戦国異伝
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第六十四話 焼きものその七
「あの者達でしょうか」
「わからぬ。しかしその者達はわしが仮にここで難を避けてもじゃ」
どうかというのだ。そうなってもだ。
「あの者達はわしの命を狙い必ず殺すじゃろう」
「上様をですか」
「うむ、間違いない」
また言う義輝だった。
「織田の足枷になってしまうわ」
「左様ですか」
「そうなるからですか」
「織田への文には何も書かぬ」
そうするというのだった。これが義輝の決断だった。
「わかったな」
「ではここで戦われますか」
「あくまで」
「御主等も逃げよ」
残っている幕臣達にも告げるのだった。
「親兄弟、妻子のおる者は絶対に逃げよ」
「ではそれがしもですか」
「無論じゃ。十兵衛、御主もじゃ」
明智にもだというのだ。
「御主は母親に妻に娘達がおろう」
「はい」
「御主は母親想いじゃ。その母親を悲しませることはするな」
「だからこそですか」
「御主も逃げよ」
強くだ。明智に告げる義輝だった。
「わかったな。そしてじゃ」
「そして?」
「さらにですか」
「身寄りのない者も死にたくない者は去ってよい」
その残ってもいいという彼等にしてもそうだというのだった。
「この戦は必ず死ぬ戦じゃ」
「だからですか」
「何としても」
「うむ、わしは死に花を咲かせる」
義輝は腕を組んだままだった。ここまで言ってだ。彼はあらためて言った。
「しかし。織田信長という男」
「あの方はどうだというのでしょうか」
「面白い男じゃな」
笑みを浮かべてだ。義輝は彼をこう評したのだった。
「今のわしにわざわざ文を送って。助けたいとはな」
「文を送ってくれたのは織田殿だけです」
細川が話す。
「あの方だけでした」
「そういうものじゃ。今将軍だといっても」
「その権威はですか」
「最早地に落ちておる」
嘉吉の乱で足利義教が暗殺され応仁の乱で都も何もかもを破壊してしまいだ。足利幕府の権威は最早そうなっていた。それでなのだ。
「それでどうして幕府を助けようというのか」
「越後の上杉殿は違う様ですが」
ここで言ったのは明智だった。
「ただ。あの方は文は」
「送ってきておらんな」
「はい、今回は」
「上杉も送りたいだろうがあの者は空手形を出す男ではない」
あくまで全てにおいて誠心誠意応じる、それが謙信なのだ。
だから今回もだ。空手形になる様な文は送らなかったというだ。
「武田や一向一揆、北条に捉われているからな」
「だからですか、上杉殿は」
「送れるのなら送れる」
文をだ。そしてだった。
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