西部の娘
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第一幕その六
第一幕その六
「ここから少し行ったところです。マドロナ=カニャダです」
「あそこか」
「はい」
「本当なんだろうな」
アッシュビーが言った。脅しが入っている。
「嘘は言いません。お望みなら案内致します」
「ふん、腰抜けが。信用できるか」
アッシュビーはそんな彼に対し蔑みを込めて言った。
「保安官どうするんで?」
ソノーラが尋ねた。
「そうだな」
ランスはカストロを見下ろしながら考え込んだ。
「馬はあるか?」
彼はニックに尋ねた。
「はい」
彼は答えた。
「そうか。ならば問題は無い」
彼は表情を変えず頷いた。
「行こう、賞金が欲しい奴は俺について来い」
「よし」
店にいる者の殆どがそれに乗った。そして馬を厩から出しに行く。ミニーもそれについて行った。
店にいるのはニック、そしてジョンソンとカストロだけになった。カストロはニックに対して言った。
「あの、水を」
ニックはそれに対して頷きカウンターの裏に向かった。
ジョンソンはそれを見るとそっとニックに近寄った。
「大丈夫か?」
彼はカストロを気遣うように尋ねた。
「ええまあ」
カストロは申し訳なさそうに返答した。
「わざと捕まったんですし」
「そうだったのか」
ジョンソンはそれを聞いて少し安堵したようであった。
「皆が私を追って森にやって来ます。そうしたら合図の口笛が聞こえて来ると思います」
「そうか」
ジョンソンはそれを聞いて頷いた。
「そうしたら合図をして下さい」
「わかった」
そして二人は離れた。すぐにニックが戻って来た。
「ほら、水だ」
そしてカストロに水を飲ませる。
「すいません」
カストロはそれを飲んで礼を言った。そこでミニーとランスが戻って来た。
「行くぞ、案内しろ」
店の外から馬の嘶きが聞こえて来る。
ランスはカストロを連れて出て行った。ニックとミニーはそれを見送った。
ニックは見せの奥に入った。店の金を持って行く。店の中はミニーとジョンソンだけになった。
「あら」
ミニーは店の中に顔を戻して気付いた。
「貴方は行かなかったの?」
見ればジョンソンは店の中に残っていた。
「ええ。賞金には興味がありませんし」
ジョンソンは答えた。
「そうなのですか。じゃあ二人で飲みませんか?」
「ええ。貴女さえよろしければ」
ミニーはカウンターに入った。ジョンソンはその前の席に座った。
「どうぞ」
ウイスキーを差し出した。
「どうも」
彼はそれを笑顔で受け取った。そして一口飲む。
「ところでこの店に住んでいるんですか?」
ジョンソンはふと尋ねた。
「いえ」
ミニーはそれに対して答えた。
「ここからすぐにある山の中腹にある小屋に住んでいるのよ」
「山小屋にですか?」
「ええ。その方が何かと気楽ですし」
「そうですか。それはまた質素な」
「そういうわけでも。食べるのには困らないし」
ミニーは微笑んで言った。
「それに寂しくはないし。このポルカがあるから」
「それはいい。私は今は天涯孤独の身の上だ」
ジョンソンはそれを聞いて言った。
「そうだったんですか」
「ええ。父がいましたが」
彼はふと寂しげな表情になった。
「この前亡くなりました。遺産を残してくれたので食べるのには困りませんが」
「そうなのですか」
ミニーはふとこの男に対し同情した。
「あ、いや別に悲しんでいるわけではないので。あちこち旅をする気儘な身分ですし」
「そうですか。けれど旅をしている間は寝る時はいつも空の下でしょう?」
「まあ。それでも慣れれば結構いいものですが」
「・・・・・・・・・」
ミニーはそれを聞いて考え込んだ。
「あの・・・・・・」
そしてジョンソンに対して言った。
「よろしければ今日はあたしの小屋に泊まりませんか?」
「えっ、しかしそれは・・・・・・」
ジョンソンはそれに対し申し訳ないと断ろうとする。
「あたしは構いません。貴方のことが気にいりましたし」
「しかし・・・・・・」
ジョンソンはまだ申し訳なさそうにしている。そこにニックが戻って来た。
「ミニー、まずいぞ」
ニックは表情を曇らせて言った。
「どうしたの?」
「この近くにもう一人盗賊の一味がいるらしい。さっき通り掛かりの奴がそう噂していた」
「それは本当!?」
ミニーはそれを聞いて表情を曇らせた。
「ああ。どっちにしろ盗賊の奴等がこの辺りに入り込んでいるのは間違い無いだろう」
「そう」
ミニーは表情を険しくさせた。そこで口笛が聞こえて来た。
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