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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第52話 復讐の3号

 
前書き
前回のあらすじ

 突如としてなのは達に牙を剥いたかつての仲間達。
 一体彼等の身に何があったのか? それらを語る為、物語は一度過去へ遡る事となる 

 
 今からおよそ半年近く前、此処海鳴市の丘の上に小さな墓が立てられていた。その墓には削った文字で【風見達治、綾、雪子。此処に眠る】と彫られていた。
 そして、その墓の前に一人の青年が跪き瞑想をしていた。

「父さん、母さん。お二方から貰った大事な体を志郎は捨てました。これからは復讐の鬼となり、デストロンを一人残らず叩き潰す覚悟です。こんな覚悟で戦う私を貴方達はきっと叱るでしょう。ですが、私の我儘だとお思い下さい……」

 瞑想を終えそっと目を開く。立ち上がり目の前に広がる海原を見た。

「本郷さん、一文字さん……」

 志郎は海原を眺めながら二人の名前を囁いた。
 本郷猛、そして一文字隼人。かつてこの世界を悪の組織【ショッカー】から守った正義のヒーロー【仮面ライダー1号】と【仮面ライダー2号】である。
 だが、その二人はもう居ない。この世にはもう居ないのだ。

「あの時貴方達は俺に世界の全てを託した……」

 志郎の脳裏に浮かぶは、ダブルライダー最期の遺言であった。ハサミジャガーを倒し、二人の援護に向ったV3だったが、時既に遅く、カメバズーカの核爆発から日本を守る為、二人のライダーはカメバズーカ諸とも海の中へと消えてしまっていたのだ。
 そして、志郎の頭の中に聞こえてくるのは二人の遺言でもあった。

【風見志郎、嫌、仮面ライダーV3よ。日本の平和を……そして全世界の平和をお前に託す】
【俺達は死なない。正義の心ある限り必ず帰ってくる。だからそれまで俺達の帰る場所を守っててくれよ。可愛い後輩】

 二人の遺言は風見志郎の胸に深く刻み込まれた。この力は正義の為に使わねばならない。
 しかし、風見志郎の胸の中にはそれと同じ位の復讐の炎が燃え上がっていたのだ。

「俺は、俺は貴方達の様な素晴らしい人間にはなれない……俺は復讐の鬼。奴等デストロンを地上から抹殺する! 必ず叩きのめしてやる!」

 荒れる海原を前に風見志郎はデストロン撲滅を決意した。愛する家族を奪った憎きデストロン。そのデストロンを倒す為、人の体を捨てた改造人間。風見志郎こと仮面ライダーV3が今戦いの舞台に立つ。
 それから、彼の孤独の戦いは始まった。誰に頼る事もなく、孤独のまま風見志郎は次々とデストロンの刺客達を相手に戦い続けたのである。
 そして、それから時は5ヶ月後へと進む。




     ***




 此処時空管理局内では晴れて嘱託魔導師の資格を得たフェイト・テスタロッサの祝杯が行われていた。回りには共に以前の戦いに携わったアースラ隊のメンバーが揃っている。

「おめでとう、フェイト」
「良く頑張ったね」
「有難う、リンディさんにクロノ。それに皆も――」

 フェイトは嬉しさで胸が一杯になるのを感じた。実際に嘱託魔導師の資格を得るのは簡単な作業ではなかった。毎日山積みの問題集と格闘したり、クロノとの模擬戦でメタメタにされたりとそれこそ大変な日々でもあった。
 それでもなる事が出来た。それはフェイトの中にとても大きな達成感として残ったのである。

「これでまた一歩執務官の道に近づいたな」
「うん、でもまだまだ道は遠いんだね」
「当然だ。そう簡単に追いつかれたら僕の面目がないからな」

 鼻を伸ばして自慢げに言うクロノ。確かにクロノの年齢で執務官になれるのは相等なものだ。
 恐らく彼自身相等努力を積み重ねてきたに違いない。だが、絶対になれないと言う訳ではない。努力次第ではフェイトでもなれる可能性があるのだ。

