戦国異伝
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第百十七話 鬼左近その一
第百十七話 鬼左近
石田は大和の奈良の町に着いた。その町に入ったところで供の中の者の一人が石田にこんなことを言った。
「この大和ですが」
「寺のことか」
「この大和は神社仏閣の多い場所にございます」
供の者が言うのはこのことだった。
「中々ややこしいところにございますな」
「それで遷都になったからのう」
かつてこの町は平城京だった、それが寺の勢力が強くなり政に介入してきたのでそれを避ける為に今の平安京に遷都したのだ。
石田はこのことを知っていて今言うのだった。
「それも当然じゃな」
「左様でございますか」
「うむ、それもな」
こう従者に返す。彼は馬上から話した。
「特に興福寺や東大寺が強いな」
「今はどちらもかなり静かですな」
「東大寺は焼かれたからな」
今は織田家にいる松永久秀にそうされた、まだ再建途中であり信長も大仏を再び造ることを約束している。
「そして興福寺もじゃ」
「検地に応じましたな」
「筒井殿が元々興福寺の縁者だからのう」
彼は興福寺の僧兵達のまとめ役だった、その彼が仕切ってのことだったのだ。
「だから上手くいっておる」
「それで大和の検地が順調にいってますな」
「よいことにな」
「今検地は順調に進んでおります」
それにより寺社の力は弱まっている、既に公卿の荘園は応仁の乱で他ならぬ都が焼け野原となり朝廷も公卿も力を失いなくなってしまっている。だが僧兵達を擁する寺はまだ広大な荘園を持っている寺もあるのだ。
その寺への検地もだというのだ。
「少なくとも大和は大丈夫ですな」
「そうじゃな、だが」
「だが、とは」
「油断できぬであろうな」
石田は奈良の町を進みながら供の者達に話す。彼等は賑やかな奈良の町にいて話していた。
「問題は本願寺と延暦寺じゃからな」
「その二つですか」
「殿は外から攻めておられる」
「興福寺もその中にあるのですか」
「興福寺は確かに強い」
大和を仕切っていると言ってもよかった、三好家はその興福寺に対する為に松永を送り込んだのである。
「しかし延暦寺や本願寺程ではない」
「天台宗や一向宗と比べてはですか」
「どちらも圧倒的じゃ」
石田もこう見ていた。
「そうおいそれとは対することができぬ」
「織田家でもですか」
「織田家は二十国、七百六十万石」
最早他の家を圧倒している、天下人の座は既に手中にあるも同然だ。だがその織田家でもだというのである。
「まだ磐石ではない」
「それ故にですか」
「延暦寺や本願寺とは」
「やり合えぬ。まずは治め」
そしてだった。
「足場を固めてからじゃな」
「双方への検地は、ですか」
「それからですか」
「さて、応じるか」
彼等がというのだ。
「難しいであろうな」
「ではまさか」
「若しかすると」
「避けねばならぬ」
石田は強い声で言った。
「戦はな」
「石田殿は戦は」
「好かぬ」
こう眉を顰めさせて言った。
「それはな」
「武士でもですか」
「戦は」
「無用な戦は避けねばならぬ」
こが石田の考えだった。
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