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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode2 唐突で強引な出会い2

 「まずはっ、シドくんにプレゼントがありますっ! じゃっじゃじゃーん!!!」

 店の席に着くなり、喧し女(俺の中で決定)がウインドウを開いてアイテムをオブジェクト化した。出てきたのは、艶やかに輝く金属製の手甲。結構レア…というか、珍しいアイテムだが、全く見ないほどではない。それよりも俺を驚かせたのは、女のその右手だった。

 (…速い)

 ウインドウを操作する速さが、桁違いに素早かった。

 ほぼ全員が重度のネットゲーマーであるこの世界、タイプ速度の平均の速さはかなり高い。かくいう俺も現実世界でしていたバイトのせいもあって、長文を打つのはかなりの得意だ。だが、そんな俺と比べても段違いの操作速度だろう。それが意味するのは、この世界での経験、即ちウインドウ操作の速さが求められるような、ぎりぎりの戦闘をこなしてきた証拠。

 「これはねーっ! 《スチール・ガントレット》っていってっ、円形盾(バックラー)の派生装備なんだけど、なんとっ! 装備したままでも体術スキルが使える、という優れ物なのですっ!」

 いや、当然そのくらい知ってるけどな。

 「ふふふっ、シドくんっ、君が『体術』スキル使いだということはもう知られているのですよ? そんな君にぴったりのこのアイテム、なんと今ならタダで君にっ、」
 「いや、いらん。どうせ装備出来ねぇし」
 「プレゼン、て、ええっ!!? なんでなんでっ!!? ワイロにしようと今日苦労して素材取ってきて、友達の鍛冶職人に頼み込んでつくって貰ったのにっ!? 悪代官様と越後屋ごっこはどうするのさっ!?」
 「だって俺、筋力値足りねぇし」
 「ええぇー!!!」

 ちなみにガントレット、と名前についてはいるものの、これは形状から言えばガントレットでは無く、「手甲」というのが正解だ。ガントレットは簡単に言えば金属製の手袋であって、指まで覆い隠
しているのだが、これは前腕から手首にかけてを覆う。ちなみにもっと細かく言えば、「手甲」は読んで字の如く手の甲までを覆うので正解は「手筒」…だろうか。

 おっと。昔のクセかつい言語にうるさくなってしまった。
 閑話休題。

 さっきこの喧し女が言ったように、俺も装備しようと思ったことが無い訳じゃあない。確かにメジャーとは言えない装備な上に、製作難度、必要素材、装備重量の割に防御力が低いと嫌われがちだが、『体術』スキル使いにとってはこれ以上ない頼りになる防具だ。

 だが、ここで問題になるのが俺の成長のおかしさだ。俺のビルドは敏捷一極型。そこそこの要求筋力値、という段階でアウトだ。一応初期値があるのでゼロというわけではなく、まあ極端に言えば第一層の装備品なんぞなら装備可能だが、この上層で使える程の武器となると無理。ちなみに一時はぎりぎり装備可能な値まで筋力を上げるかとも考えたものの、俺のスキル構成はダンジョン探索とクエスト攻略を主とした『盗賊(シーフ)』型。戦闘は二の次、という結論になって今に至る。金属防具装備では使えないスキルは、意外と多いのだ。

 「というわけで、俺にはそいつは無用の長物、以上。んじゃ、」
 「ま、待った待った!! えっと、他に、他には、うーっ!」

 突然の事態にテンパッてグルグルと目を回す女を置いて立ち上がろう、

 「…リーダー、落ち着くッス。とりあえずちゃんとお願いしてみればいいじゃないですか…」
 「……その前に、自己紹介……」

 としたところを、丸テーブルの両隣からしっかりと肩を押さえられた。悔しい事に、超非力アパターの俺ではそれだけで立ち上がれなくなってしまう。それに、まあ、自己紹介くらい聞いていってもいいか。決して力に屈したわけではない。ない、んだ。

 「んじゃあ、オイラから! オイラの名前は、ファー。本当はファーブルって入力しようとして、手が滑って失敗したんスよ。スキル構成は壁戦士(タンク)で、武器は片手長槍が主ッス! レベルは今、28ッス!」
 「……レミ。後方支援。筋力優位。レベル29」

