ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
After days
fall
決戦の暗雲
闇の中で静かに姿勢を崩す。
しんと静まった道場の中にはおよそ50人ほどの人間がいるが物音はおろか、呼吸音もしない。
完全なる静止世界。水城流の闇稽古はこの無音の瞑想から入る。
1人立ち上がった螢も邪魔をしないよう、板張りの床を音もなく歩いていく。
僅かに開けてあった廊下に続く戸を押し開け、廊下に出たところで、今度はキチンと閉める。
そこから数十メートル歩いたところで、螢はようやく息を吐き出した。
「ふぅ……」
激しく動いた後のように吹き出る大量の汗を拭いつつ、浴場(浴室にあらず)に向かう。
当然の事ながらそこには誰も居ない。
今朝方出掛けて行った3人はまだ帰ってきてないし、昨日に引き続き宿泊する予定の和人は先にWBOにダイブしている。
簡単に汗を流し去り、インナーに着替えて自室に戻る。アミュスフィアを装着してベットに横たわっているのはダイブ中の和人。
「鍵ぐらいしとけって……」
ベットを占領されているので、俺はイスに座ってアミュスフィアを装着する。
「リンク・スタート」
__________________________________________
午後7時ジャスト。
勇ましい勇壮曲のようなファンファーレと共に《聖獣王決定戦》の決勝戦が始まった。
種目は『旗合戦《フラッグ》』。ただし、参加者は5匹以上、10匹以下という特別ルールだ。
「……とまあ、予選までの撃破数が意味無くなったわけだな」
ボッシュが乾いた笑みを浮かべながら、ため息をつく。
「《森林》のやつらは何人で来るかな?」
「キリトっち。ソイツは野暮な質問だぜ?10匹出さねぇとギャラリーからブーイングだ」
「理不尽なルールだな……」
実質10対10が既に決定している。
「決まってしまったものはどうしようもない。レイ、キリト。お前達も出場してくれ」
威風堂々と歩み寄ってきたのは漆黒のマントを羽織ったトリスタンだった。
「……そのマントは?」
色々突っ込みたい所だったが、取りあえず見た目の問題を指摘してみた。
「《荒野》の種族の正装だ。お前達のもある」
トリスタンはウィンドウからマント一着、スカーフを二枚、取り出すと俺、キリト、そしてボッシュに渡した。
「ボッシュ……お前、戦えたの?」
「ん?言ってなかったか?俺の専門は『旗合戦』。過去2回の戦いで俺が出た『旗合戦』で《荒野》が負けたことは無い」
キリトと俺が唖然とするなか、ボッシュはウィンドウを操作するとスカーフを装備した。
「じゃ、俺は先に行ってるからな」
言うなり背中から飛び降りると地面に潜っていき、消え去った。
「……まぁ、それは頼もしい、って事にしとくか」
「……そうだな」
_____________________________________
マントを羽織った俺とスカーフを巻いたキリト(黒いから分かりずらい)が集合場所である控室にやって来ると、同じくマントやスカーフを巻いた《荒野》のチームがたむろしていた。
「おう、ちょうど良かった。これから作戦会議だ。こっちゃ来い!」
カーンが鼻をクイクイ、とやって俺達を呼ぶ。
環の中心付近まで入り込むと、メンバーが一望出来た。
前衛にはゾウのカーンを始め、カンガルーやラクダといった重量系動物計五匹。後衛には大将のトリスタン、ボッシュ、同型のモグラ一匹だ。
「俺達は何処に?」
「遊撃を頼みたい。状況に応じて対応してくれ」
とても初心者に対する指示とは思えなかったが、腕前は目の前で散々見せてしまっているので、今さらだろう。
作戦会議と言っても大した事は話されず、時間を知らせる鐘と共にフィールドへの柵が開いた。
先頭が闘技場に足を踏み入れた途端、上から圧倒的な音量の叫び声が降ってきた。
思わず観客席を見上げると、予選の時よりも満員な状態のスタンドがあった。
俺は少し疑問に思って頭の上のボッシュに問いかけた。
「この世界のプレイヤーってんのは必ず集落に所属しているのか?」
「んー、いや、集落に所属している奴の方が少数派だな。世界の四方の端にある各集落に所属していなければ、こういった大規模なイベントには出られないが、メニューウィンドウのオプションからお手軽に脱退出来る」
「マジか……」
話を聞いていたキリトも口を半開きにしながら驚いている。
「世界の中心には円形に巨大な山脈が連なっていてな。そこを越えると《桃源郷》がある、って噂さ。集落を脱退したやつらは大半がそこを踏破しようと日夜山登りしているのさ。……あるかどうかも分からねぇ、希望にすがりついて『フリープレイヤー』を気取っていんのさ」
「ふうん?まだクリアは出来ていない、ってことか……」
ボッシュの物言いにチリ、と頭を何かがよぎるが、今集中しなければならないのは眼前の敵だ。
双方が位置に着き、にらみ合いを始めると、会場は突如として静まった。
「2人とも、作戦は聞いてたな?序盤はとにかく突っ込め。出来たならガノンのやつを消耗させるんだ」
「おう」
「ああ」
するりと地面に降りたボッシュはそのまま身を伏せて試合開始を待っている。
カウントが徐々に減っていき、そして―――、
