裏生徒会と正しい使い方
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第3話 袋の鼠がアルマジロ
「…諸君、機微は整っている」
峰年はフッと笑った。
峰年がいきなりボケから会話を始めたのは、別に今後の会話を円滑にするつもりではなく、ただ単に思いついたからであった。
むしろこの状況に中途半端に合っていたことが偶然と言えるだろう。もしそうでなければ、峰年のタンスの如き記憶貯蔵庫の中に蓄えられ、意識しない限り姿を現さず他の記憶の出し入れを邪魔するだけであっただろう。
それから3人は雑談しながら放送室まで歩いていった。
そして3人は放送室前に着いた。
「さて、入るか」
峰年が放送室の扉の鍵を開けて扉を引き、3人は放送室の中に入った。
そして扉を閉め、鍵をかける。
「…成る程、これが放送室か」
放送室内の放送席には、言葉に表すのが困難な、音量等を上げ下げするつまみ式のレバーが大量に並べられていた。
「…なんかこれを見ていると、仙翁が昔作った秘密基地を思い出すな」
峰年は放送中を合図するランプが灯っていないことを確認すると、『勝手に動かさない』と油性ペンで書かれているガムテープが右隣に貼ってあるレバーを上下させた。
「よくもそんな過去のことを」
仙翁ははにかむように苦笑した。
「…さてと、」
峰年は放送席の椅子にどかっと座った。
「…そういえばバリケードを張らないといけないではないか」
そしてすぐに立ち上がった。
「そういう、ことです」
葉蓮はそう言いながら椅子を持ち上げた。
それから3人がかりで10分強、遂にバリケードらしきものが完成した。なによりも3人が苦労したのは、バリケードになりそうな物を見つけることだったが。
「…ふぅ、まぁ、こんなものか」
「はい、テープです」
少し遠くにいた葉蓮が峰年と仙翁にビニールテープを投げて渡した。
放送室は後ろに引く扉である為、バリケードは殆ど役に立たない。しかしバリケードを完成させることに変更は無かった。
というわけで、ビニールテープで補強しておくことにした。
放送室内はやはり静かには済まないが、誰も様子を見に来ない。恐らく、その音の理由はいずれ分かると思っているのかそれとも大したことではないと思っているのか大体その辺りだろう。
ビリッ、ビリリッ、という明らかに放送室で聞かない類いの音が放送室を占める。
「…うん、こんな感じでいいかな?」
仙翁はざっと放送室の唯一の扉を見回した。
「これで放送室内で災害が起きたら、笑えないことになるな」
峰年は小さく笑った。
「そうなったらヘリを呼ぶから大丈夫」
仙翁は冷静に言った。
「しかし、君が愉快な仲間達を率いていることは秘密ではなかったのか?」
「大丈夫だよ」
仙翁は微笑んだ。
「流石に人命優先だし、野茂瀬さんが呼んだことにすればいいから」
「…成る程、そういえばその為の野茂瀬だったな」
「…野茂瀬って、野茂瀬 仁梨佳のことですか?」
葉蓮が急に口を開いた。
「あ、うん。…そういえば、凌霄さんと同じクラスだったね」
「はい」
葉蓮は頷いた。
「そうだったね…」
そして葉蓮の話はフェードアウトしていった。
その沈黙の中、バイブ音がした。
「…もしもし、この携帯電話の持ち主の方だが」
峰年が電話に出た。
『峰年さん、首尾が整いました』
40代位の男の声。
「有り難う。…では、共に楽しい時を過ごそう」
『ええ、』
峰年は通話を切った。
「さてと、待たせたな諸君」
峰年は徐に仙翁と葉蓮を見た。
「…」
そう言われても、2人共特に返す言葉は無い。
「無邪気に邪な計画の…幕開けだ!」
峰年は放送の為のスイッチを入れた。
教室の上部から、サァァアァア…という、機械特有の音がする。
教室にある物でそんな音をたてるのは限られる。さらに、テレビはそもそもスイッチが入っていない。
そうなれば…
『七弓(シチユミ)中学、高校の生徒並びに教師陣並びに保護者並びに元気なお友達諸君。こんにちは、盗浦 峰年だ』
少女は不信感を強めた。放送部の活動の再開の認可が降りたという話を聞いたことは無いし、なにより放送部が言いそうな台詞ではない。
『皆さんが思っている通り、私は不審者だ。但し、歴とした七弓高生だ』
少女は放送を聞きながら教室を出た。
『私はここに宣誓しに来た、裏生徒会を結成するつもりであることを』
(裏生徒会…?)
