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ソードアート・オンライン ~仮面の鬼人~

作者:綾織吟
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4話 仮面と素顔

ゲーム開始から1年、もう1年が経つというのに俺は相変わらずだった。
変わったことはエリルが側に居ることぐらいだ。
実のところを言うと、別に俺は普段から仮面を付けていると言う事は無い。
だが、性格その物は変わらないものの、口調は変わる。
自分を自分だと隠さない限り自分で居られなくなったのは俺が人を信用しなくなったときからだった。
自分が自分であると認識されると自然と自分を偽るようになった俺はいつしか何もかもが狂い始めてしまった。
俺は今、攻略済みの第30層まで降りてきている。
理由はごく簡単だ。最近になってやたらとギルドに声を掛けられるようになったからだ。ユニークスキルと言ったか、まぁそんな通称で呼ばれている部類に入る打刀を使えるのに加えてビーストテイマーになった事もあって余計に注目を引くようになった。
全ての勧誘には徹底的に断っているが、正直言ってまだモンスターと戯れているほうがまだマシだ。
そもそも、他人を信用しない人間が他人と群れるわけが無いだろう。
リアルの方では確かに俺は群れていた。だが、それは集団という中に居ただけであり、その中で俺は孤立していた。言うならば見せかけだけで、中から見れば孤立している存在だった。
まぁ、そんな存在の人間が集団の中に進んでは居ると言う事は絶対に無いと言うことだ。
とは言え、別に下の層に降りてきたところで一人という事実は変わらない。だが、多少は落ち着けるという物だ。
何時も身に着けている仮面と頭巾、外套を外し、腰には打刀ではなく曲刀、装備は鎧ではなく動きやすい薄手の黒い衣装に身を包み、いくつかアクセサリーを付けてある程度防御力をカバーしていた。
28層の中層で狩りをする人間達にとっては有り得ないだろうが、俺は普通に感じる。周りを気にしないとも言えるかも知れない。
「さて、どうしましょう」
下の層に降りてきたのはいいものの、別にやることは無い。
今日はただ単に最前線の連中から逃げる為に降りてきたので、別に何処の層でもよかったのだが、きまぐれで中層の主戦場になっているこの層まで降りてきただけで、クエストがどうとかアイテムがどうとかの理由で降りてきたわけではない。
とは言え、今日いっぱいは中層で狩りをしているプレイヤーになりきろうと思う。
少なくともこの外見で「仮面の鬼人」には見えないだろう。
今の俺の外見は後ろで括っている白髪と紅い瞳、透けるように白い肌、黒の上下の装備にいくつかのアクセサリー、ここの層の人間に取ってみれば上がってきたばかりの奴に見えるだろう。
ああ、言い忘れていたが、俺はアルビノだ。しかもメラニンが全くない。昔からインドア派で大きな苦労はなかったが、周りから浮くことは分かりきっている。
「適当にほっつき歩き回ることにしましょう」
普段は狩り一色なのだが、他人から逃げる為にこんな所に来たのは初めてだ。
言っておくが、俺は自己中では無いが、普段は一人なので自己中と見られても仕方ない。
俺はゆっくりと歩き出した。