『Fight!!』
両軍の間で白い閃光が弾け、それが収まったときは既に双方の前衛は衝突しようとしていた。
「「「「オオオオォォォォッ!!」」」」
幾重の咆哮が重なり、地鳴りの音と共にコロシアムが激震した。
___________________________________________
Sideアスナ
「これ程の規模になると、迫力が段違いだね……」
「このゲーム、プレイ出来る自信がないです……」
20匹に及ぶ大小様々な大きさの動物が相手に噛みつき、爪を立てている。
昨日の内に詳しく容貌を聞いておいたキリトとレイの姿も今日はばっちり追えていた。
20匹の中で唯一の飛行型らしいキリトは上空から果敢に敵の目や鼻先を狙ったりして隙を作っている。片やレイは機動力を駆使して敵を翻弄し、味方がつけ入る隙を作っていた。
2人の行動が結果的に同じ効果を生み出しているのは事前の作戦か、はたまた偶然か。
2人の性格からして『攻め』に転じないのは、チーム全体の作戦のためか、あるいは―――、
相手の隙を作りつつ、敵陣の奥へ切り込んで行ったレイがその中で一際大きな熊と対峙していた。
熊の右前足が赤く光り、鋭く突き出される。
レイはそれを紙一重でかわし、続けて熊の両脇に控えていたピューマの挟撃を巧みにかわす。
3匹は隙のない連携攻撃を繰り出すが、レイは全てバックステップやサイドステップによる回避で対応する。
所々に起きる連携の合間を縫ってレイは反撃に転じて熊やピューマに攻撃しようとしているが、それは成功していない。
「あ……!!」
「どうしたの、セラちゃん?」
途端にセラが目を見張って身を乗り出す。まさか、2人が何か致命的なミスでもしたのかとひやひやしたが、彼女の目に焦燥の光りはない。あるのは驚きだ。
「敵陣営の形を見てください」
セラが珍しく興奮した様子で画面を指差している。何事かとリーファと顔を見合わせてから画面を食い入るように眺める。そして―――
「これは……?」
レイが背後の3匹を戦線まで引っ張り、キリトが逆にサイドの動物達を中央に押し込んだ結果、敵陣は円状になっていた。
「集団が同数の場合、敵を固めて囲むのは得策とは言えません。しかし、あえてこの形にしたという事は、何か特別な策が―――」
セラがそこまで言った瞬間、とんでもなく大きな音が鳴り響き、画面いっぱいに土煙が覆った。
________________________________
Sideレイ
「ワーオ……」
トリスタンの咆哮を合図に全力後退したその直後、敵陣足元に突如として出現した巨大クレーターを覗き込みながら、呆れと感嘆の入り交じったため息が出る。
「……こんな短時間でこんなの作れるのか?」
「にわかには信じがたいが……。出来たってことは可能なんだろうな」
そのクレーターは開始直後からボッシュともう一匹のモグラが地下に掘っていた穴だ。
《穴堀スキル》を限界まで極めた彼らの集団戦での一番の活躍の場がこの巨大クレーターだった。
デメリットは時間が掛かる事と、敵に感付かれない内に誘導し、罠に嵌めることがとても難しいことだった。
《荒野》が誇る集団戦の奥の手『奈落』
これに落ちた敵は衝撃、もしくは味方の重量で多大な損害を被る。さらに、脱出も相当難しい。クレーターの淵は敵にぐるりと囲われているので、登っての脱出は困難を極める。
だが、
「……やはり、やつだけはそう簡単にやられてくれんか……」
トリスタンが低いうなり声をあげて構える。
―――砂ぼこりが晴れたその向こうに無傷で此方を睥睨するガノンの姿があった。
「皆、済まないがやつに手は出すなよ。私がやる」
一同が頷き、それにトリスタンが短く謝辞を述べると、クレーターを迂回しながら徐々にガノンに歩み寄って行く。
「……さてと、どっちが黒かな?」
「どうやって見極めるんだよ?」
「技の軌道を見る」
そんなんで分かるのかと突っ込みたい気もしたキリトだったが、「まあ、レイだし」と納得した。
両者の距離は既に10mを切っている。一足跳び、ありとあらゆる戦闘ゲームではとっくにアタックレンジだ。
二匹の距離が詰まり、遂に5メートル程。それでも両者は動かない。互いににらみ合いなからお互いが隙を見せる瞬間を辛抱強く待ち続けている。
この時、レイもキリトもこの場のいかなるギャラリーすら気がついていなかったが、この二匹は既に知覚内では戦闘を繰り広げていた。
すなわち、相手の出方の数手先まで読む、先読みの心理戦。
重心をわざと移し、飛び込んできた所をカウンターで迎撃する。有無を言わさぬスピードでの突進。あるいは単純な力押し。
互いにそれらの迎撃方法を脳内で組み立てながら、かつ、相手の隙や作戦を伺う。
沈黙が続き、二匹は同時にある結論に達し、同時に動いた。
『―――策など無用』
『―――勝敗は殺るか殺られるか』
『『―――ただ、叩き潰すのみ!!』』
音もなく同時に飛び出した両者は中でうなり声を上げながら衝突し、地上に着地してからは激しいインファイトを繰り広げている。
パワーで勝るガノンの攻撃をトリスタンは素早くかわしたり、《打撃強化》による拳撃で相殺していた。
結果、両者は全く互角の戦いをしていた。技量は同等。
ならば前回、何が両者の勝敗を分けたのだろうか?
