マクベス
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第四幕その二
第四幕その二
「それでは決まりだな」
「はい。ではまずは森に入り」
「イングランドの援軍も来たしな」
見れば後ろから大勢の軍が来ていた。その先頭には年老いた騎士がいた。
「シュアード卿だ」
「あの方がですか」
マクダフはその老騎士を見ながら述べた。
「イングランドきっての武人と謳われる」
「御子息も一緒だ。数においてもマクベスの軍勢を圧倒している」
「そのうえあの方がおられるとなれば」
「我が軍に万が一にも敗北はない。では行こうぞ」
「わかりました。では諸君」
マクダフが軍勢に声をかける。
「今から進むぞ。愛する祖国へ」
「暴君を倒し」
「スコットランドに光を取り戻す為に」
彼等は口々に叫び森の中に入って行った。これが最後の戦いのはじまりであった。
マルコムとマクダフがスコットランドに進撃を開始したその頃。王宮では医師や侍女達が暗い顔をして王宮の螺旋階段のところで話をしていた。そこには灯りはなくほぼ真っ暗であった。
「駄目ですか」
「無駄でした」
医師は侍女の言葉に首を横に振った。うなだれたまま。
「眠ったままいつもの調子で」
「変わらずなのですね」
「はい、その通りです」
そう侍女に告げる。
「何もかもが。悪い方向に」
「どうすればいいでしょうか」
「手は尽くしました」
いささか自己弁護めいた言葉であった。
「ですがそれでも」
「そうですか。あっ」
ここで階段の上の方から光が見えてきたのに気付いた。弱い光であるが。
「御后様です」
侍女はその光を見て言う。
「またああして」
「眠っておられるのは事実です」
医師もその光に気付いた。見ればそこには夜着を着た夫人がいた。虚ろな顔でキャンドルを持っているがその目はキャンドルの灯りよりもさらに不気味に爛々と輝いていた。
「何という恐ろしいお姿か」
医師はゆっくりとこちらに歩いて来る夫人を見て言った。
「それに手をあんなにこすられて」
見れば夫人はキャンドルを持ちながらその手をしきりにこすっていた。それがやけに目につくのであった。彼等に気付くことなく階段を下りて来る。
「あれはどうして」
「手を洗っておられるのです」
「手を!?」
「はい」
侍女はそう答えた。
「どうやら」
「まだ残っている」
夫人は虚ろな声で呟いていた。
「消えない。何という滲み」
「滲み!?」
医師はその言葉に目を顰めさせた。
「そんなものは何処にも」
「御后様にだけ見えるようで」
侍女はそう説明する。
「どういうわけかわかりませんが」
「そうなのですか」
「はい、それで」
「老人なのにこれだけの血があるなんて。どういうことなの」
「老人!?」
「私にはわかりません」
侍女は首を横に振るだけだった。
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