 俺の…正確には喧し女の横に座っていた少年と少女が、順番に自己紹介していく。一人はにこやかに、一人は無表情で。とりあえず流れのままに握手しながら、教えてくれた情報に驚く。情報の中身
に、という意味では無い。その情報を教えてきたという自体に、だ。
 
 この世界で、レベルをはじめとする各種ステータスは生命線といっていいものであり、おいそれと人に話すものではない。ましてや初対面の相手に全部暴露するなど、正気とは思えない。

 というのが、顔に出たのだろう。

 「ああ、シドくんはあんまり中層エリアに来ないのかなっ? 中層のボリュームゾーンでは、その日限りのパーティーを作ったりして狩りや探索をしたりするからっ、結構レベルとかに関してフリーな人はフリーなんだよ? 『攻略組』は、いろいろあるからあんまり明かしたがらないけどねっ」

 横から喧し女が説明してくれた。確かに言われてみれば、現在の最前線はここ、二十七層。『攻略組』のレベルとしては、40前後といったところだろう。当然、ここでソロプレイでクエストの依頼を受ける俺のレベルもそれなりで、誰にも話したことはないが今で42だ。

 「で、あたしが、一応リーダー、になるのかな? ソラ、っていうんだ。名前スキだから、ぜひ呼び捨てで呼んでねっ! スキル構成は、うーん、簡単には説明しにくいなぁ。レベルは、今で38だよっ! よろしくね、シドくんっ!」

 にぱっ、と笑う喧し女…ソラ。聞いて、「お」と思った。俺も最も経験値効率のいいソロプレイな上、かなりの高度のレベリングをしてきたつもりだが、この女はそれに匹敵するレベルを持っている。それを聞いて、ボリュームゾーンの出身の二人についても納得する。

 「んじゃあ、ソラさん…ソラが、この二人にレベリングと情報提供を行いながらプレイしてるってわけだ。ということはこのギルド…じゃないのか、パーティーの方針を決めてんのもソラなんだな。で、今回俺に頼みたいことがある、と」
 「おおっ!!? なんで分かったのっ!? 大正解っ!!」

 最前線と同じ程度のレベルで狩りをするのはかなり危険を伴うが、そのゾーンの危険場所の情報や高価な武器防具を持っていて、しっかりとフォローしてくれるパーティーメンバーがいれば不可能では
ない。恐らく攻略組の一員なのだろうこの女がいるからこそ、の荒技だが。

 で、話をもとに戻すか。

 「俺に頼みたいことっていうのは? 俺は基本的にビジネスマンなんでね。相応の見返りがあるなら協力してもかまわないが」
 「うん。えっとね、あたし達、今この層でクエスト依頼を受けてるんだけどねっ。それのクエストがどうにもクリアできなくって。どうしても敏捷値が高い人の助けが必要になっちゃったんだっ。それで、」
 「…ははあ、なるほどな」

 確かに俺のスキル構成が敏捷一極…少なくともかなり敏捷値に偏ったものだと知る人間は少なくない。ペラペラしゃべる奴でもないんだが、知られていても不思議はない。

 と、ふっと違和感に、気付いた。

 今こいつなんて言った?

 「…ちょっと待て。この層のクエスト、って言ったな? なんていうクエだ?」
 「んっ? えっと…確か『炭鉱の通路開通』っていうクエだったけど」

 …マジかよ。

 数分後、俺は三人に明日協力することを話し、報酬は「そのクエの情報の説明書きの作成、配布の権利」で手打ちとした。一人で行けばクエスト報酬も一人占めだろうが、既に受けられてしまっていてはどうしようもない。ちなみに今回のクエは一度受けたクエの依頼を破棄しない限り別人が受けられないもので、破棄できるのは受けた本人達だけだ。こいつらは、諦めて破棄、はしないだろう。

 この時は、「面倒だな」としか思っていなかった。
 だが、後から思えば、こいつはいわゆる「運命の出会い」って奴だったのかも知れない。


 
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