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学園黙示録 Highschool Of The Dead ~壊れた世界と紅の狼~

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地獄の舞踏会

~孝side~
俺は平野が見張ってるベランダに行きつくと、下では《奴等》が犬の鳴き声で集まってきて柵をガシャンガシャンと鳴らしていた。


「くそっ!」
「小室、どこに行くつもりだい!?」
「決まってんだろ、下に行って《奴等》を………」
「………小室くん、忘れたのか? 《奴等》は“音”に寄って来る。そして、生者は“光”と“我々”に反応する。きみの行動は勇ましいが、我々が救うにも限度と言うモノがあることは忘れてはいけない! だからこそ、『この世界』に慣れておくのだ!!」


毒島先輩は部屋の明かりを消し、僕に双眼鏡を渡してきた。


「毒島先輩はもっと違う考えだと思ったんですが………」
「勘違いしないでくれ、私とて良い思いではない」


そう言って、下に降りていった。
それにしても………


「平野」
「なんだい、小室?」
「顔がニヤケてるよ?」
「そういう小室だって」
「「………刺激が強過ぎるんだよなぁ、毒島先輩」」


毒島先輩の姿を見て、僕たちはなんとか体勢を保つことが出来たが、今頃になって前屈みになっていた。
僕は渡された双眼鏡で外の様子を覗こうとすると………


「あ、双眼鏡で覗く時はこっそりとね」
「ああ」


外の光景を覗くと、地獄だった。
周りの様子も見ていると、一人の父親が娘を走って逃げていた姿を見ることが出来た。
その父親が立て籠っている家の住人に、助けを求めようとして扉を叩いたが反応が無く、扉を壊そうとする姿勢を見せたら扉が開いたが………その瞬間、腹を包丁で刺されてしまい、殺された。
小さな女の子は泣き叫び、その声に反応した《奴等》が彼女に襲うおうとした時、隣で銃声が鳴り響いた。


「ロックンロール!!」


ダンッ!


「おい、平野。助けないんじゃなかったのか?」
「彼女は小さな女の子だよ!?」
「………平野、救出しに行くから援護射撃頼んだ!」
「任された!」


僕は、急いで準備を済ませて下に降りた。


「小室くん、行くのかね?」
「はい。僕はどうしようもないお人好しみたいです」
「そんなこと、最初から知ってたよ」


下に降りた時、先程まで寝ていた麗が起きてきた。


「ん~? 孝、どこか行くの?」
「小さな女の子を助けに行ってくる」
「なら………先程、真紅狼から渡されたのを渡しておくわ。はい、これ」
「真紅狼は起きたのか?」
「いや、半分起きて、懐からこれを出して『孝に渡してやってくれ』って伝言を頼まれたの」
「………助かる。それにしても重いな」
「本物だからね」
「小室くん、銃はあまり使わないほうがいい。キミが銃を放っている時、《奴等》は動いてるし、キミは止まっている。そのことを頭に入れておくんだ」
「はい」
「では、覚悟はいいかね?」


一緒に付いてきた麗は、極力音を立てず、戸を開けたがそれでも金属の軋む音は《奴等》に聞こえ、その音につられて《奴等》の数体はこちらに向かってきた。
僕はスクーターを唸らせて、寄って来る《奴等》を蹴飛ばしながら彼女の元に向かう。
向かう間、彼女の周りに群がる《奴等》を平野が抑えてくれる。
だが、それにも限界があるのは分かっている。
だからこそ、急いだ。


「あそこか!」


《奴等》を踏み倒して、突入したが血脂でタイヤが滑り盛大にこけた。


「………~っ! 映画みたいにはいかないか」


彼女は……………マズイ!
僕は走り、そのまま勢いよく《奴等》の頭を吹っ飛ばした。


グチャッ!


「小さな女の子を虐めるな!」


まぁ、そんなことを言ってもコイツ等が聞くわけないか。
その時、彼女が叫んだ。


「う、後ろ!」


僕は振りかざすかしても間に合わないので、すぐさま得物を投げ捨てて、真紅狼に渡された銃口を口の中に突っ込み………そのまま引き金を引いた。


バンッ!


