大臣と母親は、国民の希望を絶やさぬ為に、私を勇者にしたてました」
当時、アリアハンには勇者候補生は誰もいなかったはずだ。
そのことが、少女を勇者として、したてあげる要因になったのだろう。
その後、新たな勇者候補生があらわれたが、ようやく10歳になったところだ。
結果的に、国王達の判断は正しかったのだろう。
俺の個人的な思いとは別にして。
「それで、しゃべれなくなったと?」
「私が嘘をつけないことを知っていた母親は、私が勇者の役割を終わらせるまで、しゃべらないことを私に約束させました」
「しょうじきものだったのね?」
少女は頷いた。
「私は代わりに、アーベルさんと一緒に冒険することをお願いしました」
俺は頷いた。
いろいろしでかした俺達が、勇者と一緒に旅を行うことが認められた理由の一つだったのだろう。
「本来なら、そこで私の秘密が明らかになる予定でした」
「まあ、一度魔王を倒した実績のある俺達と一緒だったら、問題ないと判断したのか?」
少女は頷いた。
「しかしながら、彼女たちと一緒に冒険することになった私は、魔王を倒すまでしゃべることができなくなりました」
少女は、悲しそうに俯く。
「・・・。大丈夫だったのか」
俺は覚悟を決めてたずねた。
タンタルのこともある。
思い出したくないかもしれないが、何があったのかは聞かなければならない。
3姉妹の次の行動を予測するために。
「私はさらわれたわけではなく、3姉妹のお願いに応えようとしただけです。
一度も何もされませんでした」
「ほんとうか?」
少女はうなずいた。
「彼女たちは、「妹たちに再会するために旅をしている。
そのために、勇者の力が必要だ。
だから、自分たちについてこい」といっただけでした」
「そうか」
俺は少女の目を見たが、嘘は言ってないようだ。
とりあえず、俺とソフィアは魔王バラモスを倒すところまで話を聞いていた。
3姉妹の行動は、俺が推測したとおりの展開だった。
すばやく、ロマリアに移動し、あらかじめ強奪していたロマリア王家の冠を城内に置いておく。
王冠が発見された騒ぎを利用して、ロマリアの船を強奪。
強奪した船で、ロマリア海域に出没する幽霊船に潜入して、重要アイテム「あいのおもいで」を入手。
ロマリア海域が封鎖された事を知ると、今度は俺に変身してアリアハンから船を強奪した。
その後、世界各国を訪れ、オーブを6つ集めると、不死鳥ラーミアを復活させる。
そのまま、魔王バラモスを襲撃したのだ。
俺は彼女達の行動のすばやさに感心する。
タイムアタック並に洗練されている。
だが、ここで疑問も生じた。
「なんのために、あなたがさらわれ、いえ、一緒に冒険を要請されたのですか?」
ソフィアもうなずいていた。
彼女たちのレベルは99だ。
どう考えても、レベル1の勇者をつれて歩く理由がない。
戦力としては、邪魔にしかならないのだ。
俺の疑問に答えてくれたのは少女だった。
「私の事を、「フラグ」と呼んでいました。意味はわかりませんが、関係があると思います」
「・・・。なんとなく理解した」
「どういうこと?」
ソフィアが俺に質問した。
「彼女たちは、勇者がいることで話が進むことを考えていました。
その存在をフラグと呼ぶことがあります」
俺と3姉妹が同じ事を考えていたことを理解した。
そして、俺と同様にこの世界に召喚されたことも。
何らかの理由で、話を進める理由があったのだろう。
「母さんも知っているとおもうけど、勇者だけが開けることのできる宝箱があると」
ソフィアがうなずいた。
「それを知った彼女たちが、誘拐したと?」
「そう思います。ただ・・・」
俺の質問内容を理解した少女は話し始めた。
「私が訓練場で最も練習を積んだのは、解錠術です。おかげで、勇者しか開けることができない宝箱も、根性で開きます」
精神論で鍵が開くのか。
今度、試してみよう。
「アーベルさん、やめたほうがいいですよ。
開けると確実に死にますから」
少女は俺に微笑んだ。
「・・・」
俺は黙ってうなずいた。
その後、魔王を倒したことをアリアハン王に報告し、大魔王ゾーマが出現したという。
大魔王ゾーマを倒すため、再び旅に出る3姉妹と俺がばったりと出くわしたのだ。
「あのとき、アーベルさんが光の玉を渡してくれなかったら、アーベルさんは殺されていました」
俺は冷や汗を流しながら頷く。
俺達の行動を調べていた3姉妹だ。
光の玉がないことを知れば、俺が入手したことを考えたはずだ。