少女はその言葉に聞き覚えは無かった。
『私はここに宣言しに来た、我々裏生徒会初期メンバーは、健全かつ優良な生徒会シップを乗っ取り、平淡かつ微妙な組織を造り上げることを』
(何の為にこの宣誓を…?)
少女はとにかく、放送室へ急いだ。
取り敢えずこの事態を一刻も早く収束させなければ学校全体の後の風紀に支障が出かねない。
『しかし裏生徒会には、足りないものがいくつかある。予算人望知名度説得力物事を客観視する態度等枚挙に暇は無いが、なにより人員が足りない。ゼンマイの巻かれていない人形もオブジェ位にはなるが、ゼンマイだけあっても新進気鋭なオブジェ位にしかならない。よって、人員を募集することにした』
(人集め…)
少女は目の前に人だかりを見つけた。
放送室のすぐ傍で、教師の大声がする。
「だから、下らないことはやめて早くここを通して下さい!」
「何を言っているんですか!一大事ですよ!」
『主な活動内容は未定。但し、今やってる類いのことは以後滅多にやらないことが予想される。今回は例外的な行動を取っただけで、テロリズムに憧れているだけなら裏生徒会に入ることは推奨しない。というよりそもそもこれはテロとは言い難い。』
「だから、それをどう見たらそれが事件になるんですか!」
少女が教師陣の人混みを掻き分けて進むと、目の前の光景の理解に少し時間を要した。
『KEEP OUT』と書かれたビニールテープが行く手を塞ぐように貼られているがその前では人型のマネキンの胸の辺りに赤い絵の具が垂らされ、白衣を着た40代位の男がそのマネキンを抱え上げながら「大丈夫ですか!」と叫んでいた。さながら殺害現場のようだ。
『我々の目指す所は、穏やかな楽しさ。安定した現段階の楽しさ。しかしそれに向けた努力を重点的にするということはない』
「はい、部外者は帰って帰って」
スーツをきっちり着こんだ若い男がビニールテープの向こう側から手で追い払うようにした。
「あなた達、いい加減にしないと、警察を呼びますよ!」
教師の1人が叫んだ。
「我々は悪太郎(ワルタロウ)の無念を晴らすという使命がある!それは誰にも曲げられない!」
『私は努力というものがどうにも苦手でね。努力によって得るものがあると自分を騙し騙し使っていくこともあるが、喜んで自分をそんな風に使うことはまずないと言っていいだろう』
「…」
このままでは時間がかかりすぎる。
(仕方無い…)
「…先生、後ろに行ってから、鍵貸して下さい」
少女は鍵を持っていた教師に、そちらの方を向かずに囁いた。
「…分かった」
少女はその声を聞くと後ろに退いた。
「…」
教師は少女に放送室の鍵を渡した。
『ではそろそろ、本題に入ろうか』
少女は鍵を持っていた教師がまた前に行くのを見ながらタイミングを図っていた。
その教師を通じて、少女が駆け出す通路を空けるよう頼んでおいた。
『話は簡単だ、明日の朝7時30分から8時10分までに、こちらが指定する3つの場所の内いずれかに来てもらいたい』
人混みが左右に波打つ。やや態とらしいが、流石に仕方無い。
少女の目の前の人混みが2つに分かれた。
(今っ!)
