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チートだと思ったら・・・・・・

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十三話

修学旅行が終わって始めの休日の昼間、ネギと明日菜は部屋にクラスメイトが大勢押し寄せ、賑やかな時間を送っていた。それとはうってかわってこの男、宮内健二はエヴァンジェリンの別荘に昨夜からこもっていた。



「…………」

記憶に残るフェイトの動きをイメージする。強く強く、深く深く。そして眼を見開いたその時、俺の前には確かにフェイトの姿が映し出されていた。

――投影、開始

干将・莫耶を投影する。両の手に現れる重みをしっかりと確かめ、瞬動で突撃してくるフェイトを迎え撃つ。迫りくる拳、フェイントではないことを悟った瞬間、体は拳を受け流すために動いていた。今の俺のレベルで再現可能なエミヤの剣技、何度も繰り返し行ったそれを完璧に実行する。

「…………」

所詮俺のイメージでしかないフェイトは喋らない。ただ、俺が思う奴の情報に沿って、ランダムに攻撃を行ってくるだけだ。俺はそれを弾き、いなし、防いでいく。センリガンを発動している今ならばフェイトの攻撃を見切ることが出来る。最も、体がついてこれないのだが。

「……そこ!」

俺が持っている情報は原作での奴と修学旅行で実際に見た奴。原作……漫画ではいまいち想像がつけずらいため使用する情報はどうしても俺が実際に見たものに比重が置かれる。何が言いたいかと言うと、修学旅行時の奴なら俺でも何とか隙を見つけられるのだ。
だが、だからといって勝てるわけではない。俺が放った莫耶の一太刀はフェイトの障壁に容易く弾かれ、俺は奴の拳をまともにくらい、吹き飛ばされるのだった。



「ヨォ」

「チャチャゼロか」

先ほどのイメージ上のフェイトとの戦い、それが終わったのを見計らってか倒れている俺を覗きこむようにしてチャチャゼロが姿を現した。相変わらず平常時は無機質と言って差し支えない様な眼をした奴である。まぁ、こんなでも一応色々教えてもらっているのだが。

「前カラ言オウト思ッテタンダガ」

「何をだ?」

こんな風に話してくるとは珍しい。普段はダラシネェとか言って斬りかかってくると言うのに。一拍置いて、そんなことを思ってしまった自分が少し嫌いになった。

「オマエガ使ッテル剣技……アレハ」

「ええーい!! 神楽坂明日菜め!」

「お、エヴァンジェリンだ。また花粉から逃げてきたのか?」

「ア、オイ」

主のエヴァンジェリンが来た以上、借りている俺は出迎えるべきだろう。チャチャゼロの話も気になるが、それはまた後で聞けばいいだろう。



最も、俺はこの事をすっかり忘れて聞くのが大分遅くなるなるのだが……それはまた別の話だ。





「弟子入りテスト?」

「ああ、あんまり坊やがしつこいのでな。試してみることにした」

なるほど、ついに英雄の子、ネギ・スプリングフィールドが闇の福音、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの弟子になる時が来たのだ。最も、その通りに事が進むか内心は少しおびえているのだが。

「試験の内容は?」

「ん? いや、それは、あれだ」

「マスターはまだ考えておられません」

「言わんでいい! と、とにかくだ! 坊やの試験を来週行うから、貴様も立ち会え」

「それはいいが……俺も何かするのか?」

当然、異物である俺が関われば関わるほど物語が変わっていく。ネギのエヴァンジェリンへの弟子入り……こういった変わらなくていい所ではあまり引っかき回したくないんだけどな。

「今のところその予定は無い。何だ? 坊やの試験に関して何かいい案でもあるのか?」

「いや、あいにく自分で精一杯の俺にはそんなものはないよ」

危ない、藪蛇をつつく所だった。

「そうか。とにかく、貴様も立ち会うんだぞ」

「分かってるさ」

この後は弟子入り、南の島、ヘルマン襲来、学園祭……であっていただろうか? 何にせよ、あまりのんびり出来る様な日程で無いことだけは確かだ。

「もう、あんな無様な姿はさらさない」

敵に捕らえられると言う失態を侵した。何事も無く助かったのは奇跡。もう、あんなことは二度と起きないだろう。明日菜にも、心配はかけたくない。

「何かいったか?」

「何も。さて、チャチャゼロ。相手を頼む」

「オオヨ」

今はただ、ひたすらに己を高めるのみだ。



どうしてこうなったんだろうか? 目の前では自己流の身体強化を行い構えをとるネギを見据える。弟子入り試験……本来ならば茶々丸が相手するはずであったそれを、何故か俺がしていた。