「ありがとう!」
「わんっ!」


彼女は手を振り、彼女を守っていた犬もその言葉に反応したのか、短く吠えた。


「さて、どうするか………」


通りは、《奴等》でいっぱいでどうやっても帰れそうにない。
その時、通りの向こう側から真紅狼が剣っぽい物を持って通りに出て叫んだ。


『孝! 今から帰り道を創ってやるから、通りには絶対に近づくなよ!!』


大声で叫んだ真紅狼に反応して《奴等》は、一体また一体と離れていったが次の瞬間、暴風が《奴等》ごと道を抉り潰した。
~孝side out~


~高城side~
私は銃声とバイク音の音が聞こえてから目を覚まして、玄関先に居た宮本に事情を聞いた。


「どうしたの?」
「まだ、私達は人間だってことが分かったのよ」
「しかし、ここまで大きな音を出してしまったからここはもうダメだな」
「そうね。宮本! 逃げだす準備よ! ここは毒島先輩に任せて、アナタは荷物をまとめなさい!」
「分かったわ」


私は指示を出した後、一階で寝ている静香先生を起こした。


「先生ッ! 起きて、先生!!」
「ふぁ~、もう、朝ご飯~」


ギュウウウウウウウウッ!


「いひゃいっ、いひゃい!!」


静香先生を起こした後、私は二階で見張ってる平野にも声を掛けに行った。


「平野っ!」
「高城さ…………!!??!?」
「平野、アンタは今やっていた仕事をやっていなさい! 必要な物を言ってちょうだい!」
「はぁ、真紅狼が寝ているベッドの横に全部置いてありますけど………どうしたんですか?」
「逃げるわよ! ここまで大きな音を出しているのよ!? ここから脱出しないと!!」


静香先生のバックに必要な物を積み込んでもらっている間に、蒼騎を起こすことにした。


「蒼騎、起きなさい!!」
「zzz~」


うるさそうに寝返った。
私はそれを見て蹴っ飛ばそうとした瞬間、宮本が来たので起こしてもらう様に頼んだ。


「悪いんだけど、宮本。蒼騎を起こしてちょうだい」
「分かったわ。真紅狼、起きてちょうだい。…………………………(ボソ」
「ふぁ~あ、眠みぃが起きるか。んで? 今はどんな状況なんだ?」


蒼騎は大きな欠伸をしながら、状況説明を求めてきた。
私が簡潔に状況を教えると蒼騎は短く「分かった」と返事をして、そのまま玄関に向かった。


「宮本、アンタ一体どういう手を使ったのよ?」
「それは、私と真紅狼だけの秘密で」
「ハイハイ、そうですか。それと、静香先生は取り敢えず服を着て………」


私達は物音を極力立てない様に、外に出て車の準備を始めた。
小室の様子が気になって、塀から向こうの様子を覗くと………


「うげっ!? あんなのじゃバイクですら無理よ?」
「それじゃあ、迎えに行くしかないんじゃない?」


静香先生が着替えながら、提案した。
その提案に一瞬私達は黙った。


「あ、あの、キィは付いてるし………先生、変な事言ったかしら?」
「いいや、名案だ」
「じゃあ、《奴等》にバレない様に荷物を車につぎ込み、小室達を助けて川の向こう側に脱出!」


私達は車に荷物をほとんどつぎ込み、後は小室達を回収しようとした時に蒼騎が突然訊ねてきた。


「高城、ハンヴィーに荷物はつぎ込んだか?」
「え、ええ。あとはエンジンを掛けて、回収して脱出するだけだけど?」
「分かった。なら、あそこにいる《奴等》は俺が除去してきてやるよ。静香先生、エンジンを掛けてください! だけど、そこから動かない様に!」
「ちょっ、ちょっと蒼騎! 何する気!?」
「なに、引き潰したとしても血脂で滑って止まれなかったら、意味がないから、それごと吹き飛ばすだけさ。高城達もハンヴィーに乗ってろ」


そう言って、私達は取り敢えず蒼騎の言う通りにハンヴィーに乗って一部始終を見た。
蒼騎は通りに出た後、小室に向かって叫んだ。


「孝! 今から帰り道を創ってやるから、通りには絶対に近づくなよ!!」


「ば、バカ、そんな大声を出したら!」と言おうとしたが、その前に宮本が私の口を塞いだ。
宮本は黙ってみてなさいと小声で言ってきたので、私達は渋々眺めることにした。
~高城side out~