「おやおや、自分が先輩だからって良い気になってて宜しいのかなぁクロノ執務官さん」

 背後からそう言いながらクロノの耳を引っ張る存在が居た。声からして女性の声だ。その行為にクロノの顔が引きつる。

「いだだっ、痛いですから離して下さい!」
「ホホホッ、離して欲しかったら力尽くで離して御覧なさい」

 高笑いを浮かべる女性。フェイトはその女性を見た。黒いショートヘアーの日本系の女性であった。年齢的には20代初期に見える整ったボディラインをした女性であった。服装は普通の局員と同じ色の服装だからクロノよりは格下らしいがそれでもクロノとは親しく接している。

「んがっ、づっ……あ、相変わらず容赦ないなぁミサトさん」
「ハハハッ、相変わらず弄り甲斐のある坊やだよあんたはさぁ」
「ぼ、僕はもう坊やじゃありません!」
「ムキになってる限りあんたは永遠に坊やさ。それとも…」

 女性がニヤリと微笑む。かと思うと突然クロノの耳から手を離す。安心していたクロノ。
 だが、今度はそのクロノの顔を両手で掴み自分の胸元に押し込んだのだ。
 ミサトと呼ばれた女性の年齢に見合った大きさの胸の中にクロノの顔が埋め込まれていく。

「坊やはこっちの方がお好みだったかなぁん?」
「むがもが……」

 完全にミサトのペースであった。側から見てる者は皆「また何時もの光景か」とばかりに一目見た後そのまま見なくなる。
 どうやらこの光景は御馴染みとなっているのだろう。

「あ、あの……」
「ん? あぁ、あんたがクロノが義妹として引き取ったって言う子だねぇ」
「はい、フェイト・テスタロッサと言います……えと、あの……」
「アハハ、可愛いねぇあんた。こいつの妹にするには勿体無い位だよ。いっその事あたしの妹にならない? 色々と教えてあげるよ。勿論、男の落とし方もさ」

 そう言ってクロノを掴んでいた手をパッと離す。それを感じ取ったクロノが一目散にミサトから離れる。かなり息が荒くなっている。
 髪の毛も乱れており顔なんか真っ赤である。

「どうだったぁ? 久しぶりのお姉さんの胸に顔を埋めた気分はぁ?」
「こ、殺す気ですか! 危うく窒息死する所でしたよ!」
「アハハハッ、良いじゃん。男にとっちゃ正に憧れの死に方って奴だよ」
「ずぇぇったいそんな死に方お断りします!」

 他愛ない会話をしているクロノとミサト。フェイトからして見れば仲の良い姉弟の様にも見えた。口ではあんな事を言っているようだがクロノの顔を見ると満更嫌そうな顔をしてない。

「彼女はミサト・ハーヴェイ1等空尉。クロノ君の先輩でもあり元上司。まぁ、クロノ君からしてみたら本当にお姉さんみたいな人かもね」
「そうなんですか?」

 隣に居たエイミィが淡々と語るのを聞きフェイトが尋ねる。

「クロノ君って今ではあんな性格だけど、昔色々とあって人との間に壁を作っちゃってて結構嫌われてたんだよ。でもね、そんなクロノ君をミサトさんが変えてくれたんだよねぇ……あんな風に」

 そう言って見ている前では今度はミサトがクロノにヘッドロックを仕掛けている。

「ほれほれ、早く抜け出してみなさい! それともまたお姉さんの胸の谷間に埋もれたいのかなぁ? この思春期真っ盛りな坊や」
「だ、誰がぁぁぁ!」

 ジタバタ暴れまわるクロノ。そんなクロノを見て思わずフェイトは噴出してしまった。微笑ましい光景と言えるだろう。そんな光景が映っていた。
 その後、フェイトはある少年の方に視線を向ける。

「ユーノ君」
「あ、フェイト」

 それはユーノであった。心なしか彼は何時もより元気がない。

「どうしたの?」
「うん、なのはの事が少し気になって……」

 それはフェイトも気にしていた事だった。今から5ヶ月前。世界各国を襲撃したミケーネ帝国の戦闘獣軍団。
 その襲撃になのはは巻き込まれてしまったのだ。瀕死の重傷を負いながらも幸い命に別状はなく、今はリハビリ生活を送っているとの報せも来ている。だが、やはり心配にはなっていた。
 かつて自分は幾度となくなのはに助けられてきた。勿論本人からしてみればそれ以上に助けられたと言うだろうが実際には助けられっぱなしでもある。だからなのはが困ってる時こそ力になってあげたい。
 そんな思いがフェイトにはあったのだ。

