100年後の管理局
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第十四話 強制、有給
前書き
新章開始。この章は誠也とアリスがメインの章。舞台を地球に移して、誠也について色々触れていけたらと思っています。
S級ロストロギア強奪未遂事件からもうすぐ三カ月の月日が過ぎようとしていた。
その間はこれと言った事件はなく、誠也たちも比較的デスクワーク主体で仕事をこなしていた。
そんなある日のこと。
「休暇を取れ?」
突如自身の所属する340部隊の部隊長からそう告げられた誠也は戸惑いを隠せずオウム返しに問い返す。
「そうだ。これは命令だ。」
「とはいってもまだ仕事が残ってるんですけど……。」
「お前は仕事をしすぎだ。お前働き始めた四年前から有給を何回とった?」
部隊長に言われ、どのくらいだったっけ……と記憶を探る。
「えっと……、二回か三回くらいですか。家族旅行で……。」
「日数の合計は?」
部隊長の表情は険しい。しかし、誠也には一体何のことやらさっぱりで、良く理解できていないが、問に対しては正直に答えることにした。
「えっと……、九日くらいで――。」
「働き過ぎだ!バカ野郎!」
誠也が言葉を言いきる前に、部隊長のどなり声が響く。
管理局はジーンドライブシステムによって100年前のような慢性的な人材不足が解消され、福利厚生についてもきちんと整備が行きとどいていた。
つまり、四年で九日程度しか有給をとっていないという時点で少なすぎるのである。
それこそ、管理局内で内部摘発が起こってしまう程度には。
「人事部もさっさと通知をよこせってんだ……。」
思わず持ちあげてしまった腰をもう一度落ちつけてぼやく。
部隊長も実は薄々変じゃないかとは思ってはいたのである。
他の部隊のメンバーは一年に十日程度は姿を見せないのに、なぜか誠也は一年通して毎日部隊で顔を合わせる。
それでも部隊長自身も毎年しっかり有給をとっているために、同じタイミングで有給取ってんのかなくらいに思っていた。そもそも部隊長である自分に話が来ていない時点で気付かなければならなかったのだが、そこにも色々理由がある。
誠也はデスクワークや実戦のどちらにおいても年齢不相応に優秀で、どうしてもその力に頼ってしまうことが多くなっているのだ。それも340部隊だけでなく、戦闘の行われる複数の部隊から直接応援要請が来ることも割と頻繁にある。この必要性ゆえに部隊長も有給について誠也に聞く機会を逃してしまっていたのだ。
しかもこれらの事情に加えて、誠也自身があまり有給をとることに意義を感じておらず、むしろ自身が魔導師として働くことに意義を感じているために、このような事態へと発展してしまっていた。
ちなみに、部隊長は人事部から『休ませろ』という類の内容が書かれた通知と共に、誠也の有給取得の詳細についての書類を見て大層な危機感を覚えたそうな。
「何度も言うがお前は働き過ぎだ。ここらで一度休め。」
「ですが……。」
「や・す・め。」
「はい。」
部隊長の有無を言わせない口調に、ただただ頷くしか選択肢は残されていなかった。
「あのままあいつを放置しておいたら俺の首が切られちまう……。」
隊員の管理についても部隊長の仕事の一つです。
「どうしたものか……?」
とりあえず緊急性の高い仕事を終え、そのほかの割と期限の近い仕事についての引き継ぎを済ませた後、誠也は自室のベッドに転がりながらぼやいていた。
管理局に入って以降、自分の腕を磨きながら市民の安全を守ると言う管理局の仕事にやりがいを感じていた誠也は、大して休みも取らず一年間ほぼ働き続けてきた。
勿論のことだが、誠也は自身の体調管理については徹底して行っていた。疲れがたまっていたのなら、仕事を早く切り上げて部屋ですぐに休んだり、訓練をイメージトレーニングだけにしたりなど。
それに働き過ぎだと言われても、そもそも管理局の勤務体制が週六日で一日休む日があるのだから、その日にしっかり休めば体調を崩すことなく勤務することなど大したことではないのになぁ。と誠也はぼんやりと考える。
「しっかし、どうしたらいいかな。レイジングハート。」
『Sorry, Master. I have no idea.(私にも思いつきません)』
「うーん……。」
デバイスとその主、どちらも休日の過ごし方一つ思いつかず悩んでしまう。
「そういえば、レイジングハート。ひいお婆様はこんな時どうやって過ごしてたの?」
『Master, Nanoha?(マスターなのはのことですか?)』
「そう、なのはお婆様のこと。」
誠也はかなり興味深い様子で、100年前の管理局で曽祖母がどのようにして休日を過ごしていたのかを問いかける。
『Then, we don’t have many staff. Because master Nanoha can’t have so many vacations.(あの頃管理局には多くの人材がいませんでした。そのためマスターなのはもそう多くの休みが取れなかったのです。)』
「……要は俺と同じってことか?」
『Yes.』
「そっかぁ……。」
『Moreover I think that if she can get vacations, she use it for her daughter and grandchild.(その上、マスターなのはなら休みを取っても、娘や孫のために使っていたと思います。)』
「俺にはそれを真似できないしなぁ……。」
当然誠也に子供がいるわけでもないので、子供のために使うわけにもいかない。
「はぁ……。何しよう……。」
隊長により押し付けられた七日分の休み。つまり六泊七日までなら色々できると言うことだが、別にどこかに旅行に行きたいわけじゃないし、特に長い休みで何かしようと言う発想もない。決まっているのは休みのどこかで実家に一度帰るつもりでいる。と言うことだけだ。
「ひまだー。」
本当にやることがない。部屋の掃除はそもそも部屋には寝に戻るだけなので片付ける必要がないし、洗濯は寮の管理人に任せているし、掃除は週一回の休みのときに大体済ませているのでこれまた必要ない。
イメージトレーニングなどの訓練も、一日中やり続けるのは論外だし、そもそもマルチタスクでこなすものなので、集中して取り組むことに意味はない。
本格的にやることがなくどうしようかと思っていると、
『誠也ー。暇ー?』
アリスからの通信が飛んできた。
「暇ー。」
『私も同じく暇なんだけど、一緒に出かけない?』
「アリス、仕事はー?」
『執務官隊の隊長に強制的に有給取らされたわ。』
「ブルータス、お前もか。」
恐らくアリスも自分と同じ状況だったのだろう。アリスもまた働き過ぎで有給を押し付けられて暇を持て余していたようだった。
『ってことは誠也も?』
「おう。……ブルータスについてはスルーか。」
『突っ込む気も起きなかったわ。』
「はいよ。で一体どこ行くつもりなのさ。」
『地球。』
「はぁ?」
このような経緯を経て、誠也とアリスは第97管理外世界、地球へ赴くことになった。
「ってなんで私を誘ってくれへんの!?」
「八神ー。さっさとこの書類片付けてくれー。」
「隊長!私にも今すぐ七日間の休みください!」
「ばかやろー。お前はちょこちょこ有給取ってんだからそんな急に言われても対応できるかー。」
「くうう!!二人だけ地球行くなんてうらやましいわ!!!」
こんなひと悶着があったとかなかったとか。
後書き
こんな経緯からひさめはフェードアウト。
誠也とアリスは地球に降り立ちます。
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