西部の娘
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第一幕その七
第一幕その七
「!?」
ミニーとニックはそれを聞いて表情を一変させた。ジョンソンは眉を顰めた。
(まずい時に・・・・・・)
彼は内心舌打ちした。しかしそれは顔には出さなかった。
「お金は今日は俺が見張っておくよ」
ニックはミニーに言った。
「そう、それじゃあお願いね」
ミニーは彼を頼み込む目で見て言った。
「ジョンソン」
彼女はジョンソンに顔を戻した。
「ちょっと待っててね」
ミニーはそう言うとニックと共に店の奥に入って行った。
「行ったか」
ジョンソンはそれを見て呟いた。そしてそっと店から出た。
すぐに戻って来た。そしてカウンターに戻り席に着く。
「お待たせ」
ミニーは戻って来た。ジョンソンはそれを笑顔で向かえた。
「用心深いんだね」
彼は素っ気無く言った。
「ええ、それはもう」
ミニーは真剣な表情で答えた。
「大事なお金なんですもの」
「大事な」
ジョンソンはそれを聞いて眉を顰めた。
「ええ。とても大事な」
ミニーは言った。
「あの人達が家族の為に、自分が生きる為にここまで来て稼いだお金。あの鉱山でね」
そう言って店の入口から見える岩山を見た。
「・・・・・・・・・」
ジョンソンもその山を見た。何も語らない。しかし目は何かを語っていた。
彼は岩山から目を離した。そして別の山を見ていた。盗賊がいるという山を。
「中には事故で死んでしまった人もいるわ。そんな危険を冒してまでして手に入れたお金なのよ。盗賊なんかには絶対に渡さない」
「・・・・・・そうだね」
ジョンソンは複雑な表情でそれに答えた。
大方はミニーに同意していた。だが僅かに同意出来ないようであった。
「貴女は優しいんだな」
彼は言った。
「その人達の為にそこまで親身になるなんて。大丈夫だ、盗賊はここまでは来ないよ」
「そうしてそんなことが言えるの?」
ミニーは不思議な顔をした。
「うん。勘だけれどね。盗賊はもっと派手な場所を襲うものさ」
ジョンソンは言った。
「特にあそこにいる連中はね」
そう言って店の外に見える山を見た。
「詳しいのね」
ミニーは言った。
「有名な連中だからね。カルフォルニアであの連中と頭目の名前を知らない奴はいないさ」
ジョンソンは自嘲するような笑いを浮かべて言った。
「じゃあこれで。お金はここに置いておくね」
彼はそう言うと懐から数枚のコインを取り出した。そしてそれをテーブルに置き立ち去ろうとする。
「待って」
ミニーが呼び止めた。
「泊まるところが無いのでしょう?」
「いつものことさ」
彼は振り返って言った。
「さっき行ったわね。山小屋に来ない?貧しいけれど温かい食事と暖炉があるわよ」
「それは有り難いけれど」
「遠慮する必要は無いわ。それにまだお話したいことがあるし」
ミニーは彼に熱い目を送った。
「いいのかい?」
ジョンソンはそれを見て言った。
「いいのよ」
ミニーは言った。
「それじゃあ」
彼はミニーの申し出を受け入れた。
「良かったわ、断られなくて」
彼女はそれを見て微笑んで言った。
「行きましょう。陽が落ちないうちに」
「うん」
二人は店を出た。そしてそれぞれの馬に乗りポルカを後にした。
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