~真紅狼side~
麗達がハンヴィーに乗り込み、エンジンを掛けたことを確認した。
そして、俺は《奴等》を引き寄せる為に大声で叫ぶ。


「孝! 今から帰り道を創ってやるから、通りには絶対に近づくなよ!!」


大声につられて《奴等》がこっちに気が付き、のっそりとやって来る。
俺はコートの下から“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”を引っ張り出し、槍を投擲する構えを取る。
そして、出来る限り水平に投げ飛ばす瞬間に真名を解放した。


「“(カラド)・……………………螺旋剣(ボルグ)”!!!」


放たれた“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”は、大気を貫きながら周りを抉り吹き荒しながら擂り潰されていった。


ゴゥア………ガガガガガガガガガガッ!!!


“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”は《奴等》だけではなく、周りの塀に舗装された道路の表面、木々を巻き込みながら抉り擂り潰していく。
本来なら、通りだけではなく通りに面している家も吹き飛び更地になっているが、小室達がいる為威力を弱めて放った結果、通りと通りに面している家の塀、それと近くにあった木々や物干し竿、道路の表面などが抉れて擂り潰された。


「こんなモンかな」


いやー、良い運動になったわ。
やっぱ適度な投擲は大事だな。
あ、反動で俺の手がちょっと傷を負ってる。
まぁ、そうだよねー。どこぞの弓兵は弓で射っていたけど、俺は素手だし。
怪我しない方がびっくりだな。
………今度から、真紅の執行者と深蒼の断罪者に接続して放つことにしよう。
あ! 鋼糸を使って“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”を回収しておかないと!


「もしもし、脱出するならハンヴィー動かしてくれると有難いんだが? 小室達も困っているだろ?」
「え、ええ………」


静香先生は、ハンヴィーを動かして一気に小室達のところまで走る。
俺は出てきた瞬間、うまく飛び乗り天上に乗っかった。


「おう、小室。迎えに来たぜ」
「………真紅狼、今のはなんだ?」
「俺の特殊武器とでも言っておこうか」
「あんなのが特殊武器とか、お前幾つ持ってんだ?」
「んー、分かんない。数えたことねぇし!」


そう会話をしながら、俺達は川の向こうに脱出することにした。
~真紅狼side out~


~静香side~
私達は、上流の方まで進むと検問も引かれていなかったので川を渡ることにした。
高城さん達は寝ていたので、代わりに蒼騎君が上に出て見張ってくれた。


ブロロロロッ………


ゆっくりと川の中に進み、渡っていく間、私は蒼騎君に話しかけた。


「ねぇ、蒼騎君」
「なんですか? 静香先生」


蒼騎君は中に入ってきて、助手席に座った。


「先程のアレはなんなの? しかも、その時右手……怪我したでしょ?」
「小室にも聞かれたんですが、俺の特殊武器の一つです」
「それは………学校で説明された“鋼糸”ってやつと同じなの?」
「まぁ、そんなカンジです。あと怪我は、本当なら弓で射るんですが無かったので、素手で投げ飛ばしたらこうなったんです」
「その怪我は大したことじゃないのね?」
「ええ、軽い擦り傷みたいなモノなんで………」
「そう………よかった」
「……………ところで、静香先生も大丈夫なんですか?」


蒼騎君は、私の顔を見た後、突然訊ねてきた。


「え………? えっと、大丈夫って?」
「静香先生は車の運転とかやっていますけど、辛いんじゃないかと思いましてね」
「どうしてそう思うのかしら?」
「顔を見れば分かりますよ。先生は小室達の前で疲労の表情を見せていない。………いや、そんなことは出来ない。何故なら、貴女が大人だからだ。俺達の中で唯一大人の貴女が狂ってしまったら、おそらく小室達も狂っているところ。しかも、先生は車の運転スキルがある故、このように要所での役割がある。役割があるからこそ、心を保っていられるがなかったら、精神的に参っていましたよね?」


………驚いた。
蒼騎君は、たった私の顔を少し見ただけでここまで推測できるとは。


「まぁね。たぶん、蒼騎君達と脱出していなかったら、私はすでに《奴等》の仲間になっていたわね。………蒼騎君こそ疲れていないの?」
「いや全然。むしろ、後ろで寝ている連中の方が疲れていると思いますけどね」
「小室くん達は、たった二日でだいぶ変わってしまったわね」
「いやまぁ、まだ良い方だと思いますよ? 俺と違ってこの世界になってから殺しているのは《奴等》だけですから。“生者”を殺した俺と違って、至って普通ですよ」


