ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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After days
fall
黄塵万丈
前書き
After days最終回です。
―――ズドォッン!!
間一髪クレーターから脱したトリスタンとガノン、そして俺は次々と崩れていく地面の合間を縫いながら《荒野》の陣地まで退避した。
「何が……?」
困惑した様子の2人は取りあえずカーンに任せ、俺はもはや完全に陥没しきった《森林》の陣地を見渡した。
「出てこい、『ボッシュ』……いや、《笑う棺桶》の『ボス』?」
「……なに!?」
俺の口から唐突に出てきた全く予想しなかった名前にキリトが狼狽する。無理もない。俺もつい1分前までは思いもしていなかった。
ただ、ふとした思い付きで考えみれば、居たのだ。SAOに『落とし穴にプレイヤーを落としてから殺す』というレッドプレイヤーが……。
《測量》、《製作》スキルが一定以上の熟練度に達すると出現するエクストラスキル《罠師》を極めたそいつはラフコフの参謀役で数多の殺人方法を首領のPohと共に編み出し、かの《討伐作戦》では、やつの奇襲作戦で甚大な被害が出た。
「今まで気づかなかったのは不覚だったよ。『Bosch』のオランダ読みが確か『ボス』だったな」
土煙が晴れ、クレーターの端から顔を出しているモグラに向かってレイが不敵に笑い掛ける。
「……ちっ。やっぱり、てめえらごと落としとくんだったな」
「物騒だな。砂遊びなら近所の公園でガキ相手にやってろ」
途端に向こうは殺意をむき出しにして睨んで来る。
「調子に乗るなよ『紅き死神』。プレイヤースキル制とはいえ、この世界に於いては俺にアドバンテージがあるんだぜ?」
「ほう?そのちっこい成で何をしてくれるのかな?」
ボッシュは片手を地面に押し付けると、何かを呟いた。
途端にその腕から土色のライトエフェクトが放たれ、地響きと共に地面が割れた。
「…………っ!?」
地割れは俺の後方数十メートルに及び、後ろにいた《荒野》のプレイヤー達が慌ててそれを避ける。
「まだだぜ?」
突然足下から声が聞こえ、反射的に飛び退くが、間に合わず胸部を鋭い爪が突き刺した。
「ぐっ!?」
視界端のHPがグイッ、と2割りほど減る。
「な……にを……!!」
「くくく……簡単さ。SAO時代のステータスを使えばな!!」
異常な跳躍力で再び接近してきたボッシュを寸前の所でかわす。
大きく体勢を崩してしまうが、追撃が来る前に上空から黒い塊がボッシュに襲いかかった。
「ちぃ!!」
ボッシュはそれを避けようと後退するが、黒い塊――キリトは鋭い爪で鷲掴みにして持ち上げると、そのまま豪快に放り投げた。
「なんて馬鹿力なカラス……」
「そこはツッコムな」
1人で先行して戦ったのは元ラフコフメンバーにキリトが動揺してまともに戦えないのではないかと憂慮したからだったが、どうやらそれは俺の見込み違いだったようだ。
「皆は?」
「カーンが大まかに説明して、ボッシュが裏切り者だったていうのは納得したみたいだな」
「了解。まあ、そんな所でいいだろう」
早々に話を打ち切ると、俺達は数メートル向こう側で体勢を立て直しつつあるボッシュに意識を集中させた。
「……やってくれるじゃねぇか。《黒の剣士》。テメェも楽には殺さねぇぜ」
考えてみれば、先程のキリトの放り投げが最初のダメージだ。対して俺達は先程の戦闘と、俺の場合一撃もらっているので、既にHPは4割程しか残っていない。
(気にくわないが……。捨て身でアイツのHP削って、キリトに託すか?)
9割方を残す相手と4割を切ろうとしている俺のHPでは流石に埋めがたい差がある。
これが剣の世界であったらまだしも、この世界にそんなものはない。このままでは確実にやられるだろう。だが、その前に俺はボッシュに訊かなければならない事があった。
「キリトはやらせない。まずは俺からだ。ボッシュ!!」
「は……!!まぁ、いいさ。その風前の灯火のHPでせいぜい足掻け!」
言うなり爪を振り上げると、再び地面がヒビを入れながら崩壊し始めた。
「そう何度も効くかよ!」
まだ大きめの塊を足掛かりにしながら俺はボッシュへの距離を詰める。
残り10m程の所で跳躍し、悠然と構えているボッシュに襲いかかる。
「『クラッシュ』」
「……っ!!『クラッシュ』!!」
待ち構えていたのであろうボッシュはカウンターの《打撃強化》を叩き込もうとするが、間一髪で俺の相殺も間に合った。
破裂音を響かせてお互いに弾き飛ばされるが俺は空中で体勢を立て直すと、既に大分脆くなっている地面を伝って再度、距離を詰める。
「……くっ!」
突然、足下が崩れ、斜面を滑るように落ちていく。
「レイ!」
「大丈夫だ。しばらく頼む」
キリトが降下しようとするが、それを押し留め、俺は反転すると逆に斜面を降り始めた。
底に着くと、辺りは断崖絶壁で地上に登れそうな所はいくらも無かった。
「だがまあ、無いわけではないしな」
記憶を頼りにボッシュが落下した位置に回り込むように渓谷の中を掛ける。
その時、
――ズゥン!!