俺から奪おうとするだろう。
「殺してでもうばいとる」
頭の中に、この言葉が浮かんできた。
アリアハンを後にした3姉妹は、大魔王ゾーマを倒すため、下の世界アレフガルドを歩き回った。
ゲームの攻略内容に忠実に、ゾーマ城に行くための橋をかけて渡ったそうだ。
まあ、俺のやり方は異端だろう。
MPも消費するし。
順調に城内に侵入し、勇者オルテガと再会し、そして、
「すまない」
俺は少女に謝った。
俺がゾーマを倒していたら、オルテガは死ぬことはなかっただろう。
「気にしないで下さい。大魔王は勇者が倒すことになっているのですから」
少女は、俺の手を握ると優しく微笑んでいた。
だが、俺は少女の瞳の奥にある悲しさを感じ取っていた。
俺は大げさにうなずいた。
「ということは、ゾーマは倒したのだな」
「はい。とはいえ、正確には彼女たちが倒しましたが」
少女は正直に答えた。
「その、3姉妹の行方なのだが、・・・」
俺はためらいがちに質問する。
目の前にいる少女の答え次第で、俺の将来が決まるのだ。
「彼女たちは消えました」
少女の答えは、俺の想像を超えた内容だった。
「いったい、なにがあったのだ!」
俺は思わず立ち上がってしまった。
「アーベル。座りなさい」
ソフィアが俺をなだめる。
「お見合いの席で、がっついてはだめよ」
「母さん。先ほど言ったことと逆ですが」
「冗談よ、冗談」
ソフィアは残念そうな声で言っているが、無視する。
目の前の少女はからかわれたのを怒っているのか、顔を赤くしている。
後で、謝らせなければとおもいながら、俺はたずねる。
「大魔王が倒れたあとの事を、教えてくれ」
少女は頷いて話してくれた。
「私がよみがえると、既に大魔王が倒された後でした」
この少女は、モンスターに倒されると、戦闘が終わるたびに復活させられたとのことだった。
タンタルのときよりも、扱いがいいのか悪いのか判断がつかないが、絶対評価では悪いことにはちがいない。
「大魔王の断末魔とともに、城は崩れ去りました」
少女はたんたんと話していく。
「その後、崩壊した床に、私達は飲み込まれました」
ここまでは、ゲーム内容と変わらない。
「気がつくと、洞窟の中にいました。ただし、私だけでした」
なるほど、とソフィアはうなずく。
だが、これだけで3姉妹が消えたという判断は出来ない。
「消えたと判断した理由は、他にありますか?」
俺の質問に微笑みながら応える。
「これをご覧下さい」
少女は、袋の中から光る玉を取り出した。
「光の玉」
「長女が持っていました。それ以外にも」
今度は、青い正八面体の石を取り出す。
「賢者の石です。三女が持っていました」
最後にと、少女は袋から布地を取り出す。水着か?
「魔法のビキニです。次女が身につけていました」
確かこのビキニは、下の世界の海洋モンスターが落とすアイテムだったはずだ。
冒険の途中で入手したのだろうか。
それにしても、なぜ、モンスターがこんなアイテムを持っているのだろうか。
俺が興味深そうに水着を眺めると、
「アーベル、女の子の前でじろじろ水着を見るのはどうかと思うわ」
ソフィアが指摘する。
ふと、視線を移すと目の前の少女は顔を赤くして、俺を非難めいた目で見つめている。
誤解を受けている気がするが、確認する方が先だ。
「これらの品は、何処で入手したのかな」
「気がついたら、私の袋に入っていました。すべてが」
「・・・。すべてか」
俺は念のため確認する。
「はい、そうです」
ならば、消えたという表現は妥当だろう。
あとは、何処に消えたか、何故消えたかということになるが、目の前の少女は知らないだろう。
「それに、確認しました」
「確認?」
「かつて、ルビス様に仕えていた妖精から話を聞きました」
たしか、勇者が旅立つ前日に見た夢のなかに出現したり、ゾーマ城へ行くための橋を造るために必要なアイテムの材料を持っていたりしたはずだ。
俺は勇者でもなければ、ゾーマ城に渡るために呪文を使ったりしたので、その妖精さんにはお目にかかったことはない。
少女は、目の前にある水を口に含ませてから、話を続ける。
「妖精から聞いた話では、彼女たちは大魔王を倒した恩返しとして、元の世界に帰りたいという願いが、かなえられたそうです」
「そうか」
俺は3姉妹の事を考えた。
彼女たちは、元の世界に帰りたかった。
そのためには、自分たちの手で大魔王を倒す必要があった。
しかし、勇者と一緒に行動する俺達が邪魔になった。
