ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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After days
summer
水城家潜入
前書き
題名通り。
Side和人
6月。夏も近くなり、冬服がそろそろ暑くなって来る頃のことだ。放課後、里香に呼ばれた俺は視聴覚室にやって来た。
「…………?」
指定された時間に教室の前にやって来ると、中から声が聞こえる。防音対策が施されたこの教室の外へ音が漏れるとはよほど大きな声でない限りあり得ない。
何事かと扉を少し開けてみると、ヒュンッ、と音を立てて鋭い何かが跳んできて―――
「のわぁ!?」
紙一重でしゃがんでそれをかわすと、中をおそるおそる覗き込む。中に居たのは明日奈、里香、海斗だ。
「だ、大丈夫?キリト君」
「何だよ、今の……」
明日奈が心配そうに駆け寄ってくる。
「うーん……。キリトにも避けられるんじゃ改良の余地有りね……」
「だからって実弾で試すなよ……」
何やら物騒な言葉が聞こえたが、きっと気のせい、ということにして何やら悪巧みをしている里香に訊ねる。
「で、何の用だよ?」
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「今日、みんなに集まってもらったのは他でもありません」
視聴覚室は後ろに行くほど段差の関係で目線が高くなる。
必然的に集まった何時もの面子を見上げるようにして話始めた里香に皆の視線が集まる。
「あたし達は何だかんだでいつもいいように扱われてきました……こいつに」
里香がバックのスクリーンにでかでかと写し出したのは―――
「里香さん……別に螢さんは特に何もしていないと思いますが……」
珪子がもっともな意見を言うが、里香はバン、と机を叩くと大袈裟な身ぶりで語り始める。
「甘いわね。あいつはぶっちゃけロリコンよ。だからあんたには手加減してるのよ!」
「え……ええ!?」
確かに螢は珪子、というか年下にはどこか態度が柔らかいような気がするが、ロリコンのレッテルを貼られるレベルなのか……?
「ちょっと里香。言いたいことは解ったけど、結局何がしたいの?」
「そーだぜ篠崎。あ、もしかしてあいつに何かされたのか?」
何やら憤慨している様子の里香に明日奈と海斗が訊ねる。
「その通りよ!思い出しただけでも腹立つわ!いい?あれは昨日の昼休み―――」
2人の水差しは鎮火の意味もあったのだろうが、里香はますますヒートアップして語り始めた。
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Side里香
「あー、疲れた……」
4限の科目は化学。理系全般が苦手な自分にとっては中々苛酷な科目だ。
「何よ。カニッツァロ反応って……言い難いんだけど」
ブツブツ言いながら教室を出て食堂に向かう。今日は確か和人は来ない日のはずなので同じクラスの螢もおちおち来るだろう。
「あ……」
ゆっくりとした歩調で歩く長身の人影。向かう先は自分と同じ食堂。
「やっほー、螢。お元気?」
背中をバン、と叩きながら挨拶をする。
「……よ、リ……里香」
SAO時代も街でたまに見掛けると、こうして挨拶をしていたので、間違えたようだ。自分でもそれが解っているだけに苦笑しながら呼び名を訂正した。
「ふふ。あっという間だね。帰ってきてからもう半年と1ヶ月だよ」
「そうだな……てか、年寄くさいぞ。もうちょっとヤングな言い方はないのか?」
「うるさいわね。何よヤングな言い方って」
「知らん」
「じゃあ言うな!!」
ビシッ、とツッコミを入れるタイミングも最早お馴染みだ。
明日奈なんかは何を勘違いしているのか、「付き合ってるの?」何て訊く始末だ。
(……そういえば)
螢/レイにその手の噂を聞いたことがない。考えてみれば不思議だった。
特別、顔立ちは悪い方ではない。大目に見積もって中の上。今はその面をぼんやりとした表情で台無しにしている訳だが、ゲーム内での戦闘時や現実でも何かに取り組む時の顔は別人だ。
そんな彼に浮わついた噂の1つも無いのが気になった。
――食堂。
「ねぇ、ちょっと訊いていい?」
昼御飯を食べ終わり、食後の紅茶を飲みながら一応、遠慮がちに訊ねる。
「ん、珍しいな?」
実際、私が遠慮がちに質問することはほとんど無い。だから螢も視線を手に持つお茶から放し、こっちを見る。