「だったら、海鳴市に行って見る?」

 そう言い出して来たのはリンディであった。途端にフェイトの顔が明るくなる。

「良いんですか?」
「長くは滞在出来ないけど少しの間だけで良いんだったら可能よ」
「はい、是非お願いします! リンディさん……あっ」

 突如、フェイトがハッとなる。見るとリンディはクスリと笑みを浮かべていた。

「まだ慣れてないみたいね。私達はもう家族みたいなものなんだし気兼ねなく母さんって呼んで良いのよ」
「はい、えと……か、母さん」

 若干恥ずかしげになりながらもフェイトはそう呼んだ。それを聞き嬉しそうに微笑むリンディ。なんとも微笑ましい光景でもあった。
 パーティーが終わり、早速地球へ行く身支度を始めるフェイト。5ヶ月ぶりに地球へ行ける。聞いた話によればその間地球ではとんでもない事が起こっていたようだ。しかし人類も負けた訳ではない。聞いた話によると新たな力が現れ人類の平和を守っているとの事らしい。

「えっと…数日分の着替えと洗面器具……後は簡単なお土産とか良いかな?」

 心躍らせながら準備を進めている。すると、突如通信コールが鳴り響く。部屋の中にあった通信端末のスイッチを入れると映像が映し出された。其処に居たのはリンディであった。

「こんにちわフェイト。実は急遽貴方に任務で地球に行って貰う事になったわ」
「何があったんですか?」
「最近地球で奇妙な事件が発生しているの。何でも怪人が出てるって情報が出てたわ」
「怪人!」

 フェイトの顔が強張った。あり得ない話だ。既にショッカーはダブルライダーが壊滅させたと報告は来ている。ならば一体誰が怪人など作り上げたのだろうか。
 何にせよ無視出来ない話だ。

「フェイトにはこれから地球に下りてある人と接触して頂戴」
「その人の名前は?」
「その人の名前は風見志郎。本郷猛君の後輩で……彼も仮面ライダーよ」
「仮面ライダー……」

 それは即ち風見志郎自身も人間ではない事を示している。改造人間。
 それが仮面ライダーのもう一つの姿だ。人間としての姿を持ちながら人間じゃない。
 誰にも理解されず誰からも好かれない孤独の存在。それが彼等仮面ライダーなのだ。




     ***




「此処が風見志郎さんの家か……」

 数日後、フェイトは単身地球に降り立った。本来ならすぐにでもなのはの居る海鳴病院に足を運びたい所だが今は任務中である。とにかく、すぐにでも風見志郎と接触する必要があった。
 門の前に取り付けられた呼び鈴を押す。誰か居れば現れるだろう。

「……留守なのかなぁ?」

 幾らか待ってはみたが反応がない。どうやら留守のようだ。

「う~ん、仕方ないか……近くで情報を聞き出してみよう」

 一先ず風見家を後にする。フェイトが風見邸を過ぎ去った後、その家に向かい一台のバイクが止まった。乗っていたのは黒いジャケットを着た青年であった。しかし、その青年も、またフェイトもお互い気づかず仕舞いなのであった。
 青年が風見邸に到着していた頃、フェイトは近くで情報を聞きだしていた。

「風見志郎? あんた志郎ちゃんに何か用でもあるのかい?」
「えぇ、少し……」

 近所の叔母さんなどに情報を聞き出す。少しでも居場所が分かればそれでよかった。だが、それを聞こうと尋ねたおばさんが途端に暗い顔になる。

「あの子も可愛そうだよねぇ。何せいきなり天涯孤独の身になっちまったんだからねぇ」
「どう言う事ですか?」
「殺人事件だよ。何でも風見邸に強盗が押し入って両親と妹さんを刺し殺したって話だよ。凶器は未だ見つかってなくて警察も殆ど迷宮入りって話だし。それ以来志郎ちゃん人が変わっちゃったからねぇ。昔は明るくて親しみ易かったのに、今じゃまるで別人だよ」

 そう言いながら叔母さんは遠い目で風見邸を見上げた。そんな辛い事があったとは。恐らくその犯人は例の怪人の仕業に違いない。

「何処に行けばその人に会えますか?」
「さぁねぇ……あ、でもこの時間だったら此処から先の丘の上に行ってるんじゃないのかい? 志郎ちゃん毎日あそこに花を持っていくから」
「有難う御座います」

