裏生徒会と正しい使い方
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第2話 からくり人形が髪を伸ばした昼。
「さて…、次に、別の問題がある」
峰年はテニスコート裏の階段に呼び出した仙翁と葉蓮を見回した。
右を見ると、まだ春だというのに秋の学園祭の為のジャグリングに励んでいる生徒達の姿が見える。
今は昼休み。峰年は前の休み時間に食べ終えたが、寝蚯蚓に木菟だったらしい仙翁と葉蓮は弁当を持ってきている。
「次の問題ですか…?」
葉蓮は不機嫌そうな表情で、つまりいつものように反芻した。
「そうだ。…何が言いたいか、諸君らには分かるだろう?」
「…もしかして、今朝のこと根に持ってます?」
葉蓮はそう言ってからご飯を食べた。
「簡単に言ってもそうならないな」
峰年はフッと笑った。
「ただ単純に、諸君が分からなかったら嗤ってやろうと思っただけだ」
「根に持ってますね」
「…そんなこと言ったって、言っちゃ悪いけど問題は色々あるでしょ?」
仙翁は困ったような顔をしながら口元を手で隠して言った。
「そうだ。普通なら特定は無理だ。酔っ払いからの禅問答位無理だ。しかし、思い出して欲しい…」
峰年はそこで言葉を切った。
「君達は、何者だ?」
「興味無いです」
「えっと、節黒 仙翁だけど」
「その通り。君達は節黒と愉快な仙翁達だろう?」
「え…?」
「取り敢えずそうだと仮定して話を進めて下さい」
「そうであるならば、私が例えどんな質問をしようとも、『知らんくぇ』という答えは避けるべきものではないかね?」
「知らんくぇ」
葉蓮は即答した。
「よし、満点だ」
峰年は目を細めて葉蓮を見た。
「どーも」
葉蓮は表情を変えずに答えた。
「…ということで、私の考えを読み取って欲しい」
「うーん…」
仙翁は思案げな顔つきになった。
そして、口の中の物を飲み込んでから言った。
「…放送の内容?」
「流石愉快な仙翁」
峰年はニヤリと笑った。
「…それで、それを僕達が考えればいいってことなの?」
仙翁はそう言うと人参に箸をつけた。
「ふふふ、まぁそう焦るな。急がば回れと言うだろう?まぁその通りだが」
「へぇーえ、で、放送室ジャックはみんなの下校時刻に行うんですか?」
「そうだ。期限はそこまでだな」
「…まぁ、うん。やってみるよ」
仙翁は口の中の物を呑み込むと、頷いた。
「…なかなか大変なものだな」
峰年は職員室に入ろうとする智羅 瀬礼戸の姿を見かけるや否やニヤリと笑った。
「…いや何が?」
瀬礼戸は至極当然の反応をした。
瀬礼戸は峰年のクラスの授業も受け持つ教師で、面白味は無いが授業が安定している為評判もまぁ悪くはない。
峰年は彼を、時折は強引に見かけては、自分の言いたいことを一方的に言うのだ。
「あぁそうか。君にはまだ話していなかったな」
「全く聞いてない」
「ふふふ、いやなに、世間ではベンチャー企業というのが幅を効かせてるとか特にそうでもないとか言うではないか」
「一概に言えないのは確かだと思う」
「そういった背景を元に考えてみても特に何も感じることはないが、私はこれからそれなりに凄いことをしようと思ってるのだ」
「…何をする気だ?」
「ろくでもないことであることは確かだな」
「はぁ…」
瀬礼戸はそこで不安そうな顔をしていたがそこから小声で何かを言うと少しして苦虫を咀嚼させられたような顔をほんの少しだけ見せ、それから言葉を探すように視線を漂わせた。
「…」
峰年はその様子をただ見ていた。珍しいことではないからだ。
「…ヒントとか、無いのか?」
瀬礼戸は絞り出すように言った。
「ヒント、か…」
峰年は考えてみた。
「…歴史というものは、形骸化されてから初めて繰り返す」
「…どういうことだ?」
「そのままだ。人の過去の栄華を肩揉みした程度で分けてもらった気になっているのと然程変わらない」
「はぁ…」
「どうやら、ヒントのヒントが欲しそうだな」