「宮内、速く構えろ」

どうやら放心していたのに気付かれたらしい。元はと言えばエヴァンジェリンが古菲に嫉妬するのがいけないんだ。ついでに、茶々丸より俺のがネギに実力が近いとか気付いたのも頂けない。

――……戦いの歌

かと言って手を抜いたりすれば俺がどんな目に会うか分からない。ルールは原作とは少し違い、肉弾戦のみだが防御魔法の類は使用して良い事になっている。後、さすがに一発当てれば合格ではなくエヴァンジェリンが認める様な有効打を与えれば合格ということになっている。俺が武器(鉄芯入り+強化)を使うことを考慮して、だそうだ。

「それでは弟子入り試験を開始する。始め!」

そういえば、ここはエヴァンジェリンの別荘だから一般人組の観戦者がいない。彼女等は一体どうしたんだろうか? そんな呑気な事を考えながら、俺はネギを迎え撃った。



「ねえ、ネギは勝てるかな?」

「うーむ、相手の情報が少なすぎてどうにも言えないアル」

観戦組である明日菜、木乃香、刹那、古菲は果敢に攻めるネギとそれを軽やかに躱す健二を見守っていた。

「少なくとも、茶々丸さんよりはネギ先生に近いはずですが……」

健二は知らぬことだが、ネギと茶々丸の戦いとも呼べぬ一戦は起こっている。修学旅行で健二の戦いを見た刹那は、ネギを一撃で昏倒させるほどの腕はないと判断し、そう言ったのだ。

「しかし、刹那の言うことが本当でもこれは不味いアル」

「どういうことなん?」

「格上が相手と想定して鍛錬したネギ坊主には最初からカウンターを狙う……誘うように教えてきたアル。しかし、ああも避けに徹されては……」

教えを充分に発揮できない。そう古菲は断言した。

「そんな……」

健二に負けろと言うわけではないが、今回ばかりはネギの味方である明日菜は同居人がどうか合格するように願った。



「ハァッ! セィッ!」

流れる様に繰り出される拳。それを俺は躱して、躱して、躱す。強引な術式の身体強化だが、ネギはその強大な魔力によるごり押しでおれの戦いの歌と同レベルの強化効率を得ているようだ。……それでも通常より劣っているのだが。まぁ、それは関係ないか。

(にしても、短期間でこれとは凄いな)

たかが一週間でこれほどの技を身につけたと言って信じる者がどれだけいよう。それほどに、ネギの成長は著しい。これが、天才と言う奴なのだろうか。

(ほんと、やんなるねぇ)

牽制として放った右のローキックをネギが左腕で防ぎ、その隙をついて一端距離をとる。このままカウンターを狙ってもいいんだが……

「宮内! これ以上受けに徹するな!」

「ケケケ、ツマンネェコトシテネェデサッサト殺ッチマエ」

此方側の観戦者が酷くご立腹だ。エミヤの剣は基本受けなんだけどなぁ……仕方がない、か。俺は持っていた両手の木剣を破棄し、新たな武器を投影する。

――投影、開始

「さぁ、行くぞネギ君」

手に持つのは鉄芯入りの棍。勿論強化済みだ。そのまま双剣で戦っても良かったのだが、たまにはいいだろう。

「ふっ!」

こういった長柄の武器でできる攻撃は基本突きと薙ぎだ。元々棍というより槍の代用として投影したつもりの俺は突きをネギに放つ。上手い事ネギは側面をはたいて軌道をずらして躱した。だが、甘い。

「ッ!?」

――風楯!!