彼は、そういうとどこか含みのある嘲笑を見せる。
それが私には、眩しいモノを見ているように見えた。
蒼騎君の過去がどんなモノか私は知らないが、おそらく彼は“甘え”と言うモノが知らない。
親からもらう“甘え”を受けずに育ってしまった彼は、それを受けた小室くん達が眩しく見えるのだろう。
“甘え”と“優しさ”を切り捨てなければ、生きてはいけない世界に身を置いてしまった。
私が蒼騎君のことを推測してると、突然彼の手が私の頭の上に添えられて撫でてきた。


「ふぇっ!?」
「いや、先生も疲れが溜まっていそうだし、少しでも楽になればいいと思いまして………」
「え、あ、いや、その、あの、有難う///」
「どういたしまして」


彼は軽く微笑んだ。
その微笑みは、今まで見せていた表情の中でも意図的に笑った表情ではなくて自然と出てきた表情だった。


「私、先生なんだけどなぁ」
「あれ、先生はそういう風に見てたんですか?」
「蒼騎君は違うの?」
「俺は、男と女で見てましたが?」
「そう。……………ねぇ、蒼騎君。お願いがあるんだけどいい?」
「なんですか?」
「こうやって二人っきりの時は、私の事を“静香”って呼んで欲しいの。もちろん、敬語じゃなくていいわ。その…………恋人みたいに話しかけてくれると嬉しい//」


最初、彼は呆気を取られてはいたが、意識を取り戻してすぐに呼んでくれた。


「わかったよ、静香。じゃあ、俺からもお願いだ。真紅狼って呼んでくれ」
「ええ、わかったわ、真紅狼」


そうして、自然と私達は顔を近づけあい、唇を重ねた。
ゆっくりと唇を離して、私はちょっと顔を赤くした。
その時には、朝日を迎え川の中間地点まで来ていた。


「そろそろ、コイツ等も起きそうだし上で見張るとするよ」
「ええ、お願いね。…………真紅狼」


真紅狼は短く、「ああ」と返事した後、上で周りを見張った。
その後、15分後に平野くんと宮本さん、ありすちゃんが目覚め、宮本さんは、上で見張っている真紅狼の傍に寄っていった。
進行が三分の二を過ぎた所で、皆を起こした。


「皆、起きて! もうすぐ川を渡りきっちゃう」


声を掛けると、小室くん達が起きたと同時に川を渡りきり、河原に上がった。
~静香side out~


~麗side~
無事に川を渡ることが出来た私達は車から降りて裏で着替えた後、車を堤防に上げて、ココから一番近い家が高城さんの家で東坂二丁目だったので、そこに向かうとした。
真紅狼は、「ちょっと仮眠する」と言って、中に入って寝ている。
代わりに見張り役として私と孝が上にいる。


「《奴等》がいないわね」
「ああ。どこかに移動したか潜んでるか」


そう孝は相槌を打ったが、その後、急展開した。


ドカッ!
ドガガガッ!


「ここもいっぱいよ! もういやっ!」
「なんだってんだ! 二丁目に近づく程、奴等が増えてるぞ!?」


車は脇道に逃げ込みながら、高城さんの家に向かっていくが、向かう先の道全てに《奴等》が存在している為、跳ね飛ばしながら進むことにしている。
そして、今進んでいる道の先に私はあるモノを見てから、静香先生に止める様に叫んだ。


「止まって!」
『ええ?! どうして!?』


「このまま行ったら危ない」ということを伝えようとした時、中に居る毒島先輩は気が付いたらしく、急いで叫んでくれた。


『ワイヤーが張られているぞ!! 車体を横に向けるんだ!!』


その叫びを聞いた静香先生は、素早く車体を横にしたおかげで、倒れる心配は無くなったが未だに止まることは無かった。
でもその瞬間、平野のアドバイスを聞いた先生が急ブレーキを踏んだ。
急にとまった反動で、私は投げ飛ばされるように前に吹き飛ばされ受け身も取れずに背中を強打し、地面にたたきつけられた。


