西部の娘
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第一幕その五
第一幕その五
「うむ、そうだな。出身と名前もわかったし」
彼はまだ色々と聞きたそうであったがここで止めることにした。
「ジョンソン、ようこそポルカに」
ミニーは笑顔で言った。
「有り難うございます」
ジョンソンはその言葉に対し一礼した。
ミニーは彼に対し顔を近付け小声で言った。
「覚えているかしら」
「ええ、とても」
彼は答えた。
「ソレーダ出身のミニーさん」
「そう、覚えてくれていて有り難う」
ミニーは顔をほころばせた。
「ソレーダにいた頃が懐かしいわ。お父さんもお母さんもよくカードをしていたわね」
彼女は幼い頃を思い出していた。
「お父さんもお母さんも私も脚を寄せ合って暮らしていたわ。貧しかったけれどとても幸せだった。あの頃が本当に懐かしいわ」
「何時聞いてもいい話だね」
「有り難う。あの時が一番幸せだったかもね」
「じゃあ今はどうなんだい!?」
ここでランスが尋ねてきた。自分だけ話の外にいるようであまり気分がよくなかったのだ。
「今もとても幸せよ。けれど昔を懐かしむ気持ちってあるじゃない」
「まあ確かにな」
ランスはここで首を引っ込めた。
「貴方と会ったのはモンタレーだったわね」
ミニーは話を再開した。
「そう、そして僕がジャスミンの枝をあげたんだった」
「よく覚えてるわね」
「ええ、自分でも驚く程」
ジョンソンは上機嫌で言った。
「あの時また会おうって言ったの覚えてるかしら」
「ええ」
「嬉しいわ、それで今日また会ったわね」
彼女はその言葉を聞いて微笑んだ。
「これも神様の思し召しかしら」
ランスはその会話を不機嫌そうに聞いていた。そしてテキーラを頼んだ。
「ジョンソンさん」
「はい」
ランスはジョンソンをその不機嫌な目で睨んだ。
「申し訳ないが今貴方をここに入れるわけにはいかない。盗賊達の動きが気になるんでね」
「ランス、何てこと言うのよ」
ミニーがその言葉に顔を顰めた。
「ミニー、俺は保安官として言ってるんだ」
口ではそう言った。しかし内心では違うのは自分が最もよくわかっていた。
「余所者は今はここには泊めない。悪いがこれは治安上の問題だ」
そう言ってジョンソンを帰そうとする。そこへ店に何人か大声で入って来た。
「保安官、ここにいたか!」
そのうちの一人が言った。
「どうした?」
ランスは入口の方に顔を向けた。
「おっ、アッシュビーか」
その口髭を生やした男を見て言った。
「ああ、凄い奴をとっ捕まえたんだ!」
「何だ?またコヨーテのでかいやつか?」
「まあ近いね」
アッシュビーはその言葉を聞いて笑った。
「見てくれよ!」
そう言って縛り上げられた一人の男を床に放り出した。
「こいつは?」
ランスはその男の顔を見てアッシュビーに尋ねた。
「あの盗賊共の一人さ。この辺りをうろうろしていたんで怪しいと思って問い質したらボロを出しやがった」
床に転がされた男は震えて縮こまっている。
「ほう、それは間抜けな奴だな」
ランスはそれを聞いて笑った。
「まあだから捕まったんだろうがな」
そう言いながら男に近寄った。
「おい」
ランスは彼に対して問うた。
「名前は何というんだ?」
「カストロです」
男は震える声で言った。
「あの盗賊共の一味だな」
「はい」
カストロはそこでジョンソンがいることに気が付いた。
「あ・・・・・・」
ジョンソンは彼にそっと目配せした。カストロはそれに対し目で頷いた。
「ところで」
ランスはまだ尋ねようとする。
「御前達のアジトを聞きたいのだがな」
「それは・・・・・・」
「知らない筈がないな」
ランスは少し凄んで言った。
「はい・・・・・・」
カストロは顔を俯けて答えた。どうもあまり気は強くないらしい。
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