突きから薙ぎ。この連動したネギは驚愕の表情を浮かべた。さすがに体は間に合わないのか、風楯を展開して防いだようだ。まぁ、さして力も込めていなかったし、ダメージは零だろう。

「さて、怖い二人が見ているからな。こっちも真剣に行かせてもらう!」

身に纏う魔力の密度を引き上げ、俺はネギへ速度を重視した突きを連続で放ち続けた。





「………………」

「こんなところか」

エヴァンジェリンの落胆を含んだ声。今のネギが仰向けでた倒れている状況になるまで僅か三分。もう少しねばるとエヴァンジェリンは思っていたのだろう。だが、これは当然のことだ。突然スピードが上がった俺の突きにネギは反応できなかった。それを察した俺は早々に風楯を砕き、ネギに突きの嵐を見舞った。最初は急所だけは何とか防いでいたようだが、身体強化が切れてからは突かれるがままだったのだ。

「ぅ……ぁ」

一分にも満たない間だが気を失っていたネギが苦しそうな声を漏らす。何とか起き上がろうとしているネギを、エヴァンジェリンがやれやれといった様子で見下ろしている。

「坊や、試験はここまでだ。出直してこい」

「ま……だ、です。条、け……んは」

「言いたいことは分かるが、立てんようではくたばったと一緒だ」

「まって、くだ……い。た……て、ます」

仰向けからうつ伏せへと転じ、何とか気力を振り絞って断とうとしているが……立てない。このままじゃ、落ちてしまう、か。ヘルマンの真似ごとで、発破をかけるか。

「ネギ君」

「……?」

此方にゆっくりと顔を向けるネギ。さぁ、これで振い立て。

「俺は、もうあの修学旅行みたいな目に合いたくないし、合わせたくない。だから麻帆良に帰ってきてから時間の限り修行をした。君はどうだ?」

「………………」

「君が今日まで何をしてたのかは知らないが、今君は俺に一度も触れられず、ボロボロになって地に伏せている。これが、あの夜に対する俺と君の思いの差だ」

「……!?」

さぁ、主人公。ここで立ち上がらなきゃ男じゃないぜ?





僕、は……守りたい、そう思って力を得るためにエヴァンジェリンさんに弟子入りを申し込んだ。そして、古菲さんにも。早朝、放課後……僕だって可能な限り修行に時間を割いたつもりだ。なのに、なのに……

(思いの、差……)

あの夜、そうあの夜は……のどかさん長さん達が石に、……石?

(あ、ああ……)

脳内をよぎるあの日の記憶。おじさん達やスタンさんが一夜にして石と化した。もう嫌だ、あんなのは……もう嫌なんだ!

「あ、あああああぁあああぁああああ!!」

絶対に、もうあんな事は起こさせない!





(立った、か)

良かった、本当に良かった。だが、まだ立っただけだ。もう一つ……もう一つ、動かすための原動力がいる。

「ネギ君、たとえ立っても君は無力だ」

「う、ああああぁぁああぁああ!!」

硬く拳を握りしめ、こちらへと突っ込んでくるネギ。どうやら、無意識の内に身体強化も使っているようだ。いいぞ、そのままこい!

「あああぁああ!!」

「なっ!?」

受けに回った俺の棍とネギの拳が接触する瞬間、ネギの纏う魔力が爆発的に高まった。小規模だが、魔力の暴走(オーバーロード)だ。それにしても、強化した棍を一瞬にしてへし折るとは思わなかった。予想外のことに気を取られた俺は、ネギの拳をまともに受け数メートル程吹っ飛ばされた。





「弟子入り試験は合格だ」

エヴァンジェリンはそれだけ言うと、さっさとどこかへ行ってしまった。あの後気絶したネギは近衛に手当てされている。そして俺はと言うと……

「いてっ」

「あ、ごめん。強かった?」

なんと嬉しい状況なのか、明日菜によって手当てを受けていた。茶々丸から渡された薬をダメージを受けた腹部に塗り、今は包帯を巻かれている所だ。

「それにしてみも、ご苦労だったわね。わざわざ挑発までしちゃって」

「あー、分かったのか?」

「当然でしょ。らしくなさすぎたわよ」

何それはずい。赤面ものだなこれは……っていうか既に赤面になっているだろう顔を手で覆い隠した。

「でも、ネギが受かるようにしてくれたんでしょ? そこは、アンタらしかったかな。はい、これで終わり」

「ありがとう」

立ちあがって軽くストレッチ。動きに伴う痛みを確認、と。まぁ、普通にしてるぶんには問題ないな。

「ねえ健二」

「何だ?」

「アンタもしばらく休むように言われたでしょ? だから、久しぶりにどこか遊びに行かない?」

エヴァンジェリンGJ。色々とネギの修行の準備をするからしばらく来るなと言われた時は少し不満だったが、これのためと思えば安いもんだ。

「ああ、そうだな。遊びに行こう」

非常に疲れた一日だが、それ以上の収穫があった。終わりよければ全て良し……うん、いい言葉だ。 
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