「…いや、それはいい」
「ふ…、急にやる気を無くしたな」
「え!?…そ、そうか?」
瀬礼戸は急に驚いたような表情をした。
「大丈夫か?」
「え…あぁ、まぁ」
「ふむ、大丈夫ではないな。よっていつもの智羅だな」
「…俺、そんなに大丈夫じゃないのか?」
「授業中は隠しているのだな。涙を禁じ得ない」
峰年はそう言って右眼が疼く人の動作をした。
「いや待った待った待った」
瀬礼戸はガードマンのように手を広げた。
「おや?今更になって自己保身か?」
「いつの間に俺、そんなに可哀想な人になってたんだ?」
「さぁな。他の人がどれ程君の本性を知っていたのかは知らないな」
「いや本性じゃないかならな」
「ではなんだ?ひょっとこの仮面か?それはそれで苦笑の涙を禁じ得ないな」
峰年はそう言って両方の頬を斜め上に持ち上げた。
「苦笑しても涙は出ないだろ…」
「ふふ、言葉の綾だ。そんなことより、君は自分がおかしくなったとは思わないのか?」
「え…いや、俺は至って正常だけど…」
「イタくて正常?」
「言ってない」
「すまない。私は気づかぬ間に、君が話したことだというフィルターをかけていたようだ」
「…」
「しかしそれで正常となると、よっぽど異常な所で生まれ育ったと見える」
「…そりゃ、俺の周りには変なやつらしかいなかったけど」
「ずびし」
峰年は人差し指の第2関節で瀬礼戸を指差した。
「…?」
「…人の無理見て我が不利直せ。君が正常ならば、ガクレクバハだって正常だぞ?」
「…なんだそのガクレクバハってのは?」
瀬礼戸はとても分かりやすく渋々といった風に尋ねた。
「なんだ知らないのか。世界は広いな」
「そんな常識なのか?」
「私の知り合いに聞いてみたが、分からない人そんなに多くないぞ?」
「…そのサンプルが特殊ということはないのか?」
「ふふ、この手には乗らないか」
「非常識じゃねぇか」
「流石智羅 瀬礼戸。伊達に離婚を経験していないな」
「待て待て待て!どうしてそうなる!」
瀬礼戸は慌てたように手を広げた。
「なんだ、違うのか?」
「違う違う!むしろ、なんで違わないと思ったんだよ!」
「いやなに、そうだとすると色々と辻褄が合うものでな」
「どんな辻褄だぁあ!!」
瀬礼戸は叫んだ後、ぜぇぜぇと肩で息をした。
「むぅ、違うのか。この反応からして多分本当に違うのだろうな…まぁいい、別の可能性を検討するとするとするか」
峰年は瀬礼戸のことを気にせず自分の思考を纏め、言葉にした。
「…それは、どうも、有り難う」
瀬礼戸はぐったりしたように言った。
「礼には及ばん」
峰年は僅かに笑みを見せた。
少ししして瀬礼戸はゆっくりと顔を上げると時計を見た。
「やばっ、時間無い」
「なんだ?これからバイトか?」
「授業だよ正規雇用の」
瀬礼戸はそう言うと小走りで職員室に入った。
「じゃ」
瀬礼戸は振り向くと峰年に手を上げた。
「ではまたいつか」
峰年はそう言うと踵を返した。
「さてと、約束のブツは持ってきたかな?」
峰年は仙翁と葉蓮を見回した。
今は、5時間目の休み時間。仙翁のクラスに峰年と葉蓮がいる。
「あぁ、うん。一応」
仙翁は自分の鞄を膝の上に置いてルーズリーフを数枚取り出した。
「流石だな。いつ書いたんだ?」
峰年が仙翁達に原稿を依頼したのはこの直前の休み時間で、今は5時間目の休み時間。
そして期限は6時間目の終わりだ。
「こっちのクラスの5時間目の授業が終わってから峰年君達が来るまでにね。流石に授業は聞かないといけないから」
「成る程な」
峰年はフッと笑った。
「西部式の決闘の必勝法は、相手が振り向きだしてからこちらを向くまでに素早くターンし終えて撃ち抜くことだということか。…それで、凌霄はどうだ?」
「まだ6歩目です」
「うむ、まぁいい。凌霄は普通に10歩歩いてくれ」
「分かりました」
凌霄は頷いた。
「さてと、その話は一旦終わりにして…私の名を物理的に全校に轟かせようとする時、君達は放送室に来るかね?」