「あの、さ。あんたって彼女とか、好きな人とか居ないの?」
そう訊ねた瞬間、螢はUMAでも見たよな表情をし、次いで微笑する。
「何だよ。ついにやつから乗り替えるのか?」
「私のことじゃ無いわよ。あんたのこと!」
「それ、今じゃなきゃダメか?」
「ダメ。あんたはそれで何時も話をはぐらかす」
螢の笑みは少し困ったように変わった。それから何かを思案するように目を瞑り、しばし黙考する。やがて目を開けると、ポツリと言った。
「俺の恋は一生に一度だけ」
その目はどこか寂しそうで声は自然と胸に染み渡る静かなものだった。
「それは4年前に始まって、未だに、そして永遠に片想い。……だから、俺にそうゆう存在は居ない」
言い終えると再び、目を閉じ、次に開けた時は目から哀愁の光は消えていた。
「……聞いちゃいけなかったかな……?」
「いや、何でもない。というかお前、今の話を信じたのか?」
「はい?」
「冗談だ」
にやり、と笑うと食器の返却棚に向かって去っていき、ひょいっ、と食堂から消えた。
「あ……あいつ~~~~!?」
からかわれたと気が付いた時にはもう時すでに遅しだった。
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Side和人
「―――というわけなのよ」
まあ、螢ならやりかねないが、そこまで怒ることなのだろうか。生憎、こちらは女性の心が分かっていない、と教壇で熱弁を奮っておられるリズベット先生からのお墨付きの思考の持ち主だ。
「里香。要するに、螢をギャフンと言わせればいいのかしら?」
凛が律儀に手を挙げて(ただし、許可を得る前に)発言する。
「そうね、理想としては、何かあいつの弱味を握ってしゃべらせるのがベストね」
「……怖いよ、里香さん」
冷や汗を滴ながら狼李がげんなりしている。と、
「よしやろう」
レオンがガタッ、と立ち上がってノリノリな様子で言う。
「あいつには日頃の恨みつらみがあるからな。ここらで一矢報いねば気がすまない!」
「さすがレオン!やっぱり気が合うわね!」
ここに『螢をちょっとギャフンと言わしたろう同盟』が結成された。
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だが、その同盟に参加した(させられた)人数は少なかった。
里香、レオンが首謀者。半強制的に引き込まれた俺、明日奈はため息を尽くばかりだ。
「……で、具体的にはどうするんだよ」
「「尾行」」
これが志を共にした者達の以心伝心というやつだろうか……。ベクトルがおかしい事を除けば無駄にすごい。
こんなくだらない事に巻き込まれてていいのか、という視線で明日奈を見ると、明日奈は意外にも微笑んでいた。
「なあ、明日奈。別に無理に付き合わなくたっていいんだぜ?」
「大丈夫だよ。ちょっと気になることもあるしね……」
「そう、か……」
明日奈が現実世界に帰還したあの雪の日の帰り道。
俺は螢に家まで送られた。名目は須郷に精神操作を受けたやつがまだいるかもしれないから、念のため。ということだったが、本当の目的は俺に自分の事について知っておいてもらう、ということだったのかもしれない。
茅場晶彦と出会った経緯、全てが始まったあの日、SAOにログインした訳、そしてALOにやって来たのは罪を精算するため、ということも。
螢はその時にこう言った。
「それでも、お前は俺を仲間だと言ってくれるのか……?」
その目には今まで彼が見せたことのない『寂しさ』の光があった。
その時、俺は螢が自分と同い年なのを思い出し、初めて『レイ』という人物を本当の意味で理解し、受け入れた。
どんなに大人びていようが、物腰が落ち着いていようが、彼はまだ16年しか生きていない、自分と同じ子供なのだと分かった。
「皆には内緒だからな?明日奈にも話すなよ」
最後に笑いながら、銀白色の左腕を指した。
誰にも話すな、というのはきっと腕のことだろうから、その他のことは構わないはずだ。
「どうしたんだよ、和人。元気ないぞ?」
「いや、何でもない。……ま、明日奈がやるんなら俺もやろうかな」
その言葉に明日奈が頬を染め、里香とレオンがげんなりしていたが、本人はどちらにも気がついていなかった。
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Side螢
(……随分とお粗末な尾行だと思えば……何やってんだあいつら?)
