戦国異伝
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第六十四話 焼きものその八
「兵もな」
「だからなのですか」
「上杉殿は」
「そして他の大名達にはそもそもそうした考えがない」
幕府を、義輝を助けるというその発想自体がだった。
「しかしその中で織田だけが送ってくれたとはな」
「そこには誠意があると思われます」
明智は強い表情で義輝に述べた。
「織田殿の」
「わしの目に狂いはなかったな」
こうも言う義輝だった。その顔を微笑まさせて。
「やはりあの者は大きな者よ。よいか」
「よいか?」
「よいかとは」
「若しあの者に天下を治める器があるならばじゃ」
その時はだ。どうかというのだ。
「織田の家臣となれ」
「天下の為に」
「そうせよというのですか」
「そうじゃ。御主等はおそらく」
洞察してみせてだ。そのうえでの言葉だった。
「あれじゃな。義秋を立てようというのじゃな」
「はい、今は出家されていますが」
「あの方を」
「あ奴は止めておいた方がよい」
しかしだった。義輝は義秋、彼の弟についてはこう言うのだった。
「器ではない」
「ですが上様の弟君です」
「それならば」
「しかし器ではない。あれではよからぬ者達に付け込まれもする」
その危険もあるというのだ。
「そうなればえらいことになるぞ」
「ではどうすればよいというのでしょうか」
明智は義輝に戸惑いながら問うた。
「上様の弟君であるあの方が駄目ならば」
「おそらく立てるとするならば」
どうかというのだった。
「あ奴しかおるまい」
「だからなのですが」
「それでも駄目なのですか」
「薦められんな」
やはりだった。義輝はこう言うのだった。
「とてもな」
「ですか」
「しかし。それでは幕府は」
「わしはこのまま都で死ぬ」
どうしてもだとだ。義輝のその言葉は変わらなかった。
「だが。それでも幕府を残るか」
「そのつもりですが」
「それは無駄だと」
「命運はわしにはわからん」
あえてだ。義輝はこう言ってみせた。
「しかしそれでもじゃ」
「危ういとはいうのですか」
「幕府は」
「そのことは御主等に任せる」
彼は関わらない、そうだというのだ。
「わしには何も出来ぬこと故だ」
「ではその様にさせてもらいます」
「幕府を何としても」
「今も言ったがそのことについては言わぬ」
義輝はまた言ってみせた。
「好きな様にせよ、御主達のな」
「しかしそれでもですか」
「天下の為になると思われれば」
「織田に加われ」
義輝はこのことも再び彼等に告げた。
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