「あぐぅ!?」
「麗!?」
「………~っ!」


早く起きないと……………《奴等》が…………!?
そこからは、孝や毒島先輩、平野が急いで撃って出たが、数が多過ぎる為か銃や木刀では捌けなくなっていった。
私達は今度こそ終わったと思った。
誰もがそう思った時、声が聞こえた。


「なに、この世の終わりみたいなツラしてんだ。俺がいる限り、お前等の命に終わりはねぇよ」


群がっている《奴等》を出現と同時に吹き飛ばしたのは、真紅狼だった。
~麗side out~


~真紅狼side~
仮眠していた俺だったが、先程大きな揺れが発生したので寝ぼけた目を開けてみると、誰かが何かと戦っていた。
なんだよ、誰か戦ってんのか?
俺の必要は…………………んんんっ!??!
俺は急いで頭を目覚めさせた。
なんか外がエライことになっとるがな!!
というか、なんでハンヴィーが止まってんだよ!?
つーか、今の状況って絶体絶命って言う状況下かよ?
俺は、扉を開けると同時に目の前で群がってる連中の一部をブッ飛ばした。


「うわぁ………死体の動く壁だし。どうしよっかな」


ここまでの数になると鋼糸は危ない。
麗達も巻き込みかねない。となると、アレを出すか。
出現地点は、《奴等》が群がってる中心地点に叩き落とせばいいな。
やることは決まった。
なら、その為に麗達とハンヴィーをワイヤーの向こうに運ぶだけ。
俺は素早く鋼糸を展開して、外に出てる麗と孝、冴子、高城をやさしく縛り、ハンヴィーの上で狙撃していた平野もハンヴィーごと縛って、持ち上げる。


「キャッ! 真紅狼、何してるのよ!?」
「お前等を鋼糸でワイヤーの向こう側に運んでいるだけだ」
「蒼騎くん! キミはどうするつもりだ!?」
「俺一人でコイツ等を黙らせます」
「バカじゃないの、アンタ!! いくら凄かろうがアンタ一人じゃ………!!」


順に麗、冴子、高城と叫んだが、麗は俺が何をやろうとしてるのか合致がいったようだった。


「真紅狼、まさか…………?」
「ああ。いずれ、バレるならここいらでバラしちまった方がいいだろう?」


俺は鋼糸で無事に麗達を移動させた後、鋼糸の手袋を麗に投げておく。


「麗!」


ブンッ!


「わわっ! これ………! 真紅狼!?」
「預かっておいてくれ」
「………わかったわ」


よし、準備は整った。
後は、“王の財宝”からアレを上空から地面に向けて射出したら引き抜いて暴れるだけ!
………っと、その前に。


「麗! もうちょっと下がってろ! そこは危険だ」


麗達はワイヤーからさらに下がり、距離を取ったのを確認したを見たので祭りを始めることにした。


「“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”ッ!!」


俺は、“王の財宝”の中からとある一本の槍を上空から地面に向けて射出させた。


ガシャンッ!
ドォン!!


地面に突き刺さったのを見た後、俺は一気にその刺さった場所まで駆け、その柄を握り締めておもいっきり引き抜く。


「オォォォラアァァァァッ!!」


引き抜かれた槍は先端が特異な物となっていた。
舟を止める為に降ろす碇のようだが、もう一個用意して十字の鉤爪にしてあった。
さらに、その鉤爪の様な碇の根元を鎖で繋ぎこちらの柄の先端と繋げて切り離し可能にしてある。
大きさは大体2m半ぐらいで、重さは大の大人が3人が両手でようやく持てる重さを俺は片手で操り、手始めに俺の周りに存在してる《奴等》を躊躇い無く中身が飛び散ろうとも轢き潰した。


グチャチャチャッ!!
ブシャアァァァァァ!!