帰り道、後方50m程のところに怪しげな集団がいる。
付けられてる、と感じたのは校門を出た瞬間。
確認したところ、和人、明日奈、里香、レオンだと判ったのだが、付けられる理由は不明だった。
(……家を知りたいのか?いや……正確な位置を教えた訳じゃないにしても、その程度なら少し詳しく聞けば判るはずだ)
隠す理由は……無いこともないんだが、まぁいいや。
最寄りの駅に付くと、ちょうど来た電車に乗り込み、こっそり様子を伺う。
(おいおい……)
尾行対象とそんな至近距離に居るなよ。俺が気づかないのもおかしい位置だぞ。
「いったい、何がしたいんだ……」
俺は、少し様子を見ることにした。
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Side和人
(……気づいてないのか?いや、そんなわけないな……)
さっき、小さくだが、顔を左右に振った。螢が「やれやれ……」と言うときの仕草だ。
螢は板橋で降りると、雑踏の中をするりするりと手品のように抜けていく。
「追うわよ!」
「ちょっと、聞こえるでしょ里香」
俺達は距離を離されながらも何とか付いていき、そして数分歩いた所で大きな門が現れた。
「おお……」
「でっか……」
簡単の声をあげるレオンと里香。確かに巨大だ。どう見ても、人が入るための門ではない。
「あれ、螢君は?」
「あ……」
門に目を奪われている間に肝心の螢がどこかへ消えてしまった。
「でも、あの門の家だよね?あの前まで行ってたし」
「表札ぐらいあるんじゃないか?行ってみようぜ」
「残念ながらうちは表札出してないんだ」
「え、何でだ?」
「あのでかい門が表札代わりだからな」
「なーる…………って、おわぁ!?」
後ろを向くと、どこからか湧いて出た螢が呆れた眼差しを向けていた。
「何か用か?」
「えっと……、どうやって後ろに?」
「秘密。……ていうか、やっぱり付けてたのか……」
「「「「うぐっ……」」」」
螢は、はぁ、とため息を吐くと門に向かって歩き出した。
「……せっかくだから上がっていけば?」
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門を潜ると(脇に普通サイズの扉があった)、中は奇妙だが、広い庭だった。
向かって右には芝生の庭。左は細かな砂利が敷き詰められた場所と硬い土の場所がある。石敷の通路を真っ直ぐ歩いて行くと、『館』があった。
所々が二階建てになっているが、とにかく横長な家だった。
「……螢の家ってもしかして金持ち?」
「ん……まぁ、実家は金持ちだな」
「ふ~ん。何か事業でもやってるんだ?」
「そうだな」
あまり、その点では触れられたくないのか、素っ気なく返す螢。
確か、茅場晶彦が言ってた―――
「……ねえ、和人君。団長の言ってた……」
「ああ……多分本当のこと、なんだろうな」
『日本で制限されている軍事産業。そのうち、各国へ傭兵派遣を専門としている企業があると聞いた。私は最後の希望を経営者である水城家に託したのだ。結果は良いものだった。水城家は表では有名な武家の末裔で名が通っていて、実戦的な剣術を警察や自衛隊に指導していた。御当主の紹介で彼に会ったのはその時だよ』
その時は頭が混乱していて、何を言っているのかは全く分からなかった。だが、今ならば―――
「でも、そんなことは関係ない。俺達の知ってる螢が偽者なんてことはないからな」
「そうだね……」
その時ガラッ、と戸が開き、中から長身の男性が出てきた。
「おりょ?後ろの人達は何だよ」
「学校の友達だ」
「ああ。……っていいのか?連れてきて」
「いいんだよ。それより、いきなり出てきて挨拶もしないのはどうかと思うぞ。蓮兄」
螢がじと目で睨むと、その男性は芝居掛かった仕草でペシッ、と額を叩いて名乗った。
「どもー。水城蓮、19歳。螢の兄貴でーす。よろ♪」
――ゴシャァ!!