「あぁ、どっちでもいいよ」
「節黒先輩に同じく」
「ならば来てくれ。要員として必要だ」
峰年は仙翁と葉蓮を見回した。
「要員って放送室にバリケードでも張るんすか?」
「そうだ。学校側としては、被害は最小限に抑えたいだろうからな。数人でスタジオにお邪魔しに来るだろう」
「その対策はバリケードの他に無いんですか?」
「仙翁。君の力を借りてもいいな?」
「えっ」
仙翁は驚いたような顔を峰年に向けた。
「…まぁ、いいけど」
「安心しろ。今回の騒動は自然と不自然なことをする盗浦峰年の提供でお送りすることをしっかりと教師陣に伝えておくから」
「まぁ僕も責任は負うけどさ、あんまり被害は出さないようにね?」
「大丈夫だ。私は普通のドッキリは嫌いだがシュール系のドッキリは嫌いじゃない」
「…で、私と節黒先輩は6限目の終わりにどこにいればいいんですか?」
「まぁ、放送室にたむろするのも目立つし、教室にいてくれ。私が迎えに行くから」
「でも次の峰年君のクラスの授業、長引きそうじゃない?」
「次の授業…」
峰年は考えるような素振りをした。
「…何だったかな?」
峰年はそう言いながら自分の胸ポケットから生徒手帳を取り出した。
「化学」
仙翁はそれより先に言った。
「…時間割変更か」
峰年は生徒手帳を仕舞った。
「引林(ヒキバヤシ)か、面倒だな」
「ということだから、僕が2人を迎えに行くよ」
「そうか。なんなら腹痛を患ってもいいのだが」
「態々抜け出さなくてもいいでしょ」
仙翁は苦笑した。
「確かに。貴重な内職タイムだからな」
峰年ののんびりした声に仙翁は更に苦笑した。
「まぁ、じゃあ、分かりました。私はとにかく待っていればいいんですね?」
「そうだ。待っていれば多分仙翁がなんとかしてくれる。君が成さなければならない全てのことは待つことだ」
「…分かりました」
葉蓮は頷いた。
「ということだ、任せたぞ仙翁」
峰年は仙翁を見た。
「分かった」
仙翁は頷いた。
3人で集まる時、特定の場所に集合するのではなく誰かが、殆ど峰年が残りの2人の元に赴くというのが定例となってくるのだろうか。
その歴史はかなり浅く、実のところ今朝から毎回の休み時間に行われているだけだ。
それについては仙翁が一度尋ねたことがある。
『峰年君、』
『なんだ?』
『そもそもさ、集まる場所が決まってるなら、態々峰年君が迎えに来ることないんじゃない?』
『しかし変えたいわけではないだろう?』
『まぁそうだけど、単純に気になって』
『いやなに、特に理由など無い。ただなんとなく、その方法を採用した当初はそこに秘密結社っぽさを見出していたからだ。今となってはそんなもの、スーツを着て[私は怪しい者ではありません]と書かれた板を首から掛けるようなものにしか思えないがな』
ということで、仙翁の中ではある程度この疑問に結論をつけている。
そんなことを思い出したりはしなかったが、仙翁は葉蓮のクラスの教室の後ろの扉に手をかけた。
「失礼します」
仙翁はその教室の扉を開けた。
教室の中で仙翁のいる扉の近くにいた人達は一度仙翁を見たが、すぐに自分達の話を再開した。ただ1人を除いて。
その唯一の例外は無言で立ち上がると誰にも何も言わず、仙翁の元に歩いてきた。
「…お待たせ」
仙翁は取り敢えず意味も無く言った。
「待てばいいだけなんて夢のようです」
葉蓮は不機嫌そうな表情で言った。
それから2人は峰年のクラスへ行き、そこで峰
年を待った。
話題なら1つあったが、今しなくてもいいと思った仙翁は黙っていたし、葉蓮も何も言わなかった。
少しすると教室の扉が開き、引林が出てきた。
仙翁がそれに会釈していると、峰年が教室から出てきた。
後書き
さるとんどる、おみのづえSPです。
展開のペース配分、これでいいのかな…?
まぁ、息切れしたら嵩増しするだけですし。
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