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戦国異伝

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第八十二話 慎重な進みその四


「だからよいのです」
「ですな」
 こうした話をした。そしてだった。
 丹羽は明智にだ。こう問うたのだった。
「して、です」
「はい」
「明智殿は本丸を攻めると仰いましたが」
「そのことですが」
「はい、それは一体どういうことでしょうか」
 丹羽が問うたのはこのことだった。明智の言うことのだ。まさに核心だった。
 それがどうしても知りたくだ。彼は問うたのだ。しかしだ。
 明智は遠い目になりだ。今はこう言うだけだった。
「もう暫くお待ち下さい」
「そのことについての話はですか」
「秘策です」
 それ故にだった。
「それ故に今少しだけです」
「聞かずにいて欲しいのですか」
「左様です。ですが」
 その丹羽の一見温厚だがよく気付くその鋭さを見てだ。彼は言うのだった。
「丹羽殿はやはり」
「それがしの考えが正しければ」
「その通りです。お気付きになられましたか」
「ではやはり」
「はい。思い切ったことをせねばです」
 明智は気味がいいまでにはっきりとした声で答えた。
「本丸は陥ちませぬ故」
「それはそうですが」
「既に文は出しています」
 明智の動きは早い、丹羽は彼の話を聞いて思った。そしてだ。
 それと共にだ。その覚悟も知った。その覚悟は。
「そこまでされるとは思いも寄りませぬ。明智殿は確か」
「確かにそうです」 
 明智はその覚悟している顔で丹羽に答えた。
「ですがそれでもです。戦にならずそれで話が済むのなら」
「よいというのですな」
「はい、そうです」
「左様ですか」
 明智の話は聞き理解はできた。しかしそれでもだった。
 丹羽はどうしても頷くことはできなかった。それでだ。
 難しい顔のままでだ。その明智に対してだ。確かな声で返したのだった。
「それがしとしましてはそれは」
「認めて頂けぬのですか」
「難しいですな」
 実際にだ。こう返した丹羽だった。
「それがしとしましては」
「しかしです。兵を一人も失うことなくです」
「波多野が我等に下るからですか」
「そして丹波一国が手に入ります」
 そうなるとも言う明智だった。
「悪い話ではありませぬ」
「それはその通りですが」
「若し血を流したとしても僅かで済みます」
 犠牲もだ。明智は覚悟していた。このことも言葉に出ている。
「ですから。是非共」
「若しもです」
 丹羽は一呼吸置いた。それからだ。明智の揺ぎ無い決意のあるその顔を見てだ。そのうえで言葉を選びつつ彼にこう答えたのであった。
「それがしがよしと言わねば」
「その時でございますか」
「はい、その時はどうされますか」
「その時はそれがしが」 
 こうだ。明智は丹羽にすぐに答えてみせた。
「そうするだけです」
「明智殿ご自身が」
「戦は確かに命を賭けるものです」
 このことは否定できなかった。何があってもだ。 
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