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ソードアート・オンライン ~仮面の鬼人~

作者:綾織吟
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3話 銀狼

ゲーム開始から8ヶ月、前線にて……
現実では夏になろうとしているのに、積雪地帯の層で俺は雪熊に囲まれていた。
というのにも理由があった。それたただ単に「粉雪の実」という料理に必要なアイテムが必要だったからだ。正確にはドリンクの調合に必要なだけなのだが、どうしても代用の利かない物なのでこうしてここまで来たのだ。下の方にある凍土の層でも手に入らないことは無いのだが、こちらの方が手に入る確率が高いのだ。
ドロップするのはこの雪熊たちだ。
だが、まさか囲まれるとまでは予想していなかった。
当然の事だが、俺は一人。このゲームが開始して以来一度もパーティーを組んでいない。
「……斬る」
納等された打刀は一瞬にして抜かれ、黒のエフェクトを纏った打刀が弧を描くように振るわれ、黒の斬撃が彼の周りに走った。
今行ったのは刃渡りが許す限り周りに斬撃を与えるだけの弧を描くように斬っただけの技「大円斬」だ。一見はただのソードスキル。初期に使えるようになった大技の「一閃」とは違って普通に思えるが、ソードスキルに必要な溜がほぼ無い。そして斬撃が一度っきりと言うことは無い。
雪熊は斬撃を受けた瞬間、行動を停止した。
「……」
カチンッ、打刀が鞘に収められた。すると真横に斬り付け得られていた傷がザッザッザッ! と三度横に切り傷が行き、雪熊たちのHPバーが無くなり、ポリゴンとなった。
「……ふ」
アイテムウインドウには粉雪の実が3つ入っていた。7体倒しておいてこの出現率はかなり高い。実際の出現率はもっと高いのだろうが、現在の俺は「木の実のネックレス」を装備している為、食材の出現率が高い。
実のところ、この身を使って作るのは「ハニーアンサンブル」一度試しに作ってみたが要は蜂蜜酒の味がして、病み付きになったのである。アルコール自体が入って無くても甘みととろける舌触りが何ともよかった。
「さて……」
実際、今日の狩りはこれが二回目だ。今の時刻は夜、正直な話し、眠い。
このゲームをやっていても眠気と食欲は湧いてくる。
睡眠を取るのは当然の事だ。これはゲームであるが、脳は働いている。すなわち脳にも休憩が必要と言う事で、睡眠が必要となる。
食欲は定期的な満腹中枢の刺激だろう。現実の世界の体に何らかの形で栄養を取り入れているとしても胃には何も入っていない。恐らく定期的に満腹中枢を刺激することによって胃が満たされたのだと錯覚しているのだろう。
「……!!」
その時だった。その場を立ち去ろうとしたとき、ガサガサッと茂みの方から音がした。索敵スキルが高いものの、どうにもこの層ではその効果がやや鈍るらしく、気を抜いていたので気づくことが出来なかった。
茂みの中から飛び出してきたのは銀色の毛並みをした狼、銀狼といえよう。
本来ならば臨戦態勢に入るはずなのだが、狼はなぜか威嚇をする様子が無かった。
そもそも、狼というのは群れで行動する動物のはずだ。これがゲームだからといって単独行動するのはやや不思議な話だ。むしろそこは性質を生かして集団行動を取らせるべきなのだ。
俺はそっと打刀の手柄に手を伸ばしたが、狼が警戒していないと言うことが分かると自然と手が降りた。
「…………」
一匹狼、それを言うと孤立感を感じさせる物だった。周りから避けられているのか、自分から避けているのかは定かでは無いが、少なくとも一匹と言う事は確かだった。
その姿はどことなく自分に似ていて、面影を重ねていたのかも知れない。
俺はアイテムウインドウを開き、その中から獣の肉を取り出し、銀狼の前に向かって放り投げた。
何時もなら「……斬る」とか言って即座に愛刀の「血桜」でたたっ斬っているが、なぜしらその気にはなれなかった。このゲームを始めて狼に群れには何度か襲われた。だが、一匹で行動する狼を見たことが無かったと言う事もあるのだろう。物珍しさによる興味本位か、自分の面影を見たのかは自分にも分からない。
狼はその肉に対して何の警戒心を持つこと無く何度か臭いを嗅いだ後に肉にがっつき始めた。
「……じゃあな」
俺は狼が肉を食っているのを見るとその場を後にしようとした。
「クウゥン……」
だが、背後からは犬のように寂しそうに鳴く狼が居た。
「……肉はもうね―ぞ」
「クウゥン……」
狼の声は変わらなかった。
しかし、俺はそんなことを気に止めることは鳴く前に足を進めた。雪を踏みしめる音がザッザッザッ、とする中、不思議なことに軽い小さな音が背後からした。
「…………」
足を少しは止めるが、それに合わせて背後の音も早くなった。
「…………」
さらに足を速めるものの、背後の音はさらに早くなった。
俺はうすうす気づいていた。振り返るまでも無い。パーティーを組んだ経験の無い俺にとって今日の行いの内で後ろに付いてくる心当たりは一つしか無い。
「……」
俺が足を止めると背後の音もピタリと止まった。
ゆっくりと後ろを振り返るとやはり先ほどの銀狼が居た。
「肉は無いって言っただろ、何か欲しい物でもあるのか?」
そう問う俺だったが、狼は首を横に振った。言葉が通じているのだろうか、それともニュアンスだろうか、それは定かでは無い。
「……俺もお前も一匹狼だ。来るか?」
「ガウッ!」
銀狼と仮面の鬼人、一匹と一人の一匹狼達にはお互いに退かれる物があったのだろう。
何も分かっていなくても本能で引き寄せる物があった。
狼には「エリル」と名付けられ、その後の攻略戦でも仮面の鬼人の名はさらに高まったという。そして「仮面の鬼人、銀狼を連れたビーストテイマーとなった!!」と言う記事で新聞を賑わせた。 
 

 
後書き
まぁ、あれですね。ここ最近、スランプ気味でかなり放置してました。すみません。 
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