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チートだと思ったら・・・・・・

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十四話

「………………」

ポケーッとしながら空を眺める。俺は今から明日菜と、明日菜と……デート、を、するのか。夢なんじゃないのかと頬をつねってみるが、痛いので夢ではないだろう。……思ったが、エミヤの容姿で頬をつねってるってのはかなりシュールなんじゃないだろうか?

「健二!」

ちょっと現実から戦略的撤退をしようかと思ったが、どうにもそうはいかなくなってしまったようだ。

「待った?」

「いや。じゃあ、行こうか」

好きな人とのデート……上手くいくのかどうか、俺はどうにも不安をぬぐい切れなかった。



「このっ! このっ!」

とりあえず、俺たちはゲーセンで最新作のシューティングゲームをしているのだが、蓋を開けてみればどうということはなかった。というよりかは気にするのが馬鹿らしくなったのだ。俺は明日菜の事を好きなのだが、明日菜はそうじゃない。明日菜が好きなのはタカミチ……それは原作と変わらない。

「よっ、ほっ。何だ、簡単だなこれ」

だから、純粋に楽しむことにした。デートどうこうを意識するのではなく、ただ、好きな人と一緒にいられるというこの状況を。

[Perfect!!]

「凄いじゃない健二! これ難しいって評判なのよ!」

「そうなのか?」

エミヤの弓術スキル恐るべし。元の俺はあんま得意じゃなかったのにこの結果とは。

「おめでとうございます! こちらが景品の写真立てになります」

「景品?」

「新作ゲーム対象のキャンペーンみたいよ?」

ゲームの横に張ってあるチラシを眺めていた明日菜が応えてくれる。ふむ、こういう経験ってあんまりないから嬉しいな。

「って、二つ?」

渡された写真立てはオレンジと赤の二種類だった。一体どういうことだ?

「Perfectを出されたのはお客様が全店舗で初であるのと、せっかくなので彼女さんにも、と店長が」

「か、かかかかかか彼女!? そんな、私は、えと、その……」

取り乱す明日菜を横目に集まってきていた観客達を見回していると、店の制服を着たダンディな男と眼があった。

(頑張りたまえ、少年)

何だか、眼がそう言っている気がした。格好いいなおっさん。恩にきるぜ。

「お客様、記念撮影をしてもよろしいでしょうか?」

何時の間にかポラロイドカメラを手にした店員が近くにいた。……そうだな、とってもらうか。

「明日菜、折角だから撮ってもらおう」

「へ? あ、うん」

店員に彼女と言われたことに顔を真っ赤にして混乱していた明日菜は何が何だか分からないままに撮影を了承した。結局、彼女に間違われたままの明日菜が落ち着くことは無く、顔を真っ赤にして縮こまるようにして恥ずかしがる明日菜と言う何とも珍しい姿が残されることとなった。



「うう、恥ずかしかったぁ」

所変わってとあるファミリーレストラン。俺たちは少し早目の昼御飯をとることにした。明日菜もようやく落ち着いてきたようだ。

「まさか彼女に間違われるだなんて……」

ぐでーっと机に突っ伏す明日菜はとても微笑ましいものがある。そこで、俺は一つの嫌がらせ染みたことを思いついた。

「そんなにいやだったか?」

「え?」

「俺の彼女と思われるの」

「…………へ?」

「そうか、そんなに嫌だったか……」

如何にも落ち込んでますと言ったふうにうつむいてみる。さて、どんな反応をしめすかな? っと、一応念のためにと。

「べ、べべべ別に嫌じゃない! っていうか驚いたと言うか……そう! 驚いたのよ! いきなりあんなこと言われて! だ、だから別に健二が嫌とかそういんじゃなくて!」

「じゃあ、俺にもチャンスはあるのか?」

「へ、へえええええええええええええ!?」

……耳いてぇ。念のため結界はっといてよかった。明石教授とドネットとやらが使ってた第三者にはただの雑談をしているように聞こえると言うアレだ。これ、叫んでも大丈夫なように一応防音効果もあるんだよな。

「ははは、凄い声だな。とりあえず落ち着けよ。お、丁度飯も来たみたいだぞ」

「ううう……健二、アンタからかったわね?」

料理を運んできた店員のおかげでどつかれることは無かった。店員GJだ。だが、恨めしい顔で明日菜がこっちを見てくる。

「さて、速く食べないと冷めるぞ」

「ちょっと! ごまかさないでよ!」

「あー、パスタ美味しいな~」

今は冗談と思われても構わないさ。今は、な。



昼食を終え、俺たちは街をブラブラと歩いているのだが……

(これはやっちまったか?)

