戦国異伝

　　　　　　　　　　　　　　　　第五十四話　　半蔵の選択　
　織田家は美濃に攻め込む直前にだ。
　美濃の情報を仕入れていた。それにあたっていたのはだ。
　忍達だ。その彼等の棟梁の一人である蜂須賀はその美濃の中で話すのだった。
「どうも思ったよりはじゃ」
「はい、そうですね」
「情報を仕入れるのが容易いです」
「もっと難しいと思ったのですが」
「そうじゃ。楽じゃ」
　蜂須賀自身もだ。こう言うのだった。彼等は今黒装束で夜の森の中にいる。そしてその中で見のでの情報収集について話すのだった。
「これは想像せんかったわ」
「ですね。少なくとも美濃の先代のです」
「斉藤義龍殿の頃はです」
「とてもこう楽にはいきませんでした」
「かなり厄介なことになりました」
「やはり主か」
「ですな。今の主の龍興殿はまだ若いですが」
「もう酒と女に溺れておるとか」
　これがまずいのは言うまでもない。ましてや隣国と何時戦になってもおかしくない状況ではだ。
「それでは。ここまで調べるのが楽なのも」
「当然ですな」
「そうじゃな。さて、これだけ調べるのが楽ならば」
　どうかとだ。蜂須賀はさらに話す。
「攻めるのも楽であろうな」
「左様ですな。これは案外です」
「美濃は楽に陥ちるやも知れませんな」
「こうした状況では」
「ははは、それではじゃ」
　忍の者らしくないと言ってもいいような明るさでだ。蜂須賀は笑った。
　そのうえでだ。こんなことを言うのだった。
「わしも戦の場ではじゃ」
「功を挙げられてですか」
「そのうえで」
「褒美に銭が出たらそれで思いきり遊ぶぞ」
　やはりいささか忍のものとは思えないものを笑みに出して言うのだった。
「朝までとことんな」
「さすればです。我等も」
「その時は共に遊びましょう」
「そうしましょうぞ」
　彼の部下達も続く。こうした話が出る程だ。
　今の美濃は乱れ荒れていた。それでなのだった。
　清洲の信長にもだ。美濃の情報が次々と入る。それを見てだ。
　彼は。家臣達にこう命じたのだった。
「美濃の国人達をさらに取り込むとしようぞ」
「彼等もですか」
「我等の中に組み入れる」
「そうしてからですか」
「美濃にあるのは稲葉山城だけではない」
　難攻不落のだ。その城以外にもだというのだ。
「そうじゃな。他にも多くの城があるな」
「さすればです」
　ここで出て来たのは金森だった。彼はこう信長に尋ねた。
「他の城も全て手に入れられると」
「無論じゃ。美濃の全てを手中に収める」
　まさにそうするとだ。信長は言うのである。
「さすればじゃ」
「美濃の全ての城をですか」
「収めるには楽にするに越したことはない」
　無駄な損害は駄目だともいうのだ。
「だからこそじゃ」
「さすればですな」
「その通りじゃ。ではな」
　こうしてだ。攻める前にだ。
　美濃の国人達の切り崩しも行われた。それはだ。
　確かに効果を挙げだ。彼等は。
　一人また一人と信長についていく。そうしてだった。
　信長は一戦も交えないうちから美濃のかなりの部分を手に入れた。それでだった。
　彼はだ。このことに安心せずだ。やはりこう言うのだった。