「…………?」
街を歩いていると違和感を覚えた。
早朝からこの街を訪れ、歩いていたものの、人が増えるにつれてどうも違和感を覚えるものだった。
何時もなら多少の目線はあるが、心地よい目線とは言えなかった。
だが、なぜかしら今浴びている目線は物珍しいものを見るかのような物だった。
「……」
いや、理由は分かった。俺の隣にはテトテトと付き従う銀狼が居るからだ。つまりは俺がビーストテイマーだからだ。
使い魔を従えるプレイヤーの総称だが、確かにか数が少なく、珍しい。
とは言え……この目線は慣れないものだ。
新鮮とも言えるのだろう。だが、他人と関わることを避けてきた俺に取ってみれば疲れることなのだろう。
と、そんな時、普通に歩いていると正面に見えた少女に目が止まった。
正確には頭に蒼い竜のような生き物を乗せた少女と言った方がいい。恐らくはビーストテイマー、俺と同じと言えば同じになる。
すれ違い様だったが、ビーストテイマーと言う共通点があったからだろうか、他人に一切関心の無かった俺だが、一瞬だけ引かれた。
だが、ここでは誰とも関わる必要はないだろう。下手をすれば面倒なことになりかねない。
時間潰しにと降りてきたわけだし、ここで知り合いを作って面倒ごとを引き起こす必要はないのだろうしな。
「あ、あの!」
唐突に背後から声がしてふと振り返ってしまった。なぜだろうか、普段なら振り返る事も無いはずなのに……いや、これは間違いだ。普段は声を掛けられないから振り返る必要がないのだ。
振り返ると先ほど目に止まった頭に蒼い竜のような生き物を乗せたツインテールの少女が居た。
「僕に何か用ですか?」
さて、ここでまた解説をしておこう。俺が仮面をしていないとき、つまり自分が自分だと認識されるときに他人行儀となる。言葉遣いも丁寧になって自然と一人称も「僕」に変わってしまう。言うならば素顔が仮面、仮面が素顔と言ったところだ。
ただ単に他人を信用していないから自分の本性を出さないと言う事の表れだろう。
「彼方もビーストテイマーなんですか?」
「ああ、うん、そうだよ」
いつ話してもこの話し方が似合わないと思う。だが、なぜか自然とこの話し方になってしまう。周りに警戒心を抱かさせない話し方だと思うのだが、自然すぎる話し方で逆にこれが仮面だとは思えない。
「あまり見ない方ですが、上がってこられたばかりなんですか?」
正確には降りてきた。だが、そんなことを言えば攻略組だと思われるだろう。そんな事態は避けなければならない。
「そ、そうなんだ。やっとレベルが上がってね、今日の早朝に上がってきたばかりなんだ。だから狩りに行く前に少し街を見て回りたくってね」
嘘だ。紛れもない嘘を平然と言っている。仮面を被ると言う事はこんな事も覚悟していたが、仕方ないことだよな。
「そうなんですか、私、シリカっていいます。この子はピナです」
彼女がそう言うと頭に上に乗った竜が「ピィ」と鳴いた。
「えっと……僕はヤヅキ、こっちはエリルです」
「ヤヅキさんですか、どうです? 一緒に狩りに行きませんか?」
そう言われた瞬間、俺の思考はパンクしそうになった。性格にななんでそんな話になるのかが分からなかっただけなのだが、「一緒に」という言葉の対応に困った。感情表現がかなりオーバーなこのゲームだが、俺は何とかそれを抑えることに成功した。
「あ、いや……その、僕は今までソロでやってたからさ、他人と狩りに行った事なんて無いんだ。それに……どうして?」
正直な話し、俺は他人と狩りに行くことには大きな抵抗がある。第一に俺は他人と関わることが得意ではない。第二にこの状況、つまりさっき俺はこの層に上がってきたばかりだと言ったので、何とか実力を下手に見せる必要がある。そして相手は年下、リアルでの俺の実年齢は18、年下を頼った時点で俺は終わる。
「同じビーストテイマーだからです」
理由にならないと思うのは気のせいだろうか……
「う~ん……でも、僕は今日ここに来たばかりだから足手まといになるかも知れないしな、迷惑掛けると悪いし……」
自分を偽らないと本性が出ない俺なんだが、もう十分偽っている気がしてきた。
「大丈夫です。私が助けてあげますよ!」
そんな自信満々に言われてもな~……別に攻略組の一人だからっていうからじゃなくて、あまり他人と関わろうとしなかった俺だから他人とどう接していいのか分からない。
それに、断れない雰囲気になってきてる……そして、周りの目線が居たいのは気のせいだろうか……
「それじゃあ……足手まといかも知れないけど一緒に狩りに行かせて貰おうかな」
若干の不安を残しながら俺は彼女とパーティーを組むことを決意した。 
 

 
後書き
え~……はい、4話を更新させていただいたのですが、かなり出会いが強引でしたね。
まさか向こうからの話しかけてくるという、また古い手口を使いました。作家としての底が見えたも同然ですね。
まあ、共通点が無かったというわけではありませんし、勘弁してください。 
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