そのために、勇者を誘拐したのだと。
3姉妹には、俺に相談する選択肢は無かっただろう。
元の世界に変える方法を知れば、俺が帰ることを選ぶため、3姉妹と共同戦線を取ることはないと考えたのだろう。
俺は納得できないが、3姉妹の目的がわかった。
「ところで、何を願ったのかな?」
俺は目の前の少女に質問した。
戦闘中死んでいたとはいえ、彼女も大魔王を倒したメンバーの1人だ。
精霊ルビスから恩返しをしてもらったはずである。
「・・・」
勇者は俯いたまましゃべらない。
「すまない。答えたくなければ言わなくていいよ」
3姉妹の話が済んだので、聞かなくても困らない。
少女は首を振ると、決心したようすで話し始めた。
「・・・。アリアハンに戻りたいと願いました」
「そうか」
俺はうなずいた。
父オルテガは死んだが、母親が生きている。
母親に父の最後を報告する必要があったのだろう。
ソフィアの顔を見ると、俺と少女の顔を見比べながらにやにやしている。
嬉しいことでもあったのか。
俺は、少女に最後の質問をする。
「これから、どうする」
「!」
少女は俺の質問に驚いた。
俺は別に変な質問でもないのだが、と思ったのだが彼女にとっては重要な話のようだった。
「・・・。あ、アーベルさん」
少女は、真剣なまなざしで俺に話しかける
「私と、私と一緒になってください!」
少女は顔を真っ赤にして大声で叫んだ。
「構わないけど、大丈夫なのか」
俺は、心配そうに少女を見つめる。
少女は、勇者の代役として旅に出たはずだ。
だが、彼女は勇者ではない。
俺達と一緒に冒険しても成長しなければ、旅はつらいものになる。
両方にとって。
「何か職業につかないと、俺達と一緒に冒険するのはつらいと思うよ」
俺は、しばらくは冒険を続けるつもりだった。
家にこもって、魔法研究に明け暮れることも考えたが、1人でいるとロイズを死なせた後悔が、すぐに浮かんでしまうのだ。
俺は死ぬまで忘れるつもりはないが、日常生活に支障がでないまで精神が安定するのはもうしばらく先の事だろう。
少女は、俺の言葉の意図が理解できなかったようだが、一緒に冒険することの不安を理解したのか。
「大丈夫です。今の私は勇者ですから」
少女は、口を膨らませて宣言すると、ステータスシートを俺に手渡す。
俺はステータスシートを受け取りながら、
「そうか」
とつぶやく。
俺は、「勇者が大魔王を倒す」と考えていたが、「大魔王を倒したから勇者になった」のかと認識を改める。
前者でも間違いは無いと思うが。
少女は、ステータスシートを手渡すと、どうだとばかりに胸を張った。
セレンとどっちがかわいいだろうなどと、どうでもいいことを考えながらステータスシートをながめると、俺は驚愕した。
「なにこれ?」
ゆうしゃロト
せいべつ:おんな
へこたれない
LV:1
ちから:11
すばやさ:8
たいりょく:9
かしこさ:7
うんのよさ:3
最大HP:18
最大MP:13
攻撃力:90
防御力:147
EX:0
ドラゴンキラー、やいばのよろい、力の盾、ミスリルヘルム
「・・・。レベル1なのですが」
俺は勇者に質問する。
「一度もモンスターを倒したことがありませんから」
「そうですか・・・」
聞いてみたら、3姉妹との冒険中はモンスターから逃げ回ってばかりで、死んだら戦闘終了後に、生き返らせてくれたと言うことだ。
「・・・」
彼女は勇者だ。
ほんとうの勇者だ。
力が強い?
強力な魔法が使える?
そんなことは、勇者にとって本当に必要なことではない。
真の勇者とは、最後まであきらめないことだ。
俺はそう確信した。
俺は黙ったままステータスシートを眺めていると、勇者は頭を下げる。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
別の言い方があるだろうと、ソフィアに同意を求めようとしたら、ソフィアはこれまでに無いほどニヤニヤしていた。
どうやらこの場には、俺を助けてくれる存在はないようだった。
後書き
勇者の性別については、「叙述トリック」ではなく、「アーベルが、誤った情報を入手した結果による誤認」です。
自己弁護では有りませんが、誤った知識を「正しいと信じて」、自分の考えを伝えることがあります。
気をつけたいものです。
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