明日菜が昼食時からずーっと機嫌悪そうな顔をしているのだ。さっきの悪戯は、ちょっとやりすぎたのかもしれない。かと言って、どうやって機嫌をとればいいのか、青二才の俺には到底思いつかないのだが……

「あ、明日菜さーん」

「……何」

「怒ってる、よな?」

「……別に」

(うん、怒ってる)

(ったく、健二の奴あんな悪戯して! ネギよりよっぽどたちが悪い……脱がされるよりはマシ……じゃない! 女の子の心をもて遊ぶようなことするのがいけないのよ! ちょっと期待……って何言ってるのよ私は! ううう、顔が熱い……これも全部、健二のせいよ!)

午前は二人並んで歩いていたというのに、今は俺が三歩後ろを歩く始末。この三歩が凄く大きく感じるよ。誰か、俺に救いを! と現実逃避をかましていたわけだが、そこで、俺の携帯がブブブと振動した。

「……でたら?」

バイブの音は明日菜にも聞こえていたらしい。冷たさのこもる声でそう言われ、俺は逃げる様にして携帯を開いた。

「……もしもし」

「宮内さんですか? 絡繰です」

これは予想外にも程がある。大体、俺は彼女の主であるエヴァンジェリンでさえ別荘を借りているとはいえ特別親しいというわけではないのだ。それは彼女自身が俺に興味があるわけではなく、彼女のもう一人の従者、チャチャゼロが興味を持った俺に興味がわいたからなのだが……それはさておき、チャチャゼロより圧倒的にエヴァンジェリンと一緒にいる率が高い茶々丸とも、それほど親しいというわけではないのだ。

「えっと、どういった用件で?」

「? 姉さんから宮内さんを呼んで欲しいと頼まれたので」

やば、何か変な喋り方してしまった。突っ込んでこなかった茶々丸に感謝だ。それにしてもチャチャゼロが? エヴァンジェリンに別荘に来るなと言われたためしばらくは休息と自己鍛錬という案は彼女にも一応了承を得たはずなのだが…

「えっと、今すぐ?」

「はい。速く来やがれと言っていました」

あの殺戮人形が冗談などを言うとは思えない。よって、速く来いと言われた以上、本当に速くいかなければ何をされるか分かったもんじゃない。けど……

「………………」

「何よ……何かあったの?」

女性を起こらせたままいなくなるのは、男として駄目なんじゃなかろうか?

「あー、その……何だ」

「?」

「チャチャゼロに、呼び出された」

「………………」

口が堅く結ばれてしまった。どうすれば、どうすれば、どうすれば……どうすりゃいいんだよ! 

「……てく」

「え?」

「私もついてくわ」

ついてくって……チャチャゼロの所にだろうか? 何をするかも、嫌大体は想像つくけど。とりあえず、本当に……

「ついてくるのか?」

「ええ。あの不気味人形が呼びだしたってことは修行に関係することでしょ? 私も、健二がどんな修行してるのか気になるし……」

んー、何だか機嫌悪いのが少し薄まったような? 正直、修行と言っても実戦形式の模擬戦で俺がチャチャゼロにひたすらボコボコにされ続ける情けないものだから、あんま見られたくないんだけど。まぁ、ここで断ってまた機嫌が悪くなってしまった方が-か。

「じゃあ、行くか」

「うん」





「ケケケ、遅ェンダヨ」

「悪い。少し街に出てたからな」

「オマケモイルミタイダシナ」

チラリとチャチャゼロに視線を向けられ、それをむすっとした顔で明日菜が見返す。まだ、機嫌は直ってないか……まあ、ここに来るまで会話も無かったし、当然と言えば当然か。