 お礼を述べた後、フェイトは走り出した。その姿を叔母さんは見送る。

「しかし志郎ちゃんにあんな年の離れた知り合い居たかしら?」

 頬に手をあてながら考える叔母さん。そんな時であった。

「ちょっと宜しいでしょうか? この辺りで風見志郎を探している人物を見かけませんでしたか?」
「え? えぇ、その子ならこの先の丘に向いましたけど」
「そうですか」

 尋ねてきたのは一人の老人であった。全身黒で統一されたスーツを着ている。そしてその周囲には同じように黒いスーツを着た若者達が数人付き添って歩いていった。

「何だろうねぇあの人達。気味が悪いわ」

 その男達を見た際の叔母さんの正直な感想でもあった。彼等が一体何者なのかは分からない。
 嫌、分からない方が幸せであった。もしその正体を知れば、命はないのだから――




     ***




 丘の上にたどり着いたフェイトが見た物。それは小さな墓であった。簡素な作りの墓であり、其処には人の手で彫られた名前が刻まれてあった。

「風見達治……綾……雪子……此処に眠る。もしかして、これが風見志郎さんの家族?」

 どうやら情報は当たっていたようだ。しかし生憎既に来た後だったのだろう墓には花が添えられていた。

「一足違いだったんだ……ん?」

 立ち去ろうとした時、その隣にも墓があるのに気づく。其処の墓にはまだ花が添えられていない。誰の墓であろう。フェイトは近づき彫られていた名前を見る。そして愕然とした。

「そ……そんな!」

 フェイトは未だに其処に彫られている名前が信じられずに居た。無理もない。本来其処に彫られてはいけない人物達の名前が彫られていたのだ。

【本郷猛、一文字隼人。この地に眠る】と――

「嘘……あの本郷さんと一文字さんが……でも、一体何で?」
「我々が殺したのだよ」
「!!!」

 背後から声がした。振り返ると先ほどのスーツの男達と老人が居た。周りをすっかり取り囲まれていた。逃げ道はない。

「貴方達は一体何者ですか?」
「答える必要はない。風見志郎は何処に居る? 素直に答えれば命だけは助けてやらんこともないぞ!」

 老人が杖を突き出してフェイトに尋ねる。

「教えて下さい。何故この人達を殺したんですか? 貴方達は一体何者なんですか?」
「質問しているのはこっちだ! さっさと答えろ!」

 老人の声に苛立ちが感じられた。相等短気な老人なのだろう。杖がプルプル震えている。が、そんな老人を前にフェイトは毅然とした態度を取っていた。

「知りません。それに知っていたとしても、そんな風に物を尋ねる人に教えたくありません」
「この小娘が! 答えたくないと言うのであれば力尽くででも聞き出してやる! ファイヤァァァァ!」

 老人が叫ぶ。するとその姿が一変し、赤いイカの怪人へと変貌した。その周囲の若者達も皆黒い戦闘服を身に纏った戦闘員へと変貌する。

「怪人!?」
「その通り。俺はデストロン怪人のイカファイヤーよ! 風見志郎抹殺の命を受けてこうして探し回っていた。其処へ同じように風見志郎を探している貴様を見つけたので後をつけたのさ」
「趣味悪いですね。そう言うのをこの星ではストーカーって言うんじゃないんですか?」
「お喋りは其処までだ。風見志郎の居場所を言え! さもないと黒こげにしてしまうぞ!」

 イカファイヤーと戦闘員達がジリジリとフェイトに迫る。フェイトが懐に手を伸ばす。その時であった。

「俺なら此処に居るぞ」
「何ぃぃっ!」
「え?」

 声がした。一同が向き直ると、其処には黒いジャケットを羽織った青年が立っていた。

「貴様、風見志郎!」
「あの人が、風見志郎」

 イカファイヤーとフェイトが名前を言う。そんな中、志郎は飛翔しフェイトの前に降り立つ。

「デストロン怪人! 俺の前に姿を現したとは良い度胸だ!」
「ほざけ、我等デストロンの作戦を悉く妨害する風見志郎! 首領はお怒りだ。貴様を殺せとのご命令を俺は受けてきたのだ! 此処で朽ち果てるが良い! ファイヤァァァ!」