「なぁ、ボッシュ…………ボッシュ?」
隣に居たはずのボッシュはいつの間にか居なかった。辺りを見回してもそれらしき影は無い……。
「どうした?」
キョロキョロしていたのを不信に思ったのか、キリトが傍に降り立ち、問いかける。
「ああ……いや、ボッシュが突然居なくなったから何処に言ったのかな、と……」
「え?……あれ、本当に居ないな」
索敵スキルまで用いて探したが、遂にボッシュは見つからなかった。
「んな馬鹿な……」
競技中は何処にも逃げられない筈だ。しかし目視でも、スキルでも見つけられない。それは明らかに異常だった。
刹那、恐ろしい戦慄が脳裏に響き、俺はダッシュでカーンに駆け寄った。
「カーン、ちょっといいか?」
「およ?どうした。そんなに慌てて」
「前回、トリスタンはどうやって負けたんだ?」
カーンは一瞬茫然とした後、苦々しく顔を歪めながら答えた。
「ありゃあ、酷かったぜ。トリスタンもガノンも勝敗に納得して居なかったからな。運がねぇよ。地面の窪みに足を引っ掻けちまうなんて」
「…………っ!!キリトォ!!」
確信は無かった。だが、もしも予想が外れていなかったなら、俺はそれを看過する事は出来なかった。
突然怒鳴り声を上げた俺にカーンがビクッ、と巨体を震わせ、キリトは素早く飛び立つと俺の元に飛んできた。
「カーン、キリト。信じられないかもしれんが、俺にはこの勝負―――」
俺は脳裏に閃いた推理を語った。2人の反応は疑惑、迷い、そして困惑に変わっていった。
たかが昨日知り合った俺の言うことをカーンが信じるかが唯一の心配だったが、それすらも吹き飛ぶほど、その内容には戦慄した。
むしろ、カーンが前回の試合を間近で見ていたこと、それ自体がカーンの中の認識を書き換えた。
「……勿論、ただの憶測だ。だが……」
「確かに辻褄は合っているな……」
カーンは暫く瞑目し、やがて目を見開いた。
「レイ、キリト。……根拠はないが、お前達
は信用できそうだ。皆には俺から説明しよう。頼む、ボッシュを、止めろ!」
カーンが反転し、他の仲間の下へ歩んで行く。
「キリト、お前も下がってろ。2人同時にやられちゃかなわん」
キリトはかなり不満な様子だったが、渋々引き下がった。
(それに、もし『ボッシュ』が『アイツ』なら……)
杞憂に終わればそれでいい。当たってしまった時が危険なのだ。
俺は遥か向こうで組み合う二匹の猛獣に向かって走り出す。
声が十分に届くその位置に走りこみ、俺が叫ぶのと、トリスタン、ガノンが組み合っている地面が轟音をたてて崩れ去るのはほぼ同時だった。
「こっちだ!」
俺の立っている場所もまたヒビが入り、安定した地盤ではないが、まだ猶予はあった。
土煙から脱し、こちらに無事に駆けてくる二匹を見て、俺はこの一連の事件の真相に至った。
後書き
次回は謎解き編です。『ボッシュ』は果たして何者か!?
さて、少々早めのアンケートになりますが、モチベーション的な理由で読者の皆様に必ず答えていただきたいことがあります。
GGOとマザロザの間で『キャリバー』をやるか、『21層ボス攻略』をやるかです。
もちろん両方も可能ですが、できることなら早めにマザロザに入りたいわけで……。
ただ、どちらも捨てがたい話で結局は後々にやるにしても、話の流れに組み込むのはどちらがいいか、あるいは両方か選んで欲しいです。
さらに協力して頂ける方、考えて頂きたいことがあります。
『キャリバー』を選んだ方
キャリバーに出てくる原作メンツ+レイだと、トンキーにレイが乗れません。
『7人しか乗れない』というルールを無視するという手しか思いつかないので、何かアイデアを下さい。
『21層ボス攻略』を選んだ方
21層ボス攻略はそれが重要という訳でなく、22層のあの家を手に入れるという出来事がメインの話です。
それが前提ですが、何か意味深なボスネームを考えて頂けると幸いです。
長々と失礼しました。返答はつぶやきまでよろしくお願いします。
ページ上へ戻る