内臓が飛び散り、血が噴き出る。
俺の服や地面にべったりとくっつくが俺はそんなことどうでもいい。
《奴等》という存在が目の前から存在しなくなるまで殺し尽くした。
斬り殺し、刺し殺し、轢き潰し、抉り殺し、引き裂いていく。
《奴等》は頭を潰せば、止まるが俺はそれすらしないで原初たる方法で殺していく。
身体そのモノを無くせばいい。
要は、肉の塊すら残さず圧殺すればいい。
斬っては潰し、刺しては潰し、抉っては潰し、引き裂いては潰す。
なんとも簡単な作業。
奏者は返り血を浴びた全身紅い鬼、奏でられる音は肉の潰れた音と血が吹き出る音、そして鬼の叫び声。
ああ、なんて愉しいかな。


「アハハハハハハハハ! さぁ、舞台は終幕にふさわしい終わり方を見せてやろう!!」


俺は、碇を切り離して上空に飛ばし自身も飛び上がる。
そして、そのまま生き残ってる《奴等》に向けて振り下ろす。
重力+振り下ろされる力が加わった碇は強烈な打撃音が辺り一帯に響き渡る。
まるで爆撃があったかのように。
そんな一撃を貰った《奴等》は瞬く間に圧死し、圧力の関係で液体が上に飛んでいく。
そして………………


ザアアアアアアアアァァァ………


雨となって降る。
俺はその血の雨を受ける。
受けながら、肩で碇槍【長槍 黒狼】を担ぎながら、麗達の元に向かうと向こう側から凛とした声が響いた。


『皆、その場で伏せなさい!!』


消防服に身を包んだ人達がワイヤー越しから俺を狙っていた。
………どうみても、俺って悪役にしか見えない姿だよな、肩に担がれた武器は血がべっとりと付着していて、さらに俺は全身真っ赤。
どう見てもラスボスですね、本当に有難うございました。
すると、向こう側で麗達が俺の身元説明してくれたのか、砲口らしきモノが外れたので、俺はワイヤーを無事に超えた。
俺の前に、どこか高城に似てそうな女性が頭を下げてきた。


「申し訳ありません。娘の親友だった方に武器を向けるとは………」
「あー、構いませんよ。誰だってこの姿を見れば、警戒はします。むしろ、撃たれなかったことが奇跡ですから。………もしかして、高城の?」
「ええ。高城沙耶の母、高城百合子です。………ところで、後ろにある惨状は貴方ですね?」
「一部始終を見ていたなら、問わなくても分かると思いますがね?」
「………貴方は一体何者なんですか?」
「その問いは、孝達も知りたがってますし、取り敢えず安全なところで語りますよ。それとシャワー貸してもらっていいですかね? この格好のままだと色々と誤解を招きかねないので………」
「そうですわね。私達の家に案内しましょう。ついてきてください」


高城のお母さんに平野達は付いていく最中、麗は静香の肩を借りながら近づいてきた。


「麗、大丈夫かよ?」
「ちょっとキツイかな………」
「………怖いなら、俺の傍にいなくてもいいんだぜ? 俺以外にも守ってくれる奴はいるしよ」


麗の手は震えていた。
正体を真っ先に明かしていたとはいえ、あんな凶行を行えば誰だって怯える。


「ううん、それでも私は真紅狼に護ってもらいたい。だって、私は真紅狼が愛してるもん。私の想い受け取ってくれるよね?」
「本当に物好きだね、オマエも」


その後、静香の顔を見た後、伝えておくことにした。


「麗、あのよ」
「うん、なに?」
「静香も関係が出来たから」
「………え?」
「ごめんねぇ、先生にもちょっと頼らせてちょうだい」
「………真紅狼?」
「悪い。この辺は俺の性格上、許してくれ」
「どういうことなの?」
「なんつーか、昨日の夜、ちょっと話しをしてたら、関係を持った。まぁでも安心しろ、俺の存在として重婚は問題ねぇ」
「重……、重婚!? いや、だって………まだ、早い気が………///」


突然放たれた言葉に麗は恥ずかしがり、怒りで赤くなっていたのが別の意味で紅くなっていた。


「あ、あと、俺、逃がさないから」
「へ?」
「二人に言っておくぞ? 俺、一度目付けたら、全力で狩りに行くからな? 俺の(モノ)になるまで狩るから。そのつもりで」


すると、完全に黙ってしまった二人。
だって、俺、狼だし。
狼が全力で獲物を狩る理由は、獲物を絶対に逃がさない為だから。
そういった部分が、俺は受け継がれている。
二人の表情を楽しみながら、俺達はあとについていった。
~真紅狼side out~


さて、二人が狩られるのはいつかな? 
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