螢の手持ち鞄が蓮の側頭部にめり込み、地面に倒される。
「見た通り、ただの馬鹿だ。ほっといていいから上がってくれ」
俺達は過激なスキンシップに唖然として、ただコクコクと頷くだけだった。
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Side明日奈
夕日の射し込む廊下を歩き、家の南側に位置する通路の一番奥の部屋にやって来た。
「着替えてくる。ここで待っててくれ」
案内された部屋は六畳程の細長い部屋だった。家具は奥に置かれた机と椅子。その脇にある本棚だけだった。
壁際に積まれた来客用であろう座布団を並べて取り合えずそこに座る。
和人とレオンは本棚を興味深げに眺めていた。
「ち、何かこ難しい本ばっかだな。エロ本の一冊でもないのか」
「何探してんだよ!?……それはともかく、これは凄いな……」
和人はえらく興味を持った様子で感心したように本棚を眺めていた。
「どんなのがあるの?」
そう言えば螢が本を読んでいるのを見たことがない。純粋にどんな本があるのか興味があった。
1段目…何枚かの写真、ナーヴギア、SAOのROMカード
「……ふふ」
それを見て明日奈は小さく笑みを漏らす。
2段目…MMO情報誌各種
3段目…日本の民俗学、世界各国の神話、旧約、新約聖書(ラテン語)
4段目…医学書系
5段目…フルダイブ技術系各種
「あれ……?」
一番下は1冊の分厚いファイルが置いてあった。
自然と手が伸び、そのファイルに触れ―――
「それは別に面白くないぞ」
全員がビクッ、として戸の方向を見る。
ラフな部屋着に着替え、お盆にお茶を乗せた螢が立っていた。
「そのファイルは『ソードスキル全集』ってとこだ。原案から修正したやつは殆ど無いし、今さら見てもつまらないと思うがな」
「そ、そうなんだ」
螢が部屋に入ってくると、後ろから初老の男性が入ってきて手早く折り畳み式の机を組み立てて、一礼し、去っていった。
「それで?他に知りたいことは何かあるか?」
どうやら螢はもう私達が何をしに来たのかを薄々感ずいているようだ。
「じゃ、あたしから聞くわ」
里香が腕を組んで不機嫌そうに声を発する。
「おい……?何か機嫌悪くないか?」
「あんたのせいよ。あたしが昨日、真面目に質問したのに適当にはぐらかしてくれちゃって!!」
「昨日……?……あ」
螢がポン、と手を叩いて納得の表情を浮かべる。
「いや……な。悪かったよ。正直言うと、アレは嘘じゃないんだ。昨日、ああ言ったのは……その、恥ずかしくてな……」
決まりが悪そうに頭を下げる螢。里香もあっさり謝られたことに少し、呆気にとられているようだった。
「ふ、ふん。分かればいいのよ」
こうして、『螢をちょっとギャフンと言わしたろう同盟』の最終目的は完遂した。
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それからは他愛のない話をして、それぞれ家路についた。
用事を思い出したというレオンは先に帰り、自分と和人と里香は螢に駅まで送ってもらっていた。
「ねえ、螢君」
「何だ?」
「里香から聞いたんだけど、『一生に一度しか恋はしない。それは永遠の片想い』って、どうゆう意味なの?」
もしかしたら、訊いてはいけないことなのかもしれなかった。
だけど聞かずにはいられなかった。あの寂しそうな表情の意味を知りたかった。
「……その通りの意味だ。俺は一生に一度の恋しか、しない。2度目は無いってことだ」
「……どうして?」
声は返って来なかった。人通りの少ない道に4人分の足音が響く。
しばらくして、螢が口を開く。
静かだが、確かな口調で、ただ寂しそうにその理由を告げた。
「……アスナを助けなければ、キリトは現実に帰って来れなかった。それと同じで、俺は大切な人を助けなければ、ここより前へ進めない。それだけだ」
駅までの最後の角を曲がり、駅前の喧騒が押し寄せてくる。
「また、明日な」
「……うん。ばいばい」
「おう。じゃあな」
「じゃあね~」
駅の入り口で後ろを振り返る。螢はまだ、別れた場所に立っていた。やがてその姿も人混みの中へ消えた。
後書き
螢君の恋愛感について、
これはけっこう重要なフラグだったりするかもしれません。
別に気にしなくても楽しめるとは思いますが。
この際、皆さんの意見とかくれると嬉しいです。
近況報告
GGO…方針が大体決まりました。シノンの空気感パネェ……。至急修正しますorz
マザロザ…《マザーズ・ロザリオ》をアスナに譲渡するシーン。どのタイミングでレイ君が来るのか?微調整がムズイ……。
次回はお待ちかね。夏休み!(書いてるこっちは寒いってのに……)
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