少女は誰とも衝突せず全速力で駆け出した。その勢いでビニールテープのハードルを飛び越える。
「止まりなさい!」
スーツの男が少女に立ち塞がった。
少女は着地と同時に左にステップした。
「っ!」
男がそれを追おうとした時には少女は前に駆け出していた。
ガシッ
しかし少女は誰かに肩を掴まれた。
「っ!」
少女は振り返った。
少女の肩を掴んでいるのは、見知らぬ30代位の女。瞳に涙を滲ませている。
「目を覚まして!悪太郎はもう、息をしていないのよ!」
「人形が息をしていたらホラーです!」
少女はもがくが、女の力は見た目からは想像出来ない程強い。
『…2つ目、プール近くのゴミ袋を入れる一輪車がいつもある付近』
後ろでは、教師と白衣の男がまだもめている。生徒なら多少の無茶は口頭注意で許されるが、教師はそうはいかない。
(あと生徒が1人…!)
『3つ目、七弓の最寄りの薬局の駐車場』
少女は後ろの様子を目で探った。
(…いた!)
少女は味方を見つけた。
「河原君!」
呼ばれた河原 大和(ヤマト)はビクッと反応すると少女の方を向いた。
「…な、なんですか?」
大和は明らかに巻き込まれたくなさそうだが、少女にはそんなことを気にしている余裕が無かった。
「ちょっと手伝って!」
「あ…はい」
『さて、我々の一番告げたいことは告げ終わった。そろそろ終わりにするとしようか』
大和がビニールテープを跨いだ。
少女はすかさずアンダースローで、大和に鍵を投げた。
「っ」
大和は半歩退きながらもそれを受け取った。
『3、』
少女を拘束していた女が大和に向かうのを少女は腕を掴んで阻止する。
『2、』
「悪太郎ー!」
女はそう叫びながら体を回転させて少女を振り払うと大和に近づいた。
『1』
バタタタタタ…
少女達を妨害していた人達が急に、力を失ったかのように倒れ込んだ。
「うわっ!」
大和は拒絶するようにその場を飛び退いた。
「何…、これ…?」
少女は何が起きているのか理解出来なかった。
「…」
大和もその場に立ち尽くしている。
少しして少女ははっと我に返った。
「河原君!鍵開けて!」
少女の声に大和も正気に返ったようだ。
「あ、はい!」
大和は鍵を開けた。そして扉を開けようとしたが、揺れるだけで開かない。
(…内側から押さえられてる?)
そう判断した少女は大和の元に駆け寄った。
もう放送は終了している為急ぐ必要も無いが、態々時間をかける道理も無い。
少女は両手でドアノブを掴んだ。
「っ!ちょっ!」
「手伝います。せーので引くよ」
放送室の中からはガチャガチャという、椅子か何かを動かすような音がしていた。
「せぇー、のっ!」
ビリリリィ!
内側から接着されていたらしいドアは、しかし今や大方剥がれかかり扉も半分程開いていた。
テープのせいでよく見えないが、 扉の隙間から3人の人影が見える。
少女はテープを掻き分けて中に入った。
「おや、現実がやって来た」
放送席の中心で座っていた少年が椅子を回してこちらを向いた。声からして、彼が盗浦 峰年だろうか。
少女が何かを言おうとする前に、後ろから教師達がずらずらと放送室に押し入った。
「待った」
峰年は制すように手を広げた。
「こんな互いに慣れない場所ではなく、話ならあなた方のホームである職員室でしよう」
峰年がそう言うと峰年達3人は立ち上がった。
そしてそのまま、淡々と放送室を出る。
「…」
少女は少し考えた後、放送席に座った。
そして放送開始を告げるチャイムを鳴らすとマイクのスイッチをオンにした。
「生徒会会長の凌霄 花です。…先程の放送で生徒の皆さんを困惑させたことを、お詫びいたします。…先程の放送に関わった人達には、それ相応の罰が下されます。から、生徒の皆さんも、清廉な文化人として相応しい行動を崩さないよう心がけてください。これで放送を終わります」
心の中で微妙な点数を与えながら、少女は放送を終えた。
後書き
さるとんどる、おみのづえSPです。
会長の性格を調整する都合上、第3話が遅れました。
第4話からは、もっと遅れます。
というより未だに殆ど手をつけてない…
ポケモンとか引っ越しとかぐだぐだとかで忙しいんだよね。
まぁ、のっそりと更新していきますのでまた見てやって下さい。
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