脆くなっている壁の一部が剥がれ、瞬く間に崩れ去る。幸い離れた場所の出来事だったので、直接食らうことは無かったが―――、
「―――いや、まずい!!」
―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
それに連鎖して辺りの土塊が、轟音をたてながら崩壊しだした。
「あー、と。……流石にヤバイかも……」
レイの視界を土塊が埋め尽くした。
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Sideキリト
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
空気をも震わせる轟音と大量の土煙をあげながら眼下の地上が崩れていくのを観察する。
広大なバトルフィールドの7割が陥没し、その対岸に陣取っているボッシュを攻撃出来るのは空を飛べる自分だけだ。
戦いを見守るギャラリーは最初、戸惑いこそしたが、今は成り行きをじっと見詰めている。
一方、当事者の《荒野》の陣営ではボッシュを見張りながら後方で作戦会議が開かれているよだ。
トリスタンとガノンが何やら激論を交わしているが、ここからでは内容は分からない。
ともかく、レイが今の土砂崩れでどうなったか分からない以上、自分に出来るのはボッシュをあの場に引き留めることだ。
羽を畳むと、狙いを定めて鋭角ダイブ。それに気づいたボッシュは地中に逃げようとするが、その前に体当たりが胴の部分に決まる。先程のレイとの相打ち、今のクリーンヒットでボッシュのHPは一気に5割を切った。
「これで逆転だな」
「は!そういう事は自分が優位に立ったら言うもんだぜ!」
――ビシッ
「ぐぁ!?」
右の羽を鋭い何かが貫通し、バランスが崩れる。
細かい石ころの破片。それがボッシュの周りに落ちているのを見て舌打ちする。
羽のダメージを省みずに今度は急上昇すると、射程外に滞空した。だが、これではボッシュにとって自分は脅威でなくなってしまう。
何とかして、石の弾丸を撃てない距離まで詰めるしかない。
自分の反射神経を信じて特攻しようとしたその時、《荒野》の陣営からトリスタンとガノンが飛び出した。
だが、その間には絶対に飛び越えられない溝がある。
が、2匹が飛び出した事でボッシュの注意が一瞬逸れた。
「…………!!」
と、認識した時は既に降下していた。もはや、逃げられる距離ではない。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!!」
「……っ、《ピアース》!!」
嘴の先端と爪の先が接触し、逸れて、嘴はボッシュの肩口に突き刺さった。
千切れ跳んだ右腕は空中で四散し、ボッシュは仰向けに倒れた。
丁度到着したトリスタンに胴体をダメージが出ない程度に押さえつけられる。
「ボッシュ。何か言い訳はあるか?」
「………ふん」
機動力の差か、遅れて到着したガノンも少し離れた所に控える。
ボッシュが何も答えないと見ると、トリスタンは徐々に力を入れ、HPを削っていく。しかし残り数ドットという所で、制止の声が入った。
「待ってくれ」
急斜面を上ってきたのは土まみれのレイだった。
「無事だったか」
「ああ、問題ない」
トリスタンが労うようにかけた言葉に応え、足下のボッシュに目を向ける。
「1つだけ質問だ。2週間程前、最も印象に残っている出来事は?」
「…………っ!?」
それまで微動だにしなかったボッシュの体がピクッ、と動く。
それを見たレイは満足げに頷き、トリスタンに「待たせたな」と言ってその場から離れた。
事後処理の後、改めてトリスタンとガノンは決闘を行い、トリスタンが勝利した。
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『《第3回聖獣王決定戦・決着》』
『第3回の今回は波乱の決着となった。《荒野》の集団戦の十八番、『奈落《アビス》』が成功し、優勝候補の『トリスタン』と『ガノン』の一騎打ちは会場を湧かせたが、《荒野》で起こった内紛により、両者は揃って敗退しかけた。そこへ現れた《荒野》の新参プレイヤー、『レイ』と『キリト』の活躍により―――、』
俺は先日のWBOでの大会を話題に取り上げた記事を表示しているタブレットをうんざりしたため息を吐きながら前列のキリト――もとい、和人の頭の上にゴン、と乗せた。
時は昼下がりの4限目。授業も残り5分という事もあり、生徒達の大部分はだれてきている。
とは言っても授業中に携帯用タブレットをネットに繋げて電子世界を漫遊しているのは彼だけだ。