「行クゾ」

別荘を改装作業中のエヴァンジェリンに邪魔をしおって、と言わんばかりの視線を向けられながら俺達は別荘の中へと入った。そして、いつもと変わらない浜辺にて俺とチャチャゼロは対峙した。既に赤原礼装も身に纏っているし、後は武器を投影するだけだ。

――投影、

俺はいつも通り、夫婦剣干将・莫耶を投影しようとして……

「チョット待テ」

出鼻をチャチャゼロに挫かれた。

「珍しいな。一体どうした?」

いつもなら投影を終える前に斬りかかってきそうなものなのに。なんかいつもと違う……明日菜がいるからか? 嫌、そんなことを気にするような奴じゃないだろう。

「オ前、槍ヲ使エ」

「槍?」

一体全体何なのだろうか? 確かに、使えないことも無いが干将・莫耶に比べれば全然使い慣れていないし、使ったのだってネギの試験が久々だ。

「イイカラ使エ」

有無を言わさぬ圧力に、俺は渋々槍の投影準備に入る。投影するのはやはりあの槍。因果の逆転の力を持つ必殺の槍!

――投影、開始!

やはり、剣を投影するのとはわけが違う負担がある。干将・莫耶では全く感じなかったそれをずっしりとその身に感じながら、俺はゲイ・ボルクを顕現させた。



「あの槍……」

明日菜がその槍を見るのは二度目だった。初めて見たのはあの大橋。後からカモに聞いたが、一種の暴走状態の様なものに陥った私を止める時に使っていた。だが、普段健二が使っていたのは双剣だったはずだ。確かに、ネギの試験の時は長い棍を槍の様に振っていたが、どうにも明日菜には違和感が拭えなかった。
しかし、明日菜も……そして健二も知らない。確かに、健二が使い慣れた武器は干将・莫耶かもしれないが、それが彼にとって最適の武器とはかぎらないことを。



「行くぞ!」

投影したのはゲイ・ボルクなのだから、当然振う槍技はクー・フーリンのそれを模倣したものになる。最も、俺の肉体レベルでは再現は不可能なのであくまで参考レベルにとどめてあるのだが。

「…………」

ただ、無言のチャチャゼロが怖い。いつもと俺の間合いが違うから、戦いもいつもと異なると言うのは分かるが、それでも違和感を感じる。何故、攻めてこないんだ?

(ヤッパリダナ。アイツガ振ウベキナノハ、アノ双剣ジャネェ。アイツガ振ウベキ武器、ソレハ槍ダ!)

「はっ!」

クー・フーリンの技術を元に放つ突き。俺は槍の基本にして最大の武器でチャチャゼロを穿たんとする。だが、元々小さいチャチャゼロは狙いにくいのだ。今も突きだした槍を、ヒラリとかわされ……

「まずっ!?」

今まで避けに徹していたチャチャゼロが一転、槍を大きく弾いてきた。引き戻し始めという絶妙なタイミングでそれをやられ、おれは無様にも態勢を崩す。それを、見逃してくれるチャチャゼロではない。

「マァ、最初ナラコンナモンカ」

喉元を鷲掴みにされ、地面に叩き伏せられた。何故いきなり槍を使えと言ったのかは知らないが、その程度の変化で俺がチャチャゼロに勝てる筈もないんだけどな。

「オイ健二。オ前、コレカラハ双剣ジャナクテ槍ヲ使エ。ソッチノ方ガオ前ニハ才能ガアル」

「は?」

こうして俺は、強くなるための新たな道を提示された。



「…………」

驚いた。何がかと言うと、修行中の健二の顔にだ。修学旅行で自分を守りながら戦ってくれていたあの時、あの時の顔とそっくりだったのだ。今も脳裏に焼きつくあの顔は、とても魅力的で……

(って! 私は何を考えてるのよ!)

見てみれば、肝心の男は膝に乗せた人形と何やら話しこんでいる。その顔は真剣そのもので、その顔もまた……

(あーっ、もうっ! 私ってばいったいどうしちゃったって言うのよー!!)

頭をガシガシとかきむしりながらも健二を視界にとらえる明日菜の顔は、今日一番の赤さで染め上げられていた。 
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