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境界線上の転生者達

作者:小狗丸
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第五話

 結局あの後、“葵君の告白を成功させるゾ会議”はトーリが点蔵をけなしたり、ミトツダイラの胸を揉んだりしてグダグタとなって最後には「勢いに任せて告白すればいいんじゃね?」という結論で終わってしまった。

 ……まあ、武蔵の生徒会と総長連合の会議っていつもグダグタで終わるから、いつも通りと言えばいつも通りなんだけどね。

「確かにその通りですけど、それってかなり駄目な事実じゃないですか? マスター?」

「人の心を読むなよキャスター。俺だってマズイって思っているんだから……」

 いやね? 俺だって頑張っているんだよ? 会議の度に副会長の正純と協力して会議をマトモに進行させようと俺なりに頑張っているんだよ?

 でもあのトーリを初めとする外道達ときたら、すぐに会議の途中でエロゲやら金儲けやら同人誌の執筆やらして話を脱線させるんだよ? その上、俺が正純とどうやって会議を正常化しようかと相談しているとキャスターの奴が「一夫多妻去勢拳っ!」とか叫んで俺の股間に世界がとれそうなコークスクリューブローを叩き込もうとしてくるし……って、あれ?

「なあ、キャスター? 会議がグダグタになる理由って、お前も一枚かんでいるんじゃ……」

「さあ、マスター! 急いで買い物を済ませましょう。急がないとすぐに日が暮れちゃいますよ?」

 俺の言葉を遮って逃げるように先を歩いていくキャスター。なんか納得いかない……。

 俺達は今、食料の買い出しをしている最中だった。明日のトーリの告白はうまくいっても、うまくいかなくても全員で大騒ぎをするだろうから、その時作る料理の材料を今から買っているのだ。更に言うと今日の夜にはトーリ主催の告白前夜祭があるから、買い出しは早めに終わらせないとな。

「それにしても告白前夜祭で何で学校で肝試しなんだ?」

「さあ? あの総長の考えることはよく分かりません。……あっ、あそこにいるのって副会長さんじゃありません?」

 キャスターに言われて前を見るとそこには確かに去年この武蔵に転校してきた副会長の本多正純の姿があった。

 正純は男のような名前と服装をしているがれっきとした女性である。なんでも昔、遥か過去に実在した「本多正純」の名を襲名しようとして、仕草などを男らしくしようとした名残なんだとか。……まあ、色々あって結局は襲名は出来なかったらしいが。

「本当だ。おーい、正純」

「ん? ああ、青野と葛葉か。どうしたんだ? その荷物は?」

「これか? これは明日、ちょっとしたイベントがあるからその準備だな。……そうだ正純、今日の夜にその前夜祭ってことで学校で肝試しをやるんだけど、お前もくるか?」

 俺が聞くと正純は「それを聞かれるのはこれで三度目だな」と言って苦笑した。

「三度目? 他にも誰かに誘われたのか?」

「Jud.一度目はナイトとナルゼに、二度目は葵にな」

「ああー、なるほど総長達に。それで副会長さんのご返答は?」

「すまないが夜に学校に行くと途中で番屋の前を通って父に迷惑をかけるかもしれないからな……。今日の夜は花火大会を見に行くつもりだ」

 キャスターに聞かれた正純は少しすまなさそうな表情で答える。その表情を見る限りそんなに嫌がってはいないようだ。

「そうですかー。それは残念ですねー」

「悪いな。また今度誘ってくれ。……そうだ、二人に少し聞きたいことがあるんだがいいか?」

「聞きたいこと? 一体何だ?」

「それは……」

 正純はためらうように顔を伏せたが、やがて意を決したように俺達の目を見て口を開いた。

「……この先にある『後悔通り』で十年前にホライゾン・アリアダストとい少女が亡くなったという事故。それの原因が葵にあるというのは本当なのか?」

 ……………っ!?

 全く予期しなかった正純の言葉に俺とキャスターは思わず息を飲んだ。

 十年前の後悔通り。そこで確かにホライゾンは事故に遭って死んでしまい、その場に居合わせたトーリは体と心に大きな傷を負ってしまった。

 あの時ホライゾンが後悔通りにいた理由を考えれば、ある意味ホライゾンが死んだ原因はトーリにあると言えなくもない。

「……そう、だな……」

 正直、正純の口から「後悔通り」と「ホライゾン」の単語が出てくるとは思わなかった。

 これは俺の予想だが、正純は今までの一歩引いた立ち位置から俺達の処へと歩み寄ろうとしているのだろう。俺達の処へと歩み寄るのなら、ホライゾンのことを踏み込むこむのが一番手っ取り早いからな。

「正純。この事は当事者じゃない俺達がベラベラと喋っていいことじゃないってのは分かるよな? それでも知りたいのだったら、お前も明日のイベントに参加しろよ。どういう偶然か、明日トーリがホライゾンに告白して過去に決着をつけるらしいんだ」

「ホライゾンに告白? でもホライゾンは……?」

 正純が全く訳が分からないという表情で首をかしげる。まあ、普通はそうだよな。

「トーリの言うことはあまり深く考えない方がいいぞ。頭が痛くなるから。とにかく明日のイベントに参加したら、トーリ本人からお前の知りたいことを聞けると思うぞ」

「そうか……分かった。青野、ありがとうな」

「気にするなよ。正純はクラスメイトで同じ生徒会の仲間だし、お前と仲良くなれるんだったらこれくらい……っ!」

「一夫多妻去勢拳っ!」

 ドゴォッ!

 言葉の途中でキャスターの拳が股間に炸裂し、それと同時に言葉に出来ない痛みが全身に走る……!

「ぐっ……!? き、キャスター、一体何のつもりだ……!」

「自業自得です! この良妻狐を差し置いて! しかもよりにもよって私の目の前で、こーんな貧乳副会長に向けて『仲良くなりたい』なんて口説き文句を言うからです! 以前にも言いましたがハーレム展開なんて絶対に認めません! 私以外の女性と仲良くなるフラグなんて、どんなに小さいものでも見つけ次第即滅却です!」

 仲良くなりたい、って口説き文句なのか? なんかキャスターって、前世よりも嫉妬深くなっていないか?

 ……と、そこまで考えたところで俺は股間に感じたあまりの痛みに意識を手放した……。 
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