昨日の大会終了後から様々な掲示板やコミュニティサイトを騒がせている件の話は今日の昼頃――つまり現在――になり、大分詳しい情報が出てきている。だが、プレイヤーネームまで出てきてしまったのは些か面倒なことだった。
それを案じて昨日から暇見ては各情報サイトを監視していたのだが、実際にそれを見ると鬱な気持ちにもなるのだった。
ウトウトしていた和人はビクッ、と跳ね起きると、タブレットを受け取ってザッと目を通すと螢と同じようにうんざりしたため息を吐いた。
終業のチャイムが鳴り、生徒達がガヤガヤと教室から出ていくのを眺めながら俺達はノロノロと片付けをしていた。
「一応、クレームは送っとくか……」
「ああ……」
取り出した携帯端末からタブレットのご意見フォームにアクセスしてプレイヤーネームを取り下げるよう投書する。
更新されたのは30分程前なので、うまくいけば直ぐに反映されるだろう。
「……もし、万が一。こうゆう依頼を受ける機会があったら、あんまり目立たないようにしなきゃな……」
和人のぼやきはもっともだったが、俺は何となくそれは果たされないような予感がしたのであった……。
GGO異篇章―《Wild Battle Online》―the end...
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高層建築の廃墟の一角。
巨大な狙撃銃を傍らに崩れたコンクリートに背中を付けて荒い呼吸を静める少女。
彼女の左足の膝から下は消滅しており、視界のHPバーには5分間の部位欠損ペナルティを表すアイコンが浮かんでいる。
それもそろそろ終わるはずだと、傍らの狙撃銃を畳んで背中に背負うと、復活した足に力を入れて立ち上がった。
6人居た仲間の内の4人はやられてしまったが、彼女ともう1人は何とか生き残った。
先に《死に戻り》しているであろう仲間と合流すべく、生き残りの短機関銃使いと少し距離をおいて歩き出した。
その時、
―ゾクッ
「………っ!?」
殺気――というものがこの世界にあるのかどうかは分からないが――を感じて身をすくませる。
「シノっち!こっちだ!」
仲間もそれを感じたのだろう。道を少しずれた大きめのコンクリートの掩蔽物を指して手招きしている。こと戦闘経験だけは、彼女より豊富な彼(名前は忘れたが)に短く頷くと、瞬時にそこに身を隠した。
しばらくして廃墟の方から現れたのは体の各所に金属装甲を持つネームドボスだ。
そう言えば、廃墟の付近で時々見掛けると聞いたことがあった。
(……でも、違う?)
先程の殺気はこのボスのものではなかった。それに、何だ?よく見ればボスの金属装甲はあちこち破損している。表情もまるで何かを恐れているような顔つきだ。
―パァン
軽い、拳銃の発射音。それを聴いたボスは慌てたようにその場から逃げ出そうとする。
が、
―パァン、パァン……………
雨あられと降り注ぐ銃弾に逃走を阻まれ、遂にその体を爆散させた。
「…………」
拳銃の有効射程は精々20m程であり、そもそもモンスター相手に実弾はあまり用いられない。
射手の正体を見ようと辺りを見回すが、何処にも見当たらなかった。
――カツ、カツ……
不意に足音が廃墟に響き、人影が現れた。
彼女――氷の狙撃手として大分名が知れ渡ってきたシノンはその人影にふと、言い様のない不思議な感覚を覚えた。
例えるなら……《絶対強者》に対する畏怖。
その力みのない歩みを止める術は無いと直感的に察した。
無意識に背中の《PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》に手が伸びるが、それも途中で停止した。――否、せざるを得なかった。
紅い外套のフードを目深に被り、顔は見えないが、はっきりとこちらを見ている。
無限にも思える時間、シノンは背中に仮想の汗を掻きながら呼吸すら止めていた。
どれくらい時間が流れただろうか。廃墟の摩天楼の間を乾いた風が吹いた。
紅マントは少し顔を上げこちらを見ると、微かに微笑してその場を去っていった。
―――Go to the next stage!
後書き
次回からGGOです。菊岡さんが依頼してくる部分のくだりは大分はしょると思いますが、あれ全部やってると長ったらしくなるので、大目に見てください。
最後の描写はシノンVSベヒモスの後の描写ですが、出てきた謎の拳銃使いはダレナンダロウナ~(棒読み)。
まぁ、そろそろレイ君の数々のチートスキルが出てくるとだけ言っておきます(笑)
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