 イカファイヤーが吼える。それに対し志郎は鼻で笑い出す。

「フン、そうかい。俺の名前も結構知れ渡ったようだな。だったら話が早い!」

 そう言うなり志郎は構えた。両腕を突き出したその構えはかつて本郷と一文字の構えを合わせたような構えであった。
 そしてその構えを取り志郎は叫ぶ。

「変身……ブイ、スリャァァ!」

 叫んだ際に腰にダブルタイフーンを装着したベルトが現れる。二つの風車が高速で回転し志郎の全身にエネルギーが行き渡っていく。
 そのエネルギーを纏ったまま上空に飛翔する志郎。エネルギーがスパークし、志郎の体を改造人間の姿へと変える。其処に現れたのは紛れも無く仮面の戦士でもあった。

「仮面ライダー……やっぱり、風見志郎さんは仮面ライダーだったんですか?」
「そうだ、俺は仮面ライダー3号。又の名を、仮面ライダーV3だ!」

 赤い仮面に白いマフラーを持った第3の仮面ライダーがフェイトとデストロン怪人達の前に立つ。

「仮面ライダーV3、此処で貴様を葬り、全世界を我等デストロンの物としてくれる!」
「おい、お前は何処かに隠れてろ。其処に居たら邪魔だ」

 仮面ライダーV3の突き放すような言葉がフェイトに放たれる。その言葉には優しさを包み隠すかの様な厳しさが見られた。だが、フェイトは逃げない。彼女もまた戦う力を持っているからだ。

「大丈夫です。私も一緒に戦います」
「死ぬ気か? 自殺したいんだったら他所でやれ!」
「死にませんよ。バルディッシュ!」

 懐から待機状態のバルディッシュを取り出し名を呼ぶ。金色の閃光が放たれ、フェイトの体を黒を基調としたBJが纏われ、その手には鎌をイメージした杖が持たれた。

「時空管理局嘱託魔導師。フェイト・テスタロッサ。貴方達を時空管理法違反で逮捕します!」
「か、管理局だと!? まさかお前のような小娘がそうだったとは」

 イカファイヤーが驚愕する。また、それは隣に居た仮面ライダーーV3も同じであった。

(時空管理局……確か先輩が一緒に戦ったと言う別次元の組織の事か)
「風見さん、今はこの人達を逮捕しましょう! もしかしたら元に戻す方法があるかも……」
「その必要はない。デストロンに組するのなら俺は誰であろうと容赦しない。逮捕なんて生易しい真似をするようだったら此処から消えろ! 目障りだ」

 厳しい言葉が放たれた。その中には激しい憎しみの感情が込められているのがフェイトには感じられた。だが、時をおかずして戦いは開始された。襲い来る戦闘員達。それらを次々と薙ぎ倒していくライダーV3とフェイト。残るはイカファイヤーのみである。

「雑魚は片付けた。残るは貴様だけだ」
「最期に残るのも俺様だけよ! 死ねぃ!」

 突如、イカファイヤーの手から猛烈な炎が放たれた。それを二人は回避する。

「はぁっ!」

 回避した直後にフェイトがバルディッシュを振るう。閃光の刃がイカファイヤーの火炎放射噴射口を切断する。これで炎は封じた。

「ぐぐっ!」
「抵抗は止めて下さい! そうすれば手荒なまねはしません」
「わ、分かった……だからこれ以上は止めてくれ」

 抵抗する意志を捨てたのか以下ファイヤーの両腕がダラリと下がる。それを見たフェイトが安堵し、バインドで拘束しようと手を翳した時。イカファイヤーの目が怪しく輝いた。

「馬鹿め! 引っ掛かったな!」
「なっ!」

 突如起き上がったイカファイヤーの両手の触手がフェイトを捕える。彼女を自分の近くに抱き寄せてV3の方を向く。

「貴様……」
「おっと、動くなよ仮面ライダーV3! この女のか細い首をへし折る事になるぞ」
「あう……ぐっ!」

 フェイトの細い首にイカファイヤーの触手が絡みつく。苦しさに呼吸がしづらくなる。痛みに体が思うように動いてくれない。そんなフェイトが仮面ライダーV3を見る。

「グヘヘッ、良い手土産が出来た! この娘を持ち帰ればさぞお喜びになるだろう」
「何処へ行くつもりだ? 俺は貴様を逃がす気はないぞ」
「動くなと言った筈だ! それとも本当に目の前でこの娘を殺すぞ!」
「やってみろ」
「なっ!」

 その時、仮面ライダーV3の口から放たれた言葉は以外な言葉であった。

「どうした。一思いに殺してみろ。それとも口先だけなのか?」

 淡々と喋りながらイカファイヤーに近づく。それに恐れをなしたイカファイヤーはジリジリと下がりだす。

「く、来るな! 本当に殺すぞ! ほ、本当に殺すぞ!」
「やってみろ。その瞬間俺が貴様を地獄に叩き落す!」
「き、貴様! それでも血の通った人間か? お前には良心はないのか?」
「生憎だな。俺は既に人間じゃない。そして良心なんざ既に捨てた。今の俺にあるのは貴様等デストロンに対する復讐心だけだ!」

 そう言ってどんどん近づいてくる。もうイカファイヤーとV3の距離は拳の届く範囲であった。

「く、くそぉ! こうなったら殺してやる! 後悔するが良いV3ィィィ!」
「遅いっ!」

 フェイトの首をへし折ろうとする前にイカファイヤーの顔面にV3の拳が叩き込まれた。凄まじい衝撃であった。イカファイヤーの顔面がグシャグシャになる。フェイトの拘束が緩みだした。

「ふん!」

 それを見たV3はフェイトを掴んでいた触手を力任せに引き千切る。自由になったフェイトを横に退かし続けざまにイカファイヤーに攻撃を加える。
 拳が何度もイカファイヤーの体に叩き込まれた。やがてイカファイヤーの体は見るも無残な姿へと変えられる。

「ググッ……」
「トドメだ!」

 身動きが取れないイカファイヤーに向かいV3が飛翔する。空中で一回転して足を突き出す。

「V3キィィィック!」
「ぎやぁぁぁぁ!」

 V3のキックを諸に浴びたイカファイヤーは遥か彼方へと吹き飛び地面に倒れる。暫し痙攣したがその後動かなくなり、やがて爆発した。辺りにはイカファイヤーの残骸が飛び散っている。
 敵が居なくなったのを確認するとV3の変身を解き風見志郎に戻る。
 同じく、変身を解いたフェイトが風見志郎を見る。

「あ、有難う御座います」
「別に助けたわけじゃない。奴の顔が醜かったから殴っただけだ」

 礼を言うフェイトに対し志郎は冷たく言い放った。そして、フェイトを放って置き歩き去ろうとする。

「ま、待って下さい! 私は貴方を探してきたんです。話を聞いてくれませんか?」
「知ってるよ。時空管理局だろ? 前に本郷先輩から聞いた事がある」

 どうやら知っているようだ。ならば話が早い。

「あの、でしたら私達と一緒に来てくれませんか?」
「断る」
「え?」
「今の戦いを見て分かった。お前等みたいな甘ちゃん達と戦えない。俺は復讐の為に戦う。世界の平和なんて……俺には関係ない!」


突き放すように言う風見志郎。そうしてそのまま志郎は何処へとも無く消えてしまった。残されたフェイトは一人暗い顔をしていた。

「どうして? 本郷さんを知っているなら……どうしてそんな事を言うの? 風見志郎さん」

 フェイトは去り行く風見志郎の背中を見た。その背中からは彼の憎しみの心と同じ位の、悲しみが伝わってきていた。




 仮面ライダーV3風見志郎は改造人間である。彼は悪の組織デストロンに瀕死の重傷を負わされるが仮面ライダー1号、2号の改造手術の末仮面ライダーV3となる。
 仮面ライダーV3はデストロン撲滅の為に孤独の戦いを続けていた。しかし、何時の日にか彼の中に正義の心が目覚め人類の平和の為に戦う日が来るだろう。
 それこそが第3の仮面戦士【仮面ライダーV3】なのだから。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

デストロンが新たに放った怪人はV3のあらゆる必殺キックが通じない強敵であった。その敵を破る為少女とV3は共に戦いを挑む。

次回「風と